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AID-DCCという覚悟

現状維持を良しとせず、常に成長し続けていかなければならない。それはスポーツ選手でも、企業でも同じこと。そして企業であるならば、それは一個人だけでなく、経営陣はもちろん、社員一人ひとり、全員がそう志していなければならない。そうは言っても、それを実現できている組織は数少ないのも事実。今回、AID-DCC(エイド・ディーシーシー)のみなさんを取材して感じたのは、一人ひとりが「つくる」ことに対して持っている貪欲さとプライドであり、成長し続けていくことに対して何の疑問も持たない、覚悟にも似たようなものだった。その覚悟が、国際的なアワードでも数々の賞を受賞させ、第9回東京インタラクティブ・アド・アワードでベストインタラクティブプロダクション賞を受賞させたのだろう。創業メンバーでCOO兼プランナーの富永勇亮さん、個人名義でも活躍するテクニカルディレクターSaqoosha(さくーしゃ)さん、デザイナーの森本友理さん、デベロッパーの田中陽さんにお話しを伺って、そう確信した。
  • 取材・文:影山裕樹
  • 撮影:菱沼勇夫

AID=助力する

正しいことを提案する

―AID-DCCという社名のAIDは「助力する」という意味ですが、これはどういった意図で?

COO兼プランナー 富永勇亮さん

COO兼プランナー 富永勇亮さん

勇亮:社名は創業時に、兄でもある社長と相談して決めたんですが、僕たちは、クライアントが困っていることに対して、こうしたらいいんじゃないか? と提案する立場を貫きたいと思っているんです。

―自社発信のサービスを立ち上げるプロダクションも多い中、そのような信念は創業当初からずっと変わらない、と。

勇亮:そうですね。でも、「助力する」ことが「頼まれたことをそのままやる」というわけではないんです。会社を立ち上げたばかりの頃、100社コンペの大きな案件がありました。依頼内容としてはデザイン案を提出してくれ、ということだったんですが、どうもこれ、クライアントの道筋通りやっても、うまくいかないんじゃないかと思ったんです。それで、デザインを出すのをやめました。まずは考え方をきちんと提案した方がいいんじゃないかと。

ー問題の根本から考え直したと。

aid-dcc2

勇亮:そう。そこで僕たちなりの考えをまとめて、デザイン案を出さない形で提案したんです。その結果、100社競合に勝って受注しました。それは自信になりましたね。「クライアントにとってはこっちが正しい」と僕たちが信じる提案をぶつける。それがクライアントの助力になりえるんだと信じられた経験でした。

―とはいえ「言われた通りにやらない」という選択は、言ってみればお客さんに反旗をひるがえすようなことでもあるわけですから、当然リスクも伴いますよね……。

勇亮:クライアントや広告代理店から決められた道筋をひっくりかえすのはリスクですよね。けれど、それで失った関係よりも、「あのとき言ってくれて良かった」といわれた経験のほうが圧倒的に多いんです。そこは僕たちの揺るがない自信に繋がっていると思います。

それぞれのきっかけ

やりたいことに繋げるために

―Saqoosha(さくーしゃ)さんは、グループ会社であるKatamariの役員として参加されながらも、テクニカルディレクター/プログラマーとして個人名義でも多くの受賞歴をお持ちですが、いつ頃からAID-DCCに参加したのですか?

テクニカルディレクター Saqoosha(さくーしゃ)/小山智彦さん

勇亮:Saqooshaはうちの執行役員の奥田が同級生だったんですよ。最初事務所が大阪で立ち上がったとき、LANケーブルの配線が出来なくて困っていて。そこで奥田が「繋ぐクン」として呼んで、来てもらったのが最初です(笑)。

Saqoosha:ルーターがなかったので、買ってきて設置したりしてました。「パソコン詳しい人ですね」って言われました(笑)。

勇亮:彼は当時から「マカー用。」っていう、2ちゃんねるのMac用ブラウザを開発していて、2ちゃんねるで自分のスレッドができるくらいネット上では話題の人だった。でも働いている会社は、ゲームの移植をしている会社だったんです。

Saqoosha:セガ系の下請けの会社にいました。

勇亮:だったら、僕たちとやった方がいいんじゃないかと思って、一緒にやりませんか? って誘ったんです。ところが最初は仕事もあまりないから、佃煮屋のチラシをつくったりしてましたよ。

Saqoosha:そうそう、紙のデザインをやってました(笑)。

―意外ですね(笑)。ちなみにその熊のかぶり物は、いつからなんですか?

Saqoosha:昔雑誌の取材で、オフィスにおいてあったので被ってみました。きっかけは、それからかな……。

―一度見たら忘れなさそうです(笑)。では、デザイナーである森本さん、AID-DCCに入社するきっかけを教えてください。

デザイナー 森本友理さん

森本:私は元々グラフィック系の制作会社のWEBチームにいたんです。ちょうど入社して2年くらい経って、大阪本社のプランナー藤原さん(取締役)が私のプライベートワークを見て、声をかけてもらったんです。

―自分から面接を受けて入社したわけではないんですね。

森本:はい。「面白そうだから今度遊びに行かせて下さい」と約束してオフィスに伺ったら、席に座ってたのがこの2人(富永/Saqoosha)……。いつのまにか筆記テストみたいなことをさせられて、あげく「ポートフォリオはどこにあるの?」って(笑)。しかもその日のうちに社長とも会って、「君はいつから来れるんだい?」って言われて(笑)。

―それから、トントンと。

勇亮:ブログで見た彼女の個人作品は独特の世界観が出ていてすごく良かったんですね。ただクライアントワークを見てみるとそれが出ていなくて、やりたいことと自分が今やってることとの乖離があると感じました。だから彼女の才能を伸ばすという意味でも、うちだったらもっとできるんじゃないか、と思ったんです。

―お2人とも、「AID-DCCの方がやりたいことができる」というところから参加していらっしゃるわけですね。

社員のコミュニケーションを促進するために

―新しく入社した人に、ユニークな課題を与えていると伺っています。

勇亮:森本が入社した頃に比べて、社員もちょっとずつ増えて部署ができてくると、なかなか社員の間で「誰が何をできるか」が見えづらくなってきました。僕たちの仕事ってつくる仕事だから、究極のコミュニケーションなわけじゃないですか。クライアントとエンドユーザーとのコミュニケーション。だからまず僕たちつくる側同士が、互いに何をできて、どこが強くて弱いか、みんなで把握し補完しあいながらつくっていかなくちゃいけないわけです。そこで考えたのが、「新人に社員全員へのインタビューをしてもらう」という課題です。さらにクリエイティブの仕事なので、インタビューを原稿にまとめ、最終的にサイトを立ち上げてもらう。田中くんは、その第一回目のメンバーでした。

田中:研修期間の2週間で取材、校正、デザイン、実装まで終えるという課題でしたが、実際のところ2週間では間に合わなかったんです。そこで初めて怒られました。

勇亮:確かに少ない時間でしたが、「間に合わないことを前提にするな」ってね。

―どのように進めていたんですか?

田中:同期入社のメンバーでチームを組んでいますが、お互いに何ができるのか、まだ把握していなくて。まずはお互いを知るためのコミュニケーションが必要でした。そして「研修課題」とはいえ、入社して一番最初のアウトプットなので、ものすごいプレッシャーでしたね……。

ーそうそうたる猛者たちが見守っているわけですもんね(笑)。

勇亮:同時期にデザイナーが2名、アシスタント・プロデューサーが1名入ったので、計4名チームでつくってもらいました。まったく決まりがなく、「インタビューをせよ、サイトをつくれ、以上。」とだけ伝えて。それは大変だったと思います。でもこの経験を通して、仲間を知ることがどれだけ重要かを学んで欲しかったんです。入社したみんなにはそこに対して意識的でいて欲しいと思ってます。

『祇園つじりグループ / ブランディングプロジェクト』 デベロッパー 田中陽さん

やりたいことはなにか?

「求められること」「できること」「やりたいこと」のバランス

―他にも、AID-DCCでは個人でアワードに応募することを推奨していると伺いました。森本さんと田中さんは、入社して間もなく、「Yahoo! JAPAN インターネット クリエイティブアワード」で受賞されていますよね。あえて個人として出品させるのは会社としてのポリシーがあるのでしょうか?

富永勇亮さん

勇亮:まず、才能とセンスがないとここにはいられません。でもそれ以上に、さらに成長できる伸びしろが大事だと思っています。作品をつくって、個人でアワードに挑むということは、それぞれの可能性を試してもらういい機会です。

―受賞することで、個人の能力が作品を通して見えてくるから、社内でも具体的に「じゃあこういう仕事をお願いしよう」と頼みやすくなりますよね。

勇亮:そうですね。2月にあった武蔵野美術大学での就活生向けのイベントでも話ましたが、「会社から求められること(must)」と、「自分ができること(can)」。これは一致して当たり前じゃないですか。そこに「自分がやりたいこと(want)」を組み合わせてみる。この3つがひとつになっていれば一番幸せだと思います。僕らの仕事は決して楽じゃない。土日も出るときだってあるだろうし、残業もする。ただ求められることと、できることだけで回していくと、そんなにいいものができないと思うんです。だから会社の方針としては、「あなたがやりたいことは何か」を大事にしたい。作品づくりを応援するのは、そうした理由からなんです。

―でも、みんながみんな、受賞できるわけじゃないですよね……。

勇亮:はい。森本や田中のように賞が穫れたらいいけれど、もちろん穫れない場合もあります。若手には登竜門として挑戦をすすめますが、賞が獲れなかった人は本気でやった分、打ちのめされて当然です。だからある意味、社員同士といえども競争意識も生まれるわけです。

『荻野をよろしく』
AID-DCCを退社して大手広告代理店に転職する社員に贈った、2ヶ月に及ぶドッキリプロジェクト。退社まで数回に渡りドッキリを仕掛け、そのフィナーレでは本人の目の前で街頭ビジョンにサプライズ映像を放映した。公開後、多くの話題を呼んだ。

Saqoosha:みんなライバルだね(笑)。

勇亮:そう、ライバル。でも、競争しているだけでは一緒にいいものはつくれませんよね。だからこそ、やっぱり愛がなくちゃダメだと思うんです。人に対してや、いま自分が一緒にいる仲間に対して。そのためにも、結局は自分がやりたいことをできているかどうかが大事になるはずなんです。会社と自分との関係が相思相愛になっていれば、必ず乗り越えられる。「よし、次またやってやろう!」と思えるはず。

目指すべき理想像

個人と組織のバランスがいい会社でいたい

―組織として、AID-DCCのこれからのビジョンがあればお聞かせください。

勇亮:賞を穫って注目されても、いままでと変わらず、クライアントと向き合って、きちんと正しい提案をする。よりよい答えを導きだす。そこはブレずに続けたいですね。変わっていくことがあるとすれば、僕らのできることの幅、求められることの幅が広がり続けることだと思います。これからは、デバイスも変化するだろうし、WEBだけにおさまらない表現もきっと求められる。だから自分たちも進化し続けて、幅を広げていきたいですね。

富永勇亮さん、Saqooshaさん

Saqoosha:実際にここ最近、WEBだけじゃない仕事が増えています。でもそこに、僕たちができることがあるんですよ。だから今後も広がっていくでしょうね。

―ちなみにぶっちゃけたお話しですが、Saqooshaさんは、個人としても活躍されてますが、いままでフリーランスや独立することを考えたことはないんですか?

Saqoosha:居心地がとてもいいので、やめたくないですね。最近あまりぼく仕事してないんですけど、怒られないし(笑)。

森本:いっつもマインクラフト(※Minecraft:WEB上でできるサンドボックスゲーム)やってますやん(笑)。

一同:(笑)。

Saqoosha:だってフリーって面倒じゃないですか。つくること以外にいっぱいやらないといけないことがある。ここにいると、つくることに集中できるんです。

勇亮:それって大事なことですよね。独立するという選択ももちろんあっていいけど、僕らは個人と組織のバランスが取れている会社を目指しているし、すごく大事なことだと思っています。彼は昔から個人の名前で活動しているけど、むしろ会社としてはそれを推進しているし。

―「自分がやりたいこと(want)」と結びつくわけですね。

勇亮:そうですね。作品をつくることに関しては自由でありたい。それがきっとうちの振り幅になるはずだから。結局僕らの仕事って、一人じゃつくれないわけです。組織としてコミュニケーションが取れていればこそ、何かのときに誰かが助けてくれる。フリーになるよりもうちにいたほうがいいと社員から思われる、これが組織の力なんだと思います。

―なるほど。では最後に、若手のお二人から、今後の目標を聞かせて頂けますか?

勇亮Saqoosha:お、いいねぇ(笑)。

田中陽さん、森本友理さん

森本:うわ、面接だ(笑)。そうですね……、私はつくることが好きなんです。Saqooshaさんと近いかもしれませんが、出来ることならデザインだけに集中していたい。納得するものが出来上がるまではなかなかいかないけれど、自分の頭で思い描いていることを形にしたい。それをずっとやっていきたいと思っています。

―田中さんは?

田中:僕は元々デザイン会社でディレクターをやっていたんですけど、ディレクターをやるにも、自分でつくれる知識や経験がないと、いいものはできないなと思って、今はデベロッパーとして仕事をしています。だから出発が遅かった分、30歳まではアホほどモノをつくって、自分の引き出しを増やしていきたい。そして30歳を過ぎてから面白いことができたらいいなって思います。

Profile

株式会社エイド・ディーシーシー

AID-DCC Inc.は、プランニングをはじめ、デザイン、システム、映像、音楽、イベント、ゲーム、テレビなど、コミュニケーションのあらゆる可能性を見据え、常に革新的な手法、表現を探し求めている会社です。

私たちがインタラクティブクリエイティブ・プロダクションとしていつも大切にしていること、それはクリエイティビティです。一方デジタルテクノロジーが日進月歩で進む中、私たちをとりまく世界はめまぐるしく変化しています。

大阪で創業して17年。例えばカンヌ広告賞は2016年で7年連続など、国内外の栄えある賞を多数受賞してきました。デザインとテクノロジーの融合で、いつも一歩先を行って世界を驚かせる仕事がしたい。その思いを原動力として挑戦を続けています。

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