Column 連載

会社員をアップデートしよう

「会社はバンド、個を高めながらチームとして結果を出すための最高の環境」NewsPicksインフォグラフィックス・エディター・櫻田潤

江口晋太朗(編集者)

企業に所属していながら、一人ひとりが意思と能力を持って行動する、これまでの会社員のイメージとは違った、新たな会社員としてのあり方を考えてみませんか? 起業すること、独立すること、会社員として働くこと。それぞれの良さを見つめ直しながら、多様な会社員のあり方を見出し「会社と個人の幸せな関係」と向き合うための連載企画です。

プロフィール

江口晋太朗
江口晋太朗

編集者、ジャーナリスト。1984年生。福岡県出身。TOKYObeta Ltd.代表取締役。メディア、ジャーナリズム、情報社会の未来、ソーシャルイノベーション、参加型市民社会などをテーマに企画プロデュース、リサーチ、執筆活動などを行う。「マチノコト」共同編集、NPO法人マチノコト理事、アートプロジェクトを推進するNPO法人インビジブル理事、インディーズ作家支援のNPO法人日本独立作家同盟理事などを務める。Open Knowledge Japan、Code for Japanメンバーとしても活動。著書に『日本のシビックエコノミー』(フィルムアート社)『ICTことば辞典』(三省堂)『パブリックシフトネット選挙から始まる「私たち」の政治』(ミニッツブック)ほか。

インフォグラフィックスの第一人者のこれまで

日本におけるインフォグラフィックスの第一人者として、ブログサイト「Visual Thinking」で国内外のインフォグラフィックスの情報を発信している櫻田潤さん。グラフィックの力とストーリーテリングで、さまざまな情報を分かりやすく伝えています。『たのしいインフォグラフィック入門』など、数々の書籍の執筆や講演を行いながら、現在経済情報に特化したソーシャル経済ニュース「NewsPicks」でインフォグラフィックス・エディターとしても活躍しています。「自分が没頭できるものを探したらいまのスタイルにたどり着いた」と話す櫻田さん。これまでのキャリアの経歴や、会社員が個人ワークをすることの意味について話を伺ってみました。

会社と個人ワークを同時並行させて作ったきっかけ

江口:新卒時代のこと、お伺いしてもいいですか?

櫻田:大学では経営学を専攻していました。2000年頃の就職氷河期のなかでIT企業のSEとして就職しました。技術を軸に作り手になりたいと思っていたんですが、当時はパッケージ化された社内基幹システムの整備がほとんどで、自分が関われる余地が少なかったので独学でWEBデザインを勉強していました。

その後デザイン会社へ転職するまでの合間にWEBデザインの仕事を請けていたものの、自分の作りたいデザインイメージの方が強かったんです。クライアントに合わせて制作物を作ることができず、デザイナーは向いていないと悟りました(笑)。せっかくデザインを仕事にと思って入った会社もすぐに辞めてしまいました。そこで前職でWEBマスターの仕事に就いたときには、仕事とは切り離して趣味でサイトを作ろうと考えました。

これまでにも、技術系のブログを開設しては続かず辞めてきたなか、新しく始めるサイトはビジネス書を読んだ備忘録にしようと考えました。なにかグラフィックを軸にまとめていこうと「visualthinking.jp」のドメインを取得し、ビジネスとデザインをテーマにスタートさせたのがいまの原点です。

江口:当初は、海外のインフォグラフィックスなどを紹介していましたよね。

NewsPicksインフォグラフィックス・エディター / 櫻田潤さん

NewsPicksインフォグラフィックス・エディター / 櫻田潤さん

櫻田:初めは、自身の勉強のために海外のニュースサイトをチェックして話題になったグラフィックを紹介したり、『ドラッカー図解』をやったり、読書会やイベントを企画したりしました。

江口:自身でもグラフィックを描くようになったきっかけはなんですか?

櫻田:映画『ソーシャルネットワーク』の人物相関図を描いてみたら案外できると思い、自分なりにいろんな手法や技法を試しながらグラフィックを勉強してきました。そこからインフォグラフィックスの面白さに夢中になりました。

インフォグラフィックスは、いままで自分が培ってきたプログラミングやデザイン、ビジネスの知識や考えがモジュール的に組み合わさって一つの物語としてまとめる新しい感覚があったんです。一つひとつのスキルで100点は取れないけど、それらをうまくミックスさせることで生み出せる価値があると思いました。

江口:その頃は、会社員でWEBマスターの仕事をしながら個人ワークをしていたんですよね。

櫻田:はい。仕事に支障がないように家に帰ってご飯を食べ、24時〜26時くらいの時間を個人ワークにつぎ込んでいました。

江口:グラフィックを武器に独立して本業にしようと思わなかったんですか?

櫻田:当時は、インフォグラフィックスという言葉はマイナーでしたし、日本で専門職としている人はいませんでした。現状のまま趣味で活動していくか、もしくは本業にできたらいいなくらいに思っていました。昼間は働きながら個人の時間で自由に納得できるものを作る、小説家みたいなスタイルをイメージしていました。

独立を選ばず、会社員でい続ける理由

江口:そこから現在のNewsPicksに転職するきっかけを教えてください。

櫻田:NewsPicksでは、2014年9月から独自コンテンツに力を入れ始めました。その柱として、インフォグラフィックスを本格的に展開したいと編集長の佐々木から打診があったんです。

決め手は「インフォグラフィックス・エディター」という専任での採用。編集の上流から関わってほしいと考える佐々木の理念に共感しました。

江口:とはいえ、それまでの個人の立場から、専従にすることで戸惑いや仕事の仕方に変化ありましたか?

櫻田:編集部としての企画テーマはありますけど、全体のトーンやグラフィックの仕上がり、ユーザー体験に関してはかなり自由にやらせてもらっています。

江口:普段の仕事で、悩みはありますか?

櫻田:専任が一人しかいないので、量産できないことですね。ワークフローを自分自身できちんと管理しないといけないですし。

インフォグラフィックスは必要な情報を編集しながらデザインに落とし込んでいく作業が必要で、情報を集める段階から自身の手でやっていかないとアウトプットにつながりにくいんです。いまは作ることに専念していますが、今後は量産に向けた体制化のために少しずつ後に続く人を増やす取り組みをしていきたいですね。

編集者・ジャーナリスト / 江口晋太朗さん

編集者・ジャーナリスト / 江口晋太朗さん


江口:個人ワークをきっかけに転職し本業になっても、今までと変わらず「visual thinking」も更新しています。一般的に、企業であれば社員規則で「副業禁止」になっているところも多いですよね。

櫻田:弊社では本業に影響がなければ、基本的に副業は個人の自由裁量で活動してよくて、個人のサイト運営や本の執筆や講演もOKです。

江口:本業になったいま、個人のサイトはどう捉えていますか? 副業ですか?

櫻田:副業ではなく、自身のスキルアップの場だと考えています 。個人ワークもやった方がNewsPicksの仕事もパワーアップする。パワーを最大化するために個人ワークがあるという位置づけです。

例えばNewsPicksはいまはモバイルがメインですが、今後どうなるかわかりませんし、モバイルばかりを作っていると感性が鈍ってきます。代わりに、自分のサイトは自由にいじれるので新しいことにもチャレンジしやすいし、企画からデザイン、マーケティングまで一通りのことを体験しやすい。自分の手で経験することで社内に対して提案もできる。個人ワークと仕事が相互連携したり補完関係になるように意識しています。

一方で、個人のグラフィック制作仕事は辞めました。制作する場所はNewsPicksか自分のサイトだけと切り分けています。

江口:率直に言って、「独立したい」と思わないんですか?

櫻田:僕が求めているのは「集中できる場所」と「作るための環境」があること。 営業や初対面の人に会うのも苦手ですし、お金のやり取りとかも性に合ってないように思います。独立欲より作りたい方が強いんです。それに、NewsPicksの方がトータルで見たときの影響力は大きい。当たり前ですが、自分のサイトよりも波及力があります。どこにいればコンテンツの力を効果的にできるかという選択の結果と言えます。

自由と責任はセット。だからこそ、好きなことができる

江口:自身のアウトプットを最大化するために会社にいて、同時に個人ワークを修行の場と捉えていて会社もそれを許容しています。その価値観はどこからくるんですか?

櫻田:NewsPicksには「7つのルール」があります。会社設立4年目に、創業者を含め社員達で自分たちのカラーや強みは何か、パフォーマンスを最大化するための価値観は何かを考えて生まれたものです。(詳細はこちら)そうした価値観に沿っていれば好きなことをしていい、という考えが根底にあるんです。

しかし自由主義は責任とセットで、自由である代わりに結果を出すことも求められます。なので、個人ワークをやることで会社に対して悪影響が出るなら、個人ワークはやめようと考えています。

eguchi_newspicks_3

江口:何人ものフリーランスの編集者やライターがNewsPicksに入社するなど、個性の強いメンバーが集まっている印象があります。どのようにして組織をマネジメントしているのですか?

櫻田:細かくマネジメントするのではなく、ビジョンに向かって各プレーヤーが考えて動く。サッカーでいうと、細かく指示するのではなく各自にまかせて点を取る。自分が一番パフォーマンスを最大化できる環境があり、それをもとにチーム全体で最大の価値を作りだす。そのために自由があると捉えています。そういった意味ではハードな職場で、自分自身が試される場所でもありますね。

会社はバンド、成果のために個とチームが互いに共鳴し合う

江口:会社員はどうあるべきか、というのがこの連載のテーマなのですが、会社と個人のあり方は今後どうなっていくとお考えですか。

櫻田:これからの時代、例えば自動車業界であっても人工知能と向き合わなければいけないし、Googleもハードウェアへ力をいれています。 つまり業界の垣根がなくなってきていて、職種ももっとミックスされるはずなんです。

つまり、専門職だけでは通用しない時代になってきていて、分野や業種を横断できる人材が求められてきます。かつての日本企業が全部署を経験させたのとは違い、職域をうまく混ぜるための思想や文化が企業に必要なんだと思います。

そのために組織は、会社の仕事だけでなく、個人の趣味などさまざまな経験が生きる環境を作ることがこれから求められてくるのではないでしょうか。

江口:個人としてのプレイヤー性を持ちながら組織でパフォーマンスを出していく。会社もそうした人材を育てたり、生きる場を作ったりする必要がある、ということですね。その許容やパフォーマンスを最大化するために会社としてすべきことはどのようなことがあると思いますか。

櫻田:自身で学ぶためにも、積極的に美術館に行ったり、映画を観たりってあるじゃないですか。けど、空いている時間じゃないとインプットにならないですよね。そのために、午前中に美術館に行って午後から出社することも日常的にあります。

会社の中にずっといるのではなく、積極的に外に出て人と会ったり、自分の価値を最大化できる時間の使い方も自由裁量でなにも規定がないことが、自分にとってはすごく快適で、まるで大学のキャンパスのようです(笑)。

江口:他の会社だと副業も申請すればOKとか、社内の福利厚生で美術館に行けるように対応したりと、規則で規定することが前提の組織のルール設定が多いなか、成果以外は自由な組織って面白いですね。そんな個のプレイヤー性に光が当たるなか、個人として今後必要なことってどんなことでしょうか。

eguchi_newspicks_4

櫻田:今の時代、自身を証明するサイトを持っていることですね。これまでは会社でやったことしか履歴書に書かなかったけど、そうするとその人がどのパートをやったのかわからなくて、就職したあとにミスマッチが起こりやすい。

けれども、自分のサイトは自分でこれができる、これに興味や熱意を100%持っている、って明言できるものがそこにはあります。デザインした作品や、自身が興味を持ってリサーチしたものをブログに書くこともそう。その人自身が何に興味があり、どんな行動をしどんなアウトプットをしているのか。作ったものがしっかりと分かることで、そこにその人の考えが全部出ているはず。それが可視化できていることで、 個人と企業とのミスマッチが減っていくはずです。

江口:最近だと、Githubなどにコードを載せることも一般的になりつつあり、それをもとにした採用も進んだりしています。そうした意味で、個のパフォーマンスを示すツールを会社員のそれぞれが持ち、個を生かすために組織がある時代がきているように感じます。最後に、櫻田さんにとってこれからの「個と会社の心地良い関係」はどのようなものだと思いますか。

櫻田:会社は「バンド」のようなものだと考えています。バンドとしてヒットチャートを賑わすし、時にはソロ活動もする。「会社にいるあの人」だけではなく、「あの人がいる会社」になっていく。そうして、互いのキャリアの補完関係が築けるといいのではないかと思います。

先日サッカー・ジャーナリストの方と話をしてて、「サッカーで一番強いチームは」と尋ねたら、「チームと個人の利益が合致しているとき」と話してくれました。チームと個人の利害が一致することで両方のパフォーマンスが最大になる。 個人主義だけでなく、チームが一番強くなることも考えるような企業であってほしいですね。

江口:バンドやサッカーチームという考え方は面白いですね。

櫻田:バンドもサッカーチームも、その根底にはいいものを作ろう、いい結果をみんなで出そうとメンバーが全員同じ方向を向いています。それを会社に置き換えると、一番世界にインパクトを与えるものを作るのが会社だと思います。

企業はだからこそ最大限発揮できるアウトプットに存在価値があるはず。企業という組織であることの意味を考えながら、個人としてのアウトプットを高めていくことが、結果として個人にとっても企業にとっても意味あるものになると思います。

バックナンバー