CINRA

エディトリアルデザイナーの域を越えていく。コンセントが求める柔軟な発想力

「つくることだけがデザインではない」。そう語るのは、デザイン会社コンセントでエディトリアルデザイナー、チームリーダーとして働く斎藤広太さん、高橋裕子さん。そして今年1月に入社したデザイナーの安部絵莉奈さんだ。コミュニケーションデザインが主軸事業の一つである同社では、エディトリアルやWEBなどさまざまなアウトプットを通して「伝わるデザイン」の提案をしている。直接クライアントとコミュニケーションをとり、情報の見せ方を根底から考え、ときにはワークショップなども開催しながら企業の課題解決に取り組む彼らにとって、「伝わるデザイン」とは?
第一線で活躍する3名に話を聞いた。
  • 取材・文:飯嶋藍子
  • 撮影:有坂政晴(STUH)
  • 編集:青柳麗野(CINRA)

「情報を誰に届けたいか」で最適なアウトプットを考える

—みなさんはどういったお仕事に取り組まれているのでしょうか?

斎藤:ぼくらはエディトリアルデザインが中心の部署に所属しているので、紙媒体がメインですが、デザイナーによってはWEBなどのデザインをする人もいます。コンセントの場合、「紙かWEBか」というアウトプットありきで考えるのではなく、目的からどんな情報を誰にどう伝えるかを考えることを大切にしています。

たとえば、クライアントから学校案内の制作依頼をいただいたのであれば、情報を届けたいのは受験生だけではなく、受験生の親もターゲットになる。家族間でじっくり検討するシチュエーションを考えると、家族で一緒に見たり、情報を書き込んだりできる「紙媒体」のほうがふさわしいかもしれない。

ターゲットやシチュエーションなどによって、情報を届ける手段とアウトプットを考える。「学校案内だからパンフレットだよね」と安易に決めるのではなく、紙よりWEBのほうが最適に届けられるのであれば、クライアントが想定していたアウトプットとは異なる提案をすることもあります。届けたいターゲットが何をどういったかたちで求めているかを、デザイナーも一緒になって考えています。

アートディレクター / デザイナーの斎藤広太さん

アートディレクター / デザイナーの斎藤広太さん

高橋:私自身は本をつくりたいという気持ちで入社したのがスタートです。でもいまは雑誌のデザインを中心にしながらも、企業が開催するワークショップのキット開発や、WEBサイトの制作など、ツールを越えて仕事をするケースも増えてきました。斎藤と同じく、アウトプットありきではなく、なにを伝えたくて、どういう方法が効果的かを考えることは大切にしていますね。

アートディレクター高橋裕子のさん

アートディレクターの高橋裕子さん

斎藤:同じ紙でも、冊子がいいのか、四つ折りされたマップのように広げられるほうがいいのかみたいなことはすごく考えます。そうした選択肢のなかにWEBやアプリもあるという感じです。たとえば、制作するよりも前にクライアントの抱える課題について話し合うワークショップが必要なのではと思ったら、アウトプットがイベントというリアルな場に落ち着くこともあります。

—そもそも、デザイン会社であるコンセントはどんな組織なのでしょうか?

斎藤:デザイナーやアートディレクターだけではなく、プロデューサーやディレクター、エンジニアなど、デザインに携わる職種の人が多く在籍しています。現在、大きく4つの事業部があるのですが、私たちはそのなかでエディトリアルデザインを主にやっているコミュニケーションデザイン事業部に在籍しています。

高橋:同事業部は12のチームに分かれていて、ひとチーム6人くらいの体制です。私がリーダーを務めているチームでは、月2回刊行される雑誌『オレンジページ』のデザインをメンバー全員で担当しつつ、いろいろなクライアントの仕事に取り組んでいます。

斎藤:ぼくのチームは、メンバーそれぞれが違うクライアントの仕事を持っていて、企業や学校の広報ツールなどをつくっています。チームだからそのなかだけで仕事をするというわけではなく、メンバーがチームを横断するプロジェクトもたくさんあります。

—マネージメントのためのチーム制なのですね。安部さんは今年1月に入社されたばかりということですが、どういったお仕事をされているんでしょう?

安部:学校案内のパンフレット、教科書のデザインのほかに、商品のブランディングの企画、Instagram投稿用の写真のビジュアルづくりなども担当しています。いまは一人のアートディレクターの先輩についていますが、入社して最初は所属チーム外の先輩の下で仕事をしていました。コンセントは所属チームの枠を越えてプロジェクトチームが編成されるのでとても流動的ですね。

デザイナーの安部絵莉奈さん

デザイナーの安部絵莉奈さん

クライアントにしっかりヒアリングすることで、最適なアウトプットをつくる

—クライアントにはアウトプットのかたちから提案するとおっしゃっていたので、単にデザイナーという枠には収まらない柔軟性が求められそうですね。

斎藤:そうだと思います。コンセントのエディトリアルデザインは大きく分けて、出版社の編集者とするお仕事と、企業や教育機関などのクライアントとするお仕事があります。

編集の方とのやりとりだと、制作者同士なので「こっちのほうが伝わりますよね」くらいのコミュニケーションで理解し合える。一方、企業や教育機関がクライアントの場合、担当者は見せ方のプロではないので、自分たちデザイナーが「どう編集したらいいか」まで考える場合が多いです。

—その考えを相手に伝える際に気をつけていることはありますか?

斎藤:広報部や宣伝部の方と直接やりとりするので、アウトプットのイメージを言語化してわかりやすく伝えるようにしています。たとえば、デザインを何案かつくって「こちらのほうがわかりやすく伝わります」というコミュニケーションをとることもあります。クライアントがエンドユーザーに伝えたい情報を直接ヒアリングしながら進めていけるのは、デザイナーにとってメリットだと思います。

—コンセントではそのようなコミュニケーションがよくあるのでしょうか?

斎藤:プロジェクトによってデザイナーがディレクターの仕事を兼ねたりしますね。そのあたりはよくイメージされるエディトリアルデザイナーとは違うかもしれません。

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100人が100通りのデザインを考える。大規模組織ならではのメリットとは?

100人が100通りのデザインを考える。大規模組織ならではのメリットとは?

—コンセントには、「クライアントとのコミュニケーションから相手の求めていることを読み取り、枠にとらわれない発想でアウトプットを提案する」という流儀がありますが、みなさんは入社前からその考え方をお持ちでしたか?

斎藤:ぼくは3、4年違うデザイン会社で働いてから転職してきたのですが、入社時はそういう考え方を持ち合わせていませんでした。そもそもコンセントに転職した理由は、デザイナーだけで100人以上いるという人数の多さが魅力だったから。いろんな領域のデザイナーの仕事を近くで見ることができたり、案に煮詰まったときにほかのデザイナーから素直な感想を聞いたりできるのは、この規模だからこそのメリットだと思います。

—社内でのコミュニケーションも多いのですね。斎藤さんはどういう仕事を経てコンセントの考え方が身についたのでしょうか?

斎藤:アートディレクターになってからですね。自分で媒体を持ってみると、クライアントが求めていることがより見えてきました。以前、住宅を購入した方に郵送する広報誌をつくっていたんですが、その開封率を上げたいという依頼を受けました。表紙のデザインだけでなく、どんな封筒のかたちや印刷にしたらその冊子を受け取るお客さまが見たくなるかをすごく考えて……最終的に、封筒の小窓から特集名が見えるようなデザインにしたんです。

それまでは表紙写真と冊子名しか見えていない封筒だったのですが、読者の方に「自分と関係のある特集だ」と思ってもらいたくて。結果的に開封率も上がったんです。紙媒体の場合、数字で成果が見えることって少ないので、すごく嬉しかったのを覚えています。

—ところで、入社したばかりのデザイナーはどういったかたちで仕事を担当するのでしょう?

斎藤:アシスタント的な業務はもちろんゼロではないのですが、できるだけ早くプロジェクトの主要メンバーとして参加してもらって、成長を促すようにしています。

安部:私はまさにその最中です。じつは、新卒採用のときにコンセントを受けたんですけど落ちてしまって、出版社で3年間雑誌のデザインをしていました。コンセントのデザインの根底には、見た目だけにこだわるのではなく、なぜそのかたちで表現するのかという理由を第一に考えているところがあって。かたちだけではなく仕組み自体をつくることもデザインなんだと言い切っているところに惹かれて、再度応募したんです。

—入社前からコンセントの考え方を感じ取っていたのですね。入社したら安部さんのように先輩について仕事をするのでしょうか?

高橋:自分が所属するチームリーダーのもとでプロジェクトを担当することが多いのですが、その枠組みを越えることも多いです。私のチームに入ってきた新人さんには、まず雑誌の仕事でエディトリアルの基礎や、クライアントとのやりとりなどを学んでもらいます。ですが、本人の希望を考慮に入れつつ、撮影ディレクションや企画立案に関わるなど、仕事の範囲を広げられるような機会をつくるようにしています。コンセントでは本人の「やりたいです」という声は通りやすいはずだし、リーダーとしては、「こういうのいいんじゃない?」という後押しをしていければと考えています。

斎藤:やりたいことをアピールするのは重要ですよね。リーダーがその人に合わせて仕事を割り振ったりもします。

高橋:コンセントはデザイナーとしていろんな分野にチャレンジできるのがメリット。仕事のバリエーションも増えていますし、WEBもやってみたいとか動画もやってみたいとか、そういった希望を叶えてくれることも多いです。正直、仕事で一度やってみることが一番の成長につながると思うんです。

各分野に長けたクリエイターから、デザインのノウハウを得られる

—社内勉強会もたくさん行われているそうですが、それは個人の技術的な領域を広げていくために実施しているのですか?

高橋:そうですね。知識や技術を共有しましょうという勉強会はすごく増えました。『コンセントデザインスクール』という勉強会では、その領域に長けている人が2、3時間話してくれるプログラムが月に3回くらい組まれています。

斎藤:たとえばカタログ制作の仕事をしている人がフォトディレクションのコツを教える会や、初心者向けのイラストディレクションの会、上級者向けのテック系の会、プレゼンテーションの会なんかもあります。出席できなくてもスライドが共有されたり、勉強会でのトピックをコラムにまとめて社内向けのサイトにアップしたりもしています。すぐに実践できるノウハウも多いので、自分の担当プロジェクトに活かせるんですよね。

社内の勉強会の様子(画像提供:株式会社コンセント)

社内の勉強会の様子(画像提供:株式会社コンセント)

—みなさんすごく勉強熱心なのですね。コンセントに入りたいと思っている人にもそういった姿勢は求めますか?

斎藤:学ぶ姿勢はほしいなと思います。ぼくは中途で入ったときに同い年の人との力量の差に結構ショックを受けたんです。このままじゃまずいという危機感から勉強するようになったところもあって。コンセントにいると、同じくらいの年次の人がどれくらいできるのかとか、ここまでできなきゃいけないんだとかがすごく見える。そこを意識する環境にいると、デザイン力も上がっていくんじゃないかと思います。

高橋:いろんな人がいるので、「コンセントのデザイナーってこういう人!」って一緒くたにはできないのですが、新しいことをどんどんやっていく人もいれば、ひとつのことを突き詰めてやっていく人もいて。でも、いろいろなことに興味を持つのは大事だと思います。

—興味を持つという意識って、コミュニケーションにも通じるところですよね。

高橋:そうですね。その人が考えていることのエッセンスを読み取るのが私たちの仕事だと思っています。クライアントの言葉ひとつとっても、「こういう意図なんじゃないか」っていうことをすくい上げつつ、期待を超えるものをつくれたらと思います。入社してくれる人も、超根本的なところから前のめりに考えてくれる人だと楽しく仕事ができるのではないでしょうか。

安部:ビジュアルをつくることだけがデザインじゃなくて、人が発言しやすい空気をつくることや、相手の声のトーンや言葉から気持ちを汲み取ることだって、デザインだと思うんです。

コンセントでは決められたサイズもアウトプットの形式もないところで、課題解決するための表現方法を考えられるから、視野がものすごく広がります。ディレクターやデザイナーなどの業務に関しても境界線がなく、やろうと思えばいろいろやらせてもらえるのは、デザイナー冥利に尽きますね。

Profile

株式会社コンセント

株式会社コンセント(旧アレフ・ゼロ)は1971年に創業し、日本のエディトリアルデザイン分野の礎を築いてきた会社です。

『Tarzan』『オレンジページ』などの雑誌をはじめ、ムック、書籍、教科書、新聞、企業広報誌など、さまざまな媒体のアートディレクション / デザインを手がけています。

現在はエディトリアルデザインのみにとどまらず、企画・編集、WEBサイト構築・設計・ガバナンス支援、商品・サービス開発支援など、活動の幅は多岐にわたります。刺激的な環境で共に成長していける、意欲的なデザイナーを募集します。

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