- 取材・文:麦倉正樹
- 撮影:豊島望
社員がいっぺんに辞めて、180度変わった「働き方」
映像制作会社グッドフィーリングの転機は、今から5年ほど前、現在の場所に移転したときだったという。
澤井:それまでは新橋にオフィスがあったのですが、若い社員がいっぺんに辞めるなど、いろいろと考えさせられる出来事があったんです。当時は、仕事のためには身も心も削ってという感じで働いていたのですが、下で働いていた人間が辞めたときに、「確かに楽しくないし、そこに未来はないよね」って、逆に気付かされたところがあって。それで、会社も新橋から馬喰横山に移転して、もうちょっと落ち着いて仕事をしたほうがいいとか、社員の働き方そのものを考えるようになりました。社名も今のグッドフィーリングに変えて、これからは自分たちのことも大切にしようよ、と。たとえば、ここにいる吉原は今、伊豆に住んでいて、週2回ぐらいしか出社しないんです。そうやって、いい意味で肩の力が抜けたというか、あまり無理をしなくなったんです。
具体的には、どんなことを変えていったのだろうか。
澤井:クライアントとの関係性は変わりましたね。こちらが疲弊してしまうようなクライアントとは、あまりお付き合いをしないようにしました。一回、一緒に仕事をして、「ちょっと、これは無理だな」と思ったら、そのクライアントにはこだわらない。それは、僕だけでなくスタッフ自身の判断に関しても同じです。スタッフが、「もうこの仕事はやりたくない」と言ってきたら、僕も「わかった。もういいよ」というジャッジをしています。もちろん、やる前から「やりたくない」というのは、「ちょっと違うんじゃないの」と話しますけど、実際やってみて合わないんだったら、それはしょうがないよねっていう。
そんなグッドフィーリングの緩やかなスタンスは、そのオフィスにも現れている。かつて呉服屋だった物件を社員たちの協力のもとリノベーションしていったという馬喰横山のオフィスの軒先には、いくつもの詩集やサボテンが並べられ、しかもそれらが販売されている。
吉原:サボテンは、僕が単に趣味でやっていることですね(笑)。ここはもともと呉服屋さんだったんですけど、お店の前が路面店みたいでちょうどいい感じじゃないですか。だから、すごい軽い気持ちで、僕がサボテンを並べて……。で、宮下が詩集を売って、一応「プランツ&ブックス」っていう名前のお店なんですけど、ほぼ儲けはないですね。売れたお金で次の仕入れをする自転車操業です(笑)。
自由にアウトプットできる場所がほしかったから、自分たちで映像メディアを始めた。
グッドフィーリングは、自社メディア「inspire」を運営している。「会いたい人に会いに行く」をコンセプトに、スタッフが「気になる」「会いたい」と思ったアーティスト、クリエイター、アスリートなどに取材し、映像という形でアーカイブに残していく活動だ。なぜ澤井さんは、自社プロジェクトとしてこうしたドキュメンタリーという形を選んだのだろう。
澤井:今まではいっぱいいっぱいで余裕がなかったんですけど、ここに引っ越して来て、それなりに事業もうまくまわり始めて、そろそろ何か新しいことができるんじゃないかなって、去年の夏ぐらいに考えていて。もちろん、もっとオフィスを広くするとか、デザイナーズ家具を入れるとか、そういうアイディアもあったんですけど、それも何か違うなって思ってたんですよね。
自社メディアを立ち上げた理由は、大きく3つあったという。
澤井:まず、「あそぶ株式会社」っていう兄弟会社があるんですけど、そこは映像だけではなく、スポーツ、アウトドアというジャンル特化の総合制作プロダクションなんですね。ただ、兄弟会社と言いつつも、実際一緒にやっていることって限られたスタッフだけでした。もっと一緒にやれることはないかなって探していて、「inspire」みたいな形だったら一緒にやれるんじゃないかって。つまり、「兄弟会社とのシナジー」がひとつめの理由です。ふたつ目の理由は、クリエイターとして自由にアウトプットする場所がほしいというか、広告映像以外に自分たちの映像を出せる場所がほしかったというのがあります。そこでなぜドキュメンタリーというフォーマットを採用したかというと、この形であれば「誰かに会いにいかなければならない」からです。たとえばデザイナーの場合、普段あまり人と接する機会がなかったりするので、デザイナーが「inspire」のディレクターとして、実際にインタビューをしてみたりとか。そうやって普段の業務とは違う、人と接してもらいながら自由にアウトプットする場をつくりたかった。最後は「会社の宣伝」、つまり営業と求人ですね。ヘタな営業をするよりも、こういうものを作ったほうが、よっぽど外の人たちにプレゼンになるんじゃないかと思ったんです。
宮下:今日も面接をしたんですけど、実際に「inspire」の映像を見て、そのクレジットでグッドフィーリングの名前を初めて知ったという人がいました。だから、営業的なことはもちろん、求人という意味でも、ある程度の効果があるんですよね。
澤井:営業面でも、「inspire」をご覧になった方からお問い合わせがあって、お仕事をさせていただくことになったり。まだまだ微々たるものですけど、そういう事例も少しずつ生まれてきています。
2015年の1月にスタートし、現在は40本以上の動画がリストアップされている「inspire」。社員にも何らかの変化はあったのだろうか。
吉原:実際に携わっている人は、自分で取材対象を決めて取材に行くので、やっていて楽しいですよね。楽しいし、普段カメラを回さないディレクターも、自分でカメラを回したりするので、いろんな意味で度胸がつきます。それこそ、ひとりで海外に行って、撮影することもあるので。
澤井:まあ、みんなタフになりますよね(笑)。僕自身もそうなんですけど、もともとコミュニケーション能力が高い人間かというと全然そんなことはなく……。むしろ、その辺がウィークポイントだと思っていて。だから、この活動を通して、社員がどんどんタフになってくれたらいいなって思っています。多少仕事がうまくまわっているとしても、そこにあぐらをかくのはまだ早いと思っているんですよね。会社として存続するベースはできたけど、「グッドフィーリングは、こういう会社です」っていうのは、まだまだひと言で言えないところがあって。だから、その部分を今、「inspire」のような活動で、色づけしているところもあるんですよね。
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- 「遊びだか仕事だかわからないっていうのが、いちばん目指すところですね」
「遊びだか仕事だかわからないっていうのが、いちばん目指すところですね」
毎年実施している社員旅行は、昨年から兄弟会社「あそぶ株式会社」と共同に。2泊3日というコンパクトな日程ながら、昨年の豊島社員旅行では、瀬戸内の豊島の魅力を伝えるPRムービーを制作し、2日目には地元の人々を招いた上映会を実施するという、とてつもない行動力を発揮した。
澤井:うちの会社の人は映像を作ることができるので、誰にも頼まれてないんですけど、豊島の魅力を勝手に作ります、と。さらに、兄弟会社の「あそぶ」はイベント会社なので、場作りができますと。だから、「あそぶ」には、上映会の会場を作ってもらったり、上映会のチラシを配ったり、張り紙を張ったり、それこそ「来てください」って地元の人に声をかけてもらったりしたんです。当然がんばって作ったわけですけど、一番うれしかったのは、地元の人がたくさんいらしてくれたことです。島外から僕らみたいな人がやってきてイベントを催すことはあるらしいんですけど、やっぱり地元の人ってそういうイベントには行かないらしいんですよ。主に観光客の人が行くようなイベントが多いので。でも、僕らの上映会には、地元の人が30人くらい来てくれた。人口も数百人という島なので、島の人も「こんなにみんなが来たのは初めてだ」とおっしゃっていて。そういう交流ができたのはすごく面白かったし、最後にはちょっとした達成感がありましたね。
自社メディアや社員旅行の他に、採用方法にもユニークな点がある。同社の面接では、第三者からの「推薦状」が提出必須となっているのだ。
澤井:推薦状があるということは、少なくとも誰かひとりとは繋がっているというか、誰かに大切にされている人なわけじゃないですか。「志望動機は?」って聞いても、同じようなことしか書いてこないんですよね。それに比べて推薦状は思いのほかその人のことがよくわかります。本当の人柄がわかる。推薦状を書いてくれる人って、意外と良いところばかりじゃなくて、その人の悪いところもちゃんと書いてくれるんですよ。それはやっぱり、愛情があるからなんでしょう。今日面接に来た方も、ゼミの先生が推薦状を書いてくれていたのですが、「最初その子は、やる気があるのかないのかわからなかったし、帽子をかぶって授業に出たりしていた」とか、ダメなくだりもちゃんと書いてくれていたりして。
宮下:小さい子どもを抱えて会社までやってきて、手渡しで書類を提出した人がいたんですけど、その人の奥さんが書いてくれた推薦状も良かったですね。名文というか、胸を打つような文章で。みんなでそれを読んで、「この人はいいね」となり、入社に至ったパターンがありました。「夫は不器用で、私生活では面倒くさいけど、仕事ではすごい力を発揮します」みたいな。
何よりも大事なのは人柄。そう口をそろえて語るグッドフィーリングが求める人物像とはどんなものなのだろう。
澤井:ここ数年でやり始めた「inspire」とか社員旅行は、今後会社にとって重要なことになってくると思うし、先ほど言ったように、会社の色づけのタイミングなので、そういうことを楽しめる人が理想です。仕事を淡々とこなすだけだと成長の余地がないし、僕としても楽しみがないので。もちろん、映像が大好きで、映像を学びたいという人に来てもらいたいですけど、それプラスアルファで、ちょっとしたことに面白味をもってやってくれる人がいいですよね。極端な話、今の会社ではやってないことをやってみたいという人でもいいと思います。多分そっちのほうが一緒に働いていて楽しいと思うから。
積極的に自社プロジェクトを行っているグッドフィーリング。澤井さんが描く未来像はどんなものなのだろうか。
澤井:スタッフのモチベーションという面で、僕が思いつく最善の策が、今のところ「inspire」です。そういう普段のベースとは違うけれどもビジネスとしても成立するような、もう遊びなんだか仕事なんだかわからないっていうのが、いちばん目指すところですね。普段の仕事だって、本当に好きなクライアントさんと一緒に仕事をしているときは、仕事以上の関係というか、この人たちが本当に喜ぶものを作ろうという気持ちになるものじゃないですか。すべての仕事を、そういう風にしていきたいですよね。
Profile
〈私たちはつながりを大切にする映像制作会社です〉
グッドフィーリングの基本コンセプト、それはお客さまのグッドフィーリングなパートナーであることはもちろん、映像を見る人にとってのグッドフィーリングを大切にすることです。そして映像をつくる私たちもグッドフィーリングなライフワークを実現していく。そんな映像でつながる心地よい関係からグッドフィーリングな未来を実現していきたいと考えています。
〈よく働き、よく遊ぶ、ヘルシーに働ける環境こそがすべての基本〉
創業時からつねにヘルシーな働き方も続けています。ベースの勤務時間は10:00から19:00。21:00以降まで働くことはほとんどありません。土日はお休みが基本、代休も有給も気兼ねすることなくしっかり使えます。よく働き、よく休み、よく遊ぶ。何よりもまずは心身ともに健康であることが基本です。現在のグッドフィーリングは毎朝10:00にオンライン朝会を実施し、その日の実務内容を確認。業務のやりとりなどはslackを使ってやりとりをしています。全体会議やシフト会議、グループ会議を定期的に実施しています。
〈個人に負荷がかからないようバランスを大切にした制作体制づくり〉
Goodfeelingな仕事をするためにプロデュース(営業)とディレクション(制作)を分業する制作スタイルを取り入れています。個人商店的なかたちではなく、メンバー各々が自分の役割に集中できる体制は個の負担を最小化しつつ、それぞれの強みを最大限に発揮できます。各プロジェクトに対する制作シフトの見直しを順次行なっていくので、メンバー1人に仕事が集中しすぎてしまうこともありません。メンバー全員で力を合わせ、皆が適切なバランスで働ける体制づくりを目指しています。それが結果的にいい仕事につながり、映像のクオリティを高めることにも関係してくると思っています。
【世の中に必要とされるグッドフィーリングな映像をつくる】
私たちは「グッドフィーリング」を合言葉に、良質なコンテンツをつくり続けていきたいと思っています。映像制作とライフワークバランスの関わり方を見直し、新たな領域であなたの力を存分に発揮してください!
〈弊社社員(プロデューサー)からのコメント〉
プロデューサーはクライアントとの距離が一番近いためプレッシャーもありますが、その分喜んでくれるクライアントの反応も一番感じることができることや、やり切ったときの達成感がやりがいにつながります。
また、社員同士の仲も良いため、穏やかな環境で、仲間と協力しながら仕事をすることが魅力の会社です!