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障害者とつくる、1個300円の高級たまご。人も動物も幸せになれる養鶏に取り組むWin Graffitiとは

障害者雇用などのDE&Iやサステナビリティの取り組みと、ビジネスの両立には多くの困難が立ちはだかる。養鶏という舞台でその挑戦を続ける企業の一つが、Win Graffiti株式会社だ。

栃木県に本社を構える同社では、就労継続支援A型事業所「ハコニワ・ファーム」を運営し、その業務の一つとして、ケージ(かご)を使わない「平飼い」という飼育方法にこだわったブランドたまご「箱庭たまご」を生産している。従業員38人のうち20人に、知的障害や精神障害などの障害がある。

今回は、Win Graffitiの代表取締役を務める島田利枝さんにインタビュー。島田さんが平飼いにこだわる理由や養鶏産業が抱える問題、障害者雇用やアニマルウェルフェア(動物福祉)とビジネスのバランス、「障害を人生の障害にしない」という考え方などについて話を聞いた。

  • インタビュー・テキスト・編集:廣田一馬
  • インタビュー・編集:生田綾

INDEX

鶏らしい行動を取り戻す「平飼い」とは?

─箱庭たまごはどんな商品なのでしょうか?また、名前の元となった養鶏の方式について教えていただきたいです。

島田:「箱庭たまご」は、人と鶏が「幸せ」に共存できる環境づくりから生まれたたまごです。

鶏は本来10年ほどの寿命がありますが、商業用として畜産で飼われている鶏は、たまごを産み始めてから約500日~600日程度しか一緒に生活できません。なので、その間は「幸せ」に過ごしてもらいたいという思いで、通常の養鶏のようにケージに閉じ込めて必要最低限の餌しか与えない方法ではなく、鶏舎の中を自由に動き回れる平飼い(ケージフリー)100%で育てています。

人と鶏が幸せに共存できる環境を作り出し、それをビジネスにつなげていくことが大切だと思っています。幸せな鶏たちが産んだ幸せなたまごを皆さんに召し上がっていただいて、皆さんにも幸せを感じていただくことが、「箱庭たまご」の商品意義ですね。

Win Graffiti代表取締役の島田利枝さん

─現在はどれくらいの数の鶏を飼われているのでしょうか?

島田:いまは2,000羽程度を飼育しています。大規模な養鶏場では数百万羽、中規模でも十万羽ほど飼育しているので、ハコニワ・ファームは小規模です。ただ、鶏のことを考えると3,000羽が限度だと思います。それ以上に増やすには、仲間を増やしていく方が良いと考えています。ノウハウは私たちの中で蓄積できてきたので、いろいろな福祉事業所さんにもチャレンジしていただきたいです。

従業員は全部で38人で、そのうち障害のある方は20人。いまは知的障害、発達障害、精神障害、難病の方が働いています。現時点では身体障害のある方は在籍していませんが、業務設計次第では勤務は可能だと考えています。

─一般的な養鶏場とはどんな違いがあるのでしょうか?平飼いで鶏が自由に動ける養鶏場を作った結果、どのような発見があったか教えていただきたいです。

島田:平飼いにして強く感じたのは、鶏が「鶏らしい行動」を取り戻すことです。例えば、眠くなったら止まり木で休む、体が痒くなったら砂浴びをする、たまごを産みたくなったら自分が安心できる巣箱に移動して産卵する、といった自然な鶏の行動が当たり前に見られるようになります。

砂浴びをする鶏

島田:ケージでの飼育では、餌を食べ、水を飲む以外には何もできないようになっています。何羽も入った狭いケージのなかでは、大きく動くことも難しいんです。それが結果として、たまごの品質面にもつながっていると考えています。データとして出ているわけではないですが、ストレスによる苦みや臭みなどに違いが出ることを実感しています。

さらに、鶏の暮らしを整えることは、産卵期間を長くする方向にも働くという手応えがあります。

─平飼いを行うにあたって、どのような部分が難しいでしょうか? 一般的になっていない理由も教えてください。

島田:一番大きいのは、「スペース」と「手間」が必要になる点です。

一般的な養鶏では、省スペースでケージを何段も重ね、ベルトコンベアでたくさん採卵する方式が主流です。平飼いを行う場合は、それとは比べものにならないくらい広いスペースが必要になります。

また、自由に動ける分、管理の手間もかかります。どこでも糞はしますし、基本的には巣箱で産みますが、場所によっては採卵箱以外で産んでしまうこともあります。巣箱以外で産んでしまったたまごを拾ったり、もちろん掃除をしたりしなければなりません。鶏舎の設計も、止まり木やネストなど、自然な鶏の行動を前提に整える必要があります。

平飼いの様子

近年では、動物愛護やアニマルウェルフェアが広くうたわれていて、大手の養鶏場さんも少しずつ平飼いやケージフリーを意識しつつありますが、日本では平飼いや放牧などを合わせても、1〜2%に満たない状況だと思います。飼育コストがすごくかかることが、なかなかケージフリーにならない理由の一つだと思います。

ヨーロッパではケージフリーへの移行がかなり進んでいるので、日本でもだんだん変化していくとは思っていますが、ビジネスという側面を考えるとまだまだ難しいのが現実ですし、ケージで飼っている農家さんを批判することもできないと思います。

鶏舎

「一時期はたまごが食べられなくなった」養鶏場の現状と、アニマルウェルフェアを追求するようになったきっかけ

ケージで飼育される鶏(イメージ画像)

─アニマルウェルフェアを追求するようになったきっかけと、現状の養鶏産業に感じている問題意識を教えてください。

島田:一般の方が立ち入りできない養鶏場も多いと思います。背景には、衛生管理や防疫の問題だけでなく、飼育環境を見せたくないという事情もあるのではないかと感じています。

以前、福祉事業の一環として養鶏場の作業を受託したことがあるのですが、そこで鶏の飼育環境の厳しい現実を目の当たりにしました。

老朽化した鶏舎と働き手の高齢化で、糞の始末がなかなかできず、糞がうず高く積まれていく。そこにハエがたかるんです。するとたまごを産んで、ウジになって、またハエになっていく。

本当に驚くようなハエの数で、採卵棚に落ちてきたたまごにもハエがたかっているんです。とても普通のマスクではその場にいられないようなアンモニア臭と、大量のハエと、鶏糞のなかで巣を作り床を這うネズミで、信じられない状況でした。

鶏は60センチ四方くらいの小さなケージの中で、少なくて2羽、多いと3羽飼われていて、鶏が鶏の上に乗って移動するような状態です。人間の私たちが入っていくと、不信感の目で見られているように感じて。死んだ鶏をほかの鶏がぺたんこになるまで踏み潰しているようなこともありました。

厳しい現実を見て、一時期はたまごが食べられなくなりました。

─養鶏場には行ったことがなかったので、まったく知りませんでした。想像するだけでもつらい気持ちになりますね。

島田:飼育し始めてからわかったのですが、鶏ってトイレの場所を教えると覚えられるくらい知能が高いんです。そんな鶏を檻の中で365日、最低限の光と餌と水だけで生かしておくことがショックで。自分たちがやるなら絶対にこれはしないと決めて、いつでも餌も水も口にできて、鶏らしい生活ができる環境を整えることにしました。

その後、アニマルウェルフェアについて勉強したのですが、国際基準だと1平方メートルの範囲に7羽まで飼っていいんですね。でも、1羽に対してB4サイズぐらいの大きさしかなく、決して広くはない。自由に動けるのでケージよりは良いですが、その広さで飼ってみると喧嘩してしまうんです。1平方メートルに7羽という基準は人間が考えたことで、鶏にとっては快適ではないんだろうなと。

そこから自分たちで試していった結果、1平方メートルに3〜4羽という形だと喧嘩が起こらなくなりました。平飼いも決して死なないわけではないですが、死亡率はものすごく低いと思います。

平飼いの様子

1個300円のたまごも。鶏にも人にも無理がない事業継続への挑戦

─スペースや手間以外にも、様々なコストがかかると思いますが、平飼いにおける課題とはどのように向き合っているのでしょうか?

島田:とにかく多くの面でコストがかかっています。

平飼いだからこそ出てしまう病気もあるので、抵抗力を上げるために餌にもこだわっています。残留農薬のないポストハーベストフリーの飼料を使い、天然の飼料にこだわり、薬剤なども使わないようにしています。

採卵も私たちは手作業です。ケージ飼いならベルトコンベアでできますし、余計な動きがない分、ピーク時の産卵率はケージの方が高いんです。平飼いではいろんなところをあちこち歩き回り、たまごを産む以外の運動もするので、産卵率は実際には少し低下します。飼料以外にも、そういった面で効率が悪く、原価が上がる原因になるんですね。

ですが、私たちは「ウェルフェア=非効率」と決めつけないようにしています。鶏にとって快適な環境を整え、状態を日々観察し、必要なデータを活用することで、結果として品質や産卵面の改善につなげています。

餌を食べている様子

島田:健康にもこだわっていて、餌を工夫することによって疾病をほぼゼロにし、長く産めるようにしたり、国の決まりで打つ必要があるワクチンは農家さんにお願いして、ひよこのうちに打ってもらうことで、ワクチン接種によってたまごを出荷できない時期をなくすようにしたり……事業を続けられるギリギリのラインで挑戦を続けています。

「コストが上がるからやらない」ではなく、どう設計し直せば鶏にも人にも無理がなく、品質も守りながら、事業として続けられるか。その問いに、現場の改善で向き合っています。

結果的に、一番高価なたまごは1個300円で販売しています。300円のたまごにするためにやっているのではなく、いろんなことにこだわるとそうなってしまうんですよ。

最高級ブランドの「箱庭茜」

島田:いまは価格が上がってきましたが、それでもたまごには安いイメージがあると思います。でも、効率を最優先した飼育方法だからこそ、安く私たちの手元に届くわけで、鶏が鶏らしく生きる方法を考えていくと、必然的にたまごは高くなると思います。

─たしかに、無意識のうちに「たまご=安い」というイメージがついていました。

島田:やっぱり、人間が動物のことも考えられるような心の余裕を持てない限りは、ビジネスばかりに目が向いてしまうと思います。生産者だけではなく、消費者の選択も大切だと思っていて、こだわったたまごを当たり前のように購入する方が増えれば、多くの養鶏場もあとに続いていき、その結果として競争率が上がり、1個あたりの単価が下がっていくんだと思います。

重ねてになりますが、いまの養鶏業界を批判したいわけではなく、こだわりや現実を知っていただくことで、消費者の方も「少し高くてもこっちにしよう」と思ってもらえると思うんです。

なので、もっと発信をして現状を伝えられればと思います。鶏たちは1個たまごを産むと1日寿命が減るんですね。命のお裾分けだと感じているので、大切に採卵してお客様のもとに届けたいと思っているんです。それを消費者の方にお伝えできると、少しずつ変化していくのかなと思います。

養鶏業務の90%以上を障害のあるスタッフが担当。障害者雇用と養鶏事業の相性とは?

─地域の障害者雇用の創出もハコニワ・ファームの目的とのことですが、どのような経緯で福祉事業所の「ハコニワ・ファーム」と養鶏事業との連携が始まったのでしょうか?

島田:私の家族に統合失調症を患った者がおりまして、家族を預けて本当に良かったなと思ってもらえるような、家族目線の事業所を立ち上げたいと思って、12年前に福祉事業所を始めました。

私はもともと眼鏡屋に勤めていて、まったくの異業種から福祉事業に関わるようになりました。障害のある人の仕事を創出するのはやはり大変で、ボールペンの組み立てなど、1個やっても1円、高くて10円ほどにしかならない仕事を企業様からいただくところから始めました。

それから1年ほど経った頃、眼鏡屋に勤めていた時のお客様で、近隣の養鶏場を営んでいる方から声がかかり、作業を請け負う形で関わり始めました。

そのとき、養鶏場はほかの農業などと比べて、障害者の方が輝ける環境かもしれないと感じたんです。

─どういうことでしょうか?

島田:当時は畑作農家さんに行って作業をすることもあったのですが、農作業は種まき、土作り、草むしりなど、毎回やることが違って、みんな混乱してしまうんです。

一方で、養鶏は365日やることがほとんど同じ。やることが決まっているので、障害が重い方でも熟達していって、自信を持てるようになっていくんです。これはすごく面白い仕事だと思い、自分たちで養鶏事業として形にしていきました。

現在も、養鶏業務そのものは、障害のあるスタッフが中心となって担っており、工程全体の90%以上を担当しています。これは大きな特徴だと思います。

採卵の様子

─2024年にはKADOKAWAグループに参画されましたが、どのようなきっかけだったのでしょうか?

島田:最初は通販でたまごの販売を始めたのですが、KADOKAWAのCEOである夏野剛さんがたまごを買ってくださっていました。その時期はコロナで苦境だったのですが、テレビで取り上げてくださったのを、たまたま夏野さんが朝の番組でご覧になっていて。まさにたまごかけご飯を食べようとしたら、自分が食べているたまごの特集をやっていたとのことで、すぐにKADOKAWAの方から連絡をいただきました。

3〜4年ラブコールをいただき、飼料の高騰などもあるなかで、ちゃんとした賃金をお支払いしていくことや、一流の企業と一緒になることで働く人たちの誇りにもなるかもしれないと思ったことから、ありがたくグループインさせていただいた形です。

障害者雇用の課題と、福祉事業だからこそできる積み重ね

─養鶏場での障害者雇用を行うなかで、これまでに直面した課題などはありましたか?

島田:課題は大きく2つあります。1つは、仕事の難易度や体調の波が人によって違うなかで、安全と品質を両立する設計が必要なこと。もう1つは、本人の自信や継続性を育てるために、「できる」までの時間を前提にすることです。

継続することは、どんな人でも難しいと思うんです。障害がある場合はさらに難しい。例えばご家族との関係性の部分で、急にダウンしてしまうこともあって。頑張って帰って、すごく疲れているなかで家族に「そんなに頑張らなくてもいいんだよ」と言われてしまうと、頑張れなくなってしまう方が多いんです。

むしろ「よくやったね、明日も頑張ってね」と言われると、より頑張れる。なので、ご家族にも声かけなどの面で協力していただいています。

また、1つのことができるようになるまで、時間がすごくかかります。

例えば、鶏が水を飲むタンクは毎日20個ほど交換しています。きれいに洗って鶏舎に戻す作業ですが、最初は1日4時間労働のなかで1個しかできない方もいます。

ですが、1〜2年経ったいま、その方は4時間で20個近くをきれいにできるようになっているんです。時間がかかることを考えると、やはり普通の企業様では、雇うことにハードルがあると思います。国の支援がある障害福祉の事業だからこそ、その積み重ねの時間を私たちは待っていられるんです。

そして、「障害者だから賃金は安くていいよね」という時代ではもうないので、しっかりと稼げる仕事を私たちが見つけてくることが大事だと思っています。

羽拾いの様子

─実際に働かれている方からは、どのような声をいただいているでしょうか?

島田:よく聞くのは、「自分が社会に必要とされている実感が持てる」「任される工程が増えると自信になる」「チームで支え合って働けるのが嬉しい」といった話です。

作業を通していろんなことができるようになってきて、一般企業への就職にチャレンジする方も何人か出てきているんですね。

また、私たちは福祉のサポートをする事業所としては少し厳しいほうだと思うんです。「できなくてもいいよ」といったことは言わず、「できるようになろう」「これぐらいできたから、あともうちょっとできるようになろう」と、少しずつ積み重ねていく。

その甲斐もあってか、障害者の方が一般企業に行っても6割ほどが半年で辞めてしまうなかで、8〜9割の方が継続できているんですね。

また、自分たちよりも弱い動物と触れ合うので、現場の方から「アニマルセラピーに近い効果があるのでは」という捉え方で語られることもあります。

ハコニワ・ファームで働く従業員

「障害を人生の障害にしない」という考え方

─あえて優しく接さないという部分にもつながるかと思いますが、島田さんが掲げられている「障害を人生の障害にしない」という考え方についても教えてください。

島田:ハコニワ・ファームが目指しているのは、「障害があるからできない」ではなく、強い心で努力を続けられることや、人を思いやれるやさしさこそが価値であり、障害は個性になり得るという世界観です。

「障害があるからできない」「障害を持っているからこういうふうに人に見られてしまう」と感じてしまう障害者の方もいますが、私も含めて「できないこと」は誰しもあると思うんです。それでもやらなくちゃいけない場面はあるので、できないで終わらせず、少しずつチャレンジしてみることを大切にしています。

障害がある方は、一度覚えてできるようになると、飽きてしまいそうなことでもずっとやっていられることが多いんです。そうすると、いつのまにかその人にとって障害は障害ではなくなって、個性になるんです。

そして、養鶏の現場は「命を扱う」分、誠実さや丁寧さがそのまま品質につながります。だからこそ、喜びも苦難もともに乗り越えながら、一人ひとりが「障害を人生の障害とはしない生き方」を実現してほしいというビジョンにつながっています。

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