- 取材・文:冨手公嘉
- 撮影:岩本良介
ベテランから全くの未経験者まで。30人の会社とは思えない、多様なバックグラウンド。
エルロイはスタッフの経歴がさまざま。経験者のみならず未経験者や新卒の採用も積極的に行なっている。まずはそれぞれの略歴について聞いてみた。
榊原:私は前職、ミュージックビデオを作る会社の制作部で3年程働いていました。企画の根幹となるコンテ制作など、もっとクリエイティブな部分に携わりたいと思い、エルロイに参画しました。今は絵コンテ制作だけでなく、プランニングや演出にも関わっています。
室井:僕は大学で文学部に通っていたのですが、どうしても映像の仕事に就きたくなって。夜間の映像専門学校に通いながら就職活動をはじめて、エルロイに応募しました。普通、撮影助手の仕事は専門学校を卒業していないと入りにくいんです。だけど面接で、撮影部部長の髙橋が「ゼロから教えてやる」と言ってくれて、入社しました。
藏原さんは映像制作会社に5年勤めた後、エルロイに入社。現在は制作部に籍をおきながら、プロデューサーやディレクターも務めている。佐名さんは福岡の大学を出て新卒としてエルロイに入社。現在は映像エディターとして活躍している。業界には珍しく、映像に関わる主要な制作過程を内製させることに成功したエルロイ。さらに2016年を「教育元年」と謳い、未経験者も積極的に採用してきた。専門スタッフを抱えることや、未経験者の採用は一見コスト高にみえるが、このような組織の在り方は理想的だと考えているようだ。
藏原:すべての部署が一つのオフィスにまとまっていると、仕事にスピード感が出ます。通常、制作部から社外スタッフに依頼する場合、意志疎通を図る上でもメールをしたり、電話をしたり、想像以上に時間がかかってしまいます。一方エルロイの場合は企画と制作・撮影・編集のスタッフが揃っているので、ピンポイントで話ができる。コミュニケーションが効率的なんです。ちょっとした相談もその場でできるため、クリエイティブに割ける時間が多くなるんですよ。だからこそ、教育に充てる時間を確保できる余裕があるんだと思います。
CanonやTOYOTAなどナショナルクライアントのプロジェクトが多いのは、そのスピード感やクオリティに対する信頼の表れとも言えそうだ。
榊原:普通、CM1本の制作期間は3か月くらいのことが多いですが、弊社ではものによっては1.5〜2倍くらいのスピードで進められることもあります。クライアントから仕事を相談された後で外部のコンテライターに依頼すると、書き込み具合などによっては1週間以上かかってしまうこともあります。でもエルロイの企画デザイン部には、絵コンテも描けて企画を考えられるプランナーが在籍しているので、すぐに手を動かせるという強みがあると思いますね。全員で「どうすれば魅力的な表現ができるか」というコミュニケーションをとることに集中できています。
ワンストップであることが、社内の「余裕」を生み出すことに繋がる。だから未経験者に対しても、十分に実践を通して学びの機会を提供できる。育った社員がさらに新人を育てられる。少数精鋭ながら「育成」の体制が整う好循環の背景には、効率化へのこだわりがあった。
現場で撮り直すか、編集で修正するか。全員が現場を経験するから、最適な判断ができる
映像業界では、工程ごとに会社が分かれることも少なくない。制作、撮影、編集など、それぞれに特化した企業が多種多様に存在する。エルロイはその全ての機能を一社の中に抱えることで、視野の広いスペシャリストを育てられるのだという。
室井:撮影においてはフリーのカメラマンの下に弟子入りするか、撮影専門の会社に入社するのが一般的です。僕らは会社に在籍している分、他のメンバーが撮影以外の過程で苦労をしている姿を見ることができます。例えば、僕ら撮影チームがグリーンバックで少しピンボケした撮影をしてしまったとする。するとエディターチームが、その素材をマスクで抜くために編集で苦労している姿を会社で目にすることになるんです。撮影のみの会社だと視野が狭くなりがちですが、同じオフィスで様々な過程に携わるメンバーがいる分、映像ができるまでの流れを俯瞰できます。だからこそ現場ありきの発想や傲慢にならないでいられるというか。学びが多いと思っています。
藏原:他にも、たとえば撮影現場にエディターも行くので、修正の対応ができる / できないの判断が瞬時に行なえるんですよね。撮影時間が伸びれば、スタジオを1時間過ぎただけでも、予算を大幅にオーバーしてしまいます。どこまでを現場でやって、どこからを編集に任せるかのコミュニケーションが図れるのも、エルロイならではだと思いますね。
佐名:エルロイは、ジェネラリスト(オフラインとオンラインを一貫して一人のエディターが担当する人)を育てるシステムなので、いろんなパターンの編集を学べることも醍醐味です。僕はいずれ、編集もできるディレクターになりたいと思っているので、日々勉強になりますね。
現場の都合や、ディレクターありきの発想ではなく、それぞれが予算と納期と自分たちのやるべきことを理解して、チーム一丸となって信頼し合っているからこそ、質の高いクリエイティブが生まれているのだろう。競合とのコンペティションに参加するための企画会議にも、制作 / 撮影 / 編集の部署を超えて出席できる仕組みを設けているようだ。
榊原:コンペに参加する際、企画会議に出たい人は誰でも参加OKというスタイルをとっています。例えば、撮影部からは映像的にはこうした方が良い、こういうカメラを使いたいと言う意見が出たり、編集部からはギミックを駆使した提案があったり。制作部は制作部の視点で、予算の妥当性やクライアントの好みについても意見をくれます。部署を超えて企画をディスカッションすることで、自分たちのチームだけでは浮かばない意見が出るのはいつも新鮮です。全員が映像制作のアイデアから携われるのはメンバーのモチベーションにもなっていますし、会社としての強みでもあるんでしょうね。
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- 映像制作会社で「座学の勉強会」?
映像制作会社で「座学の勉強会」?
エルロイの教育制度は、現場での横断的な仕事に留まらない。全ての部署のメンバーが参加できる「エルロイアカデミー」という座学の時間も設けているという。
藏原:前職の制作会社にいた頃から「仕事は背中を見て覚えろ」と教えられてきましたし、自分もそういうスタンスをとってきました。しかし、それだけだと若手が吸収しきれないことも多く、結果、育てるべき若手が辞めていくケースも目にしてきました。やはり、仕事の体系的な知識やノウハウをきちんと伝える場が必要なんです。そこでエルロイでは、社内メンバーによる講座を開いたり、外部からの講師を招いたりして部署の垣根を超えて学ぶ機会を設けています。
室井:外部講師に教わることで、実際現場で教わるのとは違ったスタンスを学ぶこともでき、視野が広がっていく感覚がありますね。
佐名:業界に入ってすぐの右も左も分からない状態から、本来ならば長い間働いて、経験の中で少しずつ身に付けていくようなことも、座学だと凝縮した時間で学ぶことができます。
藏原:「背中を見て覚えろ」というのは教える本人にとってはとても楽なんですが、そのやり方はもう時代に合っていないし、人は育たない。2016年に本格的に育成に乗り出しましたが、今後は座学と体験をどのようにブレンドし人を効率的に育てていくか、というのが課題になってくるかと思っています。
スタッフの成長が、会社の成長。若手を大事にする理由
業務に奔走される日々に、時間を割いてでも教育に力を入れること。それが会社の強みになることを実感しているのだろう。組織として若手への投資を惜しまないスタンスは常日頃から共有されているようだ。
藏原:プロデュース部、制作部、撮影部、編集部、企画デザイン部の5部門の部長会議では、常に現場で働く若手のために動こうという話をしています。普通、会社というのは、ピラミッド型の組織で、上に役員がいて、中間管理職がいて、下にそれを支えるメンバーがいるという構造です。でも弊社では「逆三角形のピラミッド型」の構造を理想に掲げています。現場のスタッフが思い切りクリエイティビティを発揮できる環境を作るために、部長職や上の立場の人間が知恵を絞るスタンスです。現場のスタッフ達はその環境を与えられる代わりに、きちんとクオリティの高い仕事をする。そうすることが、組織の成長、ひいては会社の売り上げに繋がると考えています。
ピラミッドの頂点のために現場が頑張るのではなく、上部が現場を支える。その背景には、スタッフひとり一人と長く一緒に映像を制作していきたいという想いがあった。働きやすい環境づくりにも着手しており、今年から今まで以上に長期休暇も取れるように社内制度を整えているそうだ。
藏原:仕事をするのであれば、当然誰しもが優秀な社員と組みたいもの。3年後、5年後に今の若手で自分の部署にいたスタッフと仕事を組む際に「あいつか、頼りないな……」と思いたくなくって。だから今は若いメンバーにどんどん仕事を振って、経験させて、失敗から学ばせていく、フォローして育てていくことを続けていけたらなと思っています。また、無理ばかりをさせるのではなく、長期休暇もとって十分にリフレッシュしてもらえたらなと。エルロイという会社を選んでもらったからには長く働いてもらえるようにしっかりサポートする。そのような姿勢が巡り巡って、最終的にはエルロイの強みになっていくのだと思いますね。
Profile
2022年、エルロイは創業10年を迎えました。会社が10年残る確率は3%と言われております。「変化」を恐れない姿勢。10年の壁を越えることができた理由は、そこにあると私たちは考えます。
社内に企画デザイン部、撮影部、制作部、編集部を持ち、案件成立から納品まで、お客様のビジュアルクリエイティブを一貫体制(Integrated workflow)でトータルサポート。
新たな制作力を持つプロダクションとして、絶えず変化をしてきたエルロイは今年、さらに変化します。新しい経営陣と、新しいオフィス。そんな私たちと一緒に、変化を恐れず、次の10年をともに戦ってくれる人材を求めます。