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これからのWEB制作会社に必要なこと

これからのWEB制作の現場で成長していくには、何が必要とされるのか?
そのヒントは、「使うWeb」「使えるWeb」「使いたくなるWeb」をキーワードに、「あそびゴコロ」を実践するPIVOTの取り組みに見つかるかもしれない。自らの存在を、サイトを活かしたコミュニケーションの軸(Pivot)であれと考える彼らの仕事観、またそれを支える個人と組織の関係に迫る。

これからのWEB制作会社って、どうなるの?

「ただWEBサイトを作っているだけなら、終わりがきますね」。穏やかな笑顔から、痛烈なひとことが発せられる。「これからのWEB制作会社のカタチとは?」という問いに対する、PIVOT代表・宮嵜さんの回答だ。それは気負うわけでもなく、まして悲観的でもない、しなやかな自信が込められた言葉だった。創業から14年間、それ以前のSEとしてのキャリアも含めれば、ベテランと言ってよい経験がそれを裏打ちする。

株式会社PIVOT 代表取締役 宮嵜泰成さん

株式会社PIVOT 代表取締役 宮嵜泰成さん

宮嵜:今では想像しにくいですが、この業界のごく初期には「メール送信フォームをつくる」だけの作業が仕事になる時代もありました。その後、技術や表現の発達が好景気ともつながって「WEB=広告」という時代もあった。そこでは、打ち上げ花火的な目新しさがもてはやされましたね。ただ、かつて珍しかったインターネットが「当然」のインフラとなった今、また違う潮流が生まれたとも思います。今は企業もユーザーもまったくの異世界体験としてのWEBより、「自分自身のこと」と、より密接に関わるWEBのあり方を求めていると感じます。

たしかに、SNSやEコーマスだけでなく、教育や医療などの分野でも「自分」を中心にしたイノベーティブなWEB活用が増えてきた。広告界でも、トヨタの「アクアソーシャルフェス」(ハイブリッド車の広告で、人々が全国各地の「水をきれいにする活動」に参加できるプラットフォームを作成)などは象徴的な例だと宮嵜さんは語る。

二極化していく、WEB制作会社

宮嵜:この観点から見ると、今後のWEB制作会社は、広義の「システムインテグレーター」(ユーザーとシステムの課題解決を請け負う業者)的にクライアントの業務に深く関わっていくか、「オンデマンド印刷」的に単純・安価・迅速な仕事をこなすか、この二極化に進むのではないでしょうか。

かく言うPIVOTが目指すのは、当然前者。教育ではベネッセコーポレーション、商業では東急百貨店、ファッションでは雑誌『VOGUE JAPAN』、アートでは瀬戸内国際芸術祭など多様なクライアントとのプロジェクト実績は、宮嵜さんが机上で可能性だけの話をしているのではないことを物語る。

社内風景

社内風景 広々としたMTGスペースが特徴的

では彼らPIVOTの特徴とは? 煎じ詰めて言葉にすれば、こういうことだろう。「なんのためにそれを作るのか」から出発する強い目的意識。外注に寄りかからない、ワンストップでの社内制作体勢。そして、制作現場の各シーンにおけるバランス感覚だ。

宮嵜:WEBに限らず、制作会社の基本スタンスは「欲しいものがある人へ、それをつくって提供する」。ポスターなどの広告もそうですね。ただ、ウチはその手前、「そこで最適な手法ってホントにWEBなの?」というあたりから考えます。具体策は時代に合わせながらですが、自分たちは割と最初からそうで、必然的に始めの企画段階から公開後の運用フォローまでお付き合いすることが多くなってきました。

外注に頼らない社内ワンストップ体制をとる理由

「ワンストップ」というキーワードも、会社の歴史と共に必然的に導きだされた体制だと語る。クライアントから見れば、制作会社が内製にこわだろうが、舞台裏で優れた外部協力者を駆使しようが、「窓口はワンストップ」との感覚は同じかもしれない。しかし、長い目で見たときにその事情は変わってくるという。

宮嵜:今は、WEBサイトを「作ったら終わり」の時代ではないんです。たとえばサイトローンチ後に、その反応を見ながらメンテナンスしつつ、次の一手を打つことは基本です。だからこそ「部分単位」で外注と一緒に対応するのではなく、全体像やそこに至る経緯も理解したチームが自ずと必要になってくる。クライアントはその違いを意識しないかもしれませんが、ゴールを共有して、プロセスを大事にしていく上では、内製じゃないとやりづらい所がでてくると思います。

ただ「面白い」だけでは、必要とされない!?

現在約50名のスタッフのうち、ディレクターが10名、デザイナーが8名、エンジニアが10数名。ほかにプランナー、UXアーキテクトなども擁する。比較的エンジニア比率の高い印象だが、このバランスが前述のシステムインテグレーター的な仕事ぶりを可能としている。

また、ビジネス課題の解決力と遊び心の融合ぶりもPIVOTの特徴。その好例が、全国でウェディング施設を運営するブライダルサービス社の結婚準備アプリケーション「Styleus(スタイラス)」だ。これはブライダル企業をクライアントに、カップルが結婚式までの複雑な各種手配を、ゲーミフィケーションも取り込むことで楽しく進められるサービス。ディレクターの浜田雅昭さんは、実現の経緯をこう語る。

浜田:クライアントの希望は、まず複雑な業務データ、たとえば利用者との打ち合わせ日程から、各カップルが式で使うサービスまでを電子化して共有すること。同時にユーザーに対して、挙式という一大イベントの準備の大変さを楽しさに変えてあげたい、というものでした。さらに双方が実現することで、自社・挙式プランナー・カップルの三者を密につなぐシステムが目指されました。

確かに挙式準備といえば、司会選び、衣装合わせ、招待状からゲストの席順、果てはテーブルクロスの柄まで想像以上の大変さがある。晴れ舞台の前にここでケンカ発生という話もよく聞かれるだけに、いかに楽しく・かつトラブルなく進められるかは重要だ。そこで「Styleus」では各種情報や決定事項をオンラインで閲覧・選択可能とし、担当プランナーと共有することを可能にした。

ディレクター 浜田 雅昭さん

ディレクター 浜田 雅昭さん

浜田:挙式予算が充分で選択肢が多いときも、限られた予算でも自分たち流の式にしたいときも、じっくり考え、話し合うための手助けになりたい。その際にコーディネイターとの対面打ち合わせも大切ですが、打ち合わせ時間や回数が超過すれば費用もかさんでしまう。そこで、オンラインで時間を気にせず色々見比べられて、さらにその準備自体を楽しめるサービスを目指しました。登録者には会員IDが発行され、日程管理や、すでに決定した内容、これから決めるべき内容のどちらも詳細に閲覧できます。さらに準備の達成度ごとに画面上のウェディングカーが行進し、花火が打ち上げられるなど、ゲーム的な要素も取り入れています。

宮嵜:単に「面白コンテンツ」が作れるだけでは、会計処理などもカバーしたこのシステムは構築できませんし、その逆もまた然りです。この点で、僕らの強みが発揮できた例だと思う。これは、業務分析のために半年近く先方に通うなかで、クライアント側からも新たなアイデアを頂くなど、共につくり上げる充実感を得られた案件でした。きちんと反響や効果を生むものを作ろうと思う方々ほど、議論を歓迎してくれますし、自ずと関係性も深くなっていきます。

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組織は規模と共に変化していくもの

組織は規模と共に変化していくもの

筋道の通った彼らの話ぶりには頷かされる内容が多いが、自分たちが優れたチームとして機能する体勢づくりにおいては、宮嵜さんも試行錯誤を繰り返してきたという。組織の人数や適性、時代ごとの仕事の内容などによっても、その解は変わってくるからだ。

宮嵜: 5年ほど前、ある雑誌の取材で僕は「我が社は能力を持った“ピン芸人”の集まりなので、完全にフラットな組織です!」とドヤ顔で宣言してましたが、それは完全に間違っていた(笑)。というか、当時の社員数=20名前後まではこの考え方も機能したのですが、互いの仕事を最低限共有しておく点では、ある規模を超えるとまた違うやり方が必要になったんです。

「互いに顔の見える関係」というのが、現在のPIVOTの体勢づくりの基本。前述の20人という境界線をヒントに、今年からは、手がける仕事の性質などを基準に、3チームでの運営に挑戦している。大手案件などに対応する「兎(Rabbit)」チーム、小回りの利く対応力に長けた「羊(Sheep)」(前述・浜田さんはここに所属)チーム、そしてアプリなどの自社開発を手がける「隼(Hayabusa)」チームだ。

宮嵜:チーム名は何となくほっこりしていいかな、と、動物の名前になったのですが(笑)、各々の特性にもつながるかなと今は思っています。スタッフ間の表面的な仲の良さを超えて、互いに言うべきことは言い合えるキュッとした結びつきを考えると、20人前後がひとつの単位ではと考えたんです。結果として新体制では、自分が1/50である結びつきよりは、1/20であるチームが存在する方が、お互いのいいたい事もいえるし、より密なコミュニケーションが取れる。

自社サービスと受託案件の関係

今回のチーム編成では、自社開発チームが初めて組織化されたことにもなる。「隼」チームのアートディレクター / イラストレーターである河村恵実さんは、チーム制が敷かれる以前から、自社開発プロジェクトに積極的に関わったスタッフ。日本全国のご当地キャラがその土地の魅力を紹介してくれるアプリ「観光地ですよ。」がその一例だ。

アートディレクター / イラストレーター 河村恵実さん

アートディレクター / イラストレーター 河村恵実さん

河村:「観光地ですよ。」は、とにかく社員全員で、何か少しずつでも関わって自社サービスを作ってみよう、という最初のケースでした。冒頭で宮嵜が話した通り、近年はただ広告をつくる、というよりサービスや体験そのものをつくるという流れになってきている。その中で自社のサービスを使うことで幸せになる人が一人でも増えたら、といった想いで手掛けてきました。

宮嵜:これは皆がクライアント業務と並行してのプロジェクトだったので、最後の方では忙しくなってしまって深く関われないスタッフも出てきました。その中で、半分涙目になりつつも(苦笑)、頑張りきったのが彼女。「隼」はまだ6人の最小チームですが、自社開発で売上げを出して堅調に回り始めれば、受託案件でもより自分たちのやりたい仕事を増やせる。そのバランス獲得を目指す上でも、このチームに期待しています。

現在は、新作のアプリ開発・運用に従事する河村さん。イラストレーターでもあり、複数の役割を兼任することが多い彼女は、自身を「いま足りないところをどう補えばいいんだろう? と考えてやっていくタイプ」と分析する。その資質はものづくりとチームづくり、双方に反映されている。

会社に誰もいなくて取引先に怒られたこともあった

そして取材時には明確にこそ語られなかったが、仕事環境におけるバランスの保たれかたも印象的だった。エントランスに続く広い共有スペースでは、日々の打ち合わせ以外にも、有志による「朝ヨガ会」などが行われる。オフィス各所に貼られたストレッチの手引きは、河村さんによれば「みんなの健康を気遣っている人がいつの間にか貼ってくれています(笑)」とのこと。2匹のマスコット犬の役職は「相談役」で、専門知識を駆使するエキスパートたちの頭をほぐしてくれる頼れる存在だとか……?

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社内には、相談役といわれる 犬の姿も

宮嵜:この業界の典型例に漏れず、僕らもかつてはヘビーな深夜作業が蔓延した時期を経験しています。仕事を突き詰めようとした結果とも言えますが、組織の中では、悪い変化もあっという間に伝播していく。一番ひどい時は午後になっても会社に誰も出てこなくて、取引先にお叱りを受けたこともありましたし(笑)。それくらい、創立当初は仕組みがなかった。それで、ゆるくても効果的なルール、枠組みを用意する中で地道に改善してきたんです。例えば、朝会での持ち回りスピーチの習慣化とか。内容は単純なものですが、それでも「遅れて参加したら失礼だ」って、相手がいることで、やっぱり変わるんですね。

その舵取りや改善の経緯については「少しずつ、何となくかな?」と答えるほのぼの感も印象的な宮嵜さん。だが、日々進化し続ける厳しい世界の中で、彼自身が会社という御し難い「生き物」を相手に改善を続けてきたことも窺える。

今後のWEB業界でハッピーになれる人とは?

そして最後に、WEB業界で働く上での「今後」について、伺ってみた。

宮嵜:今後この世界で働いてハッピーになれる人は、仕事を「自分ごと化」できるスイッチがすぐ入る人でしょうね。まだ結婚経験のない浜田が、すべて未知の状態から始めて「Styleus」のようなサービスを実現させたのもそうだし、河村は食品の案件が決まったら、朝から会社でそれを食べてるような人(笑)。簡単に言えば自主性、能動性で、それこそ教えられるものではありません。ただ、ワンストップ志向やチーム制は、間接的にそれを引き出すきっかけにもなり得ているかな、とは思います。

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浜田:僕はもともとカフェの店長をしていて、当時イベントを企画したりするなかで、ディレクションという作業を形あるものとして仕事にしたいと思ったのが転職のきっかけです。だから、今後もWEB業界における仕事領域を増やし、メディアを限定しない仕事もやっていきたい。そのためにはチームや会社に対しても、自分なりのビジョンをもって仕事に臨みたいなと思っています。

河村:私はいつもプロジェクトが始まる前に、開発製品のコンセプトと、その特徴を3つの言葉にして提示するんです。自分がそれを常に忘れないようにというのはもちろん、チームメンバーや社全体に向けても、今何をやっているのか伝えやすいですし。その意図としては案件の目的だったり、使う人のことを常に念頭にチームで考えてつくっていきたいんです。結局、ものをつくるってことは変わらないから、そういう意識は大切にしていきたいですね。

宮嵜:経営側としては、各スタッフの成長に見合う専門技能の講座を紹介したり、やはり健康が資本なので最低限の軽食を会社負担で常備したり、ということも心掛けています。ただ、こういうバランス感覚って、能動的な人は言われなくとも意識するものだとも思う。つまり、誰かに整えてもらうのを待つより、まずは自らの生き方として手に入れる努力から始まるもの。根本的には、そうあるべきだと考えています。

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