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売りたいものは、自分たちで作る。アナログレコードを盛り上げるJET SETの挑戦

有限会社フューチュラマ / JET SET

アナログレコードの市場が、再び盛り上がりを見せている。90年代の「レコードバブル」が過ぎ去った後は長らく低迷していたものの、2014年の国内アナログレコードの売上は前年度比166%増と絶好調だった。そんなブームの一翼を担っているのが、京都と東京・下北沢にあるレコードショップ「JET SET」だ。JET SETといえば輸入アナログ盤のレコードショップとして音楽好きには名の知れた存在。小売のイメージが強いが、近年はレーベルやアーティストと直接交渉し、自社で企画したレコードを制作・流通する取り組みも行っている。レコードというと古いメディアのように思われがちだが、JET SETの挑戦は、先進的で新しい。アナログレコードの新たなシーンを築こうとしているJET SET制作・卸部マネージャーの中村義響さんと、販売・海外プレス交渉の安達咲さんに、話を伺った。

取材・文:宮崎智之 撮影:永峰拓也(2015/07/24)

「アナログレコードなんて出して売れるの?」JET SETが乗り越えた、レコード衰退の危機

JET SETは1998年に京都で設立。2002年には東京の下北沢に進出を果たした。当時は、アナログレコードと言えば渋谷が中心のカルチャー。宇田川町界隈に老舗の人気ショップが集中していたため、下北沢への出店は東京の業界関係者を驚かせたという。

中村:下北沢に進出した当時は90年代のDJを中心としたアナログブームの名残があって、まだまだ景気がいい時期だったと思います。ブームの時のリスナー層の多くがそのまま残っていて、その人たちをターゲットにしていれば、十分に商売ができたのです。00年代の前半までは、JET SETに限らずどこも同様の状況だったのではないかと思います。僕は別のレコードショップに勤めていたのですが、そこが閉店したのを機に、2007年にJET SETに入社しました。

JET SET制作・卸部マネージャー 中村義響さん

JET SET制作・卸部マネージャー 中村義響さん

しかし、その後、アナログレコードの市場は長い低迷期に入る。かつてアナログブームを牽引した老舗レコードショップの音楽事業撤退や倒産など、象徴的な出来事が相次いで起こった。なぜ、レコード市場は衰退したのか。DJツールのデジタルへの移行、音楽デジタル配信の興隆などさまざまな要因があるが、「国内アーティストの新タイトルがアナログレコードで発売されなくなったことも追い打ちをかけた」と中村さんは振り返る。

中村:90年代にアナログレコードを買っていたリスナー層が“卒業”していく中、セールスを維持していくためには新たなレコードユーザーの獲得が必要でしたが、同時に国内アーティストのタイトル・リリースも減少していきました。輸入盤のタイトル数こそ減らないものの、やはり若い人たちに影響力がある国内アーティストの作品がレコードで発売されなくなると、アナログ盤への「入口」が失われてしまいます。90年代のブーム時は、インディかメジャーかを問わず多くのレーベルやアーティストがレコードを制作していたので、その「入口」がたくさんあったのですが……。

JET SETが自社でレーベルやアーティストとライセンス契約し、アナログレコードの企画・製造・流通を行う制作部を本格的に稼働させたのは、そんな状況下だった。実際問題として、アナログ盤はCDに比べるとコストも高く、多くのレコード店が閉店してプレスの規模も縮小していった時期。レーベルやアーティストもリスクを取って制作できない事情があったという。

中村:当時は皆、CDを売ることで手一杯。レコード販売店にとって悪い循環になっていましたね。店舗の現場に出ている肌感覚としても、数少ない国内タイトルを仕入れて売り上げをつくっていく状態に限界も感じていました。だから、出発点はシンプルで「売りたいものは自分たちで作ればいい」ということだったんです。JET SETに所縁のあったアーティストの作品からスタートして、これまでに東京スカパラダイスオーケストラ、きゃりーぱみゅぱみゅ、コーネリアス、bis、レキシ、大森靖子といったアーティストのタイトルを企画、制作してきました。

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レーベルやアーティストと交渉し、アナログレコード化されていない既存の楽曲をライセンス契約して発売するというのが、制作部の仕事だ。アナログレコードのユーザーと相性の良いリミキサーを招き、作品をレコード向けに作り変えることもあるという。さらに、国内外のプレス工場との交渉、流通に至るまでJET SETが一手に請け負うことが特徴。海外の工場を利用することで、国内では難しい数百規模の小ロットでも製造できるようにした。HMVやタワーレコード、ディスクユニオンといった大型店、Amazonだけでなく、全国のレコードショップにも卸している。

中村:当初、レーベルやアーティスト側は、「CDの売り上げも落ち込んでいるのに、アナログレコードなんて出して売れるの?」と半信半疑でした。しかし、私自身は「レコード市場には固定ファンが根強くいるため、ある程度、手堅い売り上げを予測できる。需要があるのに、プロダクツがない状態だ」と考えていて。専門店ならではの現場感覚で市場の潜在的なニーズを汲み取りながら、各アーティストのコア・ファンを巻き込むことで、ビジネスとして成立するプレスの規模を確保できたと思っています。次第に予想を上回るセールスをあげるタイトルも多くなり、レーベルやアーティスト側も積極的になっていきました。

若い人たちにとっては、アナログレコードは「古いもの」ではない

レコードの活況は、日本以上にアメリカ、イギリスも顕著だ。

中村:アメリカでは2008年から毎年前年比1.5倍くらい売り上げを伸ばしています。生産数の規模でいうと、アメリカが800万枚、イギリスが100万枚、日本が20万枚ほど。日本でアナログレコード市場の反転が実感できたのは2011年からで、2014年には前年度比166%増(日本レコード協会調べ)と大きく売り上げを伸ばしました。

こうした盛り上がりを受け、日本の各メディアでは「デジタルからアナログへの回帰」「レコード人気が復活」といったノスタルジーを絡めた報道が目立つようになった。しかし、現場の実感は少し異なったものだという。

中村:「アナログ回帰」という実感はあまりありません。むしろ若い人たちにとって、レコードは「新しいメディア」だと受け止められているからです。たしかにご年配の方にとっては古くて懐かしいメディアかもしれませんが、若い人たちはレコードをフレッシュな目で見てくれているようです。

とは言え、これだけデジタル配信が増えれば、レコードの販売数にも影響は出てしまうのではないだろうか?

中村:CDは音楽のデジタル配信などにより、大きく売り上げを落としました。しかし、アナログレコードはデジタル配信と必ずしも競合していません。レコードファンも、実は普段からiPodやiPhoneなどデジタルで音楽を聴いている人ばかりです。その環境を前提に、さらにお金をかけて「作品」を買うときのプラスαの選択肢としてレコードの存在感が増しているんでしょうね。アナログ独自の音質は、音楽好きにとってハイレゾ(CDを上回る高音質の音源)同様に新しい選択肢になっていますし、アートワークの存在も魅力です。何より容易にコピーできないものを所有する満足感というのは、替えがたいものだと思います。

下北沢店に勤める安達さんにも話を聞いた。安達さんは出身が京都府で、入社前からJET SET京都店にもよく足を運んでいたという。彼女が初めてレコードにハマったのは高校生の時だった。

JET SET販売・海外プレス交渉 安達咲さん

JET SET販売・海外プレス交渉 安達咲さん

安達:知り合いに勧められたバンドのアナログレコードをなんとなく見にいったら、それが偶然カラー盤で「かわいい!」と思ってしまって(笑)。アナログレコードを持っていれば同世代の子に自慢できるという思いもありました。それが入口となって、レコードの魅力に引き込まれ、気づいたら他のアーティストの作品も買い漁るようになっていました。

アナログレコードの市場は、フレッシュな目線を持った若いファンを獲得していくことによって、活況を取り戻しつつある。

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音楽市場規模が世界2位!
「伸びしろ」に注目される日本のアナログレコード市場

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