取引先企業の中に新たな部署を作り、役職に就くほど入り込む。AKINDが考える、本当のブランディングとは?
- 2018/02/09
- FEATURE
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- 取材・文:村上広大
- 撮影:きくちよしみ
価値をつくるのではなく、磨き上げるのがブランディングの真骨頂
AKINDがスタートしたのは2014年のこと。前職でさまざまな企業のブランディングを手がけてきた岩野さんと森江さんが、意気投合して起業した。だが、どうして二人は独立の道を選んだのだろうか? そこには既存のコンサルティング会社への疑問があったという。
岩野:僕たち二人がかつて勤めていた会社では、どちらかというと大きな予算を使って短いスパンで結果を出すことが求められていました。プロジェクトの契約期間の中で、アイデアのインパクトを追い求めたり、多少強引にでもクライアントに大きな挑戦を求めたりするなど、短期的な結果を求める活動に違和感を抱いていました。
森江:そうした単発的な発想ではなく、長く付き合いながら価値あるビジネスをクライアントと一緒に育てていく仕事がしたいなと思って、岩野と二人でつくったのがAKINDなんです。
岩野:真の意味でのブランディングって中長期的な施策が大切だと思うんです。でも、開発ベースの仕事の仕方だと、すぐに「価値をつくる」とか「何かを提案する」という話になってしまう。それって本質的ではないじゃないですか。それに企業の価値って基本的には第三者ではつくれないと思ってるんですよ。もともと備わっているものだから。
ここにこそ、AKINDという会社を立ち上げ、「ブランディング」への新たな取り組み方を提示し始めた由来があるという。
岩野:もし事業がうまくいっていないとしたら、それは時代や市場に合ってないとか、届ける仕組みができてないだけの話で、企業が本来的に持っている価値をきちんと磨き上げれば成果は出るはずなんです。ただ、それを自分たちで行おうとするとついつい組織のロジックにハマって顧客視点を見失ってしまうこともある。だから、私たちのような第三者機関が入ってうまく機能する仕組みをつくっていく必要があります。そのためには開発ベースではなく、運用ベースで考えていくのが最適なんです。
この二人が大切にしているのが、かつて近江商人が唱えた「三方よし」の理念。意外にも、欧米を中心としたブランディングの手法について調べていくうちに、この考え方に辿り着いたという。
森江:100年以上の歴史がある企業がこれだけたくさん存続しているのって、世界的にも見ても日本くらいなんですね。すごくサスティナブルなビジネスの手法だなと思いました。しかも、今の時代にもマッチする。その根底にあるのが「売り手よし」「買い手よし」「世間よし」という「三方よし」の考え方でした。僕たちが関西人ということもあるかもしれないですが、すごくしっくりきたんです。
ライフスタイルの変化だけじゃない! 神戸に拠点を置くべき理由
神戸に拠点を置いたのは立地に惹かれたから。山もあって海もある。新幹線も通ってるし、空港も近い。そして何より、ご飯が美味しい。豊かなライフスタイルを構築するためには最適な場所というわけだ。「こういう仕事をしているからには、僕たちが豊かに暮らすことが必要だと思うんですよ」と岩野さんは話す。
岩野:僕たちはローカルにこそ未来があると思っていて、例えば欧米諸国では名のあるクリエイティブエージェンシーが中心都市ではなく、地方にあることがけっこう多いんです。それと同じで、あるべきブランディングの形を追求したら神戸に辿り着いたというのが実のところ。
昨今は東京一極集中が問題になることも多い。それによってさまざまな問題も起こっている。だが、東京は日本の都市のひとつに過ぎない。だからこそ、もっと日本のさまざまな場所をグローバルな視点で伝えていく必要があると二人は話す。
岩野:東京を離れると、まだまだブランドとしての成長の余地がある老舗企業や自治体との接点も増えます。だからこそ次の100年も生き残るブランドになるよう、共に価値を磨いていけるチャンスが多いんです。予算は少ないかもしれないけれど、時間はたっぷりある。東京と同じビジネスモデルではなく、たとえば「会計士」と同じように、毎月接点を持ちつつ、長く続くようなクライアントとのお付き合いを意識しています。
森江:それに加えて、今って世界とダイレクトに繋がれるじゃないですか。そんな時代に、わざわざ東京を介する必要もないなと思っていて。昔のように地方から東京、そして世界というステップを踏むのではなく、最初から日本という単位で世界とどう渡り合うかを考えた方が視野の広い仕事ができると思うんですよ。
岩野:例えば、以前に有馬温泉のグローバルコミュニケーションを担当したことがあったのですが、僕たちが担当するまでは日本にある他の温泉地といかに差別化するかに重きを置いました。でも本当にグローバルを意識するなら、アジア圏のリゾート地であるバリやダナンと比較したときに「有馬温泉」を選んでもらえるようなブランディングを考えないといけません。あらためて周辺地域の歴史を掘り下げてみると、特徴的な湯治文化が根付いていることがわかりました。せっかくそんな魅力があるなら、発信しない手はない。そこで「湯治=リトリートスパ」というイメージを組み込んで発信の方向性を変えたところ、長期滞在の外国人観光客が増えるという結果に繋がりました。
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- なぜエアライン『Peach』は、ブランドマネジメントに注力できたのか?
なぜエアライン『Peach』は、ブランドマネジメントに注力できたのか?
そんなAKINDの特徴のひとつが、インハウスのクリエイティブチームを持たないこと。つまり、ブランドマネジメントに特化している点だ。
森江:ブランディングというと、ロゴをつくったり、ネーミングを考えたりすることだと認識している人もいると思うんですけれど、僕たちの仕事はそういったデザイン的な話からは絶対にスタートしません。課題をどう解決していくのか。そのプロセスに応じた提案をしています。制作はそのオプションでしかないんです。
岩野:欧米だと社内にブランドマネジメントをする人材がいて、トップと連携を取りながら社内外のあらゆることを管理していくのですが、日本ってそういうのが極端に少ないんですよね。縦割りが厳しく、それぞれに予算を抱えているので口出しできないんですよ。だから、僕たちのような第三者が入って、企業に足りていないブランドマネジメントをすることに意義と価値があると思っています。
そうしたAKINDのブランドマネジメント能力の高さを聞きつけ、現在では老舗企業や自治体のみならず、多様なクライアントが集っている。エアラインの「Peach」、グローバル・ホテル・チェーンの「ヒルトン大阪」、道の駅「FARM CIRCUS」など。その中から具体的な施策についても話してもらった。
岩野:例えばエアラインの「Peach」には、こちらからお願いしてブランドマネジメントの部門を特別につくってもらいました。そこに森江が週に2回ほど出向する形を取っているのですが、いつのまにか役職にまで就いています(笑)。でも、それくらい企業の中に入り込んでブランディングをしていくと、会社の中で人が育つので、次第にきちんとしたブランドマネジメントを会社独自でできるようになってくるんですね。いい種があっても土壌がよくなければきちんと育たないのと同じで、会社もしっかりとした土壌をつくっていくことが大切。その役割を担うのがAKINDなんです。
このようにブランドマネジメントに特化しているとはいえ、デザイン制作に携わらないわけではない。クリエイティブなアウトプットが必要となれば、AKINDが誇るネットワークで世界中のクリエイターたちと繋がって制作を進めていく。
岩野:デザインって“独自性”と“差別化”が重要な課題だと思っていて、どれだけ尖らせたクリエイティブにチャレンジできるかを大切にしたいんです。だったら、日本だけでなく、グローバルに優秀な人と一緒に仕事をした方がいいじゃないですか。
森江:それに僕たちの担当する領域って、グラフィックデザインから空間デザインまで多岐にわたるので、それらをトータルに考えながら、必要に応じてフレキシブルにチームを組みたいんですよ。この人がグラフィックをやるんだったら、空間演出はあの人に頼もうって。でも、インハウスのクリエイティブチームを持ってしまうと、制作のイメージが固定されてしまうし、その人たちに仕事を回すためにデザインの提案をするという思考に陥ってしまう。そういうこともあって、AKINDは戦略とマネジメントに特化した会社になっているんです。
世界に誇る日本ブランドを自分たちで発信していきたい
来年には創業5周年を迎えるAKIND。これからさらに飛躍していくために新たな「商人」を求めている。具体的にどのような人を求めているのだろうか。
岩野:僕は戦略とマネジメントの掛け算が最強のタッグだと思っていてそういう関係になれる人を増やしていきたいんです。特にAKINDは、自治体からサービス業、飲食とさまざまな領域の企業と関われるので、勉強になるし、好奇心旺盛な人にとっては面白いはず。それにブランドマネジメントのスキームって年齢を経ても役立つと思うんですよ。50歳くらいになってどこかのブランドマネジメントの役職に就くのもいいかもしれない。
森江:とはいえ、AKINDをキャリアアップのためだけに考えられるのも悲しいので、神戸での暮らしとかこれからの生き方とかも一緒に考えながら働くことができたら嬉しいですよね(笑)。
また、今後は自社事業の立ち上げも予定しているという。今、念頭にあるのは「食」に関するビジネスだ。
岩野:ニューヨークのいちばん坪単価が高い場所に「イータリー」というイタリアの食文化を発信するグルメマーケットがあって、ニューヨーカーたちに流行っているんです。そこではハンドメイドのチーズとかオリーブが販売されてるいるのですが、そこの売り上げがあることでイタリアの片田舎とかに住んでいても豊かな暮らしを実現できるし、スロウにビジネスを拡大することができる。日本もそうやって、醤油とか味噌とか酒とか、古くからある日本の食文化をもっとうまく世界に向けて発信していくべきなんですよ。
森江:過去に海外での生活経験もあるのですが、海外の人たちと話しているとやっぱりまだまだ日本に対する認識は高まっていないし、誤解されていることも多い。でも、それって今まできちんとした形で日本という国をブランディングできていなかったからだと思うんです。そういうところまで考えていけるようになると楽しいですよね。
岩野:こうした僕たちの考えに共感してくれた方がいれば、ぜひ商人集団の船に乗ってもらって、世界に誇れる日本発のブランドを一緒につくっていきたいですね。そして、僕たちが関わった企業が100年後にも語り継がれるような価値を生み出していければと思います。
Profile
AKINDは地域起点の発想で、持続可能なビジネスを探求する集団です。「人間性・事業性・社会性」を軸とした三方良しで、ビジネスが本質的に持つ「価値」を磨き、届ける仕組みと人材を育てる。クリエイティブな戦略とマネジメントを通じて、プロジェクトをポジティブに進める力を生み出し、社会への貢献を目指しています。