Interview 私としごと

「出会わせたもん勝ち」という編集スタイル

株式会社角川メディアハウス
下田 桃子(映画事業部 映画事業課)

26歳になる下田桃子さんは、株式会社角川メディアハウスにて映画関連の雑誌や書籍の編集者として仕事をしている。早くから文学や映画の世界に親しみはじめ、早稲田大学在学中には「早稲田文学」の編集に携わり、プロの作家やデザイナーとともに誌面を作り上げてきた経歴の持ち主だ。一流クリエイターや編集者たちから色濃く影響を受けながら、あくまでも自分の心に正直に歩んできた「編集」道とは? 身のうちから情熱が溢れ出す、下田さんの仕事観をお伺いした。

プロフィール

下田 桃子

1986年、東京都出身。早稲田大学第一文学部文芸専修に入学後、「早稲田文学」編集部に在籍。卒業後、株式会社角川メディアハウスに入社し、映画事業部に編集者として配属。現在は、おもに「シアターカルチャーマガジンT.[ティー.]」、フリーペーパー「TOHOシネマズマガジン」をはじめ、映画関連の書籍、小冊子などの編集業務を行っている。

インタビュー・テキスト:小林宏彰 撮影:すがわらよしみ(2012/12/7)

どこにでも「編集」はある

―下田さんは映画雑誌の編集に携わっていますが、小さな頃から映画が好きだったんですか?

下田 桃子

下田:いえ、特にそういうわけでもないです。映画は大学に進学してから本格的に観始めた感じですね。もともと小説が好きで、金井美恵子さんに夢中になり、「早稲田文学」という大学発の文芸誌の編集部に入ってから、中原昌也さん、青山真治さん……といった方とお話する機会もあり、もうどんどん映画の世界にハマって。

—突然ディープな方へと(笑)。

下田:そうですね。あとは「早稲田松竹」という名画座が、学校の近くにあったのも大きかったです。入退場が自由な映画館なので、朝にまず早稲田松竹へ映画を観に行き、そのあと授業に出て、早稲田文学の編集部で仕事をし、また早稲田松竹に戻ったりしていました(笑)。

―なるほど(笑)。ちなみにその「早稲田文学」の編集に関わるようになったきっかけは何だったのでしょうか?

下田:大学2年生のときに、編集長の市川真人さんの授業を取っていて、「この先生についていってみよう」と思ったのがきっかけですね。あとはやっぱり学ぶべきことが本当に多かったので、編集長のことを心の底から「一生の師匠だわ」って思えたことも大きいです。

―早稲田文学では、主にどんなことを?

下田:私の学年には全部で5人のスタッフがいたのですが、作家さんから届いた原稿を読み、InDesignに流し込んでゲラ(校正紙)を作ることが中心でした。いま思えば、企画面にもタッチしてたら良かったんでしょうけど、原稿を読むことや作家と会うこと自体が面白くて、そんな発想がなかったですね。あとは、誌面に載せる自社広告とか、販売時のPOPやチラシなど、デザイン的な作業を行うこともありました。

―大学在学中から、すでに雑誌づくりをされていたんですね。

下田:とても刺激的な環境で、編集部で出会ったデザイナーさんからも大きな影響を受けましたね。編集部に入る前まではブックデザインにあまり注意を払ったことがなかったのですが、そのデザイナーさんは、タイポグラフィにとても思い入れのある方だったんです。

―雑誌づくりの中で、色々と視野が広がっていったと。

下田:そうですね。関わらせて頂くうちに気がついたのが、コンテンツを面白く見せようと工夫をすることが「編集」という作業だとしたら、「デザイナーも編集者なんだ」ということでした。編集者という立場以外でも、「編集」するという目線は必要なんだと気がついてから、私は、肩書きうんぬんというよりも「何かを編集する人」になりたいなって思い始めたんです。

「異質なもの」に出会わせたい

―文章を書けばそれでおしまい、ではなく、見せ方や、届け方が大事だと。

下田:そうなんです。フリーペーパーの「WB」という媒体も編集していたのですが、こちらは文学や哲学、思想を扱っていながら、変わったフォントを用いたり、エログロな写真を掲載したりしてました(笑)。「WB」には、さまざまな業界の執筆者をお迎えすることによって「ごった煮」感と風通しのよさがありましたね。文芸に興味がある人だけではなく、いろいろな読者さんを雑誌と出会わせるためのフックを作ること。それも大事な「編集」だと知りました。

―そういった考えで就職活動を進めるうち、今の会社に巡り会ったのでしょうか。

下田:あまり就職活動はしていなかったのですが、大学4年生のある日、たまたまホームページで編集者を募集しているのを発見しまして。新卒とも中途とも書かれておらず、ただ「経験者優遇」とあったので、早稲田文学で編集を一応経験しているし……と思って、履歴書を送ったんですよ。すると、グループ面接に呼ばれて行ったら、明らかに中途採用の募集で(笑)。私だけおかしいぞ? みたいな(笑)。結局、在学中にアルバイトからスタートする形でもぐり込ませてもらい、卒業後しばらくして社員になったという流れです。

—イレギュラーな入り方だと思いますが、入社を決意された理由はなんだったのでしょうか?
 
下田:実は他社からも内定をもらっていたんですけれども、内定者が集まる飲み会に伺ったら、自分と似たような趣味嗜好の男女ばかりで、ちょっと怖いなぁと思ってしまって(笑)。好きなものが同じ、というのは悪いことではないと思いますが、必ずしも仕事として「目指す方向が同じ」ということではないと思うんですよ。

—といいますと?

下田 桃子

下田:結局は学生の延長線上でしか想像ができなくて。その一方で、角川メディアハウスが取り扱っている媒体は、映画の配給・宣伝会社による、劇場でのパブリシティの一貫でもあって、映画館をもっと盛り上げていこうという目的があるんです。編集というより宣伝の仕事に近いような気もするんですが、そのほうが自分が希望する「出会いのフック」をたくさん作りたい、という思いを遂げられるだろうと思ったんですね。

—では、現在関わっている媒体について、詳しく教えて頂けますか?

下田:定期刊行物としては、年4回刊の「シアターカルチャーマガジンT.[ティー.]」と、月刊のフリーペーパー「TOHOシネマズマガジン」の編集作業をおもに担当しています。どちらも「TOHOシネマズ」の劇場で販売、配布している紙媒体です。「TOHOシネマズマガジン」のほうは配給や宣伝の方とも打ち合わせをして、取り上げる作品の魅力をうまく汲み取り、読者さんに伝わるように構成しています。

—書面づくりにおいて、何か気にかけていることはありますか?

下田:「シネマズマガジン」は、情報誌として旬であることを心がけながら、編集的な視点は入れるようにしていますね。一方の「T.[ティー.]」は、編集部で会議をして、表紙は誰にするのか、どういった特集にするかをみんなで話し合って、ライター、カメラマンなどを決定し、制作をしていきます。

—「T.[ティー.]」のほうが、比較的自由度が高い媒体なんですね。

下田:TOHOシネマズさんとの共同発行の“劇場発信型カルチャー誌”というスタイルなので、足を運んでくださる映画ファンに届くよう意識しています。固定ファンの多いコンテンツを扱いながら、少し尖った映画を扱ったり、できるだけ「異質なもの」に出会わせようとしていますね。それは私にとって、「早稲田文学」を編集していたときに実践していたこととも共通する気がしますね。もっとも、日々バランスに悩みながらですが……(笑)。

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