目指すは社員第一主義! ワーク・ライフ・バランスを追求する、あるデザイン会社の話。
- 2014/05/02
- FEATURE
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- 取材・文:内田伸一
- 撮影:相良博昭
「社員第一主義」のワークスタイル
代々木公園駅から徒歩数分、一階には開放感のあるセレクトショップが営まれる、いかにもこのエリアらしい建物のワンフロアがキューポイント社の拠点だ。2004年設立。コスメ、ファッション、エンタメ、教育など多彩なジャンルのデザインを手掛け、機能性の高いものから動きのあるダイナミックなサイトまでオールマイティに対応する。まずは、創設者で代表の伊藤篤信さんに同社の特徴を伺った。
伊藤:僕らはWEB制作を中心に、紙ものも含めたデザインを手掛けています。仕事柄、システム系の人材もいますが、割合でいうとデザイナーが約7割。多くの仕事は代理店さんと一緒に動いて、デザイン面でのコンサルや企画から実制作まで行っています。
好景気・不景気の波の中でも9年間、着実に成長し続け、仲間も少しずつ増えてきた。だが、がむしゃらに走り続けた設立初期を経て、伊藤さんは数年前、社員の働き方について考え直すターニングポイントを迎えた。
伊藤:今は経営指針を「社員第一主義」、つまりいちばん大事なのは社員だと考えています。福利厚生で各種手当の充実を図り、勤務時間も無駄に長くしない。社員のやりたい事や、それぞれの人生をより大切にしたいと思ったんです。こうしたことを、数年前から意識的に改善してきました。
具体的には、まず同規模の会社では類を見ない多彩な社員手当がある。住宅手当、エコ通勤手当のほか、社員の想像力・感性に資する書籍代や鑑賞代をサポートする「読書手当」「鑑賞手当」、またスクール・講習の補助制度なども。多くは月9千円(9ポイント?)だが、住宅手当のように勤続年数で金額がアップするものもある。
伊藤:変わり種としては、非喫煙者を対象にした「健康増進費」もあります。ただ、これは喫煙家に禁煙を強いるものでは全然なくて。もともと、タバコを吸うスタッフにとって喫煙スペース=休憩場になっていて、社内コミュニケーションが偏るのを解消したかったのがきっかけです。だから社外での喫煙有無までは問わないし、基本はスタッフに気持ち良く働いてもらい、結果として仕事の質も上がればというのが狙いです。
さらに、規則的で無理のない勤務時間も実行されている。現在同社では、10時出社・19時退社をベースに業務が動く。20時以降に鳴る電話には一切出ず、22時くらいまで残ると「遅くまでやっていて大変だね」という雰囲気。正直、こうした業種の会社では、なかなか見られない光景だ。
伊藤:もちろん繁忙期などは、帰りが遅くなることもあります。ただ、ダラダラと長期戦になだれ込むことを極力改善した結果、徹夜してまで頑張るというケースはかなり珍しくなりました。20時以降の電話も、誰かが出てしまったら僕が「それじゃ仕事が続いちゃうだろう?」って怒る(笑)。そういうことを地道に続けて、最近ようやく変化が実感できる形になってきたと思います。
興味深いのは、こうした働き方の工夫やアイデアが、代表のトップダウンではなく、社員の提案も含めて進んできたことだ。始めに伊藤さんから基本的な考え方と具体案数点が示された後は、年2回の「改善コンペ」における各社員からのアイデアも多数採用されてきたという。前述の電話対応時間設定も、新たに始まる「子育て手当」も、スタッフ自身からの提案が採用されたものだ。
「福利厚生」というと固い言葉だが、「居心地のよい仕事環境づくり」と考えれば、若いスタッフにも参加意識が芽生える。現スタッフの勤続年数は3年〜7年。彼ら自身が「会社を作るのは自分たち」という意識を共有することも、この試みの役割なのだろう。優秀な人材に長く働いてもらえれば、チームとして仕事の質を高く保てる、と伊藤さんは語る。
仕事漬けの日々から、よりカッコいい働き方へ
伊藤さんが現在の考え方に至る道筋は紆余曲折があり、そこがまた面白い。伊藤さんは起業に至るまで、国際的に活躍するデザインスタジオ「artless(アートレス)」への所属や、フリーランスなども経験。そのうえでの会社設立だった。
伊藤:最初はなんとなく流れで起業、という感じでした。当時はフリーでFlash制作を請け負い、それなりにお客さんもいて忙しくなって。それなら自分たちで、ということで、似た境遇のフリーランスの知人と共同で会社にしたのが出発点です。大学時代からアルバイトでこの世界に入り、会社勤め、派遣的な仕事、フリーランスと色々やってきて「そういや会社経営だけはやったことないな」っていう、どこかおちゃらけたノリもあったと思います(笑)。
とはいえ仕事は順調に広がり、スタッフも増えていった。共同設立者とはその後に袂を分かつものの、伊藤さんは同社を引き続き運営。「あまりきっちりした決まり事はつくらない」社風だったが、やがて忙しさが増すと、そのことが「今日も普通に終電まで」という悪循環の日々を生んでいく。
伊藤:徐々に社員から僕への風当たりも強くなってきたけど、当時は『いやいや、俺が一番働いているし!』みたいな変な自信もあったんです(苦笑)。ただ、知人にも『社則とか整備しないと、会社と社員、お互い不幸な関係になるよ?』と助言されたことが、考え直すきっかけにもなって。ちょうどその時期、企業経営とワーク・ライフ・バランスに関する講座があると知って、軽い気持ちで参加してみたんです。
彼がそこで知ったのは、子どもができた女性スタッフも出産・子育てを経て、ナチュラルに職場に復帰できるという実在企業の事例。そんな会社のあり方が羨ましく、カッコよくも見えたという。ここまでの取材では、順調な経歴を語りながらも「よくある話ですよ」とどこか冷めたトーンだった伊藤さん。その口から、意外なところで「カッコいい」という言葉が熱っぽく響いたのも印象的だ。
伊藤:振り返ると、それまで僕は「会社でやりたいこと」が明確にないまま経営を続けてきました。トップランナー的なクリエイター集団になって世界を変えるデザインをしなきゃ、などと思い込んでいた時期もあったけれど、その価値観はどこかしっくりこないままだった。それでも色々無理をしつつ「仕事、仕事」と走ってきた後に出会った「充実した働き方」というのは、自分でも意外なほどフィットしたし、かつ、その環境づくりを考える面白さも予感しました。
「もう少し早く自分が変われていたら、という悔しい気持ちもあります」
良い哲学を持つ会社に良い人材が集まる。そこでは、良い仕事が良い人生にもつながり得る。ごく真っ当な理想とも言えるが、自身がかつて超ハードな仕事環境にどっぷり浸ってきたからこその想いも、そこには感じられる。伊藤さんはかつて、起業数年目まではオフィスに連日泊まり込み、やがて人生のパートナーとの関係も上手くいかなくなってしまったというという苦い経験を持つ。
伊藤:会社での働き方を考え直したことと、自分のそうした私的な変化の時期は確かに重なっていて、もう少し早く自分が変われていたらという悔しい気持ちもあります。気付いてみれば、ただがむしゃらに働いていただけで、自分の中に何も残っていなかった。働いたぶん稼いだお金は残りましたけど、それも別のものを犠牲にして得た感が強かったですね。それこそ、「カッコいい」か「ダサい」かで言ったら、当時の働き方は後者だったと思います。
自らの実経験と、外の世界から受けた刺激が重なり、伊藤さんはワーク・ライフ・バランスについて関心を寄せ始める。「何かにハマると本を読み漁るタイプ」という彼は多くの関連資料を手に取り、自分たちなりの理想はどのように実現できるかを模索し始めた。それを考えるのは、今までの仕事とはまた違った楽しさがあったという。
伊藤:軽いノリで起業して、ワッと働いてワッと稼ぎが入って来る——そんなどんぶり勘定的な経営から、社員が自発的にこの会社を選んでくれる要素って何だろう? と改めて考えるようになりました。お話したような仕組みはそこから生まれていったもので、それは僕にとって、カッコいいWEBサイトをつくること以上に、面白くてクリエイティブなんじゃないかな、という気すらしてきて。
20代は時間を惜しまず必死で仕事を覚えるのもいい。30、40代では家族も大切にした別の働き方があっていい。場合によっては在宅勤務という形が、その人にも会社にもベストな場合があるかもしれない——。つまり、個々人、そして各年代によって理想の働き方も異なるということ。それはまさに、ワーク・ライフ・バランスを考える上でのテーマでもある。
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- 「19時退社で、作業効率が上がった」
「19時退社で、作業効率が上がった」
ワーク・ライフ・バランスの改善を試みて数年、キューポイントでの実際の変化はどのようなものだろう? ここで若手の男女デザイナーにも参加頂き、現場の声を聞いてみた。北島圭一さんは2007年、出南彰子さんは2008年にそれぞれ入社。現在は同社の主力デザイナーとして、常時、複数のサイト制作を手掛けている。
北島:最初はとにかくスキルを上げたいこともあり、長時間働くのも苦ではなかったですね。入社後しばらくして会社の働き方の指針が変わり、結果的に、自分の成長と組織の変化が並行して進むことになったと感じています。
出南:確かに当初は終電まで働くことも多く、気付いたら自分にとってそれが普通になっていて(苦笑)。さすがに毎日続くと疲れも出てくるけど、一方で「そういう業界なのかな」とも思っていました。
彼らが自社の「働き方の変化」を大きく実感したのは、やはり勤務時間帯の改善だという。とはいえ最初は、いきなり「19時帰宅」と言われても難しいのが現実だろう。同僚や先輩の動きも気になるし、過去の経験から「今日時間があるならアレを先にやっておこう。いつ何が起こるかわからないから……」という防衛本能も働く。しかし今ではそれもだいぶ変わり、平均して19〜20時には帰宅できるようになったという。
出南:社員の提案で、ホワイトボードを使って出退社時間をなるべく共有したり、週一回「ノー残業デー」を設定したのも効果がありましたね。仕事を早めに切り上げる習慣がつくと、心にゆとりが持てる感じがします。
北島:確かに、早く帰宅できるぶん自分でご飯をつくったり、ゆったり過ごせるようになりましたね。仕事の総量は変わらないので、以前より自分をマネジメントする意識が生まれ、結果的に作業効率が上がったと思います。また自分の時間の使い方を見つめ直すきっかけにもなりましたね。
2人とも若手といえども、勤めて6年〜7年目のベテランプレイヤー。そんな彼らのお話を伺うごとに感じられるのは、まさに「自然体」であるということ。会社に働かせられている主従の関係ではなく、それぞれがこの会社で働く意義を見出しているのだろう。それはまさに取り組みと共につくりあげてきた、「会社を作るのは自分たち」という意識の表れとも感じられる。
働きやすい環境づくりが、仕事の質を向上させる。
そんな社員の変化に対して、伊藤さんはこう話す。
伊藤:僕から見ると、まずみんなが前より穏やかな顔つきになったかな、と(笑)。経営スタイルとしては、無茶なスケジュールやボリュームの仕事はきっぱり断るよう方針変更をしました。それまで「無理を聞いてくれる」ことが営業的に大事なことだと思っていたけど、そういう形で仕事をして仕事の質が下がったり、優秀なスタッフに辞められたら意味がない。「社員第一主義」を掲げるのも、決してお客さんをないがしろにするということではなく、そこを理解して頂けるお客さんとベストな関係づくりを、という意味なんです。
北島・出南両氏には、今後トライしてみたいこと、会社に期待することも聞いてみた。
北島:実は今、「期間限定でのフリーランス体験」ができるかどうかを会社に相談しています。ここの会社で7年やってきましたが、僕はある意味まだ外の世界を知らない。今後もここで働きたいと思う一方で、フリーになって初めてわかることや、両者の違いも一度知っておけたら、今後に活かせるのではと考えてのことです。もちろん解決すべき課題もありますが、可能なら挑戦してみたい。これも定期的な面談で色々相談できるようになったのがきっかけです。
出南:私は会社に属しながらも一時留学や在宅勤務も試みるといった選択肢も含め、今とは違う環境で働くことの可能性には魅力を感じますね。
同社では他にも、実現性にこだわらず自由な発想を競う「夢コンペ」や、年に一回の「社員総選挙」でさまざまな面からスタッフを表彰するなど、ユニークな試みが多い。同時に、社員一人ひとりの活動や目標に対しても、企業としてバランスのとれる範囲で全面的に応援したいと語る。では、伊藤さん自身の目標は——。
伊藤:そろそろ自分のプライベートを充実させること、ですかね(笑)。会社については、この方向でさらにもう少しトンガリたいとも思います。今年はイギリスに留学予定のスタッフや、出産後に在宅勤務を試みるスタッフもいます。そういう行為が彼らの意志で、この場から生まれてきたことが嬉しいです。
「ひとりで3人分働くより、みんなでがんばったほうが業績もよくなるのがわかってきた」と笑う伊藤さんだが、経営者とスタッフの関係については「和気あいあい」というより、対等でドライな関係でいいとも語る。目指すのはあくまで優秀なものづくり集団が活き活きと働ける器づくり。キューポイントのワーク・ライフ・バランスの追求はこれからも続いていく。
Profile
2004年の設立から12年。当初2人のフリーランスから始まった9pointは、長く腰を据えて活躍してくれるスタッフを募集します。
クオリティを求められるエンターテイメント性の高いサイトや、数々の有名サイトなど、案件の幅は多岐に渡ります。ここで過ごす毎日は、求められているものを的確に仕上げるデザイナーとしてのセンスと技量、限られた納期のなかで最善を尽くすことができるスキルなど、より一層磨けるはずです。
信頼関係が強く自由度が高い。自然体でいられるからこそ発揮できる創造性が、クリエイターとしての成長に繋がっていく。私たちはモノ作りをする環境をそのように考えています。
『会社』は、自分たちが多くの時間を過ごす場です。仕事をしている時間も、自分の大切な時間の一部。だからこそ、その環境は自分たちでつくる。快適に過ごせるよう、誕生日手当・記念日休暇・スクール講習補助など、現在15以上の福利厚生があります。より心地よい仕事場になるように、次はアナタの想いも加えてください。