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『シナぷしゅ』生みの親・清水貴栄が語る、コラージュから始まった創作人生とおもしろがる仕事術

『シナぷしゅ』のアートディレクターであり、ゆるくてかわいいキャラクター「ぷしゅぷしゅ」を生み出した清水貴栄さん。アートディレクター、映像作家、コラージュ作家と多彩な肩書きを持つ清水さんと話していると、「とにかく人生を楽しんでいる人」という印象が強く残る。

大学時代にコラージュと出会い、「無限につくり続けられるおもしろい感覚があった」と振り返る彼は、その後も一貫して「おもしろがること」を大切にしてきた。事務所には子どもが遊べるトンネルやはしごがあり、将来について「絵本をつくりたい」「(地元)松本に若い人が帰ってきたくなる会社をつくりたい」と目を輝かせて語る姿は、少年のような好奇心が溢れている。

新連載「映像クリエイターファイル」vol2では、そんな清水さんのキャリアと、たくさんの人を明るくする作品たちの制作背景に迫る。

  • 取材・テキスト:宇治田エリ
  • 編集:吉田薫
  • 撮影:kazuo yoshida

コラージュには「無限につくり続けられるおもしろい感覚」があった

―清水さんは武蔵野美術大学で学ばれていたということですが、学生時代はどのような作品をつくっていましたか?

清水:最初はかっこいいものを目指していたんです。同級生にTYMOTEを立ち上げたメンバーやアーティストユニットmagmaなど、在学中からバリバリ活動してかっこいいものをつくっている人たちがたくさんいて。

僕自身もブレイクダンスをやっていてストリートカルチャーに興味があったので、いろいろと描いたり、つくったりしていました。でもうまくいかなかったというか、あんまりかっこよくならなかったんですよね。

清水貴栄 (しみず・たかはる)アートディレクター / 映像作家 / コラージュ作家 。1987年長野県松本市生まれ。武蔵野美術大学を卒業後、2022年にデザインと映像の会社Let’s go inc を東京に設立。こども番組のデザインや、コラージュを使ったアニメーションミュージックビデオ、人形劇を取り入れたTVCMの映像演出など、人の気持ちが前向きになる作品づくりを得意とする

清水:僕がいた基礎デザイン学科はグラフィックからプロダクトまで全ての領域を学べる学科で、3年生の頃からアニメーション作品をつくるようになり、卒業制作でもクレヨンでしりとりがつながっていくようなアニメーションをつくりました。

同じ頃、多摩美の学生と合同で開催したグループ展示で仲良くなったキャッサバ(現在は「yoti」というデザインスタジオを立ち上げている)という友達の影響で、コラージュ作品もつくり始めました。実際につくってみるとどんどん手が動いて、無限につくり続けられるおもしろい感覚があり、向いているなと感じましたね。そこから自然と、かわいらしくカラフルな作風になっていきました。

―大学卒業後はクリエイティブカンパニーDRAWING AND MANUAL(以下、DAM)で働いています。どのような経緯で入社されたのでしょうか?

清水:就活がうまくいかなくて、とりあえず卒業したらバイトでもいいから働かなきゃと考えて、当時教授でDAMの社長でもあった菱川勢一さんに相談したんです。そしたら「とりあえず、うちでやってみたら」と声をかけていただいて。そのままDAMに入社して、2020年まで10年間働き続けました。映像制作も、仕事で学んでいきましたね。

2023年にオープンしたスタジオ機能をもった明るい事務所。こどもが遊べるハシゴや小部屋もある他、スタジオ内には清水さんのお子さんが描かれた絵や、ガチャポン、映像でつかった人形も。デザイン、施工はstudioBOWL

―入社当時から独立を見据えていたのですか?

清水:全然考えていませんでした。独立志向がまったくなかったので、当時の自分からしてみれば、「まさかこんなことになっているとは」という感じでしょうね。ただ、社会人5年目の27歳の頃に1人目の子どもが産まれて。子どもが生まれたタイミングで働き方を見つめ直すようになったんです。

そうしたら、自分が会社から出たときにどのくらい仕事ができるのか確かめたくなってきて、独立志向が芽生えました。だからといって、すぐに辞めてこれまで築いてきた関係を壊すのも違うなと思って。菱川さんもいる会議の席で「独立ってどう思います?」って相談を繰り返して、2年ほどかけて独立に至ったという感じです。

コラージュ作家と名乗ることで、世界が大きく広がっていった

―キャリア初期に担当した仕事で、思い入れのある作品はありますか?

清水:社会人2年目に手がけたtoto”windy”のMVです。初めて自分に丸ごと任された仕事がこのMV制作でした。7分間、フルアニメーションの映像をつくらなければいけなくて、会社に夜中まで居残り土日も作業をして、ドローイングやコラージュで表現した作品をつくりました。

公開後、そのMVをきっかけにメディアの取材や、原画の展示、コラージュのワークショップと広がって。さらに、作品を見た他のアーティストから、MV制作の依頼がきたりして、徐々に自分個人に仕事がくるようになっていきました。

toto”windy”(full version)

―「コラージュ作家」と名乗るようになったのもこの頃からですか?

清水:そうですね。僕はコラージュをたまたまやっていただけだったけれど、菱川さんから「コラージュ作家って名乗ったほうがいいぞ」って言われて。その通りにしていたら、NHKの番組で気鋭の若手コラージュ作家として美術系の番組に取材していただいたりして、作家としての認知度が高まったと思います。

とはいえ、コラージュは経験を積めば積むほど上手になる表現方法ではないことに気づいてしまって、一度距離をおいていたことがあって。いまは自主制作のほうは気が向いた時につくるようにしていますね。

―コラージュのどのようなところに魅力を感じますか?

清水:コラージュはゼロから何かを描く必要がなく、好きなパーツを選んで、切って、貼るだけで作品が完成します。そこに楽しさを感じるし、セレクトショップのような感覚で、気軽につくれる点が魅力なんですよね。一方で素材の使い方は、著作権や肖像権の観点から注意するようにしていて、顔の写真を部分的に切り取って使うことにも抵抗感があるので、どちらかというとテクスチャーとして見て切り取るようにしています。

コラージュ作品の初期は公共料金の案内の封筒などを使っていたが、現在はアメリカの写真週刊誌『LIFE』など古雑誌が主な素材

わかりやすく伝えるための形を考え、柔軟に動かしていく

―現在は、アートディレクターとして子ども向けのテレビ番組をはじめ、広告の映像やグラフィック、MVなどを手掛けながら、キャラクターデザインやコラージュのアートワークなどを掛け合わせ、カラフルでユニークなアウトプットをされています。ご自身の制作スタイルをどう捉えていますか?

清水:とにかく、新しいことをつねにやっていきたいし、とどまることなく有機的に変化していくスタイルだと思います。根はデザイナーなので、仕事の内容によって使う脳みそを切り替えているというか。

たとえばMVをつくるときは、曲調によって作風が変わりますし、子ども向けのテレビ番組では、「情報が伝わるか」という基本的なところをおさえながら、子どもの成長度合いに沿って形や色を決めていて、同時に子どもも親も、誰が見ても嫌な気持ちにならないようにつくっています。

―キャラクターデザインがどのように生み出され、どのように最終的な形に組み立てられているのかも気になります。

清水:たとえばMTV ARTIST IDENTS のプロジェクトの一環でつくった映像の場合、環境活動をしている方と一緒にテーマを決めて、15秒の映像をつくるという少し特殊な内容でした。15秒という短い時間で伝えるなら、テーマは大気汚染にしようとなり、まずは車のキャラクターをつくろうとなりました。

清水:それから、短い時間で伝えるために、セリフを喋らせるよりも音楽にしたいとなって、ラジカセのキャラクターも加えて、ラジカセのボタンをポチッと押したら音楽が始まるような構造にすることにして。キャラクターはリサイクルのイメージが伝わるようにつぎはぎにしています。シチュエーションは大気汚染が進んだ結果、温暖化で水位が上がり、キャラたちが島の上で海に囲まれているという設定にしました。

色のトーンなどは結構感覚的ですね。人に伝える時に理由づけするようにしています。

―子ども向け番組と違い、少し暗めというか、レトロな色使いですよね。

清水:そうですね。MTVで流す映像なので、自分が持っている「MTVっぽさ」のイメージに寄せた色使いにしました。逆に、かわいくて子どもっぽい色使いにした場合でも、MTVのロゴをのせたらあえてそうしている感じにもなったとも思いますけどね。

事務所には作品で使用された人形たちも。パペットはLet’s go inc.社員でもある清水さんのパートナーが制作している

「キャラクターの使い方も、解釈も、クリエイターに委ねる」

―『シナぷしゅ』のメインキャラクターである「ぷしゅぷしゅ」はどのようにつくられたのですか?

清水:シナプスがテーマということで、シナプスは神経細胞のつなぎめでその空間自体がアメーバのような形をしているんですね。それがデザインの大元になっていて、そこからやわらかい感じでキャラクターをつくろうと思ってスケッチしていきました。

特に意識したのは、Eテレではなくテレ東の子ども番組であるという点です。かわいいけれど、ちょっと攻めた、少し気色悪いような存在にしたくて、あえて目鼻口がはっきりしないようにしつつ、顔のパーツを中心にキュッと寄せてつくったら、ぷしゅぷしゅが生まれました。

―ぷしゅぷしゅのもちっと、ふわっとした感じや、自由度の高い動きが魅力的に感じます。

清水:ぷしゅぷしゅは変幻自在でいろんな形に変わることができるという設定で、人形化した時に結果的に柔らかい動きになりました。いまはいろんなクリエイターがぷしゅぷしゅを描いて動かしてくれているのですが、どういう表現になっても結果的に全部ぷしゅぷしゅらしくなるようになりました。

キャラクターの使い方も、解釈も、クリエイターに委ねるようにしています。ある時、僕は鼻のつもりで描いた顔の中心にある下の丸いところを、口っぽく動かしたクリエイターがいたんです。鼻として見るのと、口として見るのでは、キャラクターの様子がずいぶん違いますよね。人によってかわいい見え方は違うものだし、そうやってキャラクターがひとり歩きしていくほうがおもしろい。

自分と違う意見を聞いて柔軟に取り込んだほうが、力になるという価値観が身についたと思います。

民放初の赤ちゃん番組『シナぷしゅ』。月曜から金曜まで毎朝7時30分からテレビ東京にて放送。 公式YouTubeではオリジナルコンテンツ他、見逃し配信も実施

とりあえずやってみる精神から、ストーリーの制作も

―現在『シナぷしゅ THE MOVIE』の2作目が公開中です。この作品は映画監督として携わっていますが、作品をテレビから映画にする際に変えたこと、意識したことはありますか?

清水:1作目のときは、「とにかく映画をつくりたいぞ」とプロデューサーが言いだして、僕もやってみたかったのでやりましょうということで話が進んでいきました。最初は脚本家を入れる話もあったけれど、まずは僕のほうでプロットをつくってみますと言って、絵本を描いたんですよ。内容は、ぷしゅぷしゅが好物の三色団子を食べていて、口を拭いたらほっぺが取れちゃって、それを探しに行こうよというお話。その提案が通って、構成を考えるときも、普段の番組とまったく違うものにならないように基本的にはテレビ版と同じ構造にして、いろんなコーナーにぷしゅぷしゅが入り込んでほっぺを探し、最終的にほっぺを見つけるという話にしました。

2作目も同じように、ある理由でほっぺが取れてしまったぷしゅぷしゅがほっぺを探す旅に出るというものです。

基本的に僕が担当しているのは、全体の流れを決めて、最初と最後のストーリーを考えるということです。コーナーの監督に対しては、「ほっぺが運ばれてくるから、どうにかしてほっぺを外に出してもらっていいですか」とお願いして、あとは自由につくってもらいましたね。

『シナぷしゅ THE MOVIE ぷしゅほっぺダンシングPARTY』5月16日から全国でロードショーされている

おもしろがって楽しみながら、夢を実現していく

―清水さんが手掛けるものは遊び心に溢れていると感じます。どのようにアイデアを広げているのですか?

清水:ベースがデザイナーなので、基本的にテーマがあるところからいつもスタートしていて、そこまで特殊なことはしていないんですよね。求められている課題が1個あって、それを伝えるためにどういうものをつくればいいか考えていくうちに、アイデアは自然と広がっていく。だから子どもから学校で流行っていることを教えてもらうくらいしか、アイデアを探すようなことはしていないんです。

たぶん、これまでにインプットしてきたものを組み合わせる形で全部まかなえているんじゃないかなと、僕は思っているんですけどね。それよりも、テーマを形にするときにいかにわかりやすく、伝わりやすくするかが僕にとっては重要で。そのときに無理にキャパを超えようとするのではなく、おもしろがって楽しんで取り組むことで、自然とおもしろいものができていくと思ってやっています。

―最後に、今後の展望をお聞かせください。

清水:僕は「発した言葉は実現するもの」と思っている節があって、独立に向けて動き始めた28歳の頃、55歳ぐらいまでに何をするかという未来年表をつくったんです。無理そうな目標も含めて書いたけれど、振り返るとそれが結構実現できていて。

たとえば45歳で「地元の長野・松本市の親善大使になる」と書いてありますが、最近松本市の観光アンバサダーに任命されました。それから、「15人編成のバンドを結成して活動する」とも書いているのですが、『おとなぷしゅ』というコーナーでバンドを結成して今年の3月のイベントで3,000人の前でキーボードを弾く形で実現しました。

清水さんがきKey.を務める「おとなぷしゅバンド」。結成から担当決め、スタジオ練までの様子が公式YouTubeで公開中

清水:あとはそろそろ絵本づくりにも取り掛かりたいな、と思っています。ストーリーに関しては、MVをつくるときに考えることはあるけれど、まだまだこれから。ゆくゆくは、自分なりに伝えたいことをストーリーに盛り込んだ絵本をつくりたいなと思っています。

それから、年表には書かれていないけれど、映像やデザインなど、若い人たちが帰ってきたくなるようなおもしろい仕事をしている会社を松本につくるという、新たな夢もできました。これからもおもしろがることを大切にしながら、いろんな挑戦をしていきたいですね。

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