Column 連載

交渉を制する者は、ビジネスを制する!

第3回:世界の舞台で生き残るための作法

株式会社KS International Strategies
島田 久仁彦(代表取締役社長)

“国際ネゴシエーター”の肩書きを持つ島田久仁彦氏は、国際紛争、環境問題、安全保障問題など、世界のあらゆる現場や会議で“交渉”を武器に闘ってきました。今回は、世界の舞台で戦うことを試みるクリエイターへ。文化も言語も違う先でどのようにサバイブしていくべきか? 島田流3つのポイントをご紹介します。

プロフィール

島田 久仁彦
島田 久仁彦

1975年大阪府生まれ。国際ネゴシエーター。(株)KS International Strategies CEO、環境省参与。2000年米アマースト大学卒。2002年ジョンズ・ホプキンズ大学大学院国際学修士(紛争解決・国際経済学)。 1998年より国連紛争調停官として紛争調停に携わる。2005〜10年まで環境省国際調整官として日本政府代表団で環境交渉における首席交渉官や議題別議長を歴任。 2011年以降は、国内外、官民問わず交渉・調停のアドバイザーを務めるほか、環境・エネルギー問題や安全保障問題からみた国際情勢の解説にあたる。2012年世界経済フォーラム(WEF)ヤンググローバルリーダー(YGL)に選出。 著者に『最強交渉人のNOを必ずYESに変える技術』(かんき出版)、『交渉プロフェッショナル:国際調停の修羅場から』(NHK出版)など。

起業するための条件が大いに緩和され、またITを用いたビジネス・スタートアップが成功を収める中、最近では、税制上の優遇措置も理由の一つにあるかとは思いますが、アジアへのビジネス展開を視野に、本社をシンガポールなどに移す企業も多くなってきました。

また、ミャンマーといった新興国の発展も著しく、本社を日本国外に移さないまでも、ミャンマーやインドネシア、マレーシアなどアジア市場への進出を行うベンチャー企業も増えています。

そこに拍車をかけているのが、アジアマーケットからの日本のクリエイティブ業界への熱い視線です。アニメはもちろん、音楽や映像、そして非常に精巧なデザインなど、日本のクリエイティブにはアジアのみならず世界から非常に注目を集めています。

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「今こそ、自分のクリエイティビティを活かして、世界に!」と意気込まれる方もいらっしゃるかと思いますが、同時に言葉も文化も違い、商慣習や法律なども異なる「異国の市場」に切り込んでいくのにためらわれることもあるかと思います。私からすると、「悩んでいる時間があれば、思い切って飛び出してみましょう!」と言いたいところですが、もうひと押し、背中を押すきっかけがほしい! という皆さんのために、私の経験上の「海外進出のコツ」をお話しでできればと思います。これまでのコラムで書いてきた「交渉」とは少し趣向を変えて、「心得」のようなものになりますが、大まかにまとめると以下の3点になります。

■海外でビジネス展開するうえで大切なこと
■言葉や文化的背景が違う中で、人とのやり取りで気を付けたいこと
■トラブルが発生した時の対処法


1. 海外でビジネスをするうえで大切なこと

とにかく相手を知る!

国際舞台で活躍する、そして海外に進出するにあたり、最初に大事なことは、ごく当たり前に聞こえるかもしれませんが、「とにかく相手(相手の国)のことを知ること」に努めるということです。

どのような国民性があり、何を尊び、何をタブーとするか。そしてどのような言葉を話し、宗教的なバックグラウンドは何で、気候はどのような感じで、どのような服装(ファッション)が「良し」とされるのか。こういった情報をまず事前に知っておく必要があります。

場所によっては、その国のタブーを知らず知らずのうちに冒してしまうことで、下手すると命の危険に晒されることもありますが、これらの「必要最低限の情報」のほとんどは、今ではインターネットでも調べることが出来ます。その上で、「どういったことが今、ニーズとしてあるのか?」、「どのようなデザインが好まれるか」など、クリエイターとしての経験と感性を以て分析することが、まず大切です。

相手の文化を尊重する!

その上で、私が本当にお勧めしたいのは、ご自分が関心を持たれている土地を実際に訪れ、肌で、五感で感じ、学んでいただきたいということです。

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このご時世、ほとんどの情報はインターネットベースでも調べられますが、やはりご自分で感じられるものには敵いません。私も紛争調停官時代に、最近まで国連事務総長特別代表をされていたブラヒミ氏からよく「休暇でもなんでもいい。ある国に行ったら、いつかこの国の人たちと交渉をすることもあるかもしれないと思って、いろんなことを感じ、見聞きし、自分なりの判断軸を作っておきなさい」と言われていました。

結果、それを実践したおかげで、私自身が交渉や調停を行う際の判断基準を自分なりに持てた気がします。これまでに150か国を超える国々を訪ね、仕事をしていますが、今でもこの教えは守っています。「百聞は一見に如かず」、やはりこれに尽きます。

あいさつくらいは現地の言葉で!

また、私がとても大事なことだと考えるのは、相手の言葉を、本当に片言でも、あいさつ程度でも良いので覚えておくことです。実際の交渉や商談は英語などで行う、もしくは通訳を入れても、あいさつや「ありがとう」程度は現地語でされると一気に場が和みますし、相手に対し「私はあなたやあなたの文化に関心があります」というポジティブなメッセージを送ることができます(これも実証済みです)。

実際にコソボに赴いた際にも、会議の冒頭のあいさつで、調停の相手側に対してSerbo-Croatian(セルビア/クロアチア語)で挨拶をすると、「お前、どこで覚えたんだ?」と、非常に張りつめた空気が一気に和み、その後の話し合いもポジティブな雰囲気のまま進めることが出来ました(また、後日、そういう評価をいただきました)。

また、東ティモールやアンゴラ、スリランカ、そしてイラクといった場でも同じ試みを通じてアプローチをしました。総じて言われたことは、「クニ(私です)は、自分たちの文化を尊重してくれる」というイメージを与え続けたとのことです。交渉や調停においては、お互いの信頼は不可欠な要素ですので、話し合いの入り口で相手の心をつかむコツは試されるといいかと思います。

つまり「相手のことを知る」というスタンスを徹底しておくと、実際にビジネスや商談で海外に赴かれる際にも、また活動拠点の移動の際にも、割にスムーズに入っていくことができると思います。

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2.言葉や文化的背景が違う中で、人とのやり取りで気を付けるべきこと

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