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「社内起業」の新しいカタチ

RANA007

かつて「社内ベンチャー」なる試みが、ブームともいえそうな勢いで生まれた時期があった。バブル経済の華やかなりしころ、主に大企業を舞台に、独立性の高い新規事業部門を創設する動きが多発。明暗は各ケースで分かれたが、いずれも企業グループ全体に新たな商機や活性化をもたらすのが狙いだった。ソニーの「プレイステーション」やドコモの「iモード」はその成功例として知られる。 時は流れ2010年代。クリエイティブ業界で今、かつての社内ベンチャーを連想させつつも、それとも一味違う試みが始動している。それが「RANA007」(ラナ・ダブルオーセブン)。ウェブ制作、メディア戦略コンサルティングを手がける老舗・ラナデザインアソシエイツから飛び出した企画・制作部隊だ。昨年の誕生以降、社内組織ながら独立採算制で活動。自前のCMをTV放映するなど自由奔放な動きの一方で、大手クライアントのサイトを監修するなど、映像やサウンドを駆使した表現が話題だ。その挑戦の真意を聞きに、彼らのオフィスを訪ねた。

取材・文:内田伸一 撮影:菱沼勇夫(2012/05/14)

独立採算の映像特殊部隊を設立

架空の「楽園職場」より、いまいる場所をより良くしたい

まずは、RANA007をしょって立つ事業部長の山口暁亨さんと、彼らの挑戦を後押しする株式会社ラナデザインアソシエイツ代表、木下謙一さんのお二人にお話を伺った。

—「RANA007」の誕生には、どんな背景があったのでしょう?

株式会社ラナデザインアソシエイツ代表 木下謙一さん

株式会社ラナデザインアソシエイツ代表
木下謙一さん

木下:僕からは最初に、会社全体のお話をするのがよさそうですね。ラナデザインアソシエイツは1997年設立で、現在はグループ全体で約40人のスタッフがいます。グループと言ったのは、関連会社「ラナエクストラクティブ」も2007年に生まれているからです。いずれもウェブ制作をはじめとするクリエイティブが主業務ですが、扱うプロジェクトの性質で住み分けている感じです。

例えば、広告でいえばブランディングは長距離走、キャンペーンは短距離走的なところがあり、ラナデザインアソシエイツは前者、ラナエクストラクティブは後者をそれぞれ得意にしてきました。RANA007は、そんな背景から新たに生まれた、独立性の高いラナデザインアソシエイツ内の事業部です。

—「独立性が高い」と、いいますと?

山口:RANA007では、特に映像やインタラクティブ性の高いコンテンツ、グラフィックを主領域に、独立採算制で運営されています。これまでは外部の協力会社やクリエイターを巻き込んでこなしてきた部分を、自社内で強化する狙いがあります。もともと、2010年に木下が「新たに事業部を立ち上げたい者を応援する」という話が社員全員に伝えられたのですが、そこで僕が専門性のある映像部隊をつくりたいと提案したことが、RANA007の誕生につながった経緯です。

—「007」だけど隠密行動じゃなくて、とてもオープンな社内文化の中で生まれたんですね(笑)。

RANA007 クリエイティブディレクター/アートディレクター 山口暁亨さん

RANA007 クリエイティブディレクター/アートディレクター 山口暁亨さん

山口:ネーミングの由来は、この分野で必殺技を持つようなチームを作りたいという考えからです(笑)。実際には2011年の夏から走り出しています。

—別会社として設立されたラナエクストラクティブと違い、今回のRANA007は独立性が高いとはいえ社内の「事業部」。この違いはどこから生まれたのですか?

木下:簡単にいうと、前回いきなり別会社を立ち上げたらすごく大変だったんです(苦笑)。だから今回はまず助走期間を設けて、ということですね。もちろん、会社として独立できるくらい力を付けてくれればと願っています。

—代表の木下さんにとって、こうした社内での枝分かれ、もしくは細胞分裂のような動きにはどんな意義があるのでしょう?

木下:会社組織って、良いこと、有利なこともいっぱいありますが、全員が常におおむね同じ方角を向いている必要がある。その点では、クリエイターにとって窮屈なこともあります。皮肉なことに「自分はこういうことをやりたい!」っていう志の高い人ほどそうで、ともすれば会社を離れてしまう。その葛藤を解決できれば、という気持ちが経営者側にもあるんですね。

—常に創造力を求められる業態ならではの悩みと、その改善策でもあると。

木下:僕自身、会社勤めを経て起業した人間ですから、独立心のある人の気持ちもわかります。ただ、優秀なスタッフたちとは今後も一緒にやっていきたい。だから、バンドでたとえると音楽性の違いなどですぐ解散してしまうのではなく、個性や自主性、また成長の可能性を尊重して「ここらでソロアルバム出してみる?」というような気持ちでもあります。特にウェブ業界は企画、デザイン、映像など多様な要素から成るので、互いに良い循環が生まれれば何よりです。

—事業部長となった山口さんは、それまで制作現場で活躍してこられたのですよね。今回、予算や売上管理などの運営面から、スタッフ選びなどの人事面までを任されたと伺いましたが、どんな体験でしたか?

山口:正直、ここまで任されるとは予想しませんでした(笑)。ただ、現状を変えたい気持ちは強くあって。だから既存のふたつの会社のどちらとも違う、特殊部隊をつくれたらと考えています。同時に、今後の採算も実績も、そして存続も自分たち次第という責任感も強くのしかかります。いろんな意味で、以前は見えなかった景色が見えてきた感じです。

木下:雇う側と雇われる側で意識の違いはあるにせよ、完璧な楽園のような職場なんて、どこにもないですよね。そこを踏まえて、じゃあ自分や周りに対してどう行動するかが、僕は大切だと思うんです。だからこそ、いまいる場所をより良くしたいと考える人は、経営側が応援すべきだと考えています。

自社CMづくりから大手クライアント案件まで

—次に、RANA007の実際の活動について教えてください。独自の公式サイトのオープンを飾ったCM映像は、「想像の宇宙を駆け巡る」との力強いメッセージも印象的でした。


TRAVELERS IN THE SPACE OF CREATIVITY

山口:いまRANA007は僕を含めて5人が在籍しています。彼らを引き入れる口説き文句のひとつが「1年以内にCMつくろうよ!」でした。で、まずは自分たちをPRするCMをと思って(笑)。やってみないと分からないことも多いのがこの手の仕事なので、実際にこの映像でTV放映(九州朝日放送)にもチャレンジしてみたりと。もちろん部内の独立採算内で。

—一方で資生堂パーラーのような、高いクオリティを求められる大手のサイトもすでに手がけていますね。こちらは実写、アニメーション、サウンドなどを取り入れつつ、とても上品に仕上がっています。

rana007_4

山口:こうした仕事には、もちろん自信がありますが、現時点では本社の実績があってこそだとも思います。例えば自分で独立・企業して、すぐあの仕事を頂けたかというと難しい。まだ小さな部署ですから、組織内にいるメリットも享受しながら発展させていけるのはありがたいです。

木下:山口君はもともとフリーランスを経てうちに入社した人だし、いま独立しても充分いけると思うんです。だからこそ経営側としては、この会社でがんばろうと思ってもらえる「理由」を提示しなければならない。甘やかすって意味ではなく、一緒にがんばっていきたい人材に「この組織でやっていこう」と感じてもらえるビジョンを示すということです。

山口:そういえば僕が入社したのってちょうど2007年で、ラナエクストラクティブが分社化される直前でしたね。

—当時の思い出などありますか?

木下:あのころは我が社の歴史でも、一番バタバタしていた時期。会社が大きくなっていく嬉しさの一方で、僕自信は組織づくりの難しさに疲弊してもいました(苦笑)。工場じゃないんだから、一カ所に集まってひたすら作るのが効率的なわけじゃない。ひとり一人の持ち味を出してもらうにはどうすべきか? グループ会社化の流れも、そうした試行錯誤の延長線上にあると言えますね。

—素朴な疑問ですが、関連会社や独立性の高い部署ができていくと、例えば「映像ならあの人」などと頼ってきた人材がそこへ移動してしまいますよね。それでもともとの組織側が困ることはないのですか?

木下:それはいまのところ、大丈夫ですね。独立していても、グループ内や社内で発注し合うことができますから。(身内といえど発注額を提示するなど)面倒な点もあるけど、個々のスタッフが自分の仕事の価値をより客観視できるようになる。提示した価格に不満があれば交渉するのもアリだと思うし、その方がお互い納得ができると思いますし。ですから僕としては、今後もっとこうした事業部が出てきてほしいと思います。実際に、RANA007に続いて今度はプログラミングの精鋭部隊「RaNa gRam」も、この春から始動しているんです。

—業界全体を眺めた際には、こうした挑戦はラナさんにとってどんなアドバンテージになり得ると考えていますか?

木下謙一さん

木下:デザイン業界って、ブティック型、つまり顔になるリーダーが率いて頑張っている会社が多いですよね。でもそれでは流行り廃りに左右されるし、そのリーダーにも現役としての寿命がある。

僕は、デザインという仕事自体をもっと「産業化」できると考えているんです。かつての産業革命みたいなものではもちろんなく、個人の能力や個性は最大限に活かしつつ、それに頼り過ぎない、組織力も活かしたものづくりという意味です。

新たに関連会社を作る、または独立性の高い部署を新設する。それはバラバラに分離していくのではなく、むしろ組織全体の強度を高めるための挑戦。言い換えれば、見た目の一枚岩的な結束力よりも、植物のようなしなやかさで変化の時代に対応していく姿勢だ。同社の歴史において、ある意味もっとも混迷していたという時期に出会った二人が、いまこうして新たな動きの両軸となっているのも興味深い。

実験と実績を同時に積み重ねる

依頼を待たずに発動するクリエイティブ

続いて、RANA007のモーショングラフィックデザイナーである島田欣征さんも取材に参加していただいた。引き続き山口さんにもご一緒してもらいつつ、RANA007の現場のようすを伺うことにーー。

—島田さんはどういう経緯でRANA007に参加したのですか?

モーショングラフィックデザイナー 島田欣征さん

RANA007 モーショングラフィックデザイナー
島田欣征さん

島田:僕はもともと映像をメインにした会社で、展示映像、ゲーム映像、CM、ミュージックビデオなどを手がけていました。その後、フリーランスとしてもイベントやライブコンサートなどの映像制作に幅広く携わってきて。いっぽうで自分のスキルに対してデザイン面を強化したい気持ちが出てきたので、グラフィック系の環境に身を置こうと思ったんです。ラナデザインはウェブ制作のグラフィックがすごくしっかりしている印象があり、応募をしました。

山口:それがRANA007の発足からわずか一ヶ月のことで、映像に強い人材を必要としていたから、彼の経歴を見た僕がすかさず一本釣り、という感じです(笑)。今も個人でVJ活動や、イベントでプロジェクションマッピングとかもやっていると聞いて、そういう動きができる人も良いなと思って。

島田:最初は「大きな会社に入ったなー」と思ってたんですが、気がついたらスタッフ総数5名の場所に配属されて(笑)。でも、人数が少ない分、自分みたいな新人でも意見を出せるし、それを聞いてもらえる環境なので、結果的には良かったな、と思っています。

山口暁亨さん/島田欣征さん

山口:それで、せっかく彼のような人材も加わったしということで、自分たちの新ウェブサイトのオープニング映像をまず作りましたね。

—先ほどのCMもそうですが、クライアントからの依頼を待たずに、面白いことを自前でやってしまおう、そしてその魅力で顧客もつかもうという姿勢がRANA007にはあるようですね。

山口:部内の予算内でかなりの裁量を任されているから、その範囲内なら実験できる自由度が得られた実感はあります。もちろん以前も全くできないわけじゃなかったけれど、やはり色々な人の同意を得てから進めざるを得なかったので、そこが大きく変わりました。

—今年の年賀状もRANA007単独のものを用意していて、凝った作りでしたね。封筒に謎めいたカードが入っていて、その使用法を教えてくれるURLにパスコードを入れると「何でも一回だけ開けることのできるカード」というジョークめいた取扱説明映像が流れるという。

お正月スペシャルコンテンツ2012 https://vimeo.com/149364256

山口:あれもオフィスの一画を即席のスタジオにして、年の瀬にエイッと作ったものです。けっこうアナログな手法も多様して、手づくり感覚なんですよ。

島田:これ、スケジュールがかなりタイトで大変でしたが、作っていて楽しかったですよね(笑)。

—カードから特典映像の流れの中には、RANA007が普段どういう仕事をしてるかの説明はいっこもないんですが(笑)、この人たちと一緒なら新しいアプローチで冒険できるかも、と思わせる点では見事にPRにもなってるわけですよね。

山口:ありがとうございます。こう話してると、ちゃんと仕事してるのかと思われそうですが(笑)、もちろん案件優先で、その隙間を縫ってこういうのを試しています。

理屈抜きにイイと感じさせるものをつくりたい

—案件としては、先ほどの資生堂パーラーのようなウェブサイトの他に、どんなものを手がけているのでしょう?

山口:ウェブサイト上で流れるムービーはもちろんのこと、その世界に限定しない映像の仕事も少しずつ、広がっています。例えば、商業施設の店頭でスタッフがiPadで見せるプロモーション映像や、イベント用の映像コンテンツ、それと野球のスタジアムで攻守切替の際にスクリーンに流れる映像というお仕事もありました。

—手がけるフィールドはかなり広いんですね。

山口暁亨さん

山口:それは願ったり叶ったりです。単独のメディアやデバイスに限定しようとは全く思っていないですから。これまでラナでは手がけていなかった領域にも踏み込めているし、徐々に、当初に考えていたRANA007の理想型に近づけているとは思います。

—やはりCMのフレーズ通り「想像の宇宙を駆け巡る」のがミッションですか?

山口:はい、もちろん(笑)。そのためにも領域の拡大だけでなく、クリエイティブの質もさらに高めていきたいです。「この文字組が」「映像手法が」とか専門的には理屈もたくさんあるけど、ユーザーにはむしろ、理屈抜きにイイと感じさせるものをつくりたい。実はそれが一番難しいんですけどね……(苦笑)。
やはり、色々チャレンジできるのは業績を上げてこそ、ということを忘れてはいけない。そのためにも僕らは、色んな部分でもっと頑張らないといけないし、島田君たちにもね、さらに成長してもらわないと(笑)。

島田:はい(笑)。個人的には、これまでフリーの時期は営業から制作まで一人でやってきたから、いま会社という環境のなかで「つくること」に専念できるのが嬉しいです。その一方で、すでに大きなフィールドで戦っている人たちと一緒に働くことで、デザインはもちろん企画や進行管理など吸収できることが多くありますし。

—刺激的な環境だと。

島田:そうですね。休日をつかって自主制作や勉強もしないと不安になる性格なんですが、それを応援してくれる職場でもあります。今25歳なのですが、同世代でも活躍している方は周りにもいますし、僕も負けないように努力しないとという気持ちは常に持っています。

—これからの動きも楽しみにしています。

山口:ぜひ。次もきっと…すごいですよ(ニヤリ)。

まとめ

飄々とした山口さんと、終始、穏やかそうな話し振りの島田さん。しかし話題が将来のことに向けられるたびに、ふたりの顔には本気の覚悟が見て取れた。 組織の中で独立性の高い動きを任されるということは、同時にその結果に対する責任も自ら負うということ。ラナという母体を発射台に実験と実績を積み重ねる彼らのスタイルは、多様化・多層化の進むクリエイティブ業界における組織のあり方としても注目される。彼らが到達する地点がどこなのか、当分は目が離せない。