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一人で紙もWEBもつくる。東京の魅力を発信するハルマリの編集スタイル

Harumari Inc.(株式会社ハルマリ)

Harumari Inc.(株式会社ハルマリ)

東京に暮らす女性向けのライフスタイルメディア『TOKYO DAY OUT』は、2018年で立ち上げ4年目。年4回発行のフリーペーパーと、日々更新されるWEBマガジンのほか、書籍やセレクトショップなど、多角的な編集アプローチで東京という街をビビッドに発信している。運営するのは、「こころおどる世界を届ける。」を企業理念に掲げて活動する株式会社ハルマリ。メディアのかたちにとらわれないものづくりにおいて、編集者に必要な素質とは何なのだろうか。編集長でハルマリ代表の島崎昭光さん、編集部員の青木優さん、郷田絵梨さんに、『TOKYO DAY OUT』の編集術について話を伺った。
※『TOKYO DAY OUT』は2018年10月に名称が『Harumari TOKYO』に変わりました。現在の編集方針やコンテンツについては『Harumari TOKYO』を参照ください。
  • 取材・文:小沢あや
  • 撮影:きくちよしみ

東京を独自の視点で切り取るメディア『TOKYO DAY OUT』とは?

「東京」をテーマにした数あるメディアのなか、痒いところに手が届くリアルな情報で女性から支持されている『TOKYO DAY OUT』。フリーペーパーでは吉岡里帆さんをはじめ、いまをときめく女優たちが表紙を飾り、その編集チームの感度の高さも注目されている。そんな独自の地位を確立しているメディアづくりの秘訣はどこにあるのだろうか。

ー『TOKYO DAY OUT』がスタートしたきっかけを教えてください。

島崎:2014年頃、僕が広告のクリエイティブディレクターとして仕事をするなかで、あるクライアントさんから相談をいただいたのが始まりでした。当時、ネイティブアド(企業の広告を、読者にとって有益なコンテンツのかたちで提供する手法)などの新たな広告手法が注目されていて、「より効果的に観光マーケティングができる方法はないか?」と相談を受けたのです。そのときちょうどハルマリでも新しいメディアをつくりたいと思っていたので、「東京の魅力を伝えるメディアをつくるので、スポンサーになってくれませんか」と逆提案し、『TOKYO DAY OUT』がスタートしました。

株式会社ハルマリ CEO兼『TOKYO DAY OUT』編集長・クリエイティブディレクター 島崎昭光さん

株式会社ハルマリ CEO兼『TOKYO DAY OUT』編集長・クリエイティブディレクター 島崎昭光さん

ー『TOKYO DAY OUT』では、フリーペーパーとWEBを中心に、書籍やセレクトショップなど、さまざまな形態でメディアを運営していますね。

島崎:キュレーションメディアなどの二次メディア(他社が制作したコンテンツを集めて配信するメディア)が読者との接点になるケースが増えるなか、一次メディア(自社で制作したコンテンツを配信するメディア)がどうブランディングして生き残るかは、メディアを運営する会社にとってとても重要な課題。そのためにも、まずは誠実にどんなメディア形態になっても通用するコンテンツをつくりたかったんです。

ー東京をテーマにしたメディアはいくつもありますが、ずばり『TOKYO DAY OUT』の強みは何でしょうか。

青木:一般の方から、いわゆる業界の方たちまで、さまざまなライフスタイルをリサーチしているため、多角的な視点で東京の魅力を発信していることがいちばんの強みだと思います。また『TOKYO DAY OUT』は30歳前後の女性がメインターゲットなのですが、ちょうどその層にあたる女性たちにライターをお願いしていて。彼女たちが実際に取材に行って感じたことを、「体験レポート」として記事にしています。ファッション、マスコミといった東京の最先端で働く女性たちもスタッフとして関わっているので、ハイセンスだけど使い勝手のいいショップや、ここでしか紹介していない情報なども豊富です。

『TOKYO DAY OUT』コンテンツプロデューサー 青木優さん

『TOKYO DAY OUT』コンテンツプロデューサー 青木優さん

郷田:ライター自身が「この店、使える」と思えるかどうかも大事にしています。店のカタログ的な情報はほかのメディアでも見られますから、『TOKYO DAY OUT』では「その店はどんなシーンで使えるのか」「どうすれば使いこなせるのか」という切り口から情報を提供したいと考えていて。

ー「使える」記事として、最近好評だったのはどんな企画でしょう。

島崎:深夜に終電を逃したとき、女性でも時間を潰せる場所を紹介した記事は人気でしたね。現役OLの方に、人気のスポットから業界人が通う店などをセレクトしてもらって、新宿や渋谷など街ごとのシリーズでつくりました。また、一般的におでかけ系のメディアは週末などオフタイムの過ごし方がメインになりがちなんですが、『TOKYO DAY OUT』はメインターゲットが「働く女性」なので、取引先への移動の合間など、オンタイムの隙間時間をテーマにした記事も人気ですね。

青木:そういった記事は、FacebookなどSNSでのシェアも伸びますね。

ー企画を立てる際、情報収集はどのように行っていますか?

郷田:私はSNSをよく使います。気になっているお店をハッシュタグで検索して口コミを見たり、どの地域がアツいとか、どういうコンセプトのお店が流行っているかを調べたり。Instagramは良く見せようと「盛った」投稿をしてしまいがちですが、Twitterには、意外な本音が落ちていることが多いんですよ。あと、編集会議で出たお店は、Googleマップのお気に入りに登録して保存しています。「近くへ行ったときに寄ってみよう」と

『TOKYO DAY OUT』編集ディレクター兼ライター 郷田絵梨さん

『TOKYO DAY OUT』編集ディレクター兼ライター 郷田絵梨さん

青木:私は読者と同じ年齢層の友達に、ストレートに聞いちゃいますね。はまっていることとか、いま身の回りで流行っていることとか。

島崎:ある程度のアイデアが浮かんだあとは、現地に行くことも大事です。このあいだも、「最近、秋葉原に最近おしゃれなお店が多い」と聞いて、記事にしようかなと思ったんです。リサーチの段階では良さそうな店がたくさん見つかったんですが、郷田が実際に行ってみたところ、男性客ばかりだったみたいで。女性はお店の雰囲気を消費したい人が多いので、いくら店内がオシャレでも客層を踏まえると紹介できないな、と判断したこともありました。

郷田:たとえ美味しくておしゃれなお店でも、お客さんの層が「自分と違うな」と思ったら居心地が悪いし、リピートもしないんですよね。そうした雰囲気の部分は、机上のリサーチだけでは、なかなかわからない。実際に現地へ足を運び、体験することが大切なんです。

ざっくばらんに話し合える、「個性」を活かした編集チーム

多面的な東京の「いま」を独自の視点で切り取り、現場取材にもとづきながら情報発信を行う『TOKYO DAY OUT』編集部。個人の得意領域を活かした「役割分担」と「フラットなコミュニケーション」を意識することで、円滑なチーム運営が可能になっているそうだ。

ー現在、『TOKYO DAY OUT』は何名体制で運営しているのでしょうか。

島崎:編集部のコアメンバーは3名。アシスタントや外部のパートナーを入れると8名です。

『TOKYO DAY OUT』のバックナンバー

『TOKYO DAY OUT』のバックナンバー

ーもともと、編集経験者が多いのでしょうか。

青木:私はハルマリに入社してから実務を通して経験を積みました。ネット系の広告代理店からキャリアをスタートしたあと、総合広告代理店とデジタルのプロダクションを経てハルマリへ。なので、ハルマリではエディターとしてだけでなく、WEBプロデューサーやコンテンツディレクターとして、メディアプランニングや制作進行も担当することが多いですね。

ーデジタルメディア時代ならではの、新しい編集者像に近いイメージですね。郷田さんはいかがですか?

郷田:私はライターとして、学生時代からファッション誌や文芸誌で活動していました。新卒入社したのはIT企業で、コピーライターとしてさまざまなコンテンツを制作していました。そのあとは総合広告代理店でコミュニケーションプランニング、コンサルティングファームで企業のPRなどを経験。ハルマリに業務委託として関わり始め、もうすぐ3年が経ちます。

ー正社員以外に、業務委託という選択肢もあるのですね。

郷田:一般的な業務委託では、プロジェクトのコアメンバーとして自らが企画の発案者になることはめったにないと思います。でもハルマリでは、企画の段階から深く関わることができる。街で見つけた面白いスポットや、思いついた企画のアイデアをみんなで話して、かたちにしていくのは楽しいですね。

ーざっくばらんに話し合える雰囲気なのですね。

郷田:はい、会社には苦手な人が一人もいないんです(笑)。次々と新しいことに挑戦していくような、好奇心旺盛な人が多いので、とても刺激になりますね。

青木:みんな面白い人だなって素直に思います。議論はするけれど、変にぶつかることはないですし。私は、自分が真面目なタイプなので、責任感がない人は苦手なんですが、チームのみんなとは気持ちよく仕事しています。

島崎:基本的に、編集長である僕以外のスタッフは、みんなフラットな関係ですね。プロジェクトごとに、仕切る人も変わる。個人の得意な領域に合わせて、担当者を決めるようなイメージです。

大きな窓から光が差し込み、開放感のあるハルマリのオフィス

大きな窓から光が差し込み、開放感のあるハルマリのオフィス

ーリモートワークなども柔軟に対応しているのでしょうか。

島崎:正社員は裁量労働制です。もちろんコンプライアンス上、労働時間は記録していますが、席にずっといてくれということはありません。業務委託のスタッフも成果を残すことが第一で、働くスタイルは個別に相談しながら決めています。

青木:家で作業したほうがはかどる業務もあるので、オフィスにいなくてもいいのは助かっています。気分転換に、気になるエリアのカフェで仕事をすることもありますし、インプットために時間を確保できるのも嬉しいですね。時間や場所にしばられず、フレキシブルに働けるのは、ハルマリの魅力だと思います。

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紙とWEB、メディアごとに特化した編集を学べる『TOKYO DAY OUT』の強み

紙とWEB、メディアごとに特化した編集を学べる『TOKYO DAY OUT』の強み

紙とWEBなど、複数のアウトプットを持つメディアの多くは、アウトプットごとに編集部やチームを分けていることが多いが、『TOKYO DAY OUT』は、一つのチームでメディア全体を担当している。パラレルな編集をこなす編集部の強みはどこにあるのだろうか。

ー企画の立ち上げから、記事ができ上がるまでのフローはどうなっているのでしょうか。

島崎:フリーペーパーの場合、大体、特集のテーマ案を発行の2か月半くらい前に出すようにしています。たとえば2017年12月号では「新しいライフスタイルを買いに行こう」というテーマで、セレクトショップを特集しています。特集テーマが決まったら、社内でリサーチを専門にしている「リサーチャー」と呼ばれるスタッフに、ピックアップするスポット情報を集めてもらいます。

青木:情報が集まったあと、今回なら「食のセレクトショップ」「インテリアのセレクトショップ」などのカテゴリに分けて、それぞれの編集担当を決めました。

女優の栗山千明が表紙を飾った『TOKYO DAY OUT』2017年12月発行号

女優の栗山千明が表紙を飾った『TOKYO DAY OUT』2017年12月発行号

郷田:その後、編集担当は紹介予定の店舗に取材の許可取りをして、OKの返事をもらえれば、ライター、カメラマンさんをアサインして取材、撮影に行きます。

島崎:ただ、フリーペーパーの場合、取材内容をもとに、僕がすべての編集記事を細かく監修します。それは、フリーペーパーというメディアの特性として、冊子全体で統一感を出す必要があるからです。いっぽう、WEB用の記事は同じ取材内容をもとに切り口を変えて、編集担当の裁量で記事を制作していきます。WEB記事は個別に読まれることが多いだけでなく、メディアの特性として、読者に近い編集者やライターの生の言葉のほうが、より多くの人に伝わりやすいんです。

ー紙とWEB、それぞれの特性を活かしたコンテンツになるよう、編集方法を変えているんですね。どちらも経験することで、編集者としても成長できそうです。

青木:WEBはタイトルひとつでPVが顕著に変わるので、編集会議では必ず振り返りを行っています。アクセス解析データとタイトルの一覧を見ながら、みんなで傾向を分析し、意見を言い合うんです。これを何度も繰り返すことで、「このキーワードが含まれている記事はアクセス数が伸びるね」など、自分のなかにノウハウがたまっていくのを感じますね。

郷田:紙では色校正や紙質のチェックなど、WEBの編集では経験できない、細部にまで気を配ったものづくりができると思います。

島崎:僕自身が『TOKYO DAY OUT』の編集長であり、クリエイティブディレクターでもあるので、紙面のグラフィックとしての世界観づくりや、コミュニケーション展開についても意識しています。そうした部分は編集スタッフにとっては未知の領域なので、実践をとおしながら学んでもらっていますね。

ーグラフィックやデザインの観点から、気に入っている企画はありますか?

青木:女優の吉岡里帆さんが表紙を飾った、2017年4月発行号「東京の色いろを撮る」という企画が印象に残っています。

郷田:東京のスポットを、緑や黄色、白など「色」ごとにまとめてデザインした企画ですね。Instagramを意識して、正方形の写真やモチーフをタイルのように組み合わせてデザインしました。

『TOKYO DAY OUT』2017年4月発行号の企画「東京の色いろを撮る」

『TOKYO DAY OUT』2017年4月発行号の企画「東京の色いろを撮る」

青木:フリーペーパーでは写真をメインに据えたビジュアル寄りの編集をしましたが、WEBにはまた違う視点で編集した記事を掲載しました。たとえば「黄色」のページは、「黄色=幸せの色」という切り口に加えて「食べると幸せな気分になる黄色フードまとめ」というタイトルの記事にしましたね。

郷田:必要に応じてWEB用の記事のために、あらためて取材に行くこともあります。このように、フリーペーパーの企画で見つけたお店を深掘りしてWEB用の記事にすることもあれば、反対にWEB用で取材したお店をフリーペーパー用に再編集することもあります。

「多くの視座を持てる」編集者が、これからの東京で活躍する

さまざまなメディアの特性を活かし、発展を遂げてきた『TOKYO DAY OUT』。ハルマリは、東京の魅力をさらに多くの読者へ届けるため、事業をさらに拡大していく予定だ。2020年の『東京五輪』開催に向けて、これからますます盛り上がるこの街で、必要とされる編集者像について伺った。

ーこれから『TOKYO DAY OUT』の展開はどうなるのでしょうか。

島崎:4年目を迎える2018年から、編集コンセプトもブラッシュアップして、「いちばん使える東京スタイルブック」というテーマを掲げていきます。東京で自由に自分らしく生きたいと思う人たちのために、いまよりもっと使えるメディアを目指そうと。

青木:春には書籍も出版しますし、ビジュアルムックもつくる予定です。イベントやポップアップショップなど、フリーペーパーとWEB以外で、読者との接点を増やしていきたいですね。

ー『TOKYO DAY OUT』そのものを多角的に捉え、事業を拡大していく予定なんですね。スタッフの増員に向けて、みなさんが一緒に働きたいと思う人物像をお聞かせください。

郷田:未知のことに挑戦したい人や、柔軟性がある人ですね。このあいだもフリーペーパー用に準備していた企画ページが差し替えになって、「夜のファッションスナップをやろう」と、急遽みんなで表参道に繰り出したんです。こんなふうに想定外のできごとも楽しめる人なら、きっと楽しく働けると思います。

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青木:入社後のミスマッチを防ぐという意味では、細かい雑務も能動的にできる人がいいと思います。他社ではプロダクションさんに外注しているようなことも、ハルマリでは社内で手配することが多い。最近だとロケバスやロケ弁の手配をしましたね。その分、知らない世界を体験することができるし、全部自分たちでつくっている手ごたえも感じられる。ものづくりが好きな人にとってはきっと楽しいと思いますよ。

島崎:僕は視野を広げるだけじゃなくて、多くの「視座」を持てることが大事だと思っています。つまり、自分と違う人の立場になって考えられるかどうかということです。『TOKYO DAY OUT』は女性向けメディアなので、「女性の視座」を持つことが大切ですが、弊社は男性向けの雑誌『OCEANS』のWEB編集も手がけています。ニュートラルに、ありとあらゆるメディアの編集ができるよう、キャリアアップしてほしいと思います。

その分、ハルマリではいろいろなことに挑戦できるので、次々に新しいことをやりたくなってしまう人というか、良い意味で飽きっぽい人に向いているかも(笑)。2020年には『東京五輪』が開催されるので、東京の街並みや雰囲気もますます変化していく。小さな会社ではありますが、そういった変化を楽しみ、多様性を失わないまま、事業を拡大していきたいですね。

Profile

Harumari Inc.(株式会社ハルマリ)

私たちは、社会や企業の課題を「視座とことば」で解決するメディアプロデュースカンパニーです。

ブランディング、コンテンツマーケティング、CX(顧客体験)の領域で、企業やパブリッシャーのメディア開発と運営を行なっています。

マーケティングの起点として、豊かな顧客体験をつくるプラットフォームとして、オウンドメディアはますますその重要性を増していくと思います。

そのために私たちは、洗練された戦略立案力・編集力・クリエイティブ力で、企業やパブリッシャーが「本当につくりたかったメディア」を数多く実現してきました。

クライアントと一緒に顧客体験を徹底的に考え、企業メッセージを視座転換し、多くの人に「こころおどる世界」として届けたい。

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