今、公開する意味がある作品をやっていく

有限会社アップリンク 露無 栄(宣伝プロデューサー)

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映画の配給のみならず、劇場・カフェの運営、イベントの企画など、映画を中心にさまざまな業務を手がけるアップリンク。映画好きならば、社会問題をテーマとした骨太なその作品群のどれかに触れていることだろう。同社で配給・宣伝の仕事をする露無さんは、のんびりとした初秋の公園が似合う、柔らかい雰囲気の人物だ。しかし、その裏側には映画業界に関わる者として、まっすぐに芯の通った女性としての内面が見え隠れする。そんな彼女の“働き”について伺った。
  • Profile

    露無 栄

    1978年、愛知県出身。学生時代からタワーレコードでバイヤーとして活躍。2004年からアップリンクに入社し、宣伝・配給などの業務に携わる。これまで携わった作品に『パラダイス・ナウ』『100000年後の安全』など。

バイトが面白過ぎて、就職活動を忘れた大学時代

―露無さんは、幼い頃からよく映画を見ていたんですか?

露無 栄

露無:むちゃくちゃ大好きだった、というほどではないんですが、家族が映画好きだったのでそれなりに見ていましたね。母親の話だと、テレビで映画を放映していると、小さい頃から真剣に見てたそうです。もうどこが良かったかは忘れてしまったんですが、テレビで放送していた『ハイティーン・ブギ』で感動して泣いちゃった記憶があります。多分、幼稚園くらいの頃ですが(笑)。

—じゃあ思春期で、映画にどっぷりはまったと。

露無:いやいや、そんな訳でもないです。映画もそれなりに見ていましたが、音楽やファッションなども同じくらい好きでしたね。それこそ小学生の頃から音楽はずっと聞いていましたし。初めて買った輸入盤のCDはジェーンズ・アディクション(80年代末に活躍したアメリカのオルタナティブ・ロックバンド)でしたね。

―小学生でジェーンズ・アディクションは早熟すぎるかと(笑)。

露無:10歳年の離れた姉の影響ですね。映画以外にも興味があったので、はじめから「絶対に映画の仕事に携わりたい!」という気持ちがあったわけではありません。でも幼心に、なんとなく「自分が好きな事を仕事にしよう」とは考えていたのかもしれませんね。いわゆる一般企業に就職して、スーツを着てオフィスで働くようなことはイメージしてなかったです。

―なんとなく今のお仕事を予見してたんでしょうか。学生の頃はどんなことをされていたんですか?

露無:名古屋にある大学の国文科に通っていたのですが、あまり大学での記憶はないんですよ(笑)。それよりも、入学と同時にタワーレコード(以下、タワレコ)でバイトをはじめたので、当時の思い出としてはそちらのほうが多いですね。輸入盤もたくさんあったり、当時はすごくかっこいいお店だなと思っていたんです。

―地方だと、輸入盤を取扱うお店は限られてましたもんね。

露無:タワレコでは、はじめROCKの担当で、その後J-POP、映画のサントラやDVDの担当へと変わっていきました。私の働いていた頃は洋楽から邦楽ロックへ、VHSからDVDへという移行が進んだ過渡期で。CDもDVDも、今とは違って飛ぶように売れた時代だったんです。それで、そのままバイヤーをやらせてもらえるようになって、自分がこうしたいと思ったことを目に見えて実現できて、すごく楽しいなと思っていたんですよ。そんなんだから就職活動をするっていうことを忘れていて(笑)、そのまま卒業後も働き、結局は7年位いたと思います。流れに身を任せて、といえばそうだけど、「普通に働くよりもここで働いていたほうがずっと面白い!」と思っていましたね。

面白い映画には、言語を超えて伝わるパワーがある

―では、タワレコを辞めてしまったのは?

露無:きっかけらしいきっかけはなかったんですが、ある程度「自分ができることはやり尽くした」と思ったんです。自分としては、バイヤーまで出来たことや、売り場自体も任されたことに、満足したんでしょうね。それから、実家でニートみたいな時期を1年くらい過ごして(笑)、たまたまインターネットで社員を募集していたアップリンクの求人情報を見つけ、上京しました。

―アップリンクで働こうと思った決め手は何だったんでしょうか?

露無 栄

露無:映画に携わる仕事に就きたいなとは思っていたんです。もともとアップリンクが扱う作品が好きだったということも大きな要因ですが、映画そのものだけではなく、イベントスペースや、カフェ、劇場などがあったことも魅力的に見えました。だからどちらかというと、「映画の会社に入りたい!」というよりは、いろいろ複合的にやってて面白そうだなって思ったというか。

—なるほど。現在は、配給・宣伝の担当とお伺いしましたが、具体的にはどのようなことをされているのでしょうか?

露無:ざっくりいうと海外から買い付けてきた作品を、国内での上映館を決め、それに向かって宣伝をするというのが仕事の主な流れです。買い付けしてきた予算と、回収したい予算を頭に入れながら、劇場の色やキャパも踏まえつつ、全国のどの劇場で上映するかとか、どのくらいの規模で公開するのかという映画全体の流れを組み立てています。

—例えば、買い付けの時に作品を選ぶ基準ってあったりするんですか?

露無:最近は私自身も海外の映画祭に行って、代表と「あれがよかった」「これはいける」という話をしながら買い付ける作品を決めています。単純に作品として面白いというのが基本なんですが、私の場合、自分でその作品を宣伝するので、実際に映画を見ているお客さんの顔を想像出来るかどうかは、結構重要な判断基準になりますね。結局その姿が想像できないと、宣伝のときに行き詰まりを感じると思うので。

—海外の映画祭では、英語や英語字幕の作品が中心だと思いますが、ストーリーなど全てを理解した上で、決めたりするんですか?

露無:英語は喋れないんですが、読んだり聞いたりするのはなんとかついていける程度です。大筋では間違っていないんですが、いざ字幕がつくと「あ、ここはこんなことを言ってたんだ」と思うこともしばしばありますよ(笑)。でも、この仕事をしていると、言葉がわからなくても映画から伝わってくる熱量がわかるようになるんです。面白い映画には伝わるパワーがあるというか。そこの感度は鍛えられたと思いますね。

—そして、宣伝までと。まさに、映画公開に向けたすべてを担う仕事ですね。

露無:そうですね。「こういう宣伝をして、こういう劇場で上映する」というように、世間にはまだ知られていない一本の映画を、買い付けから公開まで全体の過程をコントロールして、展開を考えていきます。この考える時が一番楽しい時でもありますね。

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映画のテーマと社会状況のタイミングが重要

映画のテーマと社会状況のタイミングが重要

—これまでに携わった中で、いちばん印象深い作品は何でしょうか?

露無 栄

露無:何本かあるんですが、パレスチナで自爆テロに行く若者を描いた作品『パラダイス・ナウ』(2007年日本公開)は印象深かったです。アップリンクではグローバリゼーションに対してアンチを唱えるドキュメンタリー作品を数多く上映していますが、『パラダイス・ナウ』は、パレスチナの人々の心の裏にある感情を描いたフィクション。劇映画だからこそ、ドキュメンタリーよりも多くのものが伝えられる力があることを痛感した作品でしたね。

—『パラダイス・ナウ』は公開当時、映画ファンからの評判がとてもよかった作品でした。

露無:でも、宣伝はあまりうまくいかなかったんです……。この作品は、パレスチナとイスラエルの微妙な問題を扱っているので、いくつかの媒体から「掲載は難しい」と言われたり。いわゆるメディアの自主規制ですね。もちろん、真摯に受け止めてくれたメディアも多くあったんですが……。自主規制の問題は、原発の問題を取り扱った『100,000年後の安全』の公開時にも遭遇しました。

—『100,000年後の安全』は、昨年、原発事故が起こった直後の4月に「緊急公開」と銘打って上映されましたね。

露無:はじめは2011年の秋か冬に公開予定だったのを、事故を受けて急遽4月に前倒ししたんです。いざ公開してみると、連日観客が押し寄せるような状態だったのですが、広まったのはTwitterなどの口コミが中心。メディアには事前の取材ではなく、事後に「ヒットしている」という現象として取り上げられる場合が多かったです。 

—逆に宣伝的に大成功という例はありますか?

露無:正直、宣伝によって「成功した」という実感はあまり得られないんです。新聞各紙をはじめ、多くの媒体に取り上げられても、集客に結びつかない場合もありますし、『100,000年後の安全』のように、ほとんど露出していなくても大ヒットすることもあります。宣伝だけでなく、映画のテーマと社会状況とのタイミングは重要ですね。それはドキュメンタリーにおいては痛感しています。その意味では『100,000年後の安全』をはじめ、フェアトレードの問題を扱った『おいしいコーヒーの真実』や、現在上映している遺伝子組み換え農産物をテーマにした『モンサントの不自然な食べもの』は世の中とのタイミングがばっちりと合った作品ですね。

好きなことだからこそ続けられる

—観客には映画をどういう風に味わってほしい、という思いもあるんですか?

露無:それは受け手側の自由なので、作品を観てもらったらどのように感じていただいても構わないと思っています。ただ、どの作品にも共通して感じてほしいのは、自分以外の世界には様々なことが起こっていて、いろいろな人がいろいろな立場や考え方があるっていうこと。例えば『パラダイス・ナウ』も、対岸の火事としてではなく、同じ人間が、パレスチナの地ではどう思っててどう動くのかが描かれていた素晴らしい作品でした。そんな映画をきっかけに、他者のことをもっと想像することで、何かより良い影響を与えることができればいいですね。

—そんな露無さんが思う映画の魅力とはなんでしょうか?

露無:映画は、いろいろなものが見えるし聞こえるし、いろいろなことができる。もちろん何にも見ないで想像したほうがもっと自由という側面はあるだろうけど、映画は、見て聞いていろんな情報があって、ひとつの芸術として世界を作るのに一番表現のしようがあるものだと思います。もちろんその映画を作るのって大変なことですけど、人に想像力というものを与えるためにはこれ以上無い、総合芸術だと思います。

—なるほど。そのような良い影響を与える作品を送り出していきたいと。

露無 栄

露無:これは経営者ではないから言えることなのかもしれませんが、もちろんヒットを目指すことは前提として一番重要なのかもしれません。だけどそれ以上に、今ここで公開することに意味のある作品を、私はやっていきたい。だからこそ、タイミングが重要だったりするんですけど、もしそれがズレたとしても、あとあと気づいてもらって、見た人がなにかを考えるきっかけになったらいいなと思っています。そんな作品を送り出していきたいですね。やっぱり、良い映画を配給しているという自負はあるので、ドキュメンタリーでも劇映画でも、今、日本で公開することに意味のある作品を、怯まずに手がけていきたいと思います。

—1つ1つの作品に掛ける思いがあるんですね。

露無:結局私、いままでにタワレコと今の仕事以外は全く続かなかったんですよ(笑)。やりたくないことは絶対やってこなかったし、これからも興味の無いことはやりたいとは思わないでしょうね。もしかしたらそれだけは、自分に正直なのかも。今の仕事も続いているのは、どんなに辛いことがあっても本当に心の底から嫌なことが無かった。そしてそれ以上に、この仕事に携わることから生まれる喜びの方が勝っているのかもしれませんね。

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    『お天気お姉さん』『Dr.スランプ アラレちゃん』『るきさん』

    部屋の壁の大部分は大量の本とマンガで占められているんですが、その中から仕事や生活で迷った時に指針にするマンガを持ってきました。お天気お姉さんもアラレちゃんもるきさんも、自分がどう生きるかをわかっている女性です。「ブレない」ということが良いことだとは思っていませんが、そういう軸のある女性を見ていると安心してくるんです。これを読めば、自分が物事に迷った時、どういうスタンスで取り組めばいいのかがはっきりしてくる3冊です。