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青春の終わりと会社化。foufou創業者が語る「無理をしない」経営哲学

「健康的な消費のために」という姿勢のもと、デザイナーのマール コウサカ氏がハンドメイドファッションブランドとして2016年にスタートした「foufou(フーフー)」。細部までこだわった美しい服はもちろん、実店舗を持たずに商品を自身のSNSで公開し、全国各地で試着会を開催したのちオンラインストアでのみ販売する、という独自の販売方法でも話題となった。

そんなfoufouが2023年、「北欧、暮らしの道具店」を運営する株式会社クラシコムのグループ会社に。ファッションデザイナーとして、経営者として、変わったことと変わらないこと、働くことやものづくり、美しさについて綴った著書『まばゆい服』が、2025年11月に発売された。

CINRA.JOBでは、このたびマール コウサカ氏にインタビューを実施。foufouを会社化した理由や、組織づくりにおいて大切にしていること、また、「無理をしない」というポリシーと利益の両立などについてもたずねた。

  • インタビュー:吉田薫
  • テキスト:原里実
  • 撮影:豊島望

INDEX

会社になることは「青春」が終わるということ

—2020年には、『すこやかな服』という本を出版されています。今回の『まばゆい服』は2作目ですが、このタイミングで2作目を執筆されたのはなぜだったのでしょうか。

コウサカ:じつは当初から、3部作にできたらいいな、という構想がありました。foufouをはじめたときから、「きっとこのブランドには、長く続いていくポテンシャルがあるはずだ」という思いがあったんです。だから、僕がfoufouを運営するなかでの出来事や思いを綴る本も、3部作くらいにはしたいな、と。

今回、2025年8月でfoufouは10年目を迎えましたし、会社化も経験したので区切りがよく、自然と自分のなかで「書きたいな」という気持ちが湧いてきました。

『まばゆい服』(晶文社)

—タイトルの『まばゆい服』にはどのような思いが込められていますか。

コウサカ:10年ブランドを続けるなかで、過ぎ去っていったものに「まばゆさ」を感じるようになって。たとえば、かつて一緒に働いていたけれど服づくりを辞めてしまった人たちとか……当時は辞めることに対して「かっこ悪い」とか「逃げじゃないか」みたいな気持ちもあったのですが、あるときから「辞めるという意思決定をできることも美しいな」と思えるようになったんです。

この10年のあいだに、僕は25歳から35歳になって——それってすごく多感な時期というか、青春時代だと僕は思っているんです。

その過去のさまざまな瞬間のなかにある「まばゆさ」への思いと、一方でこの先にある出会いのなかにも、きっといろんなまばゆい瞬間があるんだろうな、という予感が、『まばゆい服』というタイトルにつながりました。

—本のなかでも「青春」という言葉を使われていましたが、やはりこの10年は「青春だった」という思いがあるのですね。

コウサカ:そうですね。やっぱり会社になるということは、青春が終わるということだと思うんです。この10年、いろんなクリエイターさんと交流しながらいろんな刺激をもらって、とにかく楽しかった。初期衝動を振りまいていました。でも、楽しい反面、「いつかは終わるんだろうな」ともずっと思っていた。その思い出を、一つのパッケージとして保存しておきたいから書いたという側面も大きくて——じつはそれがいちばんなのかもしれないです。

1990年生まれ。東京都出身。株式会社foufou代表取締役。大学卒業後、文化服装学院のII部服装科(夜間)に入学。2016年、在学中にファッションブランド「foufou」を立ち上げる。細部までこだわった美しい服はもちろん、ブランドコンセプトである「健康的な消費のために」をもとにSNSを中心に展開する新しい販売方法が注目を集める。2023年8月に「北欧、暮らしの道具店」を運営する株式会社クラシコムが事業を取得、同社のグループ会社となった。ジョインに伴い、株式会社foufouを設立し代表取締役に就任。著作に『すこやかな服』(晶文社)

働き方も健やかに。組織の隅々まで理念を通すために

—本書ではfoufouが会社となるまで、そしてなってからの道のりが綴られています。会社化の理由として、以前の体制のなかで感じていた課題もあったのでしょうか?

コウサカ:大きかった一つのポイントは、関わるメンバーの働き方ですね。僕自身は創業者なのでよいとしても、関わる人が「服をつくるために夜遅くまで働く」っていうことが、どうしても腑に落ちなくて。人命に関わる仕事とかなら仕方がないけれど、服作りってもっとなんとかできるんじゃないかと。

もともと、「関わる人たちがすこやかさを保ち、苦しくない日々を過ごして生み出された服によって、お客さまがなんの曇りもなく純粋にお洋服を楽しめるサービスをつくりたい」と強く思っていました。でも、会社化する前の体制が、それに合っていなかったんだと思います。売り上げが大きくなり、守らなきゃいけないものやメンバーが増えて、でもその管理体制が整っていない——そこに大きな違和感を覚えていました。

—クラシコムの子会社となったのは、どういった経緯からだったのですか?

コウサカ:「いまの自分がすこやかな服をつくれていない」と悩みはじめたころに、クラシコム代表の青木(耕平)さんとお話しする機会が増えて。青木さんは「ブランドというのは、組織の隅々まで創業デザイナーの思想が通っていることが重要」という仮説を持ち、同社で運営する「北欧、暮らしの道具店」などのサービスでもそれを体現していますよね。

「foufouも腰を据えて、創業デザイナーの思想が通った組織づくりを行うべき時期なんじゃないか」と、青木さんに言ってもらって、初めて自分のなかに「会社になってみる」という選択肢が生まれたんです。それまでは想像もしていなかったけれど、その選択肢を知り、深く考えていくうちに「なるほど、そういう手もあるのかもしれないな」と思えてきました。

クラシコムは上場企業なので、子会社化できるかどうかは取締役会での決議や監査などを経て決まります。青木さんとしても、当時のクラシコムはまだ上場して1年ほどだったので、「一度子会社化の流れを試してみられたら学びも多いし、やってみよう」と言ってくださり、僕も「ダメだったら自分で起業しよう」と考えて運を天に任せました。

—意思決定に対して、「何がなんでもこう」と自分で手綱を持ちすぎない姿勢が印象的に感じます。

コウサカ:最初に話したように「このブランドはきっと長く続くだろう」という思いがあるからこそ、「長い時間軸で見れば、何が起きてもそんなに大したことではない」と思えているのかもしれないです。会社になってもその感覚は変わらない……というかむしろ大きくなっている。細かい仕事をメンバーに手渡すことで、自分自身はより視野を広く持てるようになり、心のありかたも穏やかになっている気がします。

この3年間、会社経営をやってみてブランド運営と似ているなと思った部分は、「どちらもハンドリングできる部分は限られている」という点なんです。そのぶん、握れる部分の重要度はすごく大きいのですが。

本当にいろんな外的要因が絡んだり、思わぬ出来事が起きたりするので、自分が波風を立てていたら身がもたない。いまのところ僕としては、このスタンスでいるのが自分に合ってるなと思っていますね。

チームとして最後に大事なのは「ユーモア」

—採用ページなどでは、自社のメンバーに共通する価値観を「知的な体力をもって、自律して行動することができ、ユーモアを持って表現できる人」と表現していますね。この意味についてあらためてお聞きしたいです。

コウサカ:まず、「知的な体力」については、僕たちがやっているのはブランドビジネスなので、不確実性がすごく高い。日々、一つひとつの判断をするにしても、その時点で少し先を見通すくらいでは正解かどうかわからないことがとても多いんです。

そういうときに、正解がほしい人、不確実性に耐えられない人だと疲れてしまう。逆にいまのメンバーは、よくわからないものに対して、深くまで潜っていくだけの体力、肺活量がものすごく大きいんです。「知的な体力」は、そういう意味の言葉です。

次に「自律」というのは、外的なルールではなく自分のなかの美意識にしたがって「これはよいこと」「やるべきこと」という判断ができる状態です。そのために重要なのは「この場所は安全なのだ」と心から感じてもらうことだと思っています。

どんなに自律性が高い人でも、周りに何があるかわからない真っ暗な場所で「自由にしてください」と言われたら、動けないですよね。「ここの範囲までは大丈夫」「転んでもあとはなんとかする」と柵を囲ってあげることが大切だと考えています。

最後に「ユーモア」ですね。ここまで話した「知的な体力をもって、自律して行動できる人」って、やっぱり足腰というか自力がそもそも強いんですよ。 すると、弱い人に対して共感性がなくなってしまうことがある。そこで必要になるのがユーモアじゃないかなと。

それは冗談を言って笑わせるということではなくて、人に対して何かを伝えるときに、少しのおかしみとか優しさを織り交ぜられるということ。すると、どんな人でも臆せずに自由を感じられる組織になるんじゃないかと考えています。

情熱や気持ちでなく、制度や仕組みを整えて長く走れるチームをつくる

—最近は職場での「心理的安全性」を大切にする声も多く聞きます。それを担保するために、具体的に工夫していることはありますか?

コウサカ:実際に担保されているかはメンバーに聞かなければわからないですが、強く意識しているのは、まず何よりも僕自身が感情の起伏をつくらないことですね。そしてもう一つは、それぞれがお互いに予測可能性が高いこと。

「Aさんだったらこう言うだろう」「Bさんだったらこう言うだろう」と高い精度で予測できると、仕事って効率的になると思います。だから細かいことでも、何かが起こったときに経緯をよく振り返るとか、お互いがどういう人なのかを、飲み会とかではなく仕事を通してよく知り合うことは大事にしています。

それはfoufouらしさにもつながっているように思います。

—お話しいただいたような「foufouらしさ」をメンバーのなかに感じたエピソードなどはありますか?

コウサカ:うちの会社の一つの特徴だな、と思っているのが、オフィスがとても静かなんです。基本的にシーンとしてて、下手したら一日中会議以外でしゃべっていないときもあるくらい。でも、 それって僕はいいことだなと思ってて。

たとえば、新学期に新しいクラスになったときって、人は自分の縄張りをつくるために、雑談を積極的にしがちじゃないですか。そういうことをしなくても済んでいるのは、それぞれが職場を安全な場所だと思えているからなんじゃないかなと。

—心地よい距離感が保たれている職場の様子が、とても伝わってきました。

コウサカ:ちなみに、令和のスタートアップにしてはめずらしく、フリーアドレスではなく、パーテーションを設けた個人デスクも用意しています。個人とグループのメリハリはとても気をつけて、設計していますね。

創業者である僕自身の熱い気持ちや言葉で引っ張るというより、制度や仕組みをしっかりと整えることで、長くお付き合いできる土壌を整えたいと考えているんです。それは、会社化する前の体制で「この仕組みでは、10年はやれても20年は続けられないだろうな」と感じていた課題意識からきていると思います。

「誰にとって『すこやか』なのかを、多角的に考えるようになった」

—会社になったあとに起きた変化の一つとして、「セールをするようになった」ことがあると思います。この点についても心境の変化をうかがいたいです。

コウサカ:「誰にとって『すこやか』なのか」を、多角的に考えるようになった結果なのかなと思っています。ブランドを始めたばかりのころは、その対象が「お客さま」と「職人」の2軸だけだった。けれども規模が大きくなり、会社になると「従業員」や「親会社」「親会社の株主」「取引先」など、関係者がどんどん増えて、そのあいだで「すこやかさ」のバランスをどう取っていくか考える必要がある。そしてそれこそが経営者である僕の仕事です。

そのなかで、セールをすることは、全体のバランスを整えるために必要なことだと。セールをせずに在庫を残したまま、それでも「セールをしないブランド」としてやっていくことはできますが、そこで生まれなかったキャッシュは結局別のかたちでお客さまが負担することになります。

一方で、セールを機に新しいお客さまに僕らの商品を手にとっていただき、それによって得たキャッシュから新しいサービスをつくることもできる。

実際、僕たちはセールをはじめたあと、お客さま都合の返品を受け付ける「良品返品」という制度を整えました。そうやって全体的なバランスを取るための、一つの施策がセールだったと思います。

—徹底的に働く人の「すこやかさ」を重視しようとするとき、「会社の利益を上げる」ことと矛盾は起きないですか?

コウサカ:「すこやかさ」を手放して得る利益には持続性がなく、長く続けるにはどちらも両立する必要があると考えています。なのでどうやって無理をせずに利益をあげるか、ということを起点につねづね物事を考えています。

たとえば、「新作の販売日は絶対にこの日、この時間」と決めてしまうと、何かイレギュラーがあったときに無理をしなければならなくなります。でも、僕は発売日の遅れによる機会損失よりも、無理をしないことを優先したい。メンバー一人ひとりのマネジメントにおいても、親会社との対話においても、「無理しない」ことの優先度を高く設定しています。

でも、それが必ずしも利益を上げることと矛盾するかというと、そうも思っていなくて。僕が「最終的な責任はあなたにはない。だから無理しないで」と言い続けることによって、きっと従業員の皆さんは「いつでも手放せるから」と、ギリギリまで手綱を握ってくれると思うんですよね。その「自分の思うところまで」一人ひとりが頑張ってくれることは、結果的に効率にも、成果にもつながるんじゃないかなと思っています。

本当の「強さ」は弱い状態でいられること。100年続くブランドを目指して

—書籍のなかでは「弱いままで大きくなる」ということについても書かれていました。この意味についてもあらためておうかがいできますか。

コウサカ:本当の「強さ」って、弱い状態でいられることじゃないかと思うんです。たとえば、何か気に障ったことや納得できないことがあるときに、怒鳴ったり、脅したり、感情的になることで相手を征服しようとする人もいますよね。それって、強く見せようとしているけれど、本当は弱いなと思うんですよ。

本当の強さはそうではなく、虚勢を張らずにいられること。何か支配をしようとせず、穏やかにいること。そういう「強さ」があってこそ、組織として大きくなれるんだと思います。

—最後に、foufouとしての今後の展望についてお聞かせください。

コウサカ:100年くらい、ブランドが続いていく状態を目的地にしてはいます。ただ、「100年後にこうなっていたいから、そこから逆算して明日何やるかを決める」のではなく、「どうあれ最終的にはそこにたどり着くんだから、明日右に行こうが左に行こうが変わらない」みたいな考え方を持っていますね。

とはいえ、何か新しい商品やサービスを出すと、世の中からリアクションが返ってくるわけじゃないですか。すると、「こういうふうなリアクションがあるってことは、きっと 2、3年後はこうなるだろう」みたいな、占いみたいなかたちで構想したりはするんです。

それも「占い」なので、本当にそうなるかはわからないけれど、大きくずれることは少ないなという感覚もあるので、そういうことを社内で共有しながら動いていますね。

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