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ポリシーは持たない方がいい!? 働き方研究家・西村佳哲が語る“仕事の選び方”

クリエイターやスタートアップ企業などが集まる中目黒のワークスペース「みどり荘」が『We Work HERE』という本を作ったらしい。職種、国籍、年代もさまざまな人々の生き方・働き方がつまった、100人分のインタビュー集。この本に関わったみどり荘のクリエイターたちに、この百人百様の濃密なインタビューを一冊にまとめるにあたり収めきれなかったエピソードを改めて語っていただきます!

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    みどり荘

    みどり荘1@中目黒、みどり荘2@表参道、みどり荘3@福井で展開しているシェアドワークスペース。様々な仕事、国籍、趣味、考えを持つメンバーが集まってその混沌を通して生まれる「何か」を楽しみながら働くところ。8月8日に「みどり荘」の一風変わった仲間たちや、彼らとのつながりで出会った人たち、ワークとライフの区別が曖昧で、ただここで楽しく生きて働いているように見える人たち、「生きる」と「働く」が一緒になったような人たち、そんな100人に「働くとは何か?」という問いをぶつけてまとめた本『We Work HERE』を発売。只今絶賛発売中!

    URL:http://midori.so/ 書籍URL: http://midori.so/weworkhere/

    働き方研究家、プランニング・ディレクターなどの数々の顔を持つ西村佳哲さん。書籍『We Work HERE』で応じてくださったインタビューから、本編で掲載しきれなかった独自の仕事論や、仕事に対して迷いを持つ人たちへのアドバイスを番外編として紹介します!

    意味の感じられる仕事や、鮮度の高い仕事が少なくなっている

    −西村さんの著書である『自分の仕事をつくる』では、様々な人に仕事の仕方を聞いていらっしゃいました。それが、働き方研究家としての第一歩ですよね。

    西村:そう、自分は上手にやりたかったの。いい結果を出したいと思っていて、そのためのうまいやり方を知らないからもっと学ぼうと。でもいろんな人の話を聞いていると、うまいやり方の背後には考えを深めていった過程が必ずある。その思考は、ちゃんと「感じる」ことから始まっているんですよね。「なんでこれはうまくいかないんだろう」「なんで放っておくとこうなっちゃうんだろう」とか。

    例えば「こういう話し合いをしたい」とみんなに声かけをした人が、ミーティングの司会進行までやろうとすると、話したいことがあるのに司会進行もしているので、なんだかぐちゃぐちゃになってしまう。そういうことに違和感を感じた人が「どうしたらいいんだろう」と考えて方法をつくるわけですよね。ちゃんと感じているから、考えるし、働き方もつくって試す。

    最近は「働き方」というキーワードを、よく聞くようになってきましたよね。働き方の工夫を、大きな会社でもするようになってきている。在宅で働けるとか、ダブルワークができるとか。ミーティングのやり方や、ファシリテーションの仕方にも工夫があったり、ポストイットを使って○○したり……など、結構いろんなことをみんな勉強していると思うんだけど。

    僕は今、働き方の研究・工夫だけではどうしようもないところまで状況が来ていると思っています。どんなに洗練された働き方や、どんなに工夫の効いた面白い働き方、いい成果が出る働き方をしたとしても、その仕事自体に十分に意味を感じていなかったら、みんながどれだけ頑張ったところで、結果的に意味があまり感じられない世界ができてゆく。

    意味を感じられる仕事の在庫が、会社や行政に少なくなってきている印象が非常にあって。今は、意味が感じられる仕事や鮮度の高い仕事をつくることの方に関心があるんです。

    —それは自分が「やりがいを感じる」というよりは「社会的に影響がある」という“意味”ですか?

    西村:働いている一人ひとりにとっての意味もそうだし、社会にとっての意味も。両方ですね。

    例えば、モノが飽和している時代に、たくさんモノをつくって売る仕事の意味を感じにくくなるのは当たり前のことですよね。またその商売は、クオリティを出来るだけ保ちながらより安いモノを……というチキンレースに入ってゆく。こういうチキンレースは、どこかにしわ寄せがいくんですよ。働いている人とか、国外の製造現場とか……。それで、一番末端にいる人がどこまで我慢できるかという、我慢比べになってくる。

    普通に考える力がある人にとっては、「この仕事には本当に意味があるのかな」「これ以上やっていていいのか」と感じながら仕事をする傾向が、年々強くなっているんじゃないかな。本をこんなにつくる必要があるのか……とか。本をつくることそのものに意味がないわけではなくて、つくるならつくるで、新鮮な意味や価値をちゃんとつくり出していかなきゃならないということなんだけど。そういう仕事や現場をつくり出す人が、今一番輝いているというか、光を感じられるなと思うんですよね。

    「自分に交換するものがないと何も始められない」は、ウソ

    —その場合、食っていくにはどうしたらいいんでしょうか? 意味のある仕事をすれば充足感は得られるかもしれませんが、収入があまりなかったとしたら……その問題と、どう折り合いをつけていったらいいですか?

    西村:ケースバイケースですね。生活にどれくらいお金が必要か、というのは人によって違いますから。一般論では言えない話であって、自分なりに克服すればいいのではないでしょうか。

    —お金がネックになって踏み出せない、ということも考えられますよね?

    西村:怖がっているだけじゃない?

    ……それは、僕らがどういうトレーニングを受けてきたかの結果だと思う。僕らがこの社会で、ほとんど誰もが日々繰り返しやっているトレーニングは「お買い物」だと思います。対価を払うと、モノが手に入る。それを、複数の選択肢の中から選んでずっとやってきている。

    そのトレーニングを通じて、「交換するモノがないと何も始められない」というマインドセットも形づくられていると思う。するとたとえば、「○○さんに会ってみたいんだけど、自分はまだ準備ができてなくて……」「まだ何者でもないから……」とかいう人が増えてくる。それは、違うんですよ。

    準備ができてないとかじゃなくて、もう会いに行っていいんです。「入場料3000円って書いてあるのに500円しか持ってなくても、行けば入れる」ということを伝えたい。橋が架かっていないところに橋を架けてくる人は大概面白いので、面白い場を開いている人は「お前、来るの?」って感じで受け入れるんですよね。表示価格通りのものを払わないと、交換が成立しないという場所ばっかりではない。

    私たちがどういうマインドセットになりやすいかということを客観的に捉えられれば、「それを組み替えていけばいいんだな」と自分を相対化できると思います。

    —お金のためにやることと、自分にとって意味があることをやること。両者は同じ“仕事”といえるのでしょうか?

    西村:僕はこの間、あるショッピングモールにアートピースを展示したんですけど、これ意味ないな〜と思いながらやってましたよ(笑)。さほどモチベーションもなく。じゃあなんでやったかっていうと、ただ担当者が好きだったから。「この人の頼みだし、やろう」という感じでしたね。

    仕事の意味や価値って、一本足じゃないですよね。二本足や三本足で立っているので、全面的に意味のないことは、そんなにしょっちゅうはない。そんな中で、折り合いをつけながらやっています。

    やり方を限定しないこと。そして、第三者の目を借りること

    —書籍『We Work HERE』では「自分がどんな話をした時に目が輝いていたか、それがよく見えているのはむしろ他人の方。だから、普段から自分のことを感じ取りながら接してくれる第三者がいると、本人の可能性にもつながってくると思う」ともおっしゃっていましたね。

    西村:本人の頭の中には思考がありますよね。でも思考はちょっと前の自分が組み立てたものだから、最前線の自分とはなかなか自己一致しないというか。すこし前の自分が「こう生きるべきだ」「社会はこうあるといい」などと思ったことを軸にこれからの人生を組み立てていこうとすると、昔の自分に付き合い続ける……という事態が起こる。

    ちょっと前の自分は今の自分とは違うので、ちょっと前の自分が思ったことに今全力でエネルギーを注げるかといえば、そうじゃない。で、それを気配として一番察しているのは周りの人たちなんですよね。ということは自分の周りに、普段から自分のことを感じ取りながらいてくれる仲間あるいは第三者がいて、接点があることが、本人の可能性にも繋がってくるんじゃないか、という意味です。

    こういう話をしていくと、仲間がいませんとか、人との関わりがそもそも苦手な人は絶望的になってしまうかもしれないけど、自分を開いていくことがまずひとつの方法だと思う。だから、なにか準備ができてからしゃべるんじゃなくて、まずは屈託なくしゃべってみること。すると「しゃべってる自分に元気があるな」とか「自信を持って話し始めたのに、意外と通らないな」とか、逆に「まるで自信なくしゃべり始めたのに、話していると元気が出てくることに気づいてしまった」とか……そんなこともあるはずです。だから、外に出してみるのはすごく大事なことだと思う。

    —西村さんの、譲れないポリシーとは?

    西村:それはケースバイケースですし、むしろ持たない方がいいと思います。それを握っていると、さっき言ったみたいに思考だけが頭に残って、古い自分に付き合わされることになるから。

    —明確な目標を設定して、そこから逆算して何をやるべきかを考える流れもあるけれど、西村さんは第三者の導きによって違うところに行っちゃって……結果、そこが新しいゴールになった、ということをもお話しされていましたが、そういうこともあるんですね。面白いです。

    西村:両方アリでいいと思うんですよ。計画を立ててやることもアリだし、でも狙うと外すこともあるし(笑)。両方じゃないですかね。「これしかない!」と他人に迫ってくる人は、あまり信用しない方がいいんじゃないかな、と僕は思いますね。

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