
ヒップホップといった日本のストリートカルチャーやオカルト、アンダーグラウンドなどの領域を取材した動画を公開し、YouTubeで約64万人の登録者を抱える動画メディアのMcGuffin。
大分県にある古書店「書肆(しょし)ゲンシシャ」に密着した企画など、再生回数100万回以上のヒット動画を多数配信している。日本に眠る様々なカルチャーを掘り起こす動画はどのように作られているのだろうか?
今回は、McGuffin編集長の安藤啓太にインタビュー。企画の作り方に加えて、雑誌編集者としてキャリアをスタートさせた安藤のルーツや編集論、そしてメディアが消えつつある現代にメディアを続けるために必要なことなど、たっぷり話を聞いた。
- インタビュー・編集:生田綾
- テキスト・編集:廣田一馬
- 撮影:沼田学
流行ではなく「これまでに見たことのないもの」にフォーカスする。McGuffinの企画作り
─まずMcGuffinのコンセプトと、設立から今に至る流れについて教えてください。
安藤啓太(以下、安藤):McGuffinはYouTubeを主軸とするカルチャー動画メディアで、音楽やエンタメ、ファッションなど若い人やカルチャー好きが好きなものを、ジャンルの垣根を越えて紹介しています。場所として「東京発」を大事にしているんですが、カルチャーを探求していくことで見た人の心を動かして、次のステップのトリガーにすることを目的に動画を作っています。
設立は2017年で、もともとはZ世代を対象にしたSNS運用などを行うチームで発足し、僕は初年度に合流しました。
2年ぐらいはその体制で運営していたのですが、新型コロナウイルスが流行した時期にメディア事業が休止してしまい、いわゆる「1人編集部」状態で月4〜5本の動画を制作していました。その後も会社の買収などを経て、2022年10月から現在の運営会社であるニューステクノロジーでメディアを運営しています。
─現在のチームはどれくらいの規模で、どんなペースで制作されているのでしょうか?
安藤:基本的には4人ほどのチームで制作しています。バックオフィスのメンバーも含めると7〜8人で、外部カメラマンのユニットは6クルーくらい。動画は月に6本前後公開していますね。動画なので、1本作るのに2か月ぐらいはかかりますね。

安藤啓太
McGuffin編集長。1987年生まれ。東京都出身。大学卒業後、雑誌制作会社に入社し、2017年よりMcGuffinの制作に携わる。
─YouTubeではとにかく動画の数を出すことが必勝法でもあると思いますが、McGuffinではハイクオリティな動画が月数本ペースで公開されています。その方針は当初から決まっていたのでしょうか?
安藤:短尺が良い、9:16の縦型が良いなどなどSNS上での流行りに合わせて試行錯誤しましたが、原点に立ち返り自分たちが発信したいものを発信したい形でやった結果、いまのような形になりました。ただ本数については絞りたいというわけではなく、できれば毎日出したいのですが、単純に追いつかないという部分が大きいですね。
─少ない本数でも再生回数を伸ばしているのがMcGuffinの凄さだと思います。どのように企画を考え、動画を作っているのでしょうか?
安藤:編集部のメンバーがやりたいことをやりたい順にやっていくという感じです。自分たちがやりたいことは前提にしつつ、最前線や流行ではなく「これまでに見たことのないもの」「人生において引っかかったもの」を深掘りしていくことを重要視しています。
まだ掘られていないものというか、発見されていないものを探しにいく旅みたいなものをずっとやっているような感覚です。
オカルトからヒップホップ、アニメまで。McGuffinのコンテンツの強み
─いま編集部にいるメンバーはそれぞれ得意分野が違うのでしょうか?
安藤:僕はオカルトとかヒップホップなど、日本で独自に発展した土着のものかつ少しアンダーグラウンドなものが好きですが、他のメンバーはストリートで流行っているファッションやアパレルを担当している人がいたり、ドヤ街など日本のアンダーグラウンドに強かったり、アニメやタレントに強かったりと同じ方向は向きつつ強みが異なる人間が集まってるように思います。それぞれがやりたいことに特化した結果、各ジャンルをほどよくカバーできています。
─600万回再生を超える動画もありますが、特に反響があったのはどの動画でしょうか?
安藤:具体的にこの動画の反響が大きいというより、フォーマットがウケている印象があります。昔からやっている企画だとミュージシャンの対談シリーズですね。RIP SLYMEのRYO-Zさんから始まったんですが、ミュージシャン同士が対談する企画はフォーマットとしてはどの時代、どの人でもはまりやすいと思います。
あとは、ルームツアーやショップツアーなど、場所を通してその主の頭の中を覗くような企画も人気ですね。流行しているものにも、コアな人にも、このフォーマットがあれば誰でも取材できるので、幅広く対応することができます。
具体的なコンテンツだと、レゴ職人の方の企画など、職人系の動画も反響が大きく、これからも出していこうと思っています。先日も日本刀コレクターの方の動画を撮ってきました。
収集癖は育った環境から。編集長のストリートカルチャー遍歴
─安藤さんのルームツアーでは、大量の雑誌、レコード、CDのコレクションが紹介されていました。コレクションはどのようなきっかけで始めたのでしょうか?
安藤:ベースは祖父と父親がコレクターだったことが大きいです。本人たちにその自覚はないと思うのですが、家に物がたくさんあるという家系ですね。祖父が時計やカメラを集めていて、父親も本が好きだったので実家に壁面収納の本棚があったり。それが当たり前の環境で育ちましたが、大人になってから、なかなか他の家庭にはないことだったと気づきましたね。
幼少期のころから雑誌の買いすぎとかCDの借りすぎとか、限度がわからなかったので(笑)、収集癖は自然と付いていきました。地元から渋谷や自由が丘へのアクセスも良かったので、ネット環境がない時代でも情報が取りやすかったのも大きいと思います。
─ストリートカルチャーを好きになったきっかけは何だったのでしょうか?
安藤:原体験でいうと、神奈川県の等々力にあった川崎市市民ミュージアムに、幼少期のころよく親に連れて行ってもらっていたのが最初です。無料で入れる美術館だったので行きたいときに連れて行ってもらう感じでした。そこでダリとかルネ・マグリットのアート展を見て、本も集めるようになり、アートや服への興味を持つようになりました。

安藤:音楽は、実家は東京なのですが、なぜかテレビ神奈川の電波を家で拾っていて、そこで放送されていた『saku saku』を小学校の登校前に観るようになったんです。そこでDragon Ashや電気グルーヴなどのMVが流れていて、小6でハマりました。地元の駅にTSUTAYAがあって、CDショップや古本屋も3〜4件あったのでそこからディグり出して、SHAKKAZOMBIEとかBUDDHA BRANDとか第1世代のHIP-HOPを好きになっていきました。
中学で日本語ヒップホップにハマったあと、高2のときにUK・USロックのリバイバルが起きたんです。同時期にポストパンク・リバイバルが起きて、Franz FerdinandとかBloc Partyとか。そこから洋楽ロックにいって、そのあとにくるりやtoeなど日本のロックが好きになり、INUとかJAGATARAとかちょっと昔のダークなアンダーグラウンドなものも聴くようになりました。
2010年くらいからロックよりもEDMが流行る時代になり、僕はあまり洋楽にハマれなくなっていったんですね。そんなときにちょうど同い年のラッパーの5lackとか少し下のCreativeDrugStoreが出てきて、ヒップホップをまた好きになって今に至る……みたいな流れです。
ストリートカルチャーはライフスタイルに根付いている
─安藤さんのコアにはストリートカルチャーがあると思うのですが、そこまでこのカルチャーに魅せられた理由をお聞きしたいです。
安藤:ストリートカルチャーは音楽も主要な柱のひとつですが、他のジャンルと違って、お店や服装、おもちゃ、エクストリームスポーツなどエンタメ以外の生活面に紐づいている部分も魅力だと思っています。
日本に住んでいれば自宅の延長線上に(人によって距離はありますが)ショップがあって、スケーターもいて、ラッパーもいるみたいな、ハイカルチャーとかコンサバとかと比べてもっと身近なものですよね。
ストリートカルチャーを深ぼることは、そういった面で今の日本の縮図というか、探求していく意味はあると思うんです。
ただストリートという従来の言葉に縛られる必要もないと思っていて、吉野家もコンビニもループもお笑いも個人的には日本のストリートだと思っています。HIP HOPヘッズのスマホの中身が決してNasとかスニーカーだけで溢れているわけじゃないですよね。ジャルジャルだって観ているし、アニソンだって聴いている。ストリートにあれば、ストリートにいる人が享受していれば、それはストリートカルチャーって言っていいと思っています。

「今のもの」と「過去のもの」を同じ土俵に上げる。カルチャーを探求するMcGuffinとのこだわり
─キャリアは雑誌編集者からスタートしていますが、なぜ編集者になりたいと思ったのでしょうか?
安藤:中学生時代にDJをやってみたり、バスケ部に入ったり、バンドをしたりという経験を経て思ったのですが、そもそも自分は自分の体を使って何か表現をすることに関して他の人より劣っていることに気がつきました。
カルチャーとかエンタメとかが好きだったのですが、早い段階で表現者は無理だなと諦めがついたんです。
ですが、ストリートのシーンでいうと表現者はもちろん花形ではあると思うんですが、雑誌の編集者とかカメラマン、スタイリストなど裏方でも華やかなイメージがありましたし、なにより何かを作ることが好きだったので、編集者とかカッコイイな、と思う気持ちが芽生えていった気がします。
そこで大学中に就活をほぼしないまま、まずは出版社のインターンを受けて、そこからキャリアがスタートしました。
─安藤さんの膨大なインプットやコレクションは、カルチャーを探求していくMcGuffinの企画を作る上で活きる場面がたくさんありそうです。
安藤:肌感として、特に昨今の日本のストリートカルチャーメディアは最前線の流行やニュース性を重視していて、過去と現在を同時に見せるようなことはあまりしてない傾向にあると思うんです。一方で僕らはニュース性よりも、ライフスタイルに寄り添って、取り上げるカルチャーを探求し、コアにあるものを掘り起こすことを大切にしています。
だから時代は関係なく、今のものと昔のものを同じ土俵に上げたい。そうなったとき、ネットにない情報を探したり、時系列で並べてじっくり考えながら配置したりできることは、雑誌やCDのコレクションが役立っている部分だと思いますね。
─ルームツアーの動画を見て、編集者になるには安藤さんのような知識のレベルが必要なんだと感じる人もいると思うのですが、安藤さん自身はどう考えられていますか?
安藤:そんなことはなくて、McGuffinをはじめ、メディアの編集というは「広く浅く」知っていることが許されている職業でもあると思います。それこそライターさんの知識には遠く及ばないし、歴史とかはぜんぜん喋れない、現場感も学生さんの方が高い場合もあります。僕はただのコレクターだと思っている節もありますが、そういう人が編集部をやっているからこそおたく気質なメディアが作ることができる場合もあるので、ちょうどハマっている感じはしますね。
実際、取り扱うテーマを深く語る語り部は取材対象のコレクターさん自身であったり、博物館の学芸員であったり、餅は餅屋じゃないですけど、専門家にお任せしています。

編集者としての矜持は「何かをやりたい」「発信したい」という熱量に尽きる
─雑誌編集から映像にシフトしたときに感じた、見せ方の違いなどはありましたか?
安藤:動画は作り手の意識があまり反映されないように感じています。雑誌だとライターの書き方に特徴があったり、思っていることを冒頭や文末に書いたりしますが、動画はその余地がないんです。動画に取り上げるトピックを選ぶという意味でディレクターも意思も反映されているんですが、視聴者からはそれが見えないのが、写真記事と動画の違いかなと。
─YouTubeで再生回数を稼ぐという観点で動画を作ると、どうしてもサムネイルなどが似てしまって独自の世界観を作るのが難しい部分もあると思います。McGuffinはアート的な見せ方とのバランスの取り方が絶妙ですが、どのように世界観を構築しているのでしょうか?
安藤:McGuffinも最初はおしゃれさを意識してサムネにはロゴしか入れていませんでした。ゲストがいるときも後ろ姿や引きのカットを使っていましたが、「見られないと意味ないな」っていう結論になりましたね。
あと、そもそも自分はガチガチにかっこいいものやクールなものじゃなくてもいいと感じていて。動画内の音楽、色味、テンポはおしゃれに作りますが、ある程度の質が担保されていれば文字は大きくても良いし、写真もわかりやすいカメラ目線で良いのかなと思っています。
消えていってしまうメディアが多いなかで、維持して残していくことが何より重要だと思います。アートやファッション系、いわゆるオシャレに敏感な視聴者が離れてしまうというほどでなければ、幅広いユーザーに寄り添って、マスさもある程度は出した方がいいと思っています。そのギリギリ折衷な部分でYouTubeっぽい作りにしても良いと思っているんです。
─大事な視点だと思います。求められる編集者像、またメディアが今後も続いていくために、どのようなことが必要だと思いますか?
安藤:何かを発信したいっていう熱量がある人が必要だと思います。ストリートの文脈だと広義すぎて掴みづらいと思うんですが、例えば野球雑誌とか鉄道雑誌とかって、専門の学者なんじゃないかと思うほどの熱量のある人たちが作っていると思います。
ストリートってみんな知ってるから、逆に誰でもなれちゃうんですが、そんななかでも「日本語のHIP HOPは俺に任せろ!」「スニーカーはこの街で一番詳しい!」みたいな気持ちを持って、「だからもっと研究させてくれ」、「記事書かせてくれ」、みたいな臨界点ギリギリの人物が求められる人材なんじゃないかなと思います。
そういう人は食事したりしても話面白いですしね。
もう一つ必要なことは、タイアップ動画やイベント企画などもちゃんとやって、メディアを持続させる力だと思ってます。生々しいしロマンチックな話ではないのですが、マネタイズを折れずに続けていくことはすごく大事だろうなと思っていますね。

─最後に、今後どのようなことを発信していきたいか教えてください。
安藤:ストリートの定義は難しくてどこまでがストリートなのかは断定できないですが、個人的には日本のカルチャーはほぼすべてをストリートカルチャーに置き換えてもいいのかなくらいの気持ちに思っています。街に転がっていて、ユーザーがアクセスできるカルチャーは全部ストリートカルチャーだと思っているんです。
岡本太郎が日本各地の文化を『日本再発見』で再定義したり、D&DEPARTMENTが日本の昔からある家具をリプロダクトしたりしているように、日本全土、古今一切をストリートカルチャーとして令和の時代に定義しなおすことが僕たちにもできるかもしれないと思っています。
なので、今年は刀剣やデコトラのような動画であまり深堀りされてなかった日本のカルチャーも取り上げたいと思っています。アメリカやヨーロッパの文化も好きですが、日本の内側のまだ紹介していない文化を発信できる存在になれたらと思いますね。
