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『あの卓が気になる』はどう作られた?企画・監督の吉田安に聞く、日常のモヤモヤとアイデアの関係性

「男がワンピースとか刃牙の例えばっかしてきて腹立つから女版やる」「坂元裕二ごっこ」……。居酒屋にいる女性3人の会話を「盗み聞き」しているような画角で展開される縦型動画コンテンツ『あの卓が気になる(以下、あの卓)』が、じわじわと人気を集めている。

日々感じているあるあるやモヤモヤを言語化した、つい気になってしまうテーマが魅力のアカウントだ。なかには100万回以上のビュー数を誇る動画もある。

今回は、同アカウントの企画・監督を務める吉田安にインタビュー。『あの卓』が生まれたきっかけや、従来の「バズ」とは逆行する正統派コントを縦型プラットフォームで制作する理由、そして「日常の嫌なことを笑いに変えたい」と話す吉田の原体験から日々のアイデア出しまで、たっぷり話を聞いた。

  • インタビュー・テキスト:廣田一馬
  • 撮影:生田綾

INDEX

自論を強く喋る友達を見るのは面白い。『あの卓』ができるまで

─『あの卓が気になる』はどのような着想で生まれたのでしょうか?

吉田安(以下、吉田):いま在籍している会社でコントの企画書を出したことがきっかけです。

もともとずっとコントを作りたくて、バラエティ番組の制作会社に入社して、ADからキャリアをスタートしました。就活の時は業界の解像度が低かったんですが、バラエティを作る会社だからコントができるということでもなくて……「だったらテレビに関わらず、最初からコントを作ってる会社に行けばいいのか」といまの会社(※)に転職し、コントの企画書を出し続けていました。

そのなかで社長が「この時代にコントはテレビじゃ通らないから、自分で1回撮りたいものを撮ってみろ」と言ってくれて。「女子ものの何か」「まっすぐなコントは見られないので、何かに擬態させる」という条件で作ることになりました。

(※)株式会社sukima。バカリズム原作・脚本・主演の『架空OL日記』などで知られる映像監督、住田崇が代表を務めている。

吉田安
1999年生まれ。大分県出身。映像ディレクターとして縦型動画コンテンツ『あの卓が気になる』企画・監督のほか、テレビ、お笑いライブ、YouTubeなどの映像制作に携わっている。

吉田:『架空OL日記』のような「女子が何でもない会話をしているけどちょっと面白い」という世界観がすごく好きだったので、自分らの世代でもそれをやりたいなって思っていて。

飲み会とそこで起きる会話が好きだったのもあって、女の子3人が飲み会をする『あの卓』の形式に企画がかたまっていきました。

─「コントをやりたい」というところから始まっているんですね。なぜコントが好きなのでしょうか?

吉田:コントはお笑いのなかでも、日常のイライラやモヤモヤ、不満をそのまま昇華して笑いに変えられるのが良いところだと思っています。嫌だったことを笑いに変えるのが一番かっこいいと思っているので、コントが好きなんですよね。

─日常にあるさまざまなものを扱う『あの卓』のネタも、そういった思いから生まれているのでしょうか。

吉田:日常のイライラやモヤモヤもそうですし、人に話すまでもない話や、話してもどうせ理解されないと感じる話って結構あると思います。『あの卓』はそういう話も全力で面白がる動画にしたいと思いました。

@anotaku_knnr カナ曰く、M1の決勝画面をストーリーに上げる人は不届者。 ※本動画でのネタバレはありません。 #ショートフィルム #ショートコント #ショートドラマ #居酒屋 #あるある #あの卓が気になる #あの卓 #M1 #M1グランプリ ♬ オリジナル楽曲 – あの卓が気になる

あと、私は誰も理解してくれない自論を強く喋る友達を見るのがすごく好きなんです。でも、それって心を開いてくれないと見られないじゃないですか。なので、それを模擬体験できるしお笑いにもなっているコンテンツにしたいと思っていました。

脚本は5人で作る。『あの卓』の制作背景

─ついつい気になってしまう絶妙な会話が『あの卓』の魅力だと感じています。各動画のネタはどのように決められているのでしょうか?

吉田:脚本家さんが私以外に4人いて、毎週会議して決めています。できるだけ思想を偏らせたくないと思っているので、脚本家さんによって得意なネタが違うことにも助けられていますね。例えば「平成女子の解像度が高い」「固有名詞を使うのが得意」「日常のちっちゃいことを掘り下げるのが得意」みたいに、バランスを取ることを意識しています。

@anotaku_knnr 3人もジェネギャを感じるようになったらしい #ショートフィルム #ショートコント #ショートドラマ #居酒屋 #あるある #あの卓が気になる #あの卓 #Eテレ ♬ オリジナル楽曲 – あの卓が気になる

─5人で脚本を作っているんですね。脚本家の方は、どのような形で決まったのでしょうか?

吉田:まずは、同世代で一緒にお仕事をしてみたいと思っていた方に声をかけさせていただきました。その上で、『あの卓』のような持論を出すコンテンツでは自分の気持ちが乗っていないと面白くならないと思ったので、熱が入るスイッチや着眼点がバラけたメンバーだとなお良いとは考えていました。

─では、脚本家さんごとの思想がかなり反映されているんですね。

吉田:モロに反映されています。基本的には脚本家さんが熱く喋ることができるネタが面白くなると思っていて。意味がわからなくても、熱が入って喋っている姿は面白いじゃないですか。なので、脚本家さんにはなるべくそういうものを書いていただいています。

@anotaku_knnr 泥酔してまで訴えたい。ムビチケは、高すぎると。 #ショートフィル厶 #ショートコント #ショートドラマ #居酒屋 #あるある #あの卓が気になる #あの卓 #映画 ♬ オリジナル楽曲 – あの卓が気になる

バズとは正反対の作り方。「盗み聞き」というコンセプトはどう生まれた?

─居酒屋で会話を「盗み聞き」しているという構成もショート動画ではあまり見たことがないように思うのですが、どのような狙いがあったのでしょうか。

吉田:企画当初は居酒屋トークをやりたいと思っていたんですが、ただ居酒屋で喋っている動画にしたら普通すぎる。女性が話しているだけのコンテンツをどうやって面白く成り立たせるかという部分で悩んでいました。

縦型動画には過剰に演技したり、展開が早かったりするものも多いですが、そういう動画が私は好きじゃなくて。別のやり方にしたかったんですが、一方で、見てもらうきっかけを作るために「背徳感」や「いやらしさ」をどこに入れたい。悩んでいるときに、友人から「盗み聞き」というアイデアが出たんです。「それだ!」と思って。鶴の一声で大変感謝しています(笑)。

─従来の縦型動画とは違う形にしたかったんですね。たしかに、『あの卓』は動画の尺も2分超のものが多く、ほかの縦型動画と比べても長めですよね。

吉田:長いですね。1分半くらいにするようには意識してるんですが、私が『架空OL日記』や東京03さんのコントが好きなこともあり、間とかをたっぷり使いたいなと思ってしまうので……。バズとは正反対の作り方をしているので、難しいところもありますよね。

「バズらせたくて動画を作っているわけではないけど、バズらないとコンテンツが続かない」

─縦型のショート動画はプラットフォームの性質上、最初に「掴み」を作らないといけないなど、「お作法」のようなものもあると思います。何か意識していることはありますか?

吉田:最初の会話やタイトルで「これは自分のことだ」「この会話に参加したい」と思ってもらうことですね。

最近、「感情がイメージしやすい動画」が伸びやすいことに気づきました。あとは、「内心では思っていたけど人に話してこなかったモヤモヤ」みたいなものが伸びたりするのも感じています。

逆に「これは当たる!」と思って出した動画が大して回らなかったりもするので、本当に手探りですね。

バズらせたくて動画を作っているわけではないけど、バズらないとコンテンツを続けられないので、バズらせるための実験枠と、バズり狙いではなくコンテンツの空気感を示す動画を分けるようにしています。

─サムネイルに出ているタイトルはテンポも良くて、印象的です。

吉田:1個1個がネタツイみたいになっていたらいいなと思っています。私自身もツイッタラーで、Xでバズるような引きがある文言にしたいと思って作っています。

「ChatGPTに恋愛相談してるの恥ずかしすぎて言えない」とか、「年明けた瞬間の日常に戻った感切なすぎる」とか、タイトルを読んだときの感情がイメージしやすいようなタイトルにしたいなとは心がけていますね。

@anotaku_knnr キコはチャッピとかなり話し込んでいるが…。 #ショートフィルム #ショートコント #ショートドラマ #居酒屋 #あるある #あの卓が気になる #あの卓 #チャットGPT#AI#恋愛あるある#恋愛 ♬ オリジナル楽曲 – あの卓が気になる

@anotaku_knnr カナ、いくらなんでも正月気分の終わりが早すぎる #ショートフィルム #ショートコント #ショートドラマ #居酒屋 #あるある #あの卓が気になる #あの卓 #正月 #正月あるある#ゆく年くる年#帰省 ♬ オリジナル楽曲 – あの卓が気になる

「日々のモヤモヤを愚痴にするより、『どうやったら面白くなるかな』と考える」

─映像ディレクターとして、吉田さんがどうやって企画やネタの着想を得ているかもお聞きしたいです。『あの卓』は日常に根ざしたテーマの動画ですが、どのようにネタ集めをされているのでしょうか?

吉田:私は感情先行で考えていて、できごとからネタを集めることが多いです。「こういう時に腹が立った」「こういう時にモヤモヤした」みたいな日常のできごとを、全部笑いに昇華したくて。LINEやiPhoneのメモ帳に書き溜めておいて、ネタ案を考える時に読み返します。

『あの卓』に関しては、自分がモヤモヤしたことを登場人物3人のうちの誰かに言わせられそうだったら「もう2人はなんて返すかな」って頭のなかで飲み会を始めて、その飲み会が盛り上がったら一度ネタ案にしています。

─小さなモヤモヤでも見逃さず書き溜められているんですね。日常の嫌なことを笑いに昇華したいと思うようになったきっかけはあるのでしょうか?

吉田:私は地方出身で親がアメリカ人だったこともあり、周囲から見ると異質な存在だったんです。いまではありえないですが、小学生の時に自分の家族が新聞記事に出ることがあり、「妻は外国人」と書かれたくらいでした。

そんな環境のなかで育ったので、「みんなと一緒=正義」な地方で友達を作るためには、自分の違いを笑いに変えていくしかない、という思考になってしまって。嫌なことやモヤモヤしたことを「面白かった話」に変えて話したり、「おい外人!」と言われても「誰が外人や!」って返したりすることで友達ができた経験もあった。それからずっと嫌なことを笑いに変えるようにしています。

最近はネガティブなことを笑ってはいけない空気感もありますが、人によっては、考え方の転換で心が楽になったり、楽しくなったりする側面もあると思っていて。もちろんいろいろな意見があると思うのですが、私は、日々のモヤモヤを愚痴にするより、「どうやったら面白くなるかな」と考えるようにしています。

─冒頭でも「笑いに変えることが一番かっこいい」とおっしゃっていて、吉田さんが笑いやコントにかける思いが伝わってきます。映像ディレクターとして、一番やりがいを感じる瞬間はどんな時でしょうか?

吉田:最近やりがいを感じたのは、自分が思っていた「モヤモヤ」が動画になって100万再生を超えた時です。「これ思ってる人、ほかにもいるんだ!」っていう嬉しさと、「こういうことがやりたかった!」っていう快感がすごくて。

普段の飲み友達には共感されなかったことでも、「めっちゃわかる」「自分のことかと思った」みたいなコメントをいっぱいもらえると、本当に救われる気持ちになるんです。

例えば「1人で生きていける女の方が絶対モテるべきだろ」は100万回以上見てもらえていて、自分がこれまで生きていてつねづね思っていたのに共感されなかったことを笑いに昇華して、誰かに笑ってもらうことができました。それが自分にとって一番やりたかったことなので、それができている嬉しさと、今後ももっとこういうことでメシを食っていけるように力をつけたいなという気持ちです。

@anotaku_knnr たま、心からの主張。 #ショートフィルム #ショートコント #ショートドラマ #居酒屋 #あるある #あの卓が気になる #あの卓 #モテる ♬ オリジナル楽曲 – あの卓が気になる

「感情の動き」や「一個人のモヤモヤ」を、どう縦型で表現する?

─吉田さんはテレビのバラエティ番組制作にも関わられていますが、TikTok、Instagram向きのショート動画を作るにあたって、テレビでの経験はどう活きていますか?

吉田:両方やっていて良かったと思うことはかなり多いですね。

縦型動画は「自我をいかに出せるかの勝負」だと思っていて、大衆に向けて発信するテレビよりも私的には自分を表現しやすいんです。縦型動画を作っていたおかげで自己理解が進んで、対外的にも自分の強みややりたいことを伝えやすくなりました。

また、テレビのバラエティの現場だとよくいかに「ニン(芸人の個性やキャラクター)」を引き出すかが問われることが多いのですが、その経験から縦型動画でも演者の方がもつ面白さを大事にするよう意識していたり、基本的な知識をテレビで学べたおかげで丁寧な画作りができていたりすると感じています。

─吉田さんがいま作られている、新しい動画コンテンツについてもお聞きしたいです。

吉田:若者を対象にしたマーケティング会社さんからご依頼いただいて、Z世代の若者とおじさん世代のギャップを描いたオフィスコントをルシファー吉岡さん、三四郎さんなどと撮らせていただいています。

オフィス内の世代間ギャップをテーマにしていて、対上司へのモヤモヤをどうコントにするか日々考えています。

─今回の動画のこだわりを教えてください。

吉田:強い画や突飛な設定なものが視聴されやすいなかで、どうすれば「感情の動き」や「一個人のモヤモヤ」を、感情ベースで縦でも見てもらえるものにできるのかに頭を使いました。

今回の動画では会話劇をベースにしつつも、あるある感情と自論の強さを掛け合わせることで、縦型でも見てもらえるコントとして成立させられるのではないかと思い、ルシファー吉岡さんの世界観に一部乗っからせていただきつつ撮影しました。

正統派のコントは見る側も身構えてしまって、縦型動画にしづらい側面もあります。それでもキャラクターの魅力やセリフの面白さのような「中身」で勝負したいと思っているので、『あの卓』の「盗み聞き」のように、コンセプトでフックを作れるようになりたいと思っています。

─最後に、吉田さんがいま注目されているTikTokアカウントを教えてください。

吉田:最近好きなのはギャルネコっていうアカウントです。ギャルと猫のアニメで緩くて可愛いんです。組み合わせの妙も、喋っているテンポも最高でした。

@neko_is_gal せんぷうき😼💖 #ギャル #ネコ #猫 #アニメ ♬ オリジナル楽曲 – ギャルネコ

あと、女子の観察眼がすごい「もこ」さんや、さもあんすがいさんの「会議室取れない」ってずっと言っている動画とか。「ここをネタにするのいいな」と感じる視点が好きです。

@ko_suke27

♬ オリジナル楽曲 – もこ

@w.samoansugai 今日はOLサモ子だよー ねえ、会議室で一人で作業してる人なんなの!? 私たち、使えないんですけどー! そして、頑張ってる佐々岡ちゃんがかわいそー!! そんな頑張ってる佐々岡ちゃんや、世の女子や男子に一息ついてほしいの! ネスカフェ キットカット ラテ飲んで、ちょっと休みましょ🎵 #PR #ネスカフェ #キットカットラテ #女子 #あるある ♬ オリジナル楽曲 – さもあんすがい

気になる

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