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たった数秒のためでも、こだわらないなら仕事じゃない。テレビ番組を彩る、森三平の仕事の美学

普段何気なく見ているテレビ番組。その裏側には多くの立役者がいる。たとえばオープニング映像やタイトルロゴ、テロップ、イラスト、アニメーションなど。これらが全くなければ、撮影された映像だけが淡々と流れる、なんとも味気のない番組になるかもしれない。今回話を聞いたのは、まさにそういったテレビ番組の2D・3DCGの制作を手がける株式会社森三平。彼らの仕事の流儀について、代表取締役・デザイナーの森山ヒロカズさん、取締役・デザイナーの三宅大介さん、執行役員・プロデューサーの中村哲雄さんに伺った。
  • 取材・文:村上広大
  • 撮影:鈴木渉

人こそすべて! 「森三平」流、人たらしな仕事術

壁面に所せましと並ぶ漫画やフィギュア、ゲーム。森三平のオフィスは、まるで小さい頃に夢見た秘密基地にいるような気分になる。彼らのスタートは2006年。人物名と間違えられることもある森三平という社名は、前職のCG制作会社で出会った創業メンバーである森山、三宅、小平の3人が集い、それぞれの苗字から一文字ずつ取って付けられた。以降、前職からの仕事の流れを汲む形でテレビのバラエティ番組を中心にCG映像を制作。『いきなり!黄金伝説。』や『マツコの知らない世界』、『世界一受けたい授業』など、多くの人が一度は目にしたことのある番組に、イラストやCGで花を添えてきた。一見、華やかな業界イメージを抱くが、これまでの歩みは想像以上に険しい道のりの連続だったという。

三宅:個人的な印象でとても言い方が悪くなってしまうんですけど、会社を設立した10年前って、テレビ番組向けのCGというのは「クリエイターとして独立できなかった人間が、自身の可能性を繋ぐための場所」だと、少し卑屈に感じていました。当時の自分は、映画やCMといった映像単体で勝負できるクリエイターこそが本物で、テレビ番組向けのCGは、いわば映像の隙間産業のように感じていたんです。そのときは誰に頼んでも変わらないような仕事でも請けて、なおかつ自分たちなりにクオリティにこだわりながら、地道に実績を積み重ねていました。

専務取締役・デザイナー 三宅大介さん

専務取締役・デザイナー 三宅大介さん

こうした努力の結果、森三平は業界内で着々と信頼を得ることができた。それに比例してクライアントも増え、一緒に働く仲間も加わっていったのだ。アニメーション制作会社を経て、森三平に中途入社したプロデューサーの中村哲雄さんもその一人。今の仕事のスタイルについて「人と人との繋がりだけで仕事ができていると言っても過言ではない」と話す。

中村:弊社には「営業職」というポジションが存在しません。仕事のほとんどが人からの紹介なんです。ある番組を担当していたディレクターが別の番組ディレクターを紹介してくださったり、評判を聞きつけたディレクターから依頼をいただいたり。地道にこだわってきた仕事が、新たな仕事を呼んでくるというか。だから会社と会社というよりも、個人と個人が強く結ばれた延長に今があるように思います。取引先の方から、「人たらしの仕事術」と評価を頂いたこともあるのですが、言い得て妙だと思いました(笑)。

担当ディレクターとの親交が深いと、ときには企画段階から会議に参加して、プロデューサーや構成作家、美術スタッフと一緒に番組づくりをすることもあるという。それは森三平への信頼の証に他ならない。

三宅:番組づくりはケースバイケースですが、まだ番組の方向性が決まっていない初期段階からブレストに参加することも最近は多いですね。ターゲット層はどこで、MCは誰なのか、美術セットはどんな雰囲気になるのかなどを早くから把握することで、映像をトータルに考えられるんです。場合によっては、タイトルロゴを先につくって、それに合わせるように美術セットを組んでいただいたこともありますね。

「テレビ番組の世界観をデザインする」と言ったら少し大げさに聞こえるかもしれないが、森三平の仕事ぶりは番組のカラーや方向性に少なからず影響を与えているのだ。

一瞬で消費されるデザインにも妥協を許さない理由

テレビ番組の制作は、スケジュールがとにかくタイト。長くても約1か月、ときには放送が数日後に迫った映像を制作して欲しいと依頼が舞い込むこともあるという。そうした時間がない中での作業にも対応でき、しかも最後まで手を抜かないのが彼らのこだわりだ。案件ごとに最適なチームを編成し、森山さん、三宅さん、小平さん、中村さんの4人でクオリティを担保。自分たちの納得できないものは世に出さないという主義を貫き通している。

中村:クオリティへのこだわりは人一倍あると思います。特にテレビで使用する映像は早いものだと数秒で消費されますから。いわば「使い捨てのような仕事」に対して、そこまでクオリティにこだわらなくてもいいんじゃないかと考える方が少なからずいらっしゃるのも事実です。会社の経営という面だけを切り取って見れば、経費を抑えて、短期間で制作すればそれだけ利益は出ます。でも、それを仕事と呼んで良いのかという想いがあって。たとえ、その瞬間はお金にならず、直接的な評価に繋がらなくても、視聴者の記憶に残るようなものづくりをしたいじゃないですか。それに、文字テロップのデザイン一つとっても、「なぜその色なのか」「なぜそのフォントなのか」「なぜそのサイズなのか」など、必ず理由を考えて行わないと、ただの作業になりクリエイター自身の成長も止まってしまう。それはいずれ、番組関係者だけではなく、視聴者からも見透かされると思うんです。

森山:アニメーションやテロップ、イラストのクオリティに加えて、最終的に気にするのはやっぱり視聴率です。これは経営者視点の考え方かもしれませんが、多くの人が見ていること自体がそのまま会社の評価に繋がっていると思います。たとえば、バラエティ番組『マツコ会議』のタイトルロゴを制作したと話すだけで初対面の人でも一気に距離が縮まって、信頼を得られる瞬間があるんです。高視聴率の番組を手がけているということは、自分たちの仕事を目にしてくれる人がそれだけ多くなるということ。CGを制作している人間として励みにもなりますし、その度にテレビやバラエティ番組の影響力を実感しますね。

代表取締役・デザイナー 森山ヒロカズさん

代表取締役・デザイナー 森山ヒロカズさん

三宅:そういう意味では僕たちの会社はとても運が良いんですよ。スタッフさんにお声がけいただいた番組の視聴率が高いだけでなく、長寿番組として続いているケースも多いので。

森山:その分、18年間放送されたバラエティ番組『いきなり!黄金伝説。』が終了したときは、仕事が一気に減るかなと焦りました。結果的には、番組スタッフの方たちが、それぞれ別の番組を担当することになるので、逆に依頼は増えましたが(笑)。それも、これまでお世話になったプロデューサーやディレクターが信頼や期待をしてくださっていた証かなと。だからこそ、中途半端なアウトプットはしたくないし、彼らが抱く番組の世界観をできる限り表現したいと純粋に思えるんですよね。

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CG制作会社なのに、CGだけには頼らない。固定概念を覆す企画力とは?

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様々な趣向を凝らし、数多くのバラエティ番組を手がけてきた森三平だが、ターニングポイントになったのは意外にもドラマのオープニング映像の制作だったとか。

中村:2010年に放送された『アザミ嬢のララバイ』というドラマで、ストーリー性のあるオープニングを制作したことがありました。そのときの経験やノウハウを活かして制作したのが、『マツコとマツコ』というバラエティ番組で。オープニングって一般的には「一度つくったら毎週同じ」という印象が強いかもしれませんが、この番組では初回から最終回までを通して一つの物語になるように仕上げたんです。バラエティ番組のオープニングとしては初めての取り組みだったみたいで、大きな反響を呼びました。インターネット上でも「このオープニング映像を手がけたのはどこの会社だ?」と噂になり、他業界からも仕事の依頼が来るほどでした。

執行役員・プロデューサー 中村哲雄さん

執行役員・プロデューサー 中村哲雄さん

それ以降、デザイン単体で評価されることも増え、今では『ワールドビジネスサテライト』のようなビジネス系の仕事や世界的なアパレルブランド『COACH』のPR映像など、ジャンルや業界を越えて声がかかるようになったという。他方で、映像づくりの根本には「CG屋だからこそ、CGに頼らないものづくりをしたい」という意識があると三宅さんは話す。

三宅:僕たちはCG屋ですけれど、CG技術に頼り切っているようなものづくりはしないと決めているんです。見栄えだけ良く仕上がっていても、試行錯誤の足跡がないものは見た瞬間にわかりますし。とはいえ、テレビ業界の仕事は短時間でいかにクオリティの高いものを制作するかが求められる。だからこそ、アイデアの力が必要になるんです。たとえば、粘土や枯葉を使ってアナログなアニメーションに挑戦してみたりもする。番組の世界観を表現する上で、デジタルな手法だけが必ずしも正解ではないと思うんです。それぞれの番組に合った手法を常に持ち合わせている会社でありたいですね。

制作した映像が使用されるのはわずか数秒だが、視聴者に与える影響力は計り知れない。だからこそ、森三平は持てる力のすべてを発揮しようとする。そこには、「儚いからこその美」があるように感じられる。

三宅:今でもずっと心に残っている言葉があって。かつて勤めていたCG制作会社の代表が「俺たちの仕事は花火師みたいなもの」と言っていたんですよ。テレビの映像って数秒単位で消費されていくものじゃないですか。でも、その一瞬によって人が泣いたり、笑ったり、感動したりする。当然、視聴率が悪ければ一度放送されただけで終了になる可能性もあります。でも、その一回、一瞬のために最大限の努力をするのが、CG制作会社としての使命のような気がしています。そこには、花火職人に通じるような気概や美学があると思うんです。

森三平を通して、一人ひとりの強みを伸ばしていく

2017年で会社設立11年を迎え、受注する仕事はここ数年でジャンルの垣根を越えて加速度的に増えているそうだ。それだけに、これからさらなる飛躍が期待されるわけだが、森三平の未来のビジョンについてどのように考えているのだろうか。

森山:これからは受注案件だけでなく、自分たちでコンテンツをつくって発信してみたいと思っています。「森三平」という名前はまだほとんど世に知られていないですが、少しずつ知られる存在に育てていきたいですね。

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三宅:僕も自社コンテンツの映像制作は実現したいですね。それは会社を設立した当初からの目標でもあるので。少し脱線しますが、森山は子供の頃から藤子・F・不二雄先生が大好きで、小学生のときにクラスの友だちと一緒に漫画を描いて、藤子先生の事務所まで送ったことがあったらしいんです。そしたら、なんと藤子先生から直筆のお返事が届いて、そこには「がんばって描き続けてくださいね」と書いてあったそうで。こういうのって、本当に励みになるじゃないですか。それと同じように、僕たちが制作したものがいつか、未来のクリエイターにとっての目標や希望になれるなら最高ですね。

中村:私はプロデューサーとして森三平で働いている一人ひとりが個人の名前だけで世間に通るだけの仕事をつくっていければと思っています。そのために、まずは森山、三宅、小平の3人にもっと大きなフィールドで活躍してもらえるような土台をつくることが必要だと考えています。また、若手スタッフの育成にもより一層力を入れていきたいですね。経験のありなし問わず、一人ひとりの得意分野を伸ばし、いずれは森三平のスタッフ全員が「〇〇さんらしいデザインですね」と周囲から言ってもらえるようになること。それが私の目標です。

企業マークは亀がモチーフ。オフィス内にもペットの亀が水槽の中で悠々自適に泳いでいる。そこには亀のように自分たちも長く活躍できるようにという願いが込められているそうだ。森三平は、これからも着実に、彼ららしく歩んでいくのだろう。

Profile

株式会社森三平

主にテレビ番組のタイトルロゴやオープニングCG、番組内で使用されるアニメーションやイラスト、3DCGを制作しています。それ以外にもゲーム、映画、CM、遊技機向けなど、多様な媒体に対して映像を提供しているCG制作プロダクションです。

株式会社森三平

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