「偏愛と再現性の両立」がメディアを強くする。KAI-YOU.net編集長・恩田雄多さん

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生まれては消えていくWEBメディア。一方で、着実に成長し、長く人気を維持しているものもある。そんな「強いメディア」には、どんなルールやノウハウがあるのだろうか?

WEBメディアや雑誌などの編集長を訪ね、その経験則から媒体を成長させるヒントを探る「名物編集長のメディア成長戦略」。第1回は、ポップカルチャーメディア「KAI-YOU.net」の恩田雄多編集長だ。紙媒体の編集者やフリーライター、アニメショップ店員などを経て2017年から株式会社カイユウに加入。2020年1月、編集長に就任した。

7年以上続く人気メディアを引き継いでから、約1年。どんな思いで運営にあたってきたのか。また、それを持続、成長させていくためにどのような舵取りをしているのか、話を聞いた。
  • 取材・文:榎並紀行(やじろべえ)
  • 撮影:北原優
  • 編集:服部桃子(CINRA)

Profile

恩田雄多

ポップポータルメディア「KAI-YOU.net」編集長。1985年生まれ。東京工芸大学アニメーション学科卒業後、キャラクタービジネスのマーケティング・コンサルティングを手がける会社で、BtoBの業界誌やフリーマガジンの編集として7年間従事。フリーライター、アニメショップ店員を経て株式会社カイユウへ。2020年1月から現職。過去・現在・未来の「ポップ」を求め続ける。

http://kai-you.co.jp/

編集者の「偏愛」に依存しすぎない体制をつくる

―まずは、KAI-YOU.netの制作体制を教えてください。

恩田:KAI-YOU.netだけでいうと、社内の編集者兼ライターがぼくのほかに2人。外部の編集さんやライターさんも含めると全部で20人ほどです。外部の方には、ぼくらの手が回らないときや、専門的な知識が必要で、そのジャンルが得意とする方に「ぜひ書いてもらいたい」と思ったときに協力してもらっています。

恩田雄多さん

―そうすると、基本は編集者3人でほぼ毎日、記事をアップしているんですか? カテゴリーだけでも本・マンガ、情報化社会、ストリートなど、8つはありますよね。

恩田:ミニマムですよね。それでいて扱う分野が広範に渡るので、自分でも頭おかしいなって思います(笑)。

―仕事はどのように社内で分担しているのでしょうか?

恩田:特別なことはしていませんが、優先度を話し合ったうえで、だれか一人にタスクが集中することがないよう棚卸ししています。その結果、「どうしてもやりたいけどいまじゃない」と判断することもあります。だからといって機械的に割り振っているわけではないので、本人に「絶対に自分がやりたい」という熱意があれば、尊重するようにしています。

―編集長である恩田さんご自身も、多くの記事を書かれています。そのかたわら、原稿のチェックもされているわけですね。

恩田:全部ではないけど、ほぼ見ていますね。ただ、さすがにマンパワーが足りないので、昨年編集長を退任した新見(現在は「KAI-YOU Premium」の編集長)の力も借りながらなんとかやっています。
もっと若い編集者に任せるようにしないといけないし、新見からもそう言われているんですけど、つい自分で書きたくなっちゃうんですよね。さすがにそろそろアホみたいに手を動かすのはやめて、マネジメントに集中していこうと思っていますが。

KAI-YOU.net。日々幅広いジャンルの記事がアップされている


―恩田さんはもともとライターとしてKAI-YOU.netに加入し、2020年1月に新見さんから編集長を引き継いだそうですね。

恩田:正式に引き継いだのは昨年ですね。ただ、じつはその1年前の2019年頃からぼくが実質的な責任者として判断することが増えていました。新見にサポートしてもらいながら、編集長としての準備期間を与えてもらったという感じです。

―万全を期したうえでの、体制変更だったと。

恩田:KAI-YOU.netは、非常に個性的で思想が強いメディアです。もともとは代表の米村と前編集長の新見が「常に新しい『ポップ』を探求し、世界をより豊かに楽しくさせること」を目的に立ち上げ、彼らがひたすら愚直に頑張ることで成立してきたようなところがありました。それをいきなりポンと渡されて、問題なく運営するのは難しいだろうという判断でした。

―それまでは米村さんと新見さんという「個の力」が大きかった。しかし、これからはそういった属人性の高さに加え、「再現性」を高めることも意識すると、恩田さんは編集長就任の挨拶で述べられていましたね。

恩田:そうですね。これまでのようなやり方だと、何らかの理由で編集長が欠けた場合に、メディア自体が立ち行かなくなってしまいます。特にKAI-YOUは、ポップという価値観を社会に認知させることを目指していて、実現するには長い時間がかかります。この先もずっと発信を続けていくためにも、個人の才能や個性に依存しすぎない体制をつくる必要がある。そういう意味で「再現性」という言葉を使いました。

ただ、一方で、ある程度の属人性は必要だとも思っています。編集長や編集者一人ひとりの価値観、あるいは偏愛みたいなものがメディアの特色をつくっていくと思うので。だから、メンバー全員の個性をフラットにして均一化するつもりはありません。

―属人性と再現性を両立するには、どんなことが必要でしょうか?

恩田:各々が独自の考えを持ちつつも、根っこの部分では同じ方向を向いていることが大事なんです。そこは、やはりコミュニケーションの積み重ねでしかないのかなと。例えば週イチの会議の場で企画のことだけ話すのではなく、メディア全体の方針も確認し合うとか。オンラインが中心になったいまのような状況下だと、なおさら丁寧にすり合わせていく必要があると思います。

センシティブな話題はダブルチェックと社内議論を徹底する

―記事の企画や取り扱うネタを決める際に、基準にしていることはありますか?

恩田:一番の基準は「ポップかどうか」です。ぼくらが考えるポップとは「そのジャンルを好きじゃない外側の人にも届きうるコンテンツ力のあるもの」で、いわゆる「サブカル」とは対義語にあたります。
KAI-YOU.netがカルチャーメディアではなく、わざわざポップカルチャーメディアと名乗っているのも、そんなこだわりがあるからです。ですからぼくらがポップだと思えば、例え議論を巻き起こしそうなネタであっても出したいと考えていますね。

―ポップでありさえすれば、ジャンルを限定せずに取り上げる。結果、KAI-YOU.netでは、非常に幅広いジャンルの記事が掲載されています。これ、記事のチェックもかなり大変なのではないでしょうか?

恩田:こんなに小規模な体制でオールジャンルを扱うって、めちゃくちゃ楽しいんですけど、本当に大変です(笑)。しかも、KAI-YOU.netの場合、一般的なニュースメディアのようにプレスリリースをそのまま流すのではなく、ライターや編集部の見解、考察などを入れることが多い。となると余計に、表現の仕方に問題はないか、事実誤認がないか、気を配る必要があります。

―どんなチェック体制をとっていますか?

恩田:センシティブな話題や議論を呼びそうなネタの場合は、ぼくと新見でダブルチェックをしています。ぼくらでは判断がつかないジャンルであれば、専門的な知識を持った社外の方に確認をとります。また、先ほど言ったとおり記事中にライターの個人的な見解を入れることはむしろ推奨していますが、それもそのまま鵜呑みにして流すのではなく、その見解が的外れなものでないか、記事を出す前に編集部内で議論したりしていますね。

―恩田さんが書いた原稿も、ほかの編集部員にチェックしてもらうのでしょうか?

恩田:ぜんぜんありますね。原稿をチェックしてもらうと、ぼく自身の感覚や視点がずれていることに気づけたりもします。そこは編集長だろうとなんだろうと、立場に関係なく指摘できる関係性ができていると思いますよ。

―それは健全ですね。もう一つ、「炎上」についてもお聞きしたいです。多くの編集部が気を配っている部分かと思いますが、KAI-YOU.netではどんな炎上防止策やケアを行っていますか?

恩田:うーん……。マジでこれ正解がないですからね……。まず、すべての事象について、自分たちの感覚をアップデートしていくことは絶対に必要ですよね。そのうえで、批判や誤解を招きそうなネタを扱うときは、公開する前に複数人の判断を仰ぐこと。それでも炎上してしまって、明らかにぼくらに落ち度があるのなら、そこはもう真摯に反省して謝罪するしかない。原因や問題点を明文化して、適切に謝罪する。これに尽きるんじゃないでしょうか。

―なかには的外れな批判もある。そこにどう対処するかも難しいところです。

恩田:過敏になりすぎてメディアとして言いたいこと、言うべきことをひっこめてしまうのは違うかなと思います。あらゆる批判を恐れて萎縮してしまうと、メディアはやれませんから。仮に炎上した際も、本当に我々に落ち度があったのか、それともやるべきことをきちんとやったうえで世に出したものなのか、きちんと検証して判断する必要があります。とりあえず何も考えずに謝っちゃって、安易に解決をはかろうとするのはよくないですよね。

他人事だと読者は離れる。当事者として面白がる姿勢が大事

―編集部には20代のメンバーが2人いらっしゃるということですが、育成にあたり重視していることはありますか?

恩田:正直、記者の育成は難しいですね。ほかの編集長に育成する方法を教わりたいくらいです。ただ、ひとつ気をつけているのは「否定をしない」ということ。2人の編集者とぼくはほぼ一回りの年の差があるので、感覚や価値観はまったく違います。
正直、彼らの考えや言っていることが理解できないこともありますが、それでもまずは受け止めるようにしています。それは、彼らの信念や熱量を大事にしてあげたいということもありますが、自分自身をアップデートするためでもあります。

―というと?

恩田:新しいものや理解できないものに対して関心を示さなくなると、あっという間に感度は鈍るし、視野も狭くなる。それは、エンタメやメディアに関わる人間としては致命的な衰えですよね。だから、力づくでもつねにいろんな情報を受け取ったり、面白がったりするようにしなきゃなと思っています。

―とはいえ、年を重ねるにつれ若者と感覚がずれていくのは避けられないと思います。新しいムーブメントを面白がるコツみたいなものはあるのでしょうか?

恩田:それの何が面白いのか、自分の頭で考えているだけではダメですよね。実際にそれにハマっている人たちのコミュニティーに入り、そこにいる人たちと話したり、一緒に遊んで体験してみたりすることが大事だと思います。でないと、本質は見えてこないですから。

KAI-YOU.netが7年以上続いているのも、なかの人がさまざまな物事に関心を持ち、当事者として遊んだうえでアウトプットをしているからだと思うんです。発信するものに対して他人事のような態度でいると読者も冷めるだろうし、何よりぼくら自身のモチベーションも持続しません。

―当事者になる。なるほど、たしかにとても大事なことですね。

恩田:カイユウでは「ポップ十箇条」を社内だけで共有しているんですが、そのうちの一つに「よく学び、よく働き、そしてつねに遊ぼう」というものがあります。自分自身が当事者としてそれにハマり、ポップカルチャーの中心にいるという自覚を持って発信することを心がけるようにしていますね。

……ただ、それってすっごく大変ですけどね。読者として外から見ていたときは、「KAI-YOU.netのなかの人たち、楽しそうだな」って思ってたけど、実際に自分がやるとなると……楽しいだけじゃなかった(笑)。

―遊び続けるのもカロリー使いますからね。恩田さんは遊ぶことに飽きてしまったり、好きなものにいつかハマれなくなるんじゃないか、みたいな怖さを感じたりすることはないですか?

恩田:めちゃくちゃありますね。ぼくも「アイドルマスター」やジャニーズが好きですけど、いつかオタクを続けられなくなるんじゃないかとビビったりします。あとは、新しいものをまったく受けつけなくなって、昔懐かしいものにしか感動できなくなったらどうしよう、みたいな危機感を感じることもありますよ。

ただ同時に、そういう危機感を持っているうちは、まだ踏ん張れるんじゃないかなという気がします。飽きたりハマれなくなったりすること自体は、人の価値観の変化としてあって当然ですし、否定されるものではありません。でもKAI-YOUにいる以上は、「きちんと遊べてるかどうか?」をこれからも常に自分に問いかけるようにしていきたいですね。