Column 連載

好きなことにこそ、愚直であれ!

第5回:嫌いなものを好きにさせてくれる仕事。

寺坂 直毅(放送作家)

放送作家として知られる寺坂直毅さんは、デパート、紅白歌合戦、徹子の部屋など、とてもピンポイントなコトに膨大な知識を持つ、その分野の“博士”。いわゆる“マニア”だ。寺坂さんによるコラムも、今回で最終回。最後は、寺坂さんのメインの顔である「放送作家」の仕事について。放送作家として、多くの現場を乗り越えてきた寺坂さんが考える仕事論に迫る!

プロフィール

寺坂 直毅
寺坂 直毅

1980年宮崎生まれ。 放送作家として、テレビ、ラジオ番組の構成を担当。 家から徒歩圏内にデパートが何軒も乱立する環境で幼少期を過ごし、 魅力に憑りつかれたために日本全国のデパートを行脚した 「胸騒ぎのデパート」(東京書籍)を刊行。 紅白歌合戦、黒柳徹子研究などの趣味を持つ。

知らぬ間に猫アレルギーを克服!

先日は「猫」の特番をやりました。スタジオで猫を放し飼いにし、トークをするという番組で、ナレーションも猫っぽく、猫まみれな空気感にあふれていました。
しかし、私は大の猫アレルギーです。猫が嫌いなのです。鳴き声を聞くだけで鳥肌が立ちますし、道端に猫がいると遠ざけて歩いています。

そんな猫の特番だという事で怯えていたのですが、収録になると、とにかく猫を愛そうという気になり、結果、物凄く猫が好きになりました。

目の前を猫が飛び跳ねようが、指を舐めようが全く平気で、なにより猫がかわいくて仕方ありませんでした。

得意不得意言ってられないというスイッチが入ったからなのか、なぜでしょう。とにかく、それぞれの趣味や造詣を、多くの人に広めるのがこの仕事なので、猫が平気になったのです。

この仕事は、嫌いだからやりたくない! と言ってしまってはNGなのかもしれません。苦手なものを好きになるほど研究するのが楽しいのです。

テレビやラジオをつくる醍醐味

以前も「高校野球」を特集する仕事がありました。お察しかもしれませんが、私は大の運動音痴。体育の成績は常に1。ボールを投げても2mしか距離が飛びません。そして野球のルールもよくわかっていません。そんな私に「高校野球」のネタをやれというのです。

しかし、私がやるからには、興味ない人、関心が薄い人に高校野球の面白さを伝えられる可能性があるとも思いました。自分で朝日新聞と高野連に取材を交渉し、甲子園の夏の高校野球の取材の許可をもらいました。これはなかなか許可が下りず、今までで一番大変な交渉でした。結果、電話で土下座しそうな勢いで、泣きそうな声を出して許可をもらいました。

その後、ディレクターやプロデューサーと相談し、「高校野球の応援」という観点から取材しました。そこで知ったのですが、様々な応援歌が高校野球には存在するのです。

「チャンス法政」「ファンファーレ(天理高校オリジナル)」「アメリカン・シンフォニー」など、定番の応援歌を、全国の高校野球の応援で使用している事を知りました。そういうCDを前もって聴いたり、甲子園に関する書籍を読んで、収録に挑むのです。  

そして取材当日。35度もいくかという炎天下の中、夏の高校野球を取材するのは僕にとって大変憂鬱でしたが、実際に甲子園に行き、応援歌を声を枯らせながら歌う生徒、負けた高校球児が涙を流している姿を見ると、自然に私も涙を流していました。

まさかこんなに感動するとは……。

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どんなジャンルでも実際に詳しく調べ、取材をすると、本当に好きになってしまします。いろいろ辛くても吹き飛びます。

それがテレビやラジオを作る仕事の醍醐味なのかもしれません。

そんな私は今、「牡蠣」の特集のネタを考えています。実は私は2014年2月、牡蠣にあたり、ノロウィルスにかかりました。3日間出るものは上から下から全て出て、それはもう地獄でした。それまで牡蠣は一番の大好物でした。しかし大好きな牡蠣が、毒になったのです。

それ以降、1年間牡蠣を封印していましたが、この企画の担当を命じられ、ひと月前から徐々に生牡蠣を食するようにしています。とにかく牡蠣に裏切らた私が、再び牡蠣が大好物になるほどの絶品を紹介する特集にしたい、それが今の私の任務です。

とにかく苦手なものほどやりたい、そしたら何か道が出来る。今わたしが一番強く思う事なのです。

 

ということで、5回続いた私のコラムですが、読んで下さりありがとうございました。

正直なところ、取材をしたり、何気なく経験した事を文章にするのは慣れています。
しかし、自分自身について書くことは初めてです。

私なんぞ、何も出来ていない人間だという事を痛切に感じ、ブルーになっていました。自分の経験など、読んで下さる方にとって意味がないのではと、常に疑問に陥りました。

しかし、そういう中でも、自分の趣味や嗜好を堂々と宣言していれば、
自ずと、その価値観を分かち合える人物にめぐり逢えるという事は、事実です。

それがこの仕事、今の人生の最大の喜びだと思います。
そういう日々を過ごすために、この仕事をしているのではないかと思います。

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