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「主役ではなくハブであること」HATCHが掲げるプロデューサーチームのカタチ

HATCHは、多くの人を巻き込みながらも、臨機応変にプロジェクトを成功に導いていくことに特化したプロデューサー集団である。少数精鋭にも関わらず、彼らの事業範囲は広い。映像をはじめとしたプロダクション業務はもちろん、クリエイターのマネジメント業務、さらにはドライブインシアターまで!
彼らの事業とその背景にある強い想いを、Hatch Inc.代表の本間綾一郎さん、Do it Theater代表の伊藤大地さん、SPECマネージャーの山田加奈さんに伺った。
  • 取材・文:加藤将太
  • 撮影:豊島望

プロデューサーは、クリエイティブの主役ではない

HATCHはプロデューサーズカンパニーという名のもと、事業を4つに分けて活動している。クリエイターのマネジメント部署である『SPEC』、企画・制作の器となるプロダクション事業部の『Creative Hub Swimmy』、クリエイティブワークを支援する「場」の運営をされている『THE THIRDMAN STUDIO』、最後にお客様との体験を提供するイベント事業部である『Do it Theater』。通常であれば、「○○事業部」のような一般的な名称になるところを、それぞれ独立したサービスのようにユニークな名称がついているのはなぜなのだろう?

本間:HATCHは、プロジェクトやクライアントごとにプロデュースのやり方を大きく変えています。なので、すべて同じ顔で展開していくと、何屋か分からなくなってしまう。僕らはそれぞれにおいてプロフェッショナルなポジションを確立していきたいので、4つの事業部に分けて、名前もそれぞれにつけています。それら全部をプロデュースしているのがHATCHです。どの事業にも言えるのは、自分たちが関わる人たちの支えとなって世の中と接点を増やしていきたいということ。僕らの考えるプロデューサーイメージは、プロデューサー自身が矢面に立つのではなくて、何かを成し遂げようとするヒト・コト・モノを全方面からバックアップしていく。そのために必要なポジションを担っていく。それが僕らの生業となっていけばいいなと考えています。

代表取締役 本間綾一郎さん

代表取締役 本間綾一郎さん

本間さんが述べるように、クリエイティブの主役となるのはプロデューサーではない。表舞台に立つのはミッションを掲げるクライアントであり、デザインや映像などで表現するクリエイターたちだ。しかし視点を変えると、プロデューサーはクリエイティブの中心となり、関係各所のハブになる。主役ではなく、あくまでもハブ。その考え方はHATCHのメインオフィスでありシェアオフィスでもある「HATCH OPEN FIRM」にも落とし込まれている。

本間:OPEN FIRMは僕らだけのオフィスじゃなくて、社外の映像ディレクターやデザイナーなど、クリエイターの皆さんと空間を共にしている場所なんです。僕らがここで目指しているのは、プロとして顔が立っている者同士が協業できるということ。実際にOPEN FIRM内で仕事が生まれることも少なくありません。例えば、僕らがテレビCMの相談を受けた場合、それに紐づいてグラフィックもつくりたいとなると、入居しているグラフィックプロデューサーに参画してもらいます。逆に入居している映像ディレクターから僕らにお仕事の発注をしていただくこともあります。

HATCHの組織図。事業ごとにブランド価値を高めることで、ゆくゆくは独立することを想定している。

HATCHの組織図。事業ごとにブランド価値を高めることで、ゆくゆくは独立することを想定している。

目指すのは、ネットワークを広げるだけではなく、マッチングの場をつくること

HATCHの「主役ではなく、あくまでもハブ」というマインドは、所属クリエイターのマネジメントを担う事業部『SPEC』においてどのように浸透しているのだろうか。現在、SPECとマネジメント契約したいクリエイターからの問い合わせが絶えないというが、その一方でSPECのマネージャーは山田さん一人。業務は、各クリエイターの問い合わせ窓口、スケジュール調整、ギャランティの交渉など多岐にわたり、それに加え職種もクリエイティブディレクター、シネマトグラファーから、アートディレクター、スタイリストまでと幅が広い。

本間:SPECとしてはクリエイターのジャンルを縛りたくないんですね。会社の想いとしては、いろいろなクリエイターにSPECでのマネジメントを通じて社会との接点をつくっていってほしい。マネジメントするクリエイターもフラワーコーディネーターとか陶芸家とかのように極地的な分野の方でもいいと思うんですよ。それがラインナップとして並んだときに、SPECにはさまざまなクリエイターがいて、他では起こりようがない連鎖のようなものが生み出せる状態になっていてほしい。

山田:社内にプロダクション機能もあるので、プロデューサーの観点から所属クリエイターがどう見られているのかというアドバイスができるのは、HATCHのメリットかもしれません。現在は、7名のクリエイターをマネジメントしています。

SPECマネージャー 山田加奈さん

SPECマネージャー 山田加奈さん

本間:誰とSPECを始めたいかなと考えたときに、まず思い浮かんだのが山田でした。まだ山田が前職に就いている頃から知っていて。僕がスタジオを使うときの使用料の交渉が厳しい人だったんです(苦笑)。でも、「風邪引いていましたけど大丈夫ですか?」とか、ふとした気遣いをかけてくれるんですよね。一緒に働きたい人ってそういうことだよなと思ったんです。

山田:私がマネジメントしているクリエイターはどなたも活躍している人たちばかりですけど、今後こうなっていきたいという将来を見据えた相談もしてくれるんです。彼らの未来を聞くと、こちらも感化されて応援したくなりますね。その一方で皆さん迷いも抱えています。私も、プロデューサーやOPEN FIRMのようにいろいろなクリエイターとの接点を作れるようなマネージャーとして、彼らを支えることができたらと思っています。

SPECに所属することでクリエイターの業務負荷の軽減だけでなく、OPEN FIRMを軸に仕事のネットワークを構築しやすくなる変化が生まれた。

本間:今の時代、つながりやネットワークという言葉が多用されていますが、僕らの場合はネットワークを構築できたとしても、双方がマッチングできなければ意味がありません。ファンの数がたくさん欲しいわけではなくて、あの人とこの人が繋がって実際にこんなことができたというマッチングにこそ、価値を感じますね。

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Suchmosの本人登場も!
最先端のドライブインシアターはどのようにつくられている?

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SPEC、Creative Hub Swimmy、THE THIRDMAN STUDIOは必要に応じて立ち上げてきた事業部だが、ドライブインシアターなどイベントプロデュースを行う事業部『Do it Theater』の設立は極めてイレギュラーだった。同事業部の代表を務める伊藤大地さんのプライベートワークが事業に転じたのだとか。

本間:Do it Theaterは伊藤が勝手に始めたんですよ(笑)。というのも、そもそも伊藤は仲間内のプライベートワークとして、ドライブインシアターを企画していたんです。アメリカ映画に出てくるような、屋外で車に乗りながら映画鑑賞するイベント。聞くところによると、こういった取り組みに自治体が協力してくれるんじゃないかと企画書を作ってみたら、ありがたいことに助成金が出てしまった。個人レベルで抱え切れない規模になったから「社長、これ、会社でできないですか?」かと相談されたのがDo it Theaterのはじまりです。

Do it Theater代表 伊藤大地さん

Do it Theater代表 伊藤大地さん

伊藤:『ドライブインシアター浜松』という名義でイベントを企画したところ、非常に良い評判をいただいて。なぜ良かったのかを改めて考えると、ドライブインシアターがいわゆる車社会の文化のひとつになり得たからだと思うんですよね。都内では若者を中心に車離れが進んでいると言われていますが、地方では車を必要としている地域がまだまだあります。浜松では「手打ち蕎麦naru」や「BOOKS AND PRINTS」といったアンテナ・感度の高いお店にご協力いただき、ナイトマーケットのような催し物も開きました。

Do it Theaterはその名前のとおり、「シアター」をハブとしたコミュニケーションを通して、出会ったことのない感動や体験を生み出していく事業だ。直近では、現在最も勢いのあるインディーズバンド、Suchmosを題材にしたイベント『Suchmos DRIVE IN THEATER』をプロデュースし、大きな話題となったことも記憶に新しい。

伊藤:SPACE SHOWER MUSIC主催のもと、私たちはプロデュースをはじめ制作進行やビジュアル・空間のデザインなど、主に現場に関わることを担当しました。ミュージシャンと一緒にイベントをプロデュースするのは初めての試みでした。Suchmosのワンマンライブ映像を会場である大磯ロングビーチで上映するだけでなく、当日はメンバーが車に乗って会場に向かっている様子を、彼らの曲とともにLINE LIVEで中継するというコンテンツも盛り込みました。『Suchmos DRIVE IN THEATER』は大きな反響をいただきましたが、他のイベントと比べて参加者の年齢層が一番若くて、レンタカー利用が多かったことにも驚きましたね。たとえば参加者がレンタカーを予約してわくわくしながら待つ1週間も想像しながら、イベント当日は最大限楽しんでいただけるように万全の準備を整える。これは時間をプロデュースしているということだと思いながら関わっています。

伊藤さんは、このDo it Theater事業の代表を務めながら、プロダクション業務を担う事業部『Creative Hub Swimmy』のメンバーとしてインタラクティブコンテンツや映像制作のお仕事にも携わっている。事業部を横断することでどんなフィードバックがあるのだろうか。

伊藤:最も学んだことは進行管理ですね。イベントには数十人規模のメンバーが関わり、加えて当日までの準備が最もシンドいんです。なので、イベント当日にチームのテンションがピークになるように、参加者の皆さんだけでなくチームのどこを盛り上げていかなければいけないのかを意識しています。Swimmyというプロダクションの観点からは、映像の「作り手」の思いも体感できるからこそ、上映環境のクオリティ向上と幅広い意味で「体験」づくりを追求していきたいですね。個人規模でやり続けていたら、こういった気付きは生まれなかったと思います。また、Swimmyはジャンルに特化しないプロダクションなので、映像やインタラクティブコンテンツ、他にもブランディングなど様々なタイプの仕事ができるのが楽しいです。

本間:伊藤の話にもあったように、僕らがやろうとしているのは予算とスケジュールと納品物を管理するという物理的な作業ではありません。お客様やクリエイターと共にゴールを設定したときに、如何にそのビジョンに辿り着かせるのか。ベストなプロセスを考え、アクション起こす。その導き役こそプロデューサーだと思います。

新たに事業提案できる人と出会いたい

プロデューサーズカンパニーとして着実に、ときにはイレギュラーに数々の事業を立ち上げてきたHATCH。本間さんは、今後の事業展開について次のように続けた。

本間:現在、実は5つ目の事業の立ち上げに向けて動いている真っ只中です。繰り返し言いますが、積極的に自分のやりたいことを事業として成立させたい人と出会いたいので、ヨコシマな気持ちからHATCHの門を叩いていただいてもウェルカムです(笑)。資本はないけど、自分がやりたいことにプロデュース力が必要ということであれば、HATCHへ面接に来ても良いと思ってます。重要なのはHATCHらしいプロデュースをする事業にできるかどうか。投資できる範囲を見極めるシビアな判断はありますが、それをクリアできる事業提案は大歓迎。そのほうが面白い人たちがたくさん集まるはずじゃないですか。

「HATCHは、クリエイティブ業界のたけし軍団化しています(笑)」と本間さんは言うが、さらにプロデュース力を深めていくために、メンバーに浸透させていきたいポリシーがある。

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本間:アーティストのように自分の内面的なものを発信できて、なおかつクリエイターとして人から求められた目標に対しても発信できる。どちらかのプロフェッショナルではなく、常に自分自身はどうありたいか?という問いを持っている方と一緒に仕事をしていきたいですね。クライアントワークを着実に遂行しながら、その人のプライベートワークも常に隣にあるべきというか。やりたいと思うことすべてを「自分ごと」化し、プロデュースしていく。それが、僕らが目指すプロデューサーズカンパニーとしての理想的な状態だと思います。

Profile

Creative Hub Swimmy(株式会社ハッチ)

変幻自在にカタチを変えるクリエイティブ・プロダクション「Creative Hub Swimmy」。映像、グラフィック、デジタルコンテンツ、イベントなど、あらゆる領域を越えたプロジェクトに応じて横断的なクリエイションシップを組んでいます。

それは、小さなカラダの魚でも、力を結集すれば、大きな敵を打ち負かすことができた“スイミー”のように、「Creative Hub Swimmy」はクリエイターたちの“目”となって、自由で柔軟に姿を変えることができる新しいクリエイティブチームのかたちを目指しています。

Creative Hub Swimmy(株式会社ハッチ)

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