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伝書鳩はもう卒業。これからのWEBディレクターに必要な「編集視点」とは?

本連載では、毎回さまざまな現場で活躍するクリエイターから、リアルに役立つワークハック(仕事術)を教えてもらいます。

第2回目は「WEBディレクター」。ついついクリエイターとクライアントのあいだで「伝書鳩」になりがちなディレクターが、案件をうまくコントロールする方法とは? 教えていただいたのは、編集者として20年以上、第一線で活躍し、その「編集力」をいかしてメディアの制作やディレクションなど幅広いものづくりを手がけるRIDE MEDIA&DESIGN株式会社の代表・酒井新悟さんです。
  • 文:酒井新悟(RIDE MEDIA&DESIGN)
  • 編集:市場早紀子(CINRA)

Profile

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酒井新悟

RIDE MEDIA&DESIGN株式会社 代表取締役
2006年にWEB、メディア、デザイン、ブランディングを総合的に制作およびディレクションをするRIDE MEDIA&DESIGN株式会社を設立。自社メディア「haconiwa」の立ち上げなどを経て、現在は、従来の職域にとらわれない新しい時代の「編集力」を活かして、さまざまなソリューションビジネスに携わっている。2020年9月に、あらゆるビジネス課題を編集力で解決する仕事術に関する書籍『ビジネスの課題は編集視点で見てみよう 気がつけば誰にでもできる!今すぐ実践したくなる仕事術』(マイナビ出版)を刊行。

こんにちは。RIDE MEDIA&DESIGN(以下、RIDE)代表の酒井と申します。

キャリアのスタートが編集者であった私は、RIDEを起業して15年経ったいまでも、採用活動や、人材育成、営業といった経営戦略にともなう業務で「編集」というフレームワークを活用しています。とくに経験上、WEBサイトやメディア制作のディレクションを担うディレクター業においては、「編集力」がとても役立ちました。

今回は、そんなWEBディレクターにフォーカスして、「編集力」を絡めたワークハック術をご紹介します。

TOPIC
・WEBディレクターに必要な意識。RIDE流の「編集視点」とは?
1. 相手の立場になって考える思考力
2. 自分の専門分野を越えた「越境スキル」を身につける
3. 情報は「再構築」して伝える

WEBディレクターに必要な意識。RIDE流の「編集視点」とは?

自分が中心となり、複数の人が関わる物事を統括していくことは、さまざまな能力が必要になってきます。まさにそんな状況が常に起こり得る立場にいるのが、ディレクター職です。では、クライアント、デザイナー、プランナーといった職域や責任がバラバラな人たちを束ね、一枚岩でプロジェクトをやり通すにはどうすれば良いのでしょうか? 圧倒的なリーダーシップや一目置かれるキャリアも大事な要素ですが、根幹にあるのは「編集視点」だと私は考えます。

そもそも「編集力」とは、一般的にさまざまな定義づけがされていますが、ここでは「ある事柄について大枠から細部まで考えられる能力」としましょう。もちろん、そのなかには、比較検討をしたり、点と点と紡ぎ新しい価値を生み出したりといった編集作業も含まれています。ただ、プロジェクトを達観するWEBディレクターには、物事を柔軟に観察したり、事実を多面的に思考したりといった、「視野の広さ」と「視座の高さ」が必要です。私はこれを、WEBディレクターにおける「編集視点」と呼んでいます。

あなたの「視点」や「意識」を少し変えるだけで、さまざまな選択肢が生まれ、新しい価値観を見出すことができる。そして、それがプロジェクトを成功に導くための旗印にもなるのです。では、具体的に「編集視点」を持つにはどうすれば良いのでしょうか? 3つの方法をお話します。

1. 相手の立場になって考える思考力

「どう伝えるか?」よりも「どう伝わるか?」。これは伝達するうえで基本となるセオリーです。言い換えると、相手の立場に立った伝達方法を考えられるかということ。例えば、フランクな会話調のほうが進めやすい人はLINEで、プロジェクトベースのほうが作業を進めやすい人はSlack経由にするなど、自分のやりやすさではなく、「プロジェクトメンバーがストレスなくコミュニケーションを取れる状況を考える」ことが大事です。

ビジネスでは結論や端的な内容を求められがちですか、言い方や伝え方ひとつで、人の行動や情報の性質が変わります。とくに、クライアントとクリエイターでは、考えや立場、役割の面で相容れない部分が多いです。そこで、あいだに入るWEBディレクターの「結論だけでなく相手が一番フィットする伝達手段」を見極める力が効いてきます。

イラスト:児玉潤一

昨今は、効果的な伝達方法を考え、実践しているWEBディレクターも多いと感じています。ただ、ここで終わってはいけません。伝達方法の適正化は、あくまで交通整理。さらに一歩踏み込んで、「相手の利益までも考えられているか?」という視点を持つことが大切です。これは、最初にお話した「事実を多面的に思考する」という編集視点のこと。そのプロジェクトに携わる人が、どんな目的で仕事をして、どんな結果を得ると評価されるかを理解し、相手の利益を考慮したビジネススキームを立てることが第一です。

社内の営業担当であれば、予算を獲得することが利益になるでしょうし、クライアントであれば、費用に見合った結果が出ることが利益になります。さらに踏み込むと、クライアントの担当者は、上司や会社から決済を得るためにプロジェクトの理解と説明責任がともないます。そこまでディレクターが理解できていると、決済が通りやすい資料を提示してあげたり、どうしたら決済が通りやすいかを真摯に聞いてあげたりと、「相手の利益を考慮した言動」ができるようになるのです。そうすると、クライアントも自然と協力的な姿勢になってくれるでしょう。

まずは、プロジェクトを進める前に、関わるスタッフごとの利益を自身で整理して明確にしましょう。そこを把握したうえで、全メンバーの共通ゴールとなるプロジェクトの目的を見据え、ディレクションを始めるのです。

2. 自分の専門分野を越えた「越境スキル」を身につける

ディレクション業務において、「異業種や異分野に対する理解度が高いこと」は大前提のスキル。具体的には、専門用語や技術に関する概念、定義といった「共通言語」の習得です。ほかにも、その業界のニュースやトレンドに明るいことも重要です。これらは、「物事を柔軟に観察する」という編集視点のひとつ。

RIDEでは、3年前より「越境スキル」の習得を全メンバーの目標に掲げました。各メンバーが、得意な専門領域の考え方を用いて、ほかの領域の工程や作業の理解度を深め、上流から参画できる案件を増やすことが目的です。

例えば、WEBディレクターであっても、WEBデザインやITテクノロジーを学ぶ必要がありますし、WEBサイトやメディアの改修提案をする際には、その媒体が「どんな内容でマネタイズしているのか?」というビジネス目線も必要となります。さらに、集客なども考えるとマーケティング的な発想も……。すなわち、WEBディレクターが自身の得意領域を「越境」した専門知識や能力を身につけておくと、プロジェクトを円滑に進めるきっかけになるでしょう。

3. 情報は「再構築」して伝える

「1.相手の立場になって考える思考力」では、相手の利益を把握したコミュニケーションや伝達方法を考えること、そして「2.自分の専門分野を越えた『越境スキル』を身につける」では、プロジェクトのビジネススキームを体系的に理解して、職域を超えた共通言語の習得についてお話しました。

ただこれらを実践していくと、あらゆる知識と情報が手に入る分、「クライアントの事情もあるけど、クリエイターの意見も反映しなければ……」と、要件の優先順位をつけるのが難しくなる可能性があります。そこで、3つめの方法である「編集力をともなった情報の再構築」という編集視点が大事になるのです。これは、WEBディレクターとして、さまざまな情報を右から左に伝えるだけの「伝書鳩」にならないためにも意識したいところです。

例えば、クライアントが広報担者で、プロジェクト内容をつねに正確に決定したいのであれば、それは社内での決済スケジュールを円滑に回したいという考えの表れかもしれません。一方、クリエイターは、その決定した内容が実装できるのかなどの検証期間を十分に担保できなければプロジェクトの内容を決めたくないという心理もあります。

こうなった場合、ディレクターが両者の「利益(思惑)」と「考え(知見)」をそのまま指示系統に出すと、ダブルスタンダードとなり、関係者は何が重要かを見失い混乱してしまうのです。そうならないためにも、集まった情報を単に伝えるのではなく、その情報に「意味づけ」をしなければなりません。つまり各メンバーの利益と知見を再構築し、編集するイメージです。

例えば、上記の広報担当者には、クリエイターの作業時間の確保や技術的な難易度を説明したうえで、条件つきのYESを取りつけるのです。「ここまで作業が進んだら、御社内でGOの決定が出せます」「ここの実装がうまくいかなければ、あと数日は時間が必要です」といった具合です。一方、クリエイターには、「なぜその内容を早く決定したいか」というクライアントの目的や、担当者の役割を説明し、作業の正当性を伝えます。単にクライアントの要望だからという理由だけでスケジュールを守ってもらう依頼は成り立たないのです。

イラスト:児玉潤一

条件つきという「事実」の整理と、正当性という「事実をもとにした意味づけ」が、情報の再構築。受け手に、自分に向けられた話だと思ってもらえることが真理でもあります。

まとめ

自身のスキルや専門領域を超えた視点や視座を持つことも必要ですが、まずは「越境する心構えを持つ」ことからはじめてみましょう。とくに、進行管理や予算配分を加味したクリエイティブの担保がミッションとなるWEBディレクターは、そのマインドセットが大事。

それによって、仕事に対する自分の考えが「プロジェクトを管理する」という発想から、「プロジェクトを成長させる」に変わるはずです。結果、関わる人が自主的に動き出し、相手を思いやり、利益を出すことにコミットしてくれたら、プロジェクトはより円滑に進むでしょう。

RIDEでは、「関わる人が満足しているか?」を意識し、クライアントや外部スタッフとのコミュニケーションを諦めず、誰かが金銭的や作業的に我慢するような制作工程や座組みにならないようにしています。これはWEBディレクターをはじめ、さまざまなクリエイターがコモディティー化していくなかでも存在意義を見出し、クリエイティブの本質を見失わないためです。

今回のコラムは、そんな今後のWEBディレクター像も見据えてまとめています。これからWEBディレクターに求められるのは、さまざまな領域にも精通し「向上心よりも好奇心」が強いことだと考えています。

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