仕事と夢は両立できるか。『その仕事、やめる?やめない?』イベントレポート

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やりたいことがあるけれど、それをどう仕事で実現していけばいいのか。あるいは、仕事とどう両立すればいいのか。副業や独立などさまざまな選択肢があるなか、悩みを抱える人は少なくない。

そんな悩める人々へ向け、クリエイティブ業界の求人サイトCINRA.JOBが、『その仕事、やめる?やめない?』をテーマにイベントを開催した。イラストレーターに仕事相談しながら似顔絵を描いてもらう「お悩みイラスト会」をはじめ、一流クリエイターやCINRA.JOBスタッフによる「仕事にまつわる選書フェア」、お仕事グッズの販売などが、2019年3月18日から24日まで、渋谷のBOOK LAB TOKYOで行われた。 なかでも最終日に行われたトークショーは、募集後すぐに定員オーバーに。来場者へ向け、やりたいことを仕事にする方法や、副業を続ける秘訣などを語ったのは、デザイン会社に勤務しながら作家活動を行うくらもちあすかさんと、会社員を経てファッションブランド「sneeuw」を立ち上げた雪浦聖子さんのお二人。モデレーターは、ノンスタイルなライフスタイル・マガジン『生活考察』の編集長・辻本力さんが務めた。 職種も働き方も異なる三名が、夢を諦めきれない人たちへ贈るヒントとは? 当日の様子をレポートでお届けする。
  • 取材・文:宇治田エリ
  • 撮影:きくちよしみ
  • 編集:吉田真也(CINRA)
  • Profile

    くらもちあすか

    デザイン会社に勤務。会社が運営するブランドのショップマネージャーとして従事する傍ら、個人で作家としても活動。ぼかしたり、くずしたり、再構築したりなど、モノの見方や新たな側面を模索し、日常の景色から視点を少しずらすことで発見できる愉しいモノゴトを、作品に取り入れている。

  • Profile

    雪浦聖子

    1978年生まれ。東京大学工学部卒業後、住宅設備メーカーに勤務。その後、専門学校のESMOD JAPONで服飾デザインとパターンを学ぶ。卒業後、ファッションブランド「YEAH RIGHT!!」にてアシスタントを経験。2009年にsneeuwを立ち上げる。

  • Profile

    辻本力

    1979年生まれ。ライター・編集者。茨城県の文化施設「水戸芸術館」を経てフリーに。2010年、「生活と想像力」をめぐる「ある種の」ライフスタイル・マガジン『生活考察』を創刊。2019年より出版社「タバブックス」に外部役員として参画。文芸・カルチャー系の媒体を中心にいろいろと執筆中。

悩みその1:「仕事で求められることと、自分のやりたいことにギャップがある!」

『その仕事、やめる?やめない?』をテーマに開催されたこのイベント。最終日に行われたトークショーでは、事前に参加者から仕事に関する悩みを募集した。それを議題に、登壇者たちがお互いの考えを語り合った。

まず辻本さんが参加者に向けて「いまの仕事をやめようかなと思っている方?」と尋ねると、半数以上が手を挙げた。くらもちさんと雪浦さんの周囲にも、作家活動と仕事の両立で苦労したり、とりあえず就職した会社でいつまで働くか悩んだりする人が多いという。終身雇用が「絶対」ではなくなり、働き方改革によって、副業や独立など働き方の可能性が広がった現代だからこその悩みといえる。

最初のトークテーマとなったのは、「会社で求められることと、自分がやりたいことにギャップがある」という参加者からのお悩み。「まだまだ現場で技術を磨きたいけど、管理職を任せられる」「行きたい部署に異動させてもらえない」といった、「やりたいことができない」ジレンマ。それに対してどのように向き合い、どうギャップを埋めていくべきかを語った。

辻本:雪浦さんは、住宅総合機器メーカーのTOTOで4年間働いたのちに独立しましたね。

雪浦:はい。一般大学に通っていたものの、デザインの仕事がしたいと思ってTOTOに新卒で入りました。でも、美大卒じゃないので、専門知識や技術があるわけではありません。だから、デザイン部署への異動はかなりハードルが高いものでした。

結局、配属されたのはウォシュレットを設計する部署。だから資料作成の際、無駄にこだわったりして、デザインしたいという要求をそこで満たしていましたね(笑)。毎年、デザイン部に行きたいという希望は出していたのですが、結局4年間配属されなくて。

こうなったら企業のなかでデザインするのではなく、自分で起業してデザインしよう思って、洋服のデザイナーになるために専門学校に入りました。

雪浦聖子さん

雪浦聖子さん

辻本:仕事をやめるというのは、ある意味リスクのあることですけど、それでもデザインの勉強がしたかったと。

雪浦:個人的には、やりたいことを我慢し続ける必要はないと思いますね。自分のやりたいことを叶えたいのであれば、たとえ遠回りだとしても、勇気を持って自分の信じた道を突き進んでみるのもいいと思います。

辻本:なるほど。一方で、くらもちさんは会社員と作家活動を両立されていますね。

くらもち:私は現在、ステーショナリーや雑貨を扱うショップの店長として働いています。広告系のデザイン会社が企画運営しているショップなんですが、そこのイラストレーターさんやアートディレクターの方の作品が大好きで入社しました。最初はアルバイトからのスタートでしたが、ステップアップして社員になり、いまは店長になりました。

くらもちあすかさん

くらもちあすかさん

辻本:すごいですね。店長をしながら、作家活動をするって大変じゃないですか?

くらもち:そうですね。ただ、作家を一本でやっていくという選択肢は、生活や将来への不安も出てくるので、とても大変なことだと思います。だから、会社員をやりながらも、好きな作家活動ができているいまの環境は、私には向いていると感じます。

また、当たり前ですが、会社で働くのも大変で、組織の規模が大きくなるほど、全員が思い通りに働くのは難しくなるケースが多いと思います。ですので、会社で求められることと、やりたいことが完全に一致している人は少ないのではないでしょうか。

その反面、会社で働くからこそ得られることもあるはず。私の場合は販売という職種柄、人見知りを克服できたり、多様な価値観に触れられたりする経験が、作家活動にもプラスの影響を与えてくれています。だから、まずは仕事をやりつつも、好きなことは仕事以外でトライしてみるのもありだと思いますよ。

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悩みその2:「いったんは就職してみたけど、やっぱりやりたい仕事をしたい!」

悩みその2:「いったんは就職してみたけど、やっぱりやりたい仕事をしたい!」

二つ目のトークテーマは、「いったんは就職したけれど、やっぱりやりたいことを仕事にしたい……。どうしたらいいですか?」というお悩み。これに対して、就職したあとにやりたい仕事への道に踏み切った雪浦さんと、本業と作家活動を両立させているくらもちさんが、それぞれの意見を述べた。

雪浦:新卒で入社して間もない頃、会社の先輩に言われたんです。「1年目は会社に育ててもらう時期で、3、4年目くらいから会社に還元できるようになる」と。だからはじめは、できないことだらけでつらくなることもありましたが、とりあえず3、4年は頑張って続けてみようと決めていました。

雪浦:一方で、30歳になる前に、やりたいことに向かって舵を切りたいという思いもありました。おばあちゃんになったときに後悔したくないし、やってもいないのに諦めちゃダメだなと思って。それで会社勤めを4年間したあと、26歳で方向転換したんです。

ただ、30代になったいま思うのは、30歳を超えてからでも、やりたいことに踏み切るのは遅くないということ。それこそ、くらもちさんにみたいに両立するのもひとつの手段ですし、20代はいろいろな可能性を探ってもいいと思います。

辻本:いざ会社をやめてみて、苦労したことはありましたか?

雪浦:専門学校を卒業後、独立したもののそれだけではお金にならず、カフェのバイトも独立前後であわせて1年くらいしていましたよ。その頃には結婚していたので、多少は金銭的にパートナーに頼らせてもらっていました。

でも、いちからお金を稼ぐことの大変さを知れたり、大切な仲間と出会えたりしたので、私にとっては貴重な期間でしたね。当時のバイト仲間でカメラマンになった人がいて、いまは作品の写真を撮ってくれることもあるんですよ。

辻本:独立時の金銭的なギャップは重要な問題ですよね。自由があっても、お金がなければ生活が苦しい。くらもちさんはどう思いますか?

くらもち:私も作家をはじめた当初は、作家だけで生計をたてる自信が自分にはなかったので、会社員を続けながら活動することを選択しました。

明確にやりたいことが見つかっているなら、そっちに舵を切るのもいいと思います。しかし、まだ迷いがある人や、やりたいことが見つからない人は、仕事を続けながら活動するのも、選択肢のひとつではないでしょうか。

もともといまの会社に就職したときは、自分が作家活動をするようになるとは、夢にも思っていませんでした。職場にものづくりをする人たちが多くいたので、自分自身も作家活動をしてみたいという思いが徐々に芽生えるようになったんです。仕事をするうえで新たな発見もありますし、もし迷いがあるなら無理に仕事を一本にする必要はないと思います。

悩みその3:「副業してみたい! 本業と両立する方法とは?」

三つ目のトークテーマは、「副業してみたいけれど、二つの仕事を両立できるか不安」というお悩み。仕事と作家活動を両立させているくらもちさんを中心に、副業生活の実態をうかがった。

くらもち:主に作家としての作業時間は、本業の仕事を終えて家に帰ったあと。普段はマイペースで無理なくやっていますが、作家として展示やイベントをやる期間は忙しくなりますね。そういったときは、本業のショップのシフト調整をしながら、可能な範囲で融通をきかせています。

辻本:本業と作家活動は、いい相互作用を生んでいますか?

くらもち:そうですね。世間の流れや消費者心理を知ることは、とても大切だと感じています。そういった意味でも、本業が作家活動の勉強になる部分もあるし、その逆もあるので両方を続けていられるのだと思います。

とくに私の作品は、第三者に評価してもらうことで意味を成すものが多いので、両方が良いバランスで作用していると感じていますね。

辻本:副業に向いているのは、どんな人だと思いますか?

くらもち:前向きな人ですかね。本業と副業の役割をしっかり捉えながら、どちらの目的も見失わずに前に進んでいける人が向いているような気がします。本業をおろそかにせず、副業を根気よく続けるためには、「どちらも大切な仕事」だと思う気持ちが大事だと感じています。

辻本:ぼくの周りにも、堅い仕事の傍ら、音楽活動や執筆活動をしている友人や知人がいます。昔は世間的に、ほかの活動をすることで本業がおろそかになるのでは? という意見も多かった。でも、いまはそんなこという人はだいぶ少なくなりましたよね。

雪浦:いまの時代は、大企業に入ったから安泰という時代ではないですから。だったら、会社に依存せずに一人でやっていけるスキルを身につけたほうがいい。そのための副業という選択肢は、メリットが多いと思います。最近、副業を推奨する会社も増えていますが、社外で活動することで広げた視野を社内に還元できる場合もありますよね。副業は会社にとっても、個人にとっても、いい試みなのではないでしょうか。

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仕事のやめどきに年齢は関係ない。経験値の高さで見えてくる「やれること」