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「クリエイターのアイデンティティを売る」会社

株式会社アイデアスケッチ

アートとビジネス。この2つは、水と油のようなものだと言われるが、それを融合してしまっているのがアイデアスケッチ社だ。ニュースアプリ「Gunosy」のプレゼン演出から、椎名林檎ファンサイトの制作、映像、空間演出、プロダクトまで、デザインや広告ビジネスを展開しながら、代表の山口真人氏は現代アーティストとして、海外のアートフェアにも出展している。 アーティストにして経営者。この成り立ちに、アイデアスケッチの他にはない「何か」が隠されているのかもしれない。「クリエイターのアイデンティティをビジネスにしたい」と語る彼らの真意とは? 代表の山口氏とプロジェクトマネージャーの池田周平氏、デザイナーの阿久津望氏に話を伺った。

デザイナーも、メーカーとしての視点を持つべき

アートとビジネスを両立させる山口氏だが、「アートとデザインには、ある明確な違いがある」とも言う。

山口:先ほどお話したようにアートとデザインはそもそも対立関係にないと思っているんですね。世間でいわれているデザインって、結局クライアントワーク全般を指していると思っていて。それを敢えてデザインと呼んだとき、アートとデザインの仕事の明確な違いは、前者はメーカー的な立場が要求され、後者は受託仕事だということ。アーティストとしては、自分自身や自らで生み出したものを商品的にとらえて販売し、ブランディングやプロモーションをしていくという発想がなければいけない。一方で、デザインは、あくまでオリジナルは自分ではないんです。

でも、デザインの分野でもアートと同じような当事者意識を持つことは大切だと思っています。もちろん自分本位な表現だけはダメだと思いますが、プロジェクトの深いレベルまで関わると、さらに自分の感性や世界観を入れてかないと説得力が出なかったりするんですね。
これはすごく難しい事だと思いますが、クライアントのメッセージや背景にクリエーターの感性が組み合わさってできたものは、自分達もクライアントも嬉しいし、プロジェクト全体のポテンシャルが一気に上がってくるんですよね。だから僕はアイデアスケッチで働く人に対してデザイナーであっても自分の作るものに対して、個人的な視点を持ってほしいと言っています。自分のバックグラウンドや感性、キャラクター、影響を受けた文化をデザインのなかでも発揮してほしいんです。

「クリエイターのアイデンティティをビジネスにする」。これは取材時に、山口氏が幾度となく発していた言葉だ。アーティストなら、自分自身を作品として売っていかなければいけない。その前提認識がアイデアスケッチ社にはあるという。

Gunosy、椎名林檎など、幅広いデザインワーク

アイデアスケッチの手掛ける仕事は幅広い。ニュースキュレーションアプリ「Gunosy」が新たな戦略を発表する「第1回事業戦略発表会」のクリエイティブを担当した。先に紹介したイベントのオープニングムービーをはじめとして、CEOとCTOのプレゼン資料の制作なども担当。戦略発表会を担当したプロジェクトマネージャーの池田周平氏と山口氏は、こう語る。

プロジェクトマネージャー 池田 周平さん

プロジェクトマネージャー 池田 周平さん

池田:発表会では「Gunosy 5000万人都市構想」を掲げ、ニュースアプリに留まらず都市生活に根ざした決済行動(予約・購買など)ができる新サービス 「Gunosy Platform」の構想をメディア向けにアピールする機会でもありました。Gunosyは洗練されたアルゴリズムを開発した会社です。オープニングムービーはそのイメージに合うように、新サービスのアイコンであるドットをプログラミングで動かし、乗り物やビル、ショッピングした商品などに溶け込んでいく様子を表現し、バックミュージックもスタジオを借りて会社のみんなで制作しました。

山口:最終的にポップなものにするのが、僕らの得意とするクリエイティブなんです。Gunosyのイメージに合うように、シンプルで研ぎすまされた表現にしながらも、うちらしいポップな印象がでるようにしました。洗練されて無駄がないGunosyらしさと、アイデアスケッチらしさが、ドットをプログラミングで動かすことにより表現できたと思っています。

次に、デザイナーの阿久津望氏が手掛けた椎名林檎のファンサイト「林檎班」について。デザインとアートのボーダーを取り払うことを得意とするアイデアスケッチに出されたお題は、「フランス」だったという。

デザイナー 阿久津 望さん

デザイナー 阿久津 望さん

阿久津:椎名さんはデビュー以来、唯一無二の世界観を築き上げてきたアーティストですが、近年になってそのイメージはより洗練されたものに進化していっています。そこで我々なりにお題を解釈して出した答えは、「現代的で洗練されたフランス」というイメージ。より洗練されて輝き続けている椎名さんのイメージを全面的にサイトデザインに落とし込み、ロゴや画像、イラストを作っていきました。結果、サイト内の動画に登場する人形が纏う衣装も、全てデザインし、裁縫して。もはや、そこまでくるとウェブデザインの域を超えていますよね(笑)。その人形は椎名さんの会員限定のライブ会場で展示され、最終的にはファンの方にプレゼントされたんですよ。

これまでもこれからも、「アイデンティティをビジネスに」。

取材も終盤に差し掛かり、すこし突っ込んだ質問をしてみた。経営者でもありながら、アート活動も並行している山口代表を、社員である池田氏、阿久津氏はどのようにみているのだろうか?

池田:「あぁ、次は海外のアートフェアに出展するんだ」みたいな傍観した感じもありつつですけど(笑)、個人的にも山口のアート活動は刺激になってます。やっぱり受託仕事だけをこなして、お金を稼ぐだけでは、どこにでもある会社になってしまいますよね。私はプログラマー畑の人間ですが“ものづくり”をしている姿勢を忘れたくないので、今の環境はとてもプラスだし、刺激のあるものだと思っています。

阿久津:別に褒めるつもりはないですけど(笑)、山口の活動は社内的にも社外的にも重要です。彼の世界観や美意識は少なからずアイデアスケッチのアウトプットに影響していますし、新しいことに挑戦したり、アイデアを実現する労力をいとわなかったりする社風も、山口の活動があるからこそ。「こういうことをしていこう」という議論を、お酒を飲みながら朝まですることもあるんですよ(笑)。

最後に、山口氏はアイデアスケッチの未来を、どのように見据えているのだろうか。

ideasketch7山口:今はちょうど会社を拡張する時期に来ています。「クリエイターのアイデンティティをビジネスにする」というのはとても難しいことですが、それを実現するためにも自分の好きな文化を持ち、それに対するしっかりとした考え方を持っている人と一緒に働きたい。そして、それを「ビジネス」に変えていってほしいですね。ゆくゆくは、うちの社員が普段クライアントワークで活躍しながらも定期的に海外のアートフェアで作品を販売する、みたいなサイクルが作れたら面白いな、と。これからも「クリエイターの個性を売る会社」を目指して、前に進んでいきたいと思っています。

まとめ

アイデアスケッチの掲げる「クリエイターのアイデンティティをビジネスにする」というコンセプトは、言葉で語るのは簡単だが、実現するのはとても難しい。日々の受託仕事に忙殺され、自身の個性をアウトプットに投影させるよりも、とにかく仕事をこなすことが現場では優先されがちになってしまうからだ。しかし、会社の経営をしながら自らも新しい現代アートの領域に果敢に飛び込んでいく山口氏が率いるアイデアスケッチには、それを実現できるような進取の気性が備わっているように感じた。アートとデザインのボーダーをなくすべく活動するアイデアスケッチの今後に、注目していきたい。