CINRA

アイドルをバズらせる、仕掛人。

現在、アイドルグループ「BiS」のマネージャー兼仕掛け人としてメディアへの露出も増えている渡辺さん。中学2年で不登校になり、バンド活動と遊びに明け暮れ、高校中退ながらも、現役で早稲田大学政経学部に入学した異色の経歴の持ち主だ。BiSの「全裸PV」や「偽新曲ドッキリ」など次々と個性的なプロモーションを行う渡辺さんの発想の源はどこにあるのか。「本当にやりたい事じゃないなら、今すぐ辞めた方がいい」と話す、彼の仕事に対するスタンスとは?
  • インタビュー・テキスト:たろちん
  • 撮影:すがわらよしみ

Profile

渡辺 淳之介

1984年生まれ。中高一貫式の私立校に進学するもほとんど授業に出ていなかったため、高校2年時に進級できず退学。その後、音楽業界への就職を志し、大検取得を経て学歴のために早稲田大学政経学部へ進学。卒業後、つばさレコーズに入社。A&Rとして若手アーティストの発掘やプロデュースを手掛ける。現在はBiSのマネージャーとして、自らも積極的にメディアに露出し、独特のプロモーション活動で注目を集めている。

http://ameblo.jp/jxsxk/

「人とは違う才能がある」と思っていた中学時代

―昔から音楽が好きだったんですか?

渡辺:両親とも音楽が好きで、特に裕福でもないのにカラオケセットがあるような家庭に育ちました。小さい頃から歌うのが好きで、将来は歌手になるんだと思ってましたね(笑)。小学校時代は中学受験の勉強でほとんど遊べなかったので、「中学に入ったら遊ぶぞ!」って小学生ながらに決めてました。それで入学したら「音楽やるならやっぱギターだな」って思って、御茶ノ水にストラトギターを買いに行って。親にはツェッペリンを教えられ、それからニルヴァーナを知って洋楽にハマっていきましたね。

—中学校で洋楽とか聴いてても、あんまり周りと話が合わなそうですね。

渡辺:みんな圧倒的にglobeを聴いてましたね(笑)。中高は男子校で、学校ではいわゆる不良グループに入ってたんですけど、校内で音楽の話とかほとんどしなかったですからね。人付き合いが下手ではなかったけど、そのとき学校では孤独だったんじゃないかな。

渡辺 淳之介

そもそも僕、中学2年から学校行ってないんですよ。「俺は人とは違う、何でもできる才能がある」とか大槻ケンヂの『グミ・チョコレート・パイン』みたいなことばっかり考えてて(笑)。学校にろくに行かずに原宿に入り浸って、年上のお兄ちゃん達と遊んでることが多かったですね。当時は髪の毛ピンク色でしたし。

―(笑)。中学2年からずっと学校には行かなかったんですか?

渡辺:エスカレーター式だったんで高校には進学できたんですけど、結局ホームルームくらいしか行ってませんでした。そんな感じなので、2年生に進級できなくて学校側から「辞めてくれ」って言われちゃって。運もよかったんでしょうけど、高校時代はバンドをやってて、すごく人気があったんです。ライブハウスとかに出ても常に女の子が50人くらい来てキャーキャー言ってくれる。言っちゃえば学校行ってないだけで、超リア充だったと思います(笑)。

「S・V・O・C」から、現役で早稲田の政経へ

―真っ当なレールの上を通ってはいないんですね。高校を辞めた渡辺さんが大学に行こうと決意したきっかけは何だったんでしょうか?

渡辺:それまでは、自分は天才だって思ってたんですよ。ふざけた話じゃなくて。中学校のときも調子良くて、高校1年生のときなんて確実にバンドでデビューできるって確信があったんですけど、徐々に周りのバンドを見ていくうちに、「自分には1千万人を感動させる音楽は、作れないんじゃないか…」って思ってきて。それで高校も退学になった上に、今までやっていたバンドもゴタゴタのうえ解散しちゃって。そのときはほんと、自分は何者でもないんだと確信した瞬間でしたね。そこで大きな挫折を感じる訳です。

―なるほど…。そこで次に自分が進むべき道は大学にあると思った?

渡辺 淳之介

渡辺:それから自分はアーティストじゃ無理だってことで、音楽業界を目指す訳なんですよ。漠然とレコード会社に入れたらかっこいいなってイメージがあったんですけど、音楽の仕事がたくさん載っている本を読んだら「有名大学を出ないとダメだ」って書いてあったんです。「そんなので人間を判断するなんて!」とか思いましたけど、背に腹は代えられないので大検をとって、早稲田の政経学部に入りました。

—それで、いきなり早稲田へ!?

渡辺:結果、現役で入りました。模試とかの判定がよかったので受かるかなとは思ってたんですけど、やっぱり周りは悔しがってましたね。「全く勉強していないオマエが、なんで合格してるんだよ!?」って。僕は直前の11月とかでもバリバリ遊んだりしてて。予備校にも通ってたんですけど、年末でも女の子とチュッチュしてたり(笑)。

—真面目に勉強してる方からしたらたまったもんじゃないですね(笑)。

渡辺:でも1個だけ僕がみんなと違うことをしたのは、傾向と対策を自分なりに立てたんですよ。中学受験をした時のノウハウがあったというのもあるんですけど、とにかく過去問を徹底的にやった。ぶっちゃけた話、早稲田の入試って毎年同じような問題しか出ないんです。僕は中学から学校行ってないので当然SVOCとかから勉強するんですけど(笑)、実は頭のいい大学ほど初歩的な文法問題が出ない。だからその辺りの勉強は全部カットして、ひたすら長文読解や日本史の暗記に時間を割きました。

—あくまで「問題を解く」という部分だけに力を注いだ。もともと物事の仕組みとかを見抜いて戦略を立てるのが上手なんですね。

渡辺:もちろん全部理解できてるとは思いませんけど、気付いたら早いタイプかもしれないです。ストイックに勉強したところもありますけど、期間としては半年くらいなので。そのおかげで大学の授業には全くついていけなかったですけどね(笑)。それで大学に入学しても勉強したい事があって入学した訳じゃないし、音楽業界に入るための通過点でしかなかったので、おかげでさまで大学は6年間通わせていただきました(笑)。

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ここ1年は2週間に一度、何か仕掛ける事を考えてきた

ここ1年は2週間に一度、何か仕掛ける事を考えてきた

—それで、卒業後に念願の音楽業界に入った訳ですね。現在のつばさレコーズではA&Rという肩書きですが、このA&Rというのはどういう仕事なんでしょう?

渡辺:A&Rは「アーティスト・アンド・レパートリー」の略称で、会社によっても変わると思うんですが基本的にはアーティストに関わる全ての責任者という感じです。もともと僕はレコード会社に入る前から、アーティストの裏方で戦略部分に関われることがやりたくて。今はBiSというアイドルを担当しているんですが、発掘からCDの制作、マネージメントまで全てを担っています。

—もともとアイドルをやろうと思っていたんですか?

渡辺 淳之介

渡辺:最初は(BiSのメンバーである)プー・ルイというソロアーティストをプロデュースしていたんですが、あんまり売れないので「もうプー・ルイに好きなことをやらせよう」ということになったんです。そしたら彼女が「アイドルグループをやりたい」って言ってきた。「今までアーティストとして頑張ってきたのになんでアイドル?」と思ったんですけど、泣かず飛ばずだったので試してみるか、と。当時プー・ルイは僕のことがすごい嫌いだったらしくて、僕を困らせようとして言ったみたいですけどね(笑)。

—それでアイドルをやることに抵抗はなかったんですか?

渡辺:ほとんど知識もないので不安はありましたが、漠然とやってみたいなとは思っていました。実際アイドルのマーケットに参入してみると、地下アイドルの現場がすごい盛り上がっていることに気付いたんです。ライブをブッキングしても5〜10人くらいしかお客さんが来なかったのが、アイドルという形で打ち出した途端に最初から3〜40人来てくれた。それまで、自分の中で戦略としてプー・ルイにはアーティストぶって「ニルヴァーナ聞いてましたって言え!」とか言ってたんですけど、それが戦略じゃなかったということに気付いた瞬間でしたね。ソロでやってた時と音楽性は一切変わってないのに、違うマーケットに入ると全く別の捉えられ方をする。こういうことがあるんだって思いました。

—今BiSでは個性的な仕掛けをたくさんやってますよね。

渡辺:一応こうなったら嬉しいよねと思ってやっていますが、大概失敗してますね。今までで一番プロモーションになったのは、BiSが全裸で出演するPVを作ったときなんですけど、あれを戦略として仕掛けたかというと難しいところです。こうやったら面白いよね、くらいで1日1万PVいけばいいかなと思ってたら、30万PV位いっちゃって、完全に試算を間違ってた。だから思うように仕掛けが成功した事例って1回もないんです。僕らはインディーズメーカーなので、予算が無い中でどれだけメジャーの人たちに負けないプロモーションができるか、トライアンドエラーでやっていくしかない。だから2週間に1回は何か話題になるようなことを仕掛ける、というのを目標にこの1年間はやってきました。

—実際に、色々と話題性が出ていると思います。では予算が少ない中で、現実的な売り上げや結果とのバランスはどうやってとっているんですか?

渡辺:絶対に赤字にならないということはもちろん、基本的に超シビアに売り上げは見てますね。ただお金をかければいいものになるとは思っていないので、いかに安くあげるかというのは一番考えている部分でもあります。レーベルの中でもコストカッターって言われてるくらいですから(笑)。

本当にやりたい事じゃないなら、今すぐ辞めたらいい

—渡辺さんが仕事をしていく上で大切にしているポリシーはありますか?

渡辺:常に「面白いか」「面白くないか」は考えてますね。やっぱり少ない予算の中でいかにバズらせるのかを考えると、今は口コミに頼るところが大きい。そのためにはみんなに面白いと思ってもらえるようなアイデアを出さないといけない。ただ、お金があったとしても仕掛けの規模が大きくなるだけで、やっぱり基本スタンスは変わらないと思います。以前は「IDOL」という曲のプロモーションでファンの人を巻き込んだドッキリを仕掛けたんですが、もっと売れたら「日本総ドッキリ計画」とかやってみたいですね(笑)。

—最近では、渡辺さん自身の露出も多いですよね。

渡辺:もちろん、求められて出る事が多いですけど、僕が何しているのかは分かりやすく見えるように意識してやってます。僕もこの業界に入る前は、裏方の人が何やっているのか見たかったので。アーティストを売っていくのは前提として当然ですが、いつかはアラン・マッギーやマルコム・マクラーレンみたいなレジェンドな裏方になりたいんです(笑)。

—では最後に、渡辺さんにとって「仕事」ってなんですか?

渡辺 淳之介

渡辺:そうですね……。これは今、ようやく思えるようになったんですけど、「遊び」ですかね。これで飯食ってるのにこんなこというのもあれですけど、「遊び」みたいに働きたいと思っていますし、そう見られたいとも思っています。だから今は、プライベートの約束をすっぽかしてまで、仕事に取り組んじゃってますね。僕にとっての仕事とは、もうどっぷりと浸かって離れる事ができない薬…、麻薬みたいなものです(笑)。

—それくらい、生活の中で一番のことだと。

渡辺:そう、ほんとどっぷりですね。だから、本当にやりたい事じゃないと思って仕事をやっている人がいるなら、今すぐ辞めた方がいい。だってこの世の中、何してでも食っていけると思うんで。僕は今、自分がやりたい事を仕事にできるって、こんなに楽しいことないなって思うんですよ。だからなにごとも「できない」って言わないで、どんどんやってみて挑戦したほうがいいと思います。「暗いと不平を言うよりも、すすんであかりをつけましょう」って、朝やってる宗教っぽい番組でも言ってましたしね(笑)。

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上條淳士『TO-Y』

パンクバンドのボーカルがアイドル歌手になる漫画です。大学の時に読んだんですけど、マネージャーがアイドルを育てる裏事情が描いてあって「こういう仕事なんだ」ってイメージを持つきっかけになりました。それまではデヴィッド・ボウイが「火星から来た男」とかいってるのを見て、かっこいいと思ってたんですけど、それを戦略として仕掛けてるレコード会社がいるってことにも気付いた。それを自分でできたら楽しいんじゃないかって思いましたね。今の仕事を目指すきっかけにもなった僕のバイブルです。
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