CINRA

全員に好かれなくていい。誰かの人生を変える映像制作に挑むNIONの姿勢

「日本の映像業界は、変革期に入っている」。そう語るのは、ハイクオリティーな映像作品を世に送り出す新鋭のクリエイティブ集団、株式会社NIONの面々。2016年、国内外で活躍するフィルムメーカーたちが集結して、同社を立ち上げた。

一般的に、映像プロダクションの大多数は広告制作で収益を得ている。企画から制作までクライアントの意向を汲み取り、それに沿った映像を制作するケースがほとんどである。

しかし、NIONはそんな従来のやり方から脱却し、「自分たちがつくりたい作品をつくる」ことを掲げて活動している。なぜあえてオリジナル作品にこだわるのだろうか? 同社に在籍する4名の主要メンバーに伺った。
  • 取材・文:村上広大
  • 撮影:柏木鈴代
  • 編集:吉田真也(CINRA)

消費されて終わるより、記憶に残る映像をつくりたい

代表取締役を務める守屋貴行さんは、映像プロダクションの株式会社ロボットの出身。そこで映像制作とプロデューサーのノウハウを習得した後、新たなビジネスモデルの模索と自身の可能性を広げるために、コミュニケーションアプリを運営する株式会社エウレカにジョインした。その後、独立してアプリ・WEB制作に従事していたのだが、ある理由で映像業界に戻ってきたという。

守屋:ぼく自身、ロボットにいたときから、SNSやインターネットの台頭によって、メディアの分散による制作費の変動や、マス媒体の広告予算の減少を目の当たりにしていました。そのなかで、ますます受託業務がメインとなっていく映像プロダクション業界において、「映像プロデューサーとしての本質的な価値」を問い続けるようになりました。

次第に業界の未来に期待を持てなくなり、一度離れて、別のビジネスモデルを探ることにしたんです。その間にYouTubeをはじめとする動画プラットフォームが成熟し、撮影機材も昔よりはるかに手軽に入手できるようになり、映像を制作する人が一気に増えました。

ただ、さまざまなメディアによって映像制作が増える一方、消費される映像が増えたのも事実で、誰の記憶にも残らない作品ばかりが溢れるようになってしまった。それを外から見ていて、昔より映像をつくりやすい世の中になったはずなのに、「良質な作品」が少ないのは非常に残念だなと。そう思うと同時に、「良質さ」が差別化にもなると感じたんです。だからこそ、ディレクターの作家性を重視したクオリティーの高い映像制作ができるチームをつくりたいと思いました。

代表取締役の守屋貴行さん

代表取締役の守屋貴行さん

同じ考えを持ち集結したのが、プロデューサーの高橋聡さんと武井寿幸さん。そして、ディレクターであり映画監督でもある関根光才さんだ。いずれも世界三大広告祭のひとつ『カンヌライオンズ』での受賞経験もある、ワールドクラスのフィルムメーカーである。しかも、彼らだけでなく、世界で活躍する外国人ディレクターもNIONに参画している。どのような想いに共感し合い、会社設立にまで至ったのだろうか。

高橋:ぼくたちがNIONを設立するにあたって決めたことが2つあります。

ひとつは、インターナショナルな映像プロダクションにすること。ここ数年で海外のフィルムメーカーと知り合うことが増えたのですが、日本で彼らと一緒に映像を制作しようとしても制作環境の違いや言語の壁もあり、理想を実現できるチームがなかなか編成しにくいという課題に直面していました。

ならば、国内外で活動するぼくらの手で、優秀な海外のフィルムメーカーが日本でも活躍できる環境をつくろうと考えたわけです。現にNIONには海外で活躍する外国人ディレクターが2名在籍していて、日本でも活躍の場を広げています。

もうひとつは、映像ディレクター主体のものづくりを実現していくこと。日本ではクライアントから広告代理店、そして制作プロダクションへと仕事が降りてくるパターンが主流ですが、海外では基本的にディレクターが核となり、制作チームが組まれます。つくり手側のこだわりが最大限に発揮されるそのやり方を、日本にも根づかせていきたいんです。

エグゼクティブプロデューサーの高橋聡さん

エグゼクティブプロデューサーの高橋聡さん

利益ばかり追求する映像業界。「本当に面白いこと」をやる環境をつくりたかった

関根:高橋がいま言った2つのことって、世界ではごく当たり前の話なんですよ。映像をつくる人であれば、誰もが自分のこだわりを反映させたいはずだし、プロとしてそうしなければいけない。でも、やってないし、やろうとしていないのがここ10年、20年くらいの日本の状況。インターナショナルスタンダードからすごく遠い場所にいると感じます。

それに加えて問題なのが、映像業界を志望して入ってくる若い子たちが生きがいを感じられていないこと。もともと「面白いものがつくりたい」という意志を持っていたはずなのに、実際に仕事をしてみると、自分がやりたいと思えるようなことが何もできない。映像業界全体が利益ばかり追求する体制になっていて、しかもそれが慢性化しているから、そのおかしさに気づける人、「こんなことやっても面白くないじゃん」と異を唱える人もいません。

ぼくたちがこうやって集まったのは、その負の連鎖を断ち切って、「本当に面白いこと」をやるための環境をつくりたかったからなんです。

ディレクターの関根光才さん

ディレクターの関根光才さん

武井:映像広告の受託案件も、これまでは有名な大手映像プロダクションが制作を一手に担う傾向が強かった。でも、いまはインターネットやSNSのおかげで、小さな看板でも実力さえあれば勝負できる時代です。それならば、自分たちのやりたいことを追求できて、よりよい環境で映像制作に携われるほうがいいじゃないですか。

エグゼクティブプロデューサーの武井寿幸さん

エグゼクティブプロデューサーの武井寿幸さん

 

守屋:映像業界を変えるためにも、ぼくらが「いいものをつくる」ことをきちんと体現していかないといけないと思うんですよね。いまは、「ぼくらがやらなかったら、誰がやるんだ」という気持ちが強いですね。

つくりたいものがあるからお金を集める

従来の映像業界の体質や考え方に疑問を持っているのは、NIONだけではない。近年、同社のような小規模の制作プロダクションが続々と増えているのだ。なかでも、老舗の映像プロダクション出身の優秀なクリエイターたちが設立した会社は多いという。

武井:時代の流れ的にも、映像業界は変換期に入っていると思います。「自分たちのやり方で頑張っていきますよ」くらいのスタンスでやっている小規模の会社もたくさん増えましたね。

関根:ぼくらの場合、できるだけ「お金があるからものをつくる」のではなく、「自分たちがつくりたいものがあるからお金を集める」という考え方にシフトしていきたいと思っています。

とはいえ、当たり前ですが、受託案件を適当にこなすということではありません。次の仕事につなげていくためにも、スピーディーかつハイクオリティーな仕事で応えることが重要。そのためには、大きな組織より、プロジェクトごとに最適な人材を選定してコンパクトに動けるほうがやりやすいのは事実ですね。

守屋:「自分たちだったら本当に面白いものをつくれる」という自信がある人や会社ほど、ぼくらと同じようなことを考えているはず。どんどん新しいことにチャレンジしていかないと、現状維持にしかならないですしね。そういう姿勢を評価して、ぼくたちに仕事をお願いしたいといってくれる人や会社も増えると思っています。

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自分にとっても、観る人にとっても、人生が変わるくらいの作品じゃないと面白くない

自分にとっても、観る人にとっても、人生が変わるくらいの作品じゃないと面白くない

「自分たちがつくりたいものをつくる」NIONが、オリジナル作品として初めて世の中に送り出したのが、体験型アートフィルム「KAMUY(カムイ)」だ。この作品で「映像を観る」という行為の常識を疑い、新しい体験をゼロから構築しようと考えたという。


ショウダユキヒロ監督 ショートフィルム『KAMUY』

守屋:「KAMUY」は、ロサンゼルスに住んでいるショウダユキヒロという弊社所属のディレクターが監督し、NIONでつくった作品です。企画段階からかなり挑戦的でした。

たとえばミュージックビデオの場合、すでに音楽がある状況で後から映像をつくることが多い。映画やドラマなら、映像に合った音楽を足しますよね。でも「KAMUY」では、映像と音楽を一緒につくっていったんです。音楽を担当したトラックメーカーのJEMAPURとコンセプトを共有しながら、映像と音楽それぞれの視点からアプローチを考えました。

さらに、「ただ映像をつくる」だけではなく、鑑賞するときの体験までプランニングしたんです。それが、ショウダ監督が生み出したかった映像体験です。

お客さんがどのように鑑賞するのがベストかまで設計した「KAMUY」。2日間限定で行われた上映会では、イベント施設の天井にスクリーンを設置し、仰向けで映像を鑑賞してもらうスタイルを採用。大きな話題となったことを受け、翌年には海を越えて全米最大のアートフェス『アート・バーゼル・マイアミ』でも公演することに。国内外にNIONの名を大きく印象づける結果となった。

高橋:たとえば、映画をつくったからといって、映画館で上映するのが当たり前ではない。映像を観る場所や方法によっても、受け手の印象は大きく変わりますよね。形式にとらわれる必要はないと、つねに思っています。

関根:映像って時間もかかるし、労力もかかる。しかも、クオリティーを求めるとなると、たくさんの人がいないと完成しません。アートフォームとしてはすごくハイコストなんですよ。だからこそ、せっかくつくるんだったら自分たちが心から面白いと思えるものをとことん突き詰めたいし、日本だけで留まってしまうのももったいないですよね。

いまって、YouTubeとかInstagramで簡単に動画が投稿できるようになった副作用として、「できるだけ大多数の人たちに好かれないといけない」っていう謎の強迫観念を植えつけられている気がするんです。

でも、本当に大切なのは、「Don’t be liked, Get them inspired(好かれなくていい。観る人をインスパイアしよう)」という意志。自分にとっても、誰かにとっても、人生が変わるくらいのものをつくっていかないと面白くないじゃないですか。

「同じ価値観」と「違う視点」を持ち合わせる、バイリンガルな仲間とともに世界へ

これまで少数精鋭で、あまり採用活動をしてこなかったNION。表立っての採用活動は初めてだという。今回の募集では、英語を話せるバイリンガル人材を求めているということだが、どのような狙いがあるのだろうか。

高橋:ぼくらは世界をマーケットに仕事をしていきたいので、コミュニケーションを円滑に進めていくためにも、英語が話せることを必須条件にしていきたいなと考えています。

あとは自分がやりたいことがあり、一緒に高みを目指せる人。現状に対して悶々とした気持ちを抱いていて、自分がやりたいことに挑戦したいという気概のある人と、一緒に働きたいですね。技術は教えることもできますが、根幹となる「信念」みたいなものは、ぼくたちが口を出せることではないので。

関根:まだまだ人数が少ない会社なので、年齢や職歴に関係なく、やりたいことをかたちにできる土壌はあると思います。実際にうちで働いているインターン生も、自分たちが若い頃とは比べものにならないくらいのスピードで成長しています。ぼくも若い頃にこんな環境にあったらよかったなと、うらやましく思いますね。

実際、映像制作を学ぶためのカナダ留学が決まっていたが、それをキャンセルしてまでNIONで働いているインターン生もいる。この場所で得られる希少な経験は、何物にも耐え難いと考えた末での決断だったそうだ。たしかに、これだけ実力派揃いの環境で成長著しい若い時期を過ごせるのは、またとないチャンスだろう。

守屋:あと、少人数で男しかいない会社なので、男性しか募集していないと思われがちなのですが、そんなことはありません。やはり男性だけだと意見が偏るんですよね。会社をより成長させていくためには、女性の視点も必要だと感じています。

高橋:日本の映像業界はまだまだ男性が多いですが、海外では多くの女性が、プロデューサーとして活躍しています。

関根:ハリウッドでは女性ディレクターも活躍して、映画祭で賞を受賞していますしね。性別や年齢、もちろん人種に限らず、同じ志や価値観を持ち、いまのぼくらにはない視点を与えてくれる方が仲間になってくれたら嬉しいですね。

Profile

NION Inc.

東京に生まれた、世界と日本のフィルムメーカーを結ぶプロダクションユニット。

現在、関根光才、ショウダユキヒロ、Ian Pons Jewell、Mackenzie Sheppard、4人の映像作家と、守屋貴行、高橋聡、武井寿幸、3人のエグゼクティブプロデューサーが所属する。

ボーダーレスでクロスカルチュラルな現代のフィルムメーカーのスピリットに共感し、 真に刺激的で、真に哲学的で、真に新しく普遍的なフィルム制作を志す。

 
NION is a Tokyo based, Creative Production team that connects filmmakers from Japan to the world.

The team is made up of four filmmakers including Kosai Sekine, Yukihiro Shoda, Mackenzie Sheppard and Ian Pons Jewell, along with three Executive Creative Producers, Takayuki Moriya, Satoshi Takahashi and Toshiyuki Takei.

Our believe in cultural, philosophical storytelling in film and original content that can engage the hearts and minds of viewers.

We aim to support and promote cross-cultural modern filmmakers with their borderless creativity and unique way of showing the world around us.

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