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肩書きでもお金でもない! フリーランスのクリエイターが「仕事」に求めるもの

クリエイターやスタートアップ企業などが集まる中目黒のワークスペース「みどり荘」が『We Work HERE』という本を作ったらしい。職種、国籍、年代もさまざまな人々の生き方・働き方がつまった、100人分のインタビュー集。この本に関わったみどり荘のクリエイターたちに、この百人百様の濃密なインタビューを一冊にまとめるにあたり収めきれなかったエピソードを改めて語っていただきます!

    Profile

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    みどり荘

    みどり荘1@中目黒、みどり荘2@表参道、みどり荘3@福井で展開しているシェアドワークスペース。様々な仕事、国籍、趣味、考えを持つメンバーが集まってその混沌を通して生まれる「何か」を楽しみながら働くところ。8月8日に「みどり荘」の一風変わった仲間たちや、彼らとのつながりで出会った人たち、ワークとライフの区別が曖昧で、ただここで楽しく生きて働いているように見える人たち、「生きる」と「働く」が一緒になったような人たち、そんな100人に「働くとは何か?」という問いをぶつけてまとめた本『We Work HERE』を発売。只今絶賛発売中!

    URL:http://midori.so/ 書籍URL: http://midori.so/weworkhere/

    今回登場するのは「アートディレクター」「クリエイティブディレクター」として活躍するクリエイター。Max Houtzagerさん、宇野由圭里さん、大西真平さん、吉原潤さん、ROKKANさんの5名だ。全員、みどり荘のメンバーでもある。よく見聞きする肩書きだが、実はどんな仕事なのか知られていないのでは、という素朴な疑問から、会話は始まった。

    アートディレクターって、どんな仕事?

    −みなさん、肩書きはどうしていますか?

    大西:名刺には書いていないです。

    吉原:アートディレクターと書いていますが、最近は「デザイナーと書くのがいちばんいいかも」と思っています。単に作るだけではなく、プロジェクト全体を見通して「どういうアウトプットが必要か」という設計そのものをすることが増えてきたので。

    吉原 潤

    吉原 潤
    大学で彫刻を学ぶ。卒業後、京都で3年間の庭師修行。その後WEBデザイナーへ転身。2001年以降はWEB制作会社のアートディレクターとして、大手企業のコーポレートサイトやブランドサイトを担当。2016年独立。

    ROKKAN:僕はどっちやったかな……。アートディレクターとデザイナー、両方書いてました(笑)。一応アートディレクターですが、人手がないのでデザインも自分でやって、たまにアートディレクションは誰かにお願いして、自分はクリエイティブディレクター的な立場のこともあります。

    Max:私は2年前にオンライン雑誌の形でライフスタイルブランドを始めました。同時に、クリエイティブエージェンシーとしてクライアントから仕事をもらっています。仕事ではクリエイティブディレクターを名乗っています。

    —クリエイティブディレクターとアートディレクターの違いって? そもそもどんな仕事なんでしょう。

    ROKKAN:クリエイティブディレクターが大枠のコンセプトや方向性を決める。それを形にするためのディレクションをするのがアートディレクター。さらにそのデザイン的な要素を底上げするのがデザイナー。プロジェクトによってはそのほか、コピーライターやイラストレーター、カメラマン、スタイリストなど、いろんな人が関わります。

    Max:私は、コンセプト作りやディレクションはするけど直接デザインはしない。例えば、最近作った本に掲載した写真の三分の一くらいは私が撮っているけど、ほかに10人くらい関わっている。記事も私が書いたのは一つくらい。そのほか、グッズの企画やブランドのストーリー作成や、売り込みのためのパーティーやストアイベントを企画したりもします。

    Max Houtzager

    Max Houtzager
    カリフォルニアの大学を卒業後、東京のクリエイティブエージェンシーでインターンを経験。アウトドア系ライフスタイルブランド『TERASU』を立ち上げ、オンライン雑誌として記事を配信。今後は書籍やライフスタイルグッズを製作予定。

    大西:広告業界の人が作った役割分担だと思うんです。どの業界でも、大元の企画を考える人はクリエイティブディレクターと言えるんじゃないかな。

    −大西さんはアーティストとも呼ばれていますね。

    大西:あるブランドのキャラクター作った時とか、企業とコラボするとアーティストと言われたりする(笑)。実際は、こういうものが欲しいというディレクションのもとでイラストを描いたので、位置付けとしてはイラストレーターなんだけど。よくわかんないよね、肩書きって。

    吉原:広告業界の中ではWEBは後発なので余計に、肩書きとロールが合ってるのかどうかという思いはあります。

    —広告会社だと、クリエイティブディレクターは部長で、アートディレクターは課長、というイメージが近い気がします。

    ROKKAN:組織で判断する人を明確にするための区別ですよね。みんなが主張しているとぶれちゃうから。アートの領域でそれをコントロールするのがアートディレクターで、その上で方向性を最終判断するのがクリエイティブディレクター。でも僕たちは個人で仕事してるから、結局全部やっちゃう。で、肩書きが曖昧になる。

    吉原:メディアが多岐にわたる広告会社だと、役割分担しないと統括できないからそういう区分ができたんだと思う。でも今聞いていて、WEBで同じ枠組みを引き継ぐのはやっぱり違和感があるなと感じました。

    —先輩から「名乗っていいよ」と言われたのでアートディレクターになった、という話を聞いたことがあります。徒弟制のようなものがあるんですか。

    大西:そういう側面はあると思う。僕は大学出てから一度も就職していません。弟子についたこともない。だからいい年になっても知らないことが結構ある。

    宇野:私はROKKANさんのアシスタントから始めました。ROKKANさんから「そろそろADと名乗っていいよ」と言われて独立という形に。

    宇野 由圭里

    宇野 由圭里
    ROKKAN氏のデザイン事務所にてデザイナーを勤めた後、2013年独立し、「unon design」名義で活動中。主にグラフィックとWEBのデザインを行う。

    ROKKAN:ちゃんと仕事を回せるようになったと思ったタイミングだったよね。アートディレクターとして仕事を受けたのに全然できなかったら、こちらの責任問題でもあるから。

    宇野:「長く下に置きたくないから」とも言われました(笑)。

    ROKKAN:お金が少ない仕事が多くて、一人でいっぱいいっぱいなんで(笑)。

    お金は大事。でも、譲れないものもある

    —みなさんはもともと、デザインの仕事をしたかったんですか?

    ROKKAN:学生の時は絵が好きで、仕事にするならデザイナーかなと思って広告制作に進んだけど、なんか違った。表現の部分を極めるなら、指示されるものを作るデザイナーより、自分でいいと思うものを作るアートディレクターだな、と。クリエイティブディレクターにはもっと頭がよくてロジカルな人がふさわしいかな。

    ROKKAN

    ROKKAN
    コンセプトとアイデアを売りにグラフィックやWEB、ディスプレイなどのデザインを手がける。ROKKANのブランド名でアイデア雑貨も製作、販売中。アーティストとのコラボでグッズをデザインする機会も多い。

    吉原:僕は大学で彫刻をやり、庭師を経て東京に来てWEB制作会社で働いて今に至ります。ずっとものを作って生活していきたいという想いがあって、目の前のことを一生懸命やってきた結果ですね。

    Max:大学ではメディアスタディ専攻でした。卒業後の進路についていくつか選択肢はあったんですが、クリエイティブを自分でコントロールできて自由度が高い働き方をするために、自分で会社を始めることにしました。今は、「自然と共に生きて、季節ごとにアウトドアスポーツを楽しむ」というライフスタイルを伝えるため、WEBマガジンからスタートして、グッズや紙の書籍も作っています。

    大西:もともとは現代美術をやりたかったんです。うちは金持ちだと思ってあてにしていたんですが、気づいたら親父の商売がやばいことになって、自分で稼がざるを得なくってしまった。でも今更バイトやサラリーマンにはなりたくない。それで先輩たちとチームを作り、絵を描いていたら段々イラストやデザインの仕事が増えていった、という感じ。今は広告、ブランディング、書籍や雑誌のデザインなど、本当になんでもやっています。基本的に飯を食うためにしているから、嫌なジャンルはない。特に以前は、とにかくお金がもらえればいいと思っていたから、クライアントからの修正依頼も全く抵抗なかった。アートには誰もお金くれないですからね(笑)。

    ROKKAN:僕、「こっちが金払ってるんだからちゃんとやってよ」と抑え付けられるのがダメなんです。お互いの信頼関係があればいいと思っていて。売れていようがいまいが、金持ちであろうがなかろうが、自分が好きやと思う人と仕事したい。その人たちが売れてくれて、結果的に自分のところにも回ってくればいいかな、と。理想論かもしれないけど。そうはいっても、みどり荘に来て「ちゃんと仕事せなあかんねんな」と思った(笑)。大西さんも含め、みんな自分と比べて(報酬が)一桁違うんじゃないかっていう仕事をしてて、超うらやましい(笑)。

    大西:嘘でしょ! 道を外れた人たちしかいないじゃない(笑)。僕もタダみたいな仕事もやってるし。でも子供がいるから、お金は大事な要素。

    吉原:僕も若いうちに子供ができたんで、お金のことは意識しますね。ROKKANさんはいい感じでやっているようにみえます。

    ROKKAN:僕は好きな人とならタダでもいいんです。

    Max:僕も「仕事はお金がすべて」とは言いたくない。

    大西:金額にかかわらず、若いときより一つ一つに手をかけるようになったかな。小さいステッカーをひとつ作るにも自作のフォントを使ったりして、しっかり作り込む。仕事を続けてきて、どんどん仕事が好きになってきたんだと思う。最初はお金のためだったけど。

    大西 真平

    大西 真平
    美大の絵画科卒業後、大学の先輩とチームを立ち上げ、イラストやデザインの仕事を開始。2009年独立。グラフィックデザインや、ブランディングツールの制作、キャラクターデザインなど幅広いジャンルに携わる。

    吉原:あ、わかる。

    —今の仕事はずっと続けていきますか? それとも、もう辞めてやるって思ってますか?

    吉原:僕は健康であれば、ずっと。

    ROKKAN:仕事している感覚がまったくないんです。自分の好きな人とだけやってるんで。今後もやりたいことだけ、仕事というより趣味の延長でずーっと続けて、アイデア雑貨の不労収入を得つつ、空き家になっている実家でAirbnbやりながらのんびりできたらなあ、と。大西さんが言っていたように、ある程度の年齢になったら若いころのようなエッジの効いた仕事って徐々に減っていくと思うんです。でも「巨匠」になりたいとは思わない。だから将来的に不労収入を得るために作っているのがアイデア雑貨なんです。面白いと思った人が仕事くれたらそれでええわと思っていたら意外に順調なので、ゆくゆくは喫茶店をしたい。カフェじゃなく純喫茶ね(笑)。

    食い扶持を稼ぐ以上の「何か」を生み出す働き方

    —最後に、みなさんにとって働くとは何か、教えてください。

    大西:(『We Work Here』の)インタビューでも話したけど、お金をもらうこと、誰かの役に立つこと、自分がやって楽しいこと、3つのバランスが取れていればいいと思ってる。確かに昔はお金もらえれば文句はなかったけど、今は譲れない部分があって、自分がやる意味のある仕事って何か考えるようになったかな。

    座談会が開催されたのは、火曜恒例のランチの日。みどり荘ゆかりの料理人が作るおいしいランチを味わいながら、リラックスした雰囲気。

    座談会が開催されたのは、火曜恒例のランチの日。みどり荘ゆかりの料理人が作るおいしいランチを味わいながら、リラックスした雰囲気。

    Max:自分が好きで楽しくて仕方がなくて、世間は仕事と見てくれないようなことでも、誰かが価値を見出せばその行為に報酬を払うことはできる。それが世界にポジティブな影響を与えて、自分も成長できれば、すごくやりがいのある仕事になると思います。

    吉原:僕も二人と近い。自分が作ったものを社会に還元することと生活することが、独立して繋がってきた気がします。社会的な責任を意識するようになったというか。言われたことだけやるのは苦手なので、いいアウトプットを続けて、次に繋げていきたいですね。

    ROKKAN:単純に自分が楽しめる場所を探している感じ。お金持ちになりたいとか、少しは思いますが(笑)。ROKKANっぽいと言われる仕事をして、気づいたらいろんな友達や仲間が集まってくれて長く一緒に仕事させてもらって、それが楽しいと思ってやっています。

    宇野:人として成長出来るチャンスをもらえる機会だと思います。そのチャンスの中から自分が得意かもと思うことを続けた結果、今があります。独立して4年目、やっと仕事が楽しくなってきました。

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