Interview 私としごと

テレビ業界から編集者へ。泥くさく楽しむのが、コツ

株式会社幻冬舎
杉田 千種(編集本部第三編集局 編集者)

テレビ局勤務と言えば、誰もがうらやむ職業のひとつ。華やかなイメージがあり、社会的知名度も抜群だ。しかし杉田さんはテレビの現場で着実にキャリアを積みながらも、未経験である出版業界に転職。右も左も分からない世界に飛び込んで丸3年。憧れだった出版社での日々と、彼女の将来像から見えてきた、杉田さんの編集者としての芯とは?

プロフィール

杉田 千種

1983年東京都生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、新卒でテレビ東京に入社。制作局に配属され多数のバラエティ番組制作に携わる。2008年9月に幻冬舎に転職。現在は文芸作品の他、芸人本、写真集などを担当している。

インタビュー・テキスト:田島太陽 撮影:横田大(2011/11/2)

私、周りの人ほど、仕事が好きじゃない

—学生のころから出版社を志望していたんですか?

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杉田:小さいころから読書が大好きでした。本だけはいくらでも買ってくれる家で、他に趣味のない子供だったんですね。だから、ずっと紙媒体に関わる仕事に就きたいとは思っていたんですけど、就活で応募した出版社はすべて不採用で、内定をいただけたのがテレビ東京とNHKだけ。私には出版の才能がなくて、テレビのほうに適性があるのかなって思いました。それで、自分がやりたいことにこだわりすぎて、せっかくいただいたチャンスを逃してしまうのはもったいないので、思い切ってテレビ東京に入社しました。

―テレビ局で働いてみていかがでしたか?

杉田:帰れないことは当たり前で、大変なことも多かったけど、すごく楽しかった。先輩たちとはいつも一緒にいるので、家族みたいに仲良くなれたり。今でも悩みがあれば聞いてもらうこともありますよ。

―そんな楽しい環境だったのに、何で転職しようと思ったんですか?

杉田:私は周りの人たちほど、テレビの仕事が好きじゃないって気づいちゃったんです。当時バラエティ番組を多く担当していたんですが、私そこまで真剣にバラエティを見ていなかったし(笑)、先輩たちほどの情熱を注げてないんじゃないかと思ったら、だんだん一緒に働くことを申し訳なく感じるようになってしまって。だったら思い切って、必死で番組制作に関わる先輩たちへの誠意としても、本当に自分がやりたいことを突き詰めたほうがいいんじゃないかと思ったんです。それで求人を調べて、最初に見つけたのが幻冬舎だったので、すぐに応募しました。辞めたら迷惑かけてしまうことはわかっていたけど、「やりたいことがある」と相談したら、テレ東の先輩はみんな応援してくれました。

原動力は、仕事に対する渇望感

—それで見事、入社されたわけですね。憧れだった出版業界に入ってみた感想はいかがです?

杉田:入社した翌週から企画を出さないといけなかったのが、まず驚きました。私は未経験だったし、何をしたらいいのかまったく分からなかった。とにかく毎日書店に通って平積みされている本を研究したり、先輩に企画書を見せてもらったりして考えました。でも、何回出しても通らない。そのころは前の会社よりもずっと精神的に辛かったですね、「私、出遅れてるんだな」って実感して。

—またテレビ局に戻りたいとは思わなかったですか?

杉田:それは思わなかったです。ずっとやりたかった出版業界に新卒で入れなかったという過去がある分、この仕事に対する渇望がすごくあった。快く送り出してくれた先輩たちのためにも、この程度で挫けたら申し訳ないし、ダメでも落ち込まなかった。そういう精神的な強さは、自分の良さなのかなと思ってます。それに、幻冬舎では企画さえ通せれば、文芸でも実用書でも写真集でもつくれるんです。今はいろいろ経験する時期だと思うので、その環境が、仕事が、すごく楽しい。それは胸を張って言えますね。

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—初めて自分が企画した本が発売された時はどんな気持ちでしたか?

杉田:もちろんうれしかったけど、発売されただけでは、まだ不安でした。もし売れなかったら大変なことになることを知っているので(笑)。本当の嬉しさは、読者さんの感想を目にした時や重版が決まった時に、初めてわいてくるんですね。だから最初はとにかく、どうやって宣伝すればいいのか、本当に売れるのか、という心配事ばかりで、ずっと不安でしたね。

—最近のおもなお仕事を教えてください。

杉田:文庫が2冊と単行本3冊、写真集一冊が進行中です。また、雨上がり決死隊さん、フットボールアワーさん、ピースさん、麒麟・川島さんにインタビューをしたものをまとめた『K 男の流儀』が最近刊行になりました。雑誌『papyrus』では姫野カオルコ先生、永瀬隼介先生の原稿を担当しています。

—3年目にして、著名な作家さんも担当しているんですね。

杉田:そこが幻冬舎のいいところなんだと思います。実力主義で、よく言えば自由だけどわるく言えば放任というか(笑)。たとえば今文庫のほうで担当させていただいてる森村誠一先生も、他社さんでは40代~50代の方が多いんですが、新人の私がやらせてもらえるのは、うちならではですね。ベテランの作家さんに私ができることなんて何もないと思ってしまうこともあるんですが、少なくとも自分が感じたことは正直にお伝えするようにしています。

目の前にある作品を大事に、そこは正直に

—入社して、本の見方は変わりましたか?

杉田:買い方も選び方も、やっぱり仕事モードになっちゃって、編集目線で構成や装丁をチェックするようになりました。良かったのは、今まで読まなかったジャンルも読むようになったこと。実用書とかは買ったこともなかったんですけど、おもしろいなって。
 
—企画はどのように考えていますか?

杉田:仕事とプライベートに垣根を持たないようにしています。たとえば仲のいい友達を題材として本をつくるならどんな企画がいいかなとか、自分が好きなことや興味のあることを本にできないかなとか。毎日本屋に行くことと、知らない人にもどんどん会ってみることも心がけています。

—将来はどんな編集者になりたいですか?

杉田:それはすごく悩んでいます。いろんな本に関わらせてもらって、本の種類によって必要な能力が違うんだなと気づいたんです。たとえば文芸と写真集では、頭の使い方がまったく違うんですよね。文芸作品を作るときには、目の前の作品、そのテキストや構成と向き合い、深く掘り下げていく力と根気がもっとも求められると思うんですが、一方タレントさんの写真集や雑誌をつくるときには、スタッフィングやスケジュール調整といった、様々な必要事項にひろく目配りをできる力とスピードが優先的に求められると思うんです。すごくざっくりした言い方をすると、文芸にはタテの思考が得意でマラソンを走るようなセンスがある人が有利で、写真集や雑誌にはヨコの思考が得意で短距離を走るようなセンスを持つ人が有利だという気がしています。

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ただ、今はまだ、どれかひとつを選ぶ時期ではないと思っているんですけど、目の前の作品をいちばん大事にできる人になりたい、とはずっと思っていて。ともすると、作家さんやタレントさんに好かれようとか考えてしまいがちなんですが、どんな方が相手でも、作品に正直でいられる人になりたいですね。

—近い将来の目標はありますか?

杉田:1年以内に10万部売れる本をつくりたいです。入社4年目なのに高望みし過ぎかもしれないけど(笑)。でもせっかくこの業界に入れたんだから、やりたいと思ったことは全部チャレンジしてみたいんです。

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杉田 千種
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ファッション業界の、とくにハイファッションの第一線のクリエイターは、煌びやかなイメージがあると思うんですけど、本当はみなさん、とても苦労しながら作品をつくっているんです。尊敬していた人たちが泥くさくがんばっているシーンを見ると、すごく勇気づけらます。一線で活躍しているクリエイターでも悩むんだから、私なんてまだまだだな、って痛感しますね。

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