CINRA

学生よ、「インタラクティブ広告」の荒野を目指せ!

クリエイターの卵たちが日々切磋琢磨している武蔵野美術大学。去る2月24日そんな彼らに「たくさんの選択肢を持ち、後悔のない就職活動をしてもらいたい」という目的で開催されたのが、CINRA.JOB主催のイベント「インタラクティブ広告の最前線」だ。美大から広告業界を志望する学生は多いが、大手クライアントや代理店とタッグを組ながら第一線で活躍するプロダクションについては、意外と詳しく知られていない現状がある。そういった「就職ギャップ」を埋めることが今回の狙いだ。さらに、現在の広告が「発信側から受け手への一方向」から「双方向」なものへと変化し、時代ともに急速な進化を遂げていることを、これから就職活動する学生たちは押さえておく必要があるだろう。クリエイターを目指す学生必見のイベントをレポートしたい。
  • テキスト:宮崎智之(プレスラボ)
  • 撮影:すがわらよしみ

「インタラクティブ広告」ってなに?

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今回の登壇者は、富永勇亮氏(株式会社エイド・ディーシーシー COO兼プランナー)と、村田健氏(株式会社ソニックジャム 代表取締役 / チーフプロデューサー)、築地ROY良氏(株式会社BIRDMAN 代表取締役 / Creative Director / Art Director)の3氏。いずれもこれまでたくさんのヒット広告を手掛けている、業界のトップクリエイターたちだ。

まず、イベントの冒頭でモデレーターであるCINRAの杉浦太一氏が指摘したのは、「広告代理店は一般的な認知度は高いのにも関わらず、実際のクリエイションを手掛けているプロダクションの存在が大学生の皆さんに伝わっていない」という現状だ。すでに指摘したとおり、現在、広告業界は激動の時代を迎えていて、そのなかでも特に猛スピードで変化し続けているのがインターネットの世界である。ツイッターやフェイスブックなどの普及により、その変化はまさに加速度的だと言える。

そんななか、注目されているのが「インタラクティブ広告」。この言葉、聞き慣れない人もいるかもしれないが、時代の潮流を掴む上で重要なキーワードになっている。一言でいってしまうと、「人の行動をデザインする新たな広告の形」であり、杉浦氏の言葉を借りるなら、「ユーザーが受身で見るだけの広告ではなく、能動的に行動することでより深い体験を得ることができる広告」だ。いまいち、ピンとこない人は、具体的な事例を見てみてほしい。

まずは、エイド・ディーシーシーがJRA(日本中央競馬会)のプロモーションのために展開した「CINEMA KEIBA / JAPAN WORLD CUP」。一見敷居が高そうな競馬の世界を気軽に疑似体験することができ、架空の馬券を購入してレースに参加すると車が当たるなど実際に豪華賞品も用意されていた。

個性豊かな馬と騎手たちが登場する実際のレース映像を流すと、会場からも多くのリアクションの声も。競馬といえば、一部の大人のみの楽しみだと思われがちだが、まさにこれはインタラクティブ広告の体験を通じて、競馬そのものの魅力を多くの人に伝えた好例だといえよう。

驚きを一緒になって作っていける仕事

さらに、「インタラクティブ=双方向」という意味で分かりやすい事例が、ソニックジャムがローソンのキャンペーンとして手掛けた「みんなでつくる、からあげクンの歌」だ。このプロモーションは、ユーザーが打ち込んだ歌詞を「あきこロイドちゃん」が歌ってくれるという「ボーカロイド」の技術を利用したもの。優秀賞には「からあげクン1年分」が贈られ、AR(拡張現実)ライブまで開催された。

BIRDMAN  築地ROY良氏

BIRDMAN 築地ROY良氏

BIRDMANの築地氏によると、「広告代理店がすべて考えて制作だけお願いされるのではなく、初めから私たちプロダクションが考えてやっている企画も多い。インタラクティブ広告にはいろいろなチャレンジが埋まっていて、可能性に満ちた表現ができる業界だと言えます」とのこと。

またBIRDMANによる事例では、果汁グミTweet Love Story「メグミとタイヨウ」のキャンペーンが取り上げられた。これは幼なじみのメグミとタイヨウがツイッター上でラブストーリーを繰り広げ、ユーザーからのアドバイスを反映させて作ったアニメーションを公開したもの。ツイッターとアニメーションというターゲット層と親和性の高いメディアを使い、まさにユーザーとインタラクティブに展開していったプロモーションだと言えそうだ。

meiji|メグミとタイヨウ

meiji|メグミとタイヨウ

「紙の広告の表現は割とやり尽くされている感があるんですが、WEBやインタラクティブ広告はまだ誰もやったことない表現を発明できる楽しさがあります。人を感動させたり、笑わせたり。とにかく、ユーザーの気持ちを動かすようなものを作って、その反応がリアルタイムで制作者に伝わるのはすごいことですよ」(築地氏)
エイド・ディーシーシーの富永氏もインタラクティブ広告の面白さを、「受け手のその後の行動を予測すること」だと語る。「制作側が与えるだけという発想ではなくて、ユーザーと響きあうように一緒に作っていく過程がとにかく楽しい。『誰かを笑かしてやりたい』『驚かしてやりたい』という野望を持っている人には、とても手ごたえを感じられる業界」だという。

映像やイベントも手掛ける制作プロダクション

ソニックジャム 村田健氏

ソニックジャム 村田健氏

それでは、具体的に現場はどのようになっているのだろうか。

「当然ですが、まずはクライアントから何かを売りたい、知名度をあげたいというオーダーがあって仕事が始まり、それをもとに企画を考えるのが基本です。一般的な流れとしては、多くの場合、広告代理店がどのような広告を制作するのか全体像を設計します。例えば、テレビCMにしましょうとか、イベントをやりましょうとか、OOH(屋外広告)にしましょうとか、ですね。そのなかに、PCサイトや、スマートフォン、モバイルなどのWEBという選択肢があると捉えればよいでしょう。そして、映像やイベントなど各ジャンルのプロダクションがあるなか、我々のようなプロダクションがWEB制作を受注するのです。内部の役割分担としては、予算管理などを行うプロデューサー、画面構成・デザイン設計などを行うディレクター、スケジュール管理などを行うプロジェクトマネージャー、デザインやプログラム開発などを行うデザイナーやプログラマーなどがあります」(ソニックジャム・村田氏)

しかし、村田氏によると、最近のインタラクティブ広告では、WEB制作プロダクションが映像やイベントなどを手掛けることも増えてきたという。現在ではWEBを絡ませない広告は少なく、WEB制作の視点から全体的なプロモーションをディレクションしていく必要性が出てきているからだ。

会場の様子

したがって、ディレクターの役割も多岐に渡っており、ただサイトの画面構成を考えているだけでは不十分だという。ビジュアル的なアートディレクションから、テクノロジー、インターフェースまで理解していなければならないのだ。また、「インターフェース」と言っても単にパソコンやスマートフォンなどにおける画面上でのことを差しているのではなく、リアルな現場での人の動きを設計することまで業務の領域に入る。当然、高度なスキルが求められるが、実力を発揮できるフィールドも広い。

わずか3年で第一線で活躍するデザイナーに?

イベントでは、就活生が気になるキャリアプランについての話題にも及んだ。

会場で紹介されたのは、株式会社カタマリ(エイド・ディーシーシーの関連会社)に所属するデザイナー・森本友理さんの例だ。彼女は1985年生まれで、入社三年目。専門学校を卒業後に大阪のデザイン会社を経てカタマリに入社した。彼女のブログにアップされている作品を見た、プロデューサーが直接声を掛けたのだという

エイド・ディーシーシー 富永勇亮氏

エイド・ディーシーシー 富永勇亮氏

「転職してしばらくはデザイナーという肩書きではなく、アシスタントデザイナーとしてメインデザイナーの手伝いをしていた彼女でしたが、この業界は実力重視。当社ではスタッフに対して、個人で参加できるアワードに応募することを勧めていて、彼女も若手のフラッシュデベロッパーと二人で『第4回Yahoo! JAPAN インターネット クリエイティブアワード』に作品を応募しました。それが一般の部で『Gold』を受賞した『ENDLESS NIGHTMARE』(2009年8月)です」(富永氏)

その後、EPSONの「カラリオ」や、ニューヨークの白人ラッパー「ASHER ROTH」のWEBサイトとCDのジャケット、グッドデザイン賞を受賞した「祇園辻利のお茶」(京都)のパッケージデザイン、TDC賞を受賞した「androp”Bell”music video game」などに関わり、第一線で活躍するデザイナーに成長した。

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「わずか3年でここまでキャリアを形成できたのは、個人のプロジェクトで賞を受賞したことにより、自信を持って自分の世界観を突き詰めていたからだと思います。もちろん、これは一部の成功例であり、通常は心が折れそうになりながらもアシスタントを続け、一人前になっていくケースがほとんどです。フィールドによっては、アートディレクターのチェックを受けなければ作品を世に出せず、越えられない壁を前に挫折する人も多いと聞きます。ただ、インタラクティブの世界では頑張ればこういうキャリアステップも可能だと思います」(富永氏)とのことだ。

村田氏も「当社でもメインでフラッシュをつくっているスタッフは、新卒で入社した3年目の25歳です。どうしても、1年か2年目は修行する必要はありますが、優秀なクリエイターは3年くらいで頭角を表し、バリバリ活躍しています」という。

トップクリエイターたちからの金言

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後半部にもうけた質疑応答の時間では、学生から「インタラクティブ広告は何かを宣伝するためのものですが、コンテンツそのものが商品になる作品をつくっているクリエーターに対して対抗意識はあるんですか」との質問も。

これに対し、富永氏は「広告はユーザーの貴重な時間を使っていただいて、商品をプロモーションするもの。例えば、先ほどJRAの広告を見て頂きましたが、コンテンツにしても負けないくらいのクオリティに仕上げたつもりです。さらに、こういう広告を制作してきたおかげで、プロダクトを作りたいとか、ゲームを作りたいとかいうときに、僕たちにオファーがくる時代になってきています」と回答していた。

では最後に、日々、学生の面接をしている3氏からのアドバイスを紹介しておこう。

「やりたいことや、得意分野がある人を求めています。例えば、当社はWEB制作を中心に手掛けているので、その知識を面接でアピールしようとしてくれる方が多いのですが、それは当たり前のことで、プラスアルファで何ができるかが重要になってきます。例えば、英語ができるとか、変わった趣味があるとか、意外なことが役に立つケースもあるんです。そういう、個性の部分を伸ばしてほしい」(村田氏)

会場の様子
「入社して、いきなり仕事ができる人はいません。若い人には可能性を見せてほしいと思っています。短い時間で自分をアピールすることは難しいので、面接に行く時には必ず作品を持っていってください。履歴書のフォント自体を自分で作ってしまっても、やり過ぎではないくらいです。ただ、面接の前にやる気を出すだけでは限界があるので、日々、作品を制作していくことが大切です。先程紹介があったエイド・ディーシーシーの森本さんにしても、自分のブログをやっていたから声を掛けられたわけですし。やる気と、可能性がある人と一緒に仕事したいです」(築地氏)

「会社から求められる『must』、自分自身ができる『can』、自分がやりたい『want』のバランスが取れることが大切だと感じています。この3つの重なりが大きいほど、クリエイティブ業界では成長できると思っています。アウトプットだけを見ていたら華々しく見えるかもしれませんが、物を作っていく仕事は決して楽な仕事ではなく、本当に日々戦いです。自分自身が常にレベルアップしていかなければなりません。ただただ会社が求める『must』のために『can』を増やしていかなければならないと思いながらでは、楽しく仕事ができるはずありませんよね。だからこそ、自分が本当にやりたいことかどうかの『want』を大切にしてほしいです」(富永氏)

「インタラクティブ広告の最前線」チラシ

「第2の氷河期」とも呼ばれる就活戦線。進路に悩んでいる学生も多いことだろう。今回のレポートでも分かったとおり、「インタラクティブ広告の最前線」は現在、まさにフロンティアそのもの。チャンスや新しい発見が転がっており、自身の努力と才能次第で魅力的なキャリアを形成できるという一面もある。今後、CINRA.JOBでは、同様のイベントを開催していくとのこと。「我こそは!」と思う学生は、インタラクティブ広告業界を有力な選択肢の一つに入れてみてはいかがだろうか。

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