Interview 私としごと

今、公開する意味がある作品をやっていく

有限会社アップリンク
露無 栄(宣伝プロデューサー)

映画の配給のみならず、劇場・カフェの運営、イベントの企画など、映画を中心にさまざまな業務を手がけるアップリンク。映画好きならば、社会問題をテーマとした骨太なその作品群のどれかに触れていることだろう。同社で配給・宣伝の仕事をする露無さんは、のんびりとした初秋の公園が似合う、柔らかい雰囲気の人物だ。しかし、その裏側には映画業界に関わる者として、まっすぐに芯の通った女性としての内面が見え隠れする。そんな彼女の“働き”について伺った。

プロフィール

露無 栄

1978年、愛知県出身。学生時代からタワーレコードでバイヤーとして活躍。2004年からアップリンクに入社し、宣伝・配給などの業務に携わる。これまで携わった作品に『パラダイス・ナウ』『100000年後の安全』など。

映画のテーマと社会状況のタイミングが重要

—これまでに携わった中で、いちばん印象深い作品は何でしょうか?

露無 栄

露無:何本かあるんですが、パレスチナで自爆テロに行く若者を描いた作品『パラダイス・ナウ』(2007年日本公開)は印象深かったです。アップリンクではグローバリゼーションに対してアンチを唱えるドキュメンタリー作品を数多く上映していますが、『パラダイス・ナウ』は、パレスチナの人々の心の裏にある感情を描いたフィクション。劇映画だからこそ、ドキュメンタリーよりも多くのものが伝えられる力があることを痛感した作品でしたね。

—『パラダイス・ナウ』は公開当時、映画ファンからの評判がとてもよかった作品でした。

露無:でも、宣伝はあまりうまくいかなかったんです……。この作品は、パレスチナとイスラエルの微妙な問題を扱っているので、いくつかの媒体から「掲載は難しい」と言われたり。いわゆるメディアの自主規制ですね。もちろん、真摯に受け止めてくれたメディアも多くあったんですが……。自主規制の問題は、原発の問題を取り扱った『100,000年後の安全』の公開時にも遭遇しました。

—『100,000年後の安全』は、昨年、原発事故が起こった直後の4月に「緊急公開」と銘打って上映されましたね。

露無:はじめは2011年の秋か冬に公開予定だったのを、事故を受けて急遽4月に前倒ししたんです。いざ公開してみると、連日観客が押し寄せるような状態だったのですが、広まったのはTwitterなどの口コミが中心。メディアには事前の取材ではなく、事後に「ヒットしている」という現象として取り上げられる場合が多かったです。 

—逆に宣伝的に大成功という例はありますか?

露無:正直、宣伝によって「成功した」という実感はあまり得られないんです。新聞各紙をはじめ、多くの媒体に取り上げられても、集客に結びつかない場合もありますし、『100,000年後の安全』のように、ほとんど露出していなくても大ヒットすることもあります。宣伝だけでなく、映画のテーマと社会状況とのタイミングは重要ですね。それはドキュメンタリーにおいては痛感しています。その意味では『100,000年後の安全』をはじめ、フェアトレードの問題を扱った『おいしいコーヒーの真実』や、現在上映している遺伝子組み換え農産物をテーマにした『モンサントの不自然な食べもの』は世の中とのタイミングがばっちりと合った作品ですね。

好きなことだからこそ続けられる

—観客には映画をどういう風に味わってほしい、という思いもあるんですか?

露無:それは受け手側の自由なので、作品を観てもらったらどのように感じていただいても構わないと思っています。ただ、どの作品にも共通して感じてほしいのは、自分以外の世界には様々なことが起こっていて、いろいろな人がいろいろな立場や考え方があるっていうこと。例えば『パラダイス・ナウ』も、対岸の火事としてではなく、同じ人間が、パレスチナの地ではどう思っててどう動くのかが描かれていた素晴らしい作品でした。そんな映画をきっかけに、他者のことをもっと想像することで、何かより良い影響を与えることができればいいですね。

—そんな露無さんが思う映画の魅力とはなんでしょうか?

露無:映画は、いろいろなものが見えるし聞こえるし、いろいろなことができる。もちろん何にも見ないで想像したほうがもっと自由という側面はあるだろうけど、映画は、見て聞いていろんな情報があって、ひとつの芸術として世界を作るのに一番表現のしようがあるものだと思います。もちろんその映画を作るのって大変なことですけど、人に想像力というものを与えるためにはこれ以上無い、総合芸術だと思います。

—なるほど。そのような良い影響を与える作品を送り出していきたいと。

露無 栄

露無:これは経営者ではないから言えることなのかもしれませんが、もちろんヒットを目指すことは前提として一番重要なのかもしれません。だけどそれ以上に、今ここで公開することに意味のある作品を、私はやっていきたい。だからこそ、タイミングが重要だったりするんですけど、もしそれがズレたとしても、あとあと気づいてもらって、見た人がなにかを考えるきっかけになったらいいなと思っています。そんな作品を送り出していきたいですね。やっぱり、良い映画を配給しているという自負はあるので、ドキュメンタリーでも劇映画でも、今、日本で公開することに意味のある作品を、怯まずに手がけていきたいと思います。

—1つ1つの作品に掛ける思いがあるんですね。

露無:結局私、いままでにタワレコと今の仕事以外は全く続かなかったんですよ(笑)。やりたくないことは絶対やってこなかったし、これからも興味の無いことはやりたいとは思わないでしょうね。もしかしたらそれだけは、自分に正直なのかも。今の仕事も続いているのは、どんなに辛いことがあっても本当に心の底から嫌なことが無かった。そしてそれ以上に、この仕事に携わることから生まれる喜びの方が勝っているのかもしれませんね。

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露無 栄
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