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100年後の未来の働き方は?なくなる仕事、あり続ける仕事について語るトークセッションレポート

「ゼブラ企業」をご存知だろうか? 米国の4人の女性企業家が2014年に提唱した概念で、特徴は「社会性と経済性の両方の追求」や「社会的に複雑な課題への挑戦」などが挙げられる。

まだ日本では認知が進んでいない「ゼブラ企業」の認知拡大やコミュニティの形成を目指したイベント『ZEBRAHOOD』が、6月に下北沢で開催された。2回目の開催となる今年のテーマは「スクランブル 〜100年をみんなで作る最初の1日〜」。開催地である下北沢の各地でトークセッションやワークショップ、アート展示などが実施された。

本記事ではトークセッションプログラムの一つ「働くと稼ぐ:未来を作る仕事。これからの稼ぎ方」の内容をお届けする。

  • 編集・テキスト:吉田薫

テクノロジーが発展する社会で人々が労働に求める「手触り感」とは

同トークセッションは今年の開催テーマ「100年をみんなで作る最初の1日」に即して、「100年後の未来の働き方」について。登壇したのは、内科医で日本メメントモリ協会代表理事を務める占部まりさん、ハーバード大学で素粒子物理学を研究している久保田しおんさん、AI搭載の自動収穫ロボットを活用したスマート農業を展開するAGRIST株式会社代表取締役・秦祐貴さん。MCは株式会社XLOCAL代表取締役・坂本大典さんが務めた。

トークセッションは、今後の働き方や生き方について、それぞれの考えを話すところからスタートした。

秦:いま農業とAIを掛け合わせる活動をしていますが、一般的にAIが浸透すれば仕事がどんどん変わると言われていますよね。だからこそ、僕らが何のために汗水をたらすのかという部分を考え直すタイミングにきていると思っています。そう考えたときに、農業をやりたいという人はいまより増えるんじゃないかなと。最近だと、定年退職した後に農業をはじめる人がいますよね。それはお金が儲かるかどうかは別として本質的に楽しいからだと思うんです。自分が汗水たらしてつくった野菜を収穫して食べたら美味しいかった、それが嬉しかったという、体験をより求めるようになるのではないかと思います。

秦さんの「楽しい」というキーワードを受けて、占部さんは楽しさの重要性を医師の視点から以下の通り話した。

占部:医療の現場で30年以上従事していますが、人はロジカルには絶対動かないんですね。健康診断の結果を見て「コレステロールが高いから体重を減らしましょう」と言っても、実際に減らしてくる患者さんは少ないわけですよ。でも、例えば園芸が好きな人がサークルに行って体を動かしはじめるというようなスキームだったら動いてくれる。そういったモチベーションがないと人は動かない。

この課題に対して、医療界ではやっぱり人とのつながりがまず第一だと考えています。農業がまさにですね。早稲田大学が農業従事者の健康調査をしたことがあって、男性の場合、健康寿命が農業従事者の場合、8年延びるという結果が出たんです。面倒くさいことは機械に任せたあと、手触り感や楽しさを取り戻していくのかなと、いまの話を聞いて思いました。

また、久保田さんは研究者の立場から「手触り」について以下のように話す。

久保田:研究者って、本当にいい意味で自分勝手な職業だと思ってるんですね。自分の知的好奇心を好きなだけ探求して、お給料をいただいて、研究を続けるということは幸せなことだと思っていて。AIなどが発展してきて、問題のソリューションを探すことはいろんな新しいテクノロジーでもできるけれども、問題そのものを見つけ出すということは人間にしかできないと思っているんです。その手触り感を求めて研究者になる人は絶えないと思います。

100年後に残る仕事のキーワードは「美」に関すること

「100年後を考えたときに、こんなふうな仕事は100年後も何か楽しそうだよねって思える仕事や働き方みたいなものはどう思いますか」。2つ目の議題としてMCの坂本さんから投げかけられた問いに、占部さんは「美」というテーマを挙げる。

占部:完全に「美」に関する仕事だと思うんですね。美に関する研究が最近進んでいて、「美しい」と感じるときの頭の中の変化の研究がなされてるんですね。その研究のなかで、「美しい」と感じる対象は人それぞれ違うんだけど、頭の中で興奮する部分は一緒なんですよ。なおかつ、正しい行ないをするときも同じ場所が興奮するということが最近わかってきていて。大昔にプラトンも言っていた「真善美」というものを感知する中枢が一緒であると。そうすると、楽しく暮らしていくためには、やっぱり良い行ないをして意識を高めていきましょうということになるのだけれども、先ほどもお話しした通りで「より正しい行ないをしましょう」と言われても楽しくないので誰もやらない。だから、そういった美に関する仕事、「美しいな」って誰かが感じるような仕事っていうのは必ず残るんじゃないかなと思います。

久保田さんは「自分で言うのもあれですけど、研究者ってやっぱりずっと残るんじゃないかっていうのはすごく思いますね」と切り出した。

久保田:研究者って世の中を理解するためにモデルをつくって、モデルと世界との整合性を検証していく分野であって、そのモデルが壊れたときこそ進歩があるわけですよね。(中略)でも、そのモデルっていうのも近似値でしかないので、絶対に正しいモデルとか絶対にちゃんとフィットしたモデルであるというのは、何十年かかってもできないはずです。だから、モデルをつくるという活動は絶対続いていくもの。

(中略)私たちが「(物事を)理解できた」っていうときって、きっと頭の中でいろんなことをパターン認識できて、それが自分の持っている世界のモデルとぴったり一致したからこそ、嬉しさを感じて「美しい」と感じるんだと思うんです。だから「美を愛しむ」一つの職業として研究者もあるのかなと思いました。

100年後にAI関連の仕事はなくなる? 

「逆に100年後になくなりそうな仕事は?」という問いに対し、久保田さんは「人間らしさ」という視点からAI関連の仕事はなくなるのではと話す。

久保田:便利さという点で、いまAIテクノロジーを私たちは使っているけれども、継続的に生活や仕事を便利にしていったときに、私たちには莫大なフリーの時間ができてしまう。その時間をどう使うかというと、やっぱり何かを生産するという活動だと思うんですね。そうすると、仕事として一時期存在したものが、人間の生産性を取り戻すための活動として1回ループするようなかたちで戻るのではないかと思っています。

AIを活用したスマート農業に取り組む秦さんは、意外にもAI関連の仕事がなくなることに関しては「(自分も)近いことを考えていた」と話す。

秦:オープンAIではないんですけど、AIなどのテクノロジーが自然資源などと同じように、当たり前に存在する世界になっていくんじゃないかと思っています。AGRISTのように「AIを提供しています」という会社があるのではなく、もっとAIがオープンなものになるほうが自然なんじゃないかなと思います。

大人は意外に自分の「楽しい」をわかってない

最後の質問は「小学生や中学生、子供たちにどう働いたらいいかをアドバイスするならどのように言うか」。それぞれが以下の通り答えた。3人の回答には「楽しい」「ワクワクする」といったキーワードが共通していた。

占部:楽しいと思うことをやるということ。ワクワクすることを積み重ねるということは伝えたいですね。

久保田:好きとか楽しいということを大事にするといいよというのは言うと思う。私自身も水木しげるさんの「幸せの七か条」のなかにある「好きの力を信じなさい」という言葉を読んで研究者になったので、そこはもちろん大事ですけれども、現実的なことを考えたときにやっぱり好きだけでは駄目で。自分の進路などを考えるとき、「好きなこと」「得意なであること」「お金になること」という視点から考えることが多かったのですが、「お金になること」という項目が私のなかでだんだん変わってきていて。「お金になる」の代わりに「貢献先があること」っていうふうに変わっていくんじゃないかと思っているんです。それに、好きであることというのは第一条件であるんだけれども、「好き」をもうちょっと細分化したときに見なきゃいけない構成要素もあると思う。そういう部分は過去の自分や小学生・中学生には伝えたいなと思います。

秦:小学生に言うことじゃないかもしれないですけど、自分に正直に生きろっていうことですかね。自分が高専に入学した理由は、食いっぱぐれがなさそうだから。それはそれでよかったとは思うんですけど、もっと自分が直感で、心がこっちかなと思うほうに進んでもよかったかなと。親とかにロジカルに説明するのは難しいけれども、何か自分はこれがやりたいんだ、ということをやったほうがいいよというのは伝えたいですね。

3人の回答を受け、MC・坂本さんは以下のように語る。

坂本:大人になればなるほど、自分が「楽しい」と思うことが何なのか、じつはわかっていない。キャリア相談に乗ると「何がしたいの?」と聞いたときに出てこない人が結構いる。それはよくないなと思うんです。「楽しいと思えている」ということがこれから働くうえですごく大事で、それを見つけにいく。見つかっていないなら体験しにいくことが大切。楽しいことを見つけるためにどんどん行動して、見つけられたら楽しむ、そういうシンプルなことが大事になってくると思いました。

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