CINRA

「好奇心を人生に」コクヨのリブランディング発表会をレポ。岩井俊二ら3人の監督による短編映画も制作

文具やオフィス家具を製造・販売するコクヨが10月2日、リブランディングの発表会を、自社が運営するワーク&ライフ開放区「THE CAMPUS」にて開催した。

創業120周年にして、初めてコーポレートメッセージを発信。「好奇心を人生に」を掲げ、ロゴも新たに再出発する。

特に注目すべきが、豪華キャスト・スタッフによる短編映画の制作だ。『Love Letter』『スワロウテイル』などで知られる岩井俊二監督、Netflixシリーズ『三体』を手掛けた香港出身のデレク・ツァン監督、2024年に『サンダンス国際映画祭ワールドシネマ・ドラマ部門』で観客賞を受賞したインド出身のシュチ・タラティ監督による、3本の短編映画を発表した。

発表会では、「好奇心を人生に」に込めた思いやリニューアルしたロゴについて説明。コクヨの代表取締役・黒田英邦氏と岩井監督、ツァン監督の3名による映画制作背景などについてのトークセッションも実施した。

当日の様子をレポートする。

  • 取材・テキスト:家中美思

INDEX

好奇心は競争を生まない。人と人がつながり、課題を解決していく「自律協働社会」の実現を目指して

1905年に「黒田表紙店」として創業し、2025年に120周年を迎えたコクヨ。文具やオフィス家具、通販への事業を拡大し、現在ではオフィス空間のデザインなど場づくりにも力を入れている。

リブランディングにあたって同社は、「好奇心を人生に」というコーポレートメッセージを掲げた。

代表執⾏役社長の黒田英邦氏は、「好奇心」にフォーカスした理由について、AIと個人主義の台頭を挙げた。

黒田氏によると、好奇心とは「何かをしてみたい」「もっと知りたい」という欲求であり、AIが持つことのない純粋な感情。誰もが「何かをしたい」という感情を持つことで、人間らしい前向きな社会が実現するのだと語った。

さらに、人と人がつながることで社会課題を解決する「自律協働社会」を実現するためにも、好奇心が重要なポイントになっている。なぜなら、「個人だけが活躍すればよい」という個人主義では人と人はつながらず、社会の分断も埋まらない。「好奇心は競争を生まない」からこそ、好奇心をきっかけに人と人をつなげ、社会課題を解決していくことをコクヨは目指している。

これまで、コクヨの企業理念は「be Unique.」だった。会社として一人ひとりがあるべき姿を定めたこの理念に対して、今回新たにコーポレートメッセージとして掲げた「好奇心を人生に」は、コクヨが実現したい未来を社会に約束する意味を持つのだという。

リブランディングにあたり、ブランドロゴも刷新された。新しいロゴのこだわりは、「K」「K」「Y」の3つの文字が等間隔の斜めラインで揃っていること。

ロゴと斜めラインの連続で無数のパターンを作ることができ、社員の名刺も斜めラインを使用したいくつもの異なるデザインになっている。

さらに、斜めラインの角度を594(コクヨ)度で統一。「コクヨらしいかなと思って」と、遊び心のある制作ポイントも紹介した。

好奇心をテーマにした3作の本格的映画が完成。「まったく違う3作ができました」

さらにリブランディングの一環として、短編映画『The Curiosity Films』も制作。

日本から岩井俊二監督、香港出身のデレク・ツァン監督、インドのシュチ・タラティ監督が、それぞれの視点で「好奇心」をテーマに映画を撮影した。キャストには北村一輝、原田美枝子らが名を連ねている。

黒田氏は、「好奇心は誰かに言われて理解するだけではなく、刺激されて芽生えるもの」という思いから、感情や想像力を揺さぶることができる映画という手段で、「好奇心を刺激される体験を作りたかった」と映画の制作背景を説明。完成した作品について、「本当に同じプロジェクトなのかというくらい、まったく違う3作ができました」と太鼓判を押した。

制作にあたっては、多様な視点で物語を届けるため、3人の監督の活動拠点と撮影場所をシャッフルしたという。3作とも、企業紹介の形式をとらない本格的な映画になっている。その理由について、黒田氏は「映画を通して新しい体験を届けたい」「新しいことにチャレンジし、エネルギーアイデアを刺激することで、新しい仲間を得たい」と語った。

発表会では、撮影を担当した監督らと黒田氏により、「好奇心」をテーマにトークセッションを実施。それぞれが自分にとっての「好奇心」について語った。

デレク・ツァン:作家がいかにして自分の世界に好奇心を持つのかということをテーマにしました。映画監督という職業と作家は似ているところがあるので、立場は想像しやすかったんです。

そこで思いついたのが、作家が作った物語の登場人物も、作家に好奇心を持っているのではないかということです。なので、作家が自分の作品の登場人物と出会い、作品の展開について話し合うという内容にしました。

歳を重ねても好奇心を持ち続けていたいと思います。

デレク・ツァン監督『As Written』
アメリカで撮影。著名作家ブライアン・ジョンソンは、作家人生として最後に開催した朗読会で自身の小説に登場する人物たちと出会い、「あなたは本当に、私たちと向き合ってきたのですか?」と問われる。ジョンソンが作家としての本質を問い直す物語。

岩井俊二:僕自身、好奇心の塊みたいな人間なので、「好奇心」は自分にとってはナチュラルなテーマでした。いまでも好奇心旺盛ですが、小学生のころはいまの100倍くらいあったので、その時期を描けばどんな内容でも好奇心を描けると思いました。

また、実はこの映画は『打ち上げ花⽕、下から見るか? 横から見るか?』の前日譚でもあったんです。学生時代に考えていたことがこの映画の源泉になっています。

岩井俊二監督『世界地図』
中国で撮影。ある日、クラスメイトの藍夏(ランシャ)が海⻛(ハイフン)の家に泊まることになる。世界地図のパズルとささやかな言葉をきっかけに少しずつ気持ちが近づいていく。

タラティ監督もビデオメッセージで好奇心について以下のように語った。

シュチ・タラティ:好奇心とは、生きる原動力だと思います。「自分にはまだ知らないことがある」「何かを知りたい、やってみたい」と思うことが、人をつき動かす原動力だと思っています。

この映画では、夫婦は長く連れ添ってお互いへの好奇心が薄れていたけど、あるダンサーとの出会いをきっかけに好奇心が触発されていく。いつでも好奇心を持つこと、若い気持ち持つことが人生をよりよくするのだと考えています。

シュチ・タラティ監督『Hidden Sun』
日本で撮影。日本を訪れた哲学者のスシラと夫のケンジは、舞踊家マコの引退公演を見ることになる。マコとの出会いを通じて、胸に秘めていた思いに気づき解き放たれていく。

トークイベント終了後はタレントの井上咲楽も登壇。

それぞれの映画について、「人との距離感や振る舞いがうまくなったことがあるが、年齢を重ねて忘れてしまった感情に気付かされた」「ハラハラして展開がまったく読めず、引き込まれた」「一緒にいる時間が長くなるにつれて行間を読んだり、対話を諦めてしまったりすることもある。そんな2人が眠っていた好奇心を開放していく表現がとても素敵」などと感想を語ったうえで、「3作まとめて、『好奇心』とは何かと考えながら観てほしい」とコメントした。

社会を良くしたいという思いを、「好奇心」を通して実現に近づけるコクヨ。ブランドロゴや商品設計、コーポレートメッセージなど、細部にわたる好奇心へのこだわりが見える。

好奇心という言葉1つとってもとらえ方はさまざま。「何かをしたい」という前向きな欲求が可能にする人と人とのつながりは、社会課題を解決するだけではなく、誰もが自分の人生に楽しさや希望を見いだせる社会へとつながっていくように感じられた。

気になる

おすすめ求人企業

PR