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海外拠点でトレンドをキャッチ。広告代理店K&Lがグローバル展開に強い理由

株式会社 ケー・アンド・エル

株式会社 ケー・アンド・エル

広告やキャンペーン、SNSといったコミュニケーション施策は、消費者が商品やブランドを知る大きなきっかけ。それは海外においても同様だ。株式会社ケー・アンド・エル(以下、K&L)は、日系企業の海外展開を得意とする広告代理店。上海、デリー、シンガポール、マレーシア、アムステルダムに海外拠点も構え、現地の社員と連携を取ることで、グローバルに広がるクリエイティブを生み出している。それでは、国境を越えるクリエイターに必要なものとは何なのか。上海拠点でプランナーとして活躍する藤井努さんと、藤井さんを東京からサポートするアカウントプランナーの夏目慶一さん、森祐子さんに、ノウハウをうかがった。
  • 取材・文:村上広大
  • 撮影:玉村敬太
  • 編集:立花桂子(CINRA)

入社1年強で上海赴任。老舗ながら、マインドは「ベンチャー」そのもの

今回の取材は、藤井さんが上海拠点から一時帰国したタイミングで実施。聞けば、入社1年強で上海赴任が決まったのだという。

藤井:広告業界のなかで海外広告を扱っている会社はそこまで多くなく、ほかの業界と比べても海外駐在員は少ないと思います。ですが、K&Lの社員はみんな世界へ出ることに抵抗がなく、日本と海外の境をあまり感じていません。

K&Lでは本当にいろいろな経験をさせてもらっています。フランス出張では、ヨットレースを撮影するために、フランスナショナルチームの伝説の指揮官と1週間船上生活をしたこともありました(笑)。

株式会社ケー・アンド・エル クリエイティブプランナーの藤井努さん。学生時代はフランスへ留学し、在学中に通訳の仕事も経験。前職はイベント会社でプロモーションを担当していたという

株式会社ケー・アンド・エル クリエイティブプランナーの藤井努さん。学生時代はフランスへ留学し、在学中に通訳の仕事も経験。前職はイベント会社でプロモーションを担当していたという

1963年創業の老舗にもかかわらず、フットワークの軽さが際立つK&L。実際に働く社員から見ると、どのような会社なのだろうか。

藤井:入社前は「固い雰囲気の会社なのかな」と思っていました。でも、実際に入社してみたら全然そんなことなくて。当時の上司には「歴史のあるベンチャーだよ」と言われました(笑)。

夏目:歴史のある会社と聞くと、保守的なイメージがあるかもしれません。でも、そういったスタンスの人は全然いませんね。もちろん「昔はこうだった」と懐かしむことはありますが、それを引きずる風土ではない。むしろ、「どんどん変わっていこう」というマインドが、上層部を含めてあると思います。

株式会社ケー・アンド・エル アカウントプランニング部 第1アカウントプランニング室 執行役員 / シニアアカウントプランナーの夏目慶一さん

株式会社ケー・アンド・エル アカウントプランニング部 第1アカウントプランニング室 執行役員 / シニアアカウントプランナーの夏目慶一さん

藤井:それに、みんなコミュニケーションが丁寧ですよね。任せてもらったプロジェクトのなかで、うまくいかないことがあっても「何やってんの!」と突き放すのではなく「じゃあ、こうしよう」とアドバイスをくれる。安心感のある環境です。

夏目:怒鳴りつけるような人や、後輩に仕事を押しつけるような人はいません。元上司も、ぼくが社内外で怒られるときにだけ顔を出してくれるような人でした(笑)。

森:K&Lの社員はバックグラウンドが多彩で、ジムのトレーナーや新聞記者、音楽ライターからジョブチェンジした人も。みんな前職での経験を活かして業務に取り組んでいます。

株式会社ケー・アンド・エル アカウントプランニング部 第1アカウントプランニング室アカウントプランナーの森祐子さん。日本とイギリスで旅行代理店に勤務したのち、語学力を活かしてK&Lに入社。入社1週間でタイ出張を命じられたとか

株式会社ケー・アンド・エル アカウントプランニング部 第1アカウントプランニング室アカウントプランナーの森祐子さん。日本とイギリスで旅行代理店に勤務したのち、語学力を活かしてK&Lに入社。入社1週間でタイ出張を命じられたとか

肩書きにとらわれない。少数精鋭ならではのフレキシブルなチーム編成

上海で中国市場のプランナーとして活躍する藤井さん。そして東京から、アカウントプランナーとして国内外のプロジェクトを支える夏目さんと森さん。それぞれが肩書きにとらわれず連携するのもK&Lの特徴だ。

藤井:ぼくは上海で、クライアントのブランド戦略からクリエイティブ展開までのコミュニケーションプランニングを担当しています。日系企業が中国市場に進出するときのコミュニケーション施策ですね。上海拠点には20人弱が在籍していて、ほとんどが現地の社員。日本語と中国語を柔軟に使い分けながら仕事をしています。

森:アカウントプランナーは、いわゆる「営業」です。予算や進行の管理、納品から請求までのケアが業務のメインですが、プランニングやクリエイティブにも参加して営業の域を出る仕事をすることも。カメラマンやスタッフを手配したり、撮影現場に立ち会ってクオリティーチェックをしたりと、プロデューサー的な業務を行うこともあります。

藤井:与えられた役割だけではなく、自分の裁量で動ける文化がありますよね。ぼくはプランナーなので企画の中身を考えることが主な仕事ですが、ときには営業的な視点でアカウントを拡大するために、クライアントのところへ足を運んで直接企画を提案することもあります。

森:プロジェクトごとにもっとも結果が出る方法を考えて、流動的に最適な編成を組むことが多いですね。少数精鋭で動いている会社だからこそのやり方だと思います。

グローバル展開のカギは情報収拾。現地の支社からトレンドをキャッチ

メディアが多様化するなか、近年はコンサルティングファームがデザイン会社を買収し、クリエイティブ力を高めるケースも多い。広告代理店にも、「ただ広告をつくる」だけではない役割が求められているのではないだろうか。

夏目:そうですね。広告代理店の役割はこれからどんどん変わっていくと思います。正直な話、「広告をつくるだけ」では厳しい。それは弊社だけでなく、どの会社も感じていることではないでしょうか。

藤井:そういった意味で、K&Lのやり方は強みになるかもしれません。コンサルティングファームのように、ときにはブランドの事業戦略を考えるところから入りますから。

たとえば三菱電機さんのプロジェクトでは、中国市場内でのコーポレートブランディングを担当しました。そのために、まずは事業全体をマーケティングの側面から見直すことからスタート。広告代理店というより、パートナーに近いかもしれません。

藤井:ぼくたちは、ただ「商品が売れる広告」をつくるのではなく、本来クライアントが必要としているものをきちんと読み解いて、かたちにしていきたい。そのためには、商品やブランドを、その裏にある技術や企業理念まで含めて理解する必要があります。取引の長いクライアントが多く、社内にノウハウが蓄積されているので、そういった「本質」を読み解く力は他社よりも強いのではないでしょうか。

森:プランニングを実際のクリエイティブに落とし込むフェーズでは、世界中のネットワークを強みにして制作を行っています。半年前には、アメリカの制作プロダクションと組んで東京で動画を撮影したこともありました。

藤井:海外に拠点を構えていると、得られる情報の質も違いますね。特に中国ローカルのことは、現地に住んでいないとわからない。情報が日本に情報が伝わるまで、半年くらいタイムラグがあるんですよ。そのタイムラグを埋め、現地のトレンド感を知るためには、やはり現地とシームレスにつながることが大切なのかなと思います。

また中国のクリエイティブは、どんどんレベルが上がっていると感じます。これも現地にいないとわからないこと。クライアントの要望に応じて、中国のクリエイターとほかの市場に向けてコラボレーションしていくことも視野に入れています。

K&Lのグローバルネットワークが遺憾なく発揮された例が、ニコンのグローバル向けプロダクトコミュニケーションコンテンツ。確かな品質と新しさを同時に表現する手法として、静止画を重ねることで動画のように見える「ハイパーラプス」によるクリエイティブを提案した。

夏目:静止画と動画以外の表現を模索するなかで、ハイパーラプスを得意とする写真作家のロブ・ウィットワース氏にたどり着きました。クリエイティブとしての面白さはもちろん、カメラの性能自体もしっかり訴求できたと思います。


Tokyo Seamless Shot on the Z 7

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大御所相手でも日和らない。世界的クリエイターと仕事をするコツは?

大御所相手でも日和らない。世界的クリエイターと仕事をするコツは?

立案した企画を具体的なクリエイティブに落とし込む際は、国内外のトップクリエイターと一緒に仕事をすることも多いという。グローバルに活躍するクリエイターと仕事をするうえで、意識すべきポイントはどこにあるのだろうか。

夏目:いちばんは「日和らない」ことですね。大御所だからといって、お任せしてしまうとぼくたちがいる意味がない。たとえば撮影でも、「このまま終わるとマズいな」と思ったときは、その後の関係値がどうなるかは考えずにきちんと言います。クリエイターがつくりたいものではなく、クライアントが求めているものをつくらなければいけないので。

藤井:そのバランスを保つのは難しいですね。日本人同士だと「汲み取ってくれるだろう」という甘えが出てしまうのですが、海外では「汲み取る」という概念がないですから。言語が違うからこそ、きちんと言葉にすることを心がけています。

森:地域ごとに好まれる広告の方向性も違うので、それも意識しなければいけません。たとえば、ヨーロッパで好まれる落ち着いたデザインが、アメリカではあまり受けなかったりするんです。

藤井:中国は、人と「ストーリー」のある広告が多いですね。モノだけが写っているものは、日本より少ないかもしれません。CMや動画も、ストーリー仕立てにすることでグッとプレゼンスが上がります。

「ひと目でわかる」ことも大切だと思います。中国向けのプレゼン資料をつくるときも、1ページ目に書く内容は2、3行が限度。ひと目でわからないと読んでもらえないのです。

国境を越えるクリエイターになるために。必要なのは「理解」と「軸」

ローカルのテイストやトレンドを的確に把握し、その地域にもっとも適したクリエイティブを投入する。そんなグローバルで通用するクリエイターになるために、必要なものは何なのだろうか。

藤井:「とらわれない」ことですね。たとえば、日本で余白を活かしたシンプルなデザインが評価されていたとしても、中国では「余白があるなら文字を入れたい」とか、「もっと目立つように赤くしてほしい」と指示が入ることがあります。でもそれが彼らの文化・習慣・考え方なので、リスペクトしないといけません。まずは現地のルールを知ることが大事だと思います。

藤井:一方で、国や文化が違っても共通する「共感ポイント」もある。たとえば、「インスタ映え」の感覚やTikTokは、日本で流行る1、2年前に中国ですでに流行っていました。トレンドになる時期こそ違いますが、根底にあるのは「自分も表現したい」というユーザーの思い。ローカルルールと「共感ポイント」を汲み取りながら、アプローチを考えるのです。

相手のコミュニティーの人々が何に感動するのか、何を嬉しいと思うのか、何を悲しいと思うのか。まずはそれを考えるべしと藤井さんは語る。ただ、そこに自分らしさをプラスすることも、クリエイターにとっては大切なことだ。

藤井:自分の好きなもの、好きなことをはっきりと持っていなければ、いろんな意見に流されてしまって、結局何を伝えたいのかがブレてしまう。「自分の軸」も、企画やアウトプットを生み出すうえで必要です。

森:映画や音楽は世界共通ですから、海外のクリエイターと仕事をする際も、「あの映画のあのシーンみたいなテイスト」と言うだけでわかり合えることがある。好きなものがたくさんあり、「こうしたい」と言えるクリエイターはグローバルな仕事に向いていると思います。

元新聞記者にジムトレーナー。バックグラウンドのすべてがK&Lで武器になる

実際にグローバルで活躍する藤井さんたちが「一緒に働きたい」と思うクリエイターは、どのような人なのだろうか。

夏目:たとえば、「とにかく映画が好きで、映像がやりたいです!」という人がいたら、ポジションにかかわらず、しっかりと映像制作に携わってもらいます。そういう人を最終的に、映像関係においてグローバルで戦えるくらいのレベルまで育てていきたい。経験や好みを活かして成長できる環境が整っていると思います。

藤井:肩書きや役割にとらわれず、「こういうクリエイターになりたい」というビジョンを持っている人は働きやすいと思います。つぎのキャリアとして、海外市場に目を向けている人もいいですね。ぼく自身、こういったチャンスをいただき、現地で深く海外市場向けの広告制作に携わることができたのは、自分のキャリアにとってもいいと思っています。

強い海外ネットワークと柔軟なチーム編成を武器に、グローバルで存在感を放つK&L。今後はアジアでの展開を一層強化していきたいという。

藤井:目下のチャレンジとしては、判断が早く、半年単位でトレンドが移り変わる中国で、数年間にわたって通用するサービスモデルをつくるのが目標です。

また、現在のクライアントは日系企業がメインですが、中国起点でも考えていきたい。いまの中国は生活や習慣が変容するスピードも速く、ビジネスチャンスがたくさんある。たとえば、海外に住んでいる中国人向けにコミュニケーション施策を打つこともできるでしょう。そういった展開は、K&Lだからこそできると思います。

インタビュー収録中も笑いが絶えず、和気あいあいとした雰囲気が垣間見えた。フラットに意見を言い合える環境は、まさに「歴史のあるベンチャー」そのもの。社員同士の信頼が築かれているからこそのものだろう

インタビュー収録中も笑いが絶えず、和気あいあいとした雰囲気が垣間見えた。フラットに意見を言い合える環境は、まさに「歴史のあるベンチャー」そのもの。社員同士で信頼が築かれているからこそのものだろう

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株式会社 ケー・アンド・エル

株式会社ケー・アンド・エルは、1963年の創業当初から海外案件を主に手掛ける広告代理店です。業界の中でもいち早く海外に進出。世界市場の90%をカバーするネットワークを持ち、現在は上海、シンガポール、アムステルダム、デリーに自社の海外拠点を構えています。企画・制作機能も充実し、テレビCMやWEBからイベント、デジタルを生かしたキャンペーン施策まで、国内外に向けて幅広く実施しています。

私たちが得意としているのは、「世界のマーケットにブランドの本質を響かせる」こと。ブランドの“核”を理解し、多くの案件でコンセプトメイク、キービジュアルから制作を進めています。国をまたいだプロジェクトでは、自社の海外拠点や国内のみならず海外のクリエイターともチームを組んで進めます。

クライアントは日系の大手企業がメイン。すでに信頼関係ができているクライアントも多いので、ブランドのコアになる部分をより深く汲み取ることができます。特にニコンからは、50年にわたって各地域の広告やプロモーション展開を任されています。

企画そのものがグローバル戦略の鍵を握るから、必要なのは国境を越えてトレンドを見渡す広い視点と想像力。語学を活かし、世界に響く企画づくりに挑戦したい人を募集します!

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