レッスン4 採用される文章構造
- 2015/09/04
- SERIES
山田ズーニーさんは、高校・大学生からビジネスマン、プロライターまで幅広い方を対象に「文章表現」の教育に携わるプロフェッショナル。就活で苦戦している学生さんはもちろん、「書類審査で通らないことが多い」、「面接でなかなかうまく自分を表現できない」などなど、就活に悩めるすべての人にこの連載をお送りします!(イラスト:なかおみちお)
Profile
山田ズーニー
文章表現教育者・作家。 Benesse小論文編集長を経て独立。フリーランスとして大学や企業で文章表現力・コミュニケーション力の教育を展開。 表現力ワークショップには定評があり、悩める就活生も見違えるような文章が書けるようになることから、「言葉の産婆」と呼ばれ、教育関係者を驚かせている。 慶應大学非常勤講師。著書『伝わる・揺さぶる!文章を書く』『あなたの話はなぜ「通じない」のか』など。ほぼ日刊イトイ新聞で 「おとなの小論文教室。」連載中。
まさかの失速
就職活動で、
行きたい会社の傾向と対策をバッチリ調べあげ、
好かれるように、嫌われないように、
受け答えもバッチリこなし、
「これで面接はうまくいった」と思いきや、
なぜか虚しくなり、
就活をする意味まで見えなくなって、
「まさかの失速」。
なんて経験はないだろうか?
就活の最大の落とし穴がここにあり、
戸板返しに、「採用される最大のポイント」がある。
4回シリーズ完結編は、
「採用される文章構造」をつかむ!
まさかの失速、私は、ある。
もういちど、仕事はだれのため?
仕事は自己実現でなく「他者貢献」、
と33歳で知った私は、そこから、
自分を無にして顧客につくした。
ところがこのやり方、
1年たらずで、先が見えなくなってしまった。
「何がまちがっていたのだろうか?」
企業で、小論文編集長をしていた私は、
最初は、自分のやりがいや成長を優先し、
「自分を満たす仕事」におちいっていた。
しかし、
33歳の東京転勤を機に、
「読者がいる」と心底つかみ、限界突破し、
「仕事は他者を満たすもの」
とつかんだ。
ここまでは、まちがってない。
そのときから、
「読者の高校生に歓んでもらうためなら何でもする!」
と、特集1つ組むにも、教材の表紙1つ作るにも、
17歳の声を反映した。
直接、高校生に会って話を聞いたり、
読者にアンケートをとったり、
専門の調査会社にデータを頼んだり。
表紙は、モニターの高校生十数名と毎月一緒に作った。
やがて私は、
もうアンケートを見なくても、
高校生の好みをピタリ当てられるようになっていった。
表紙を例にとると、
聞かなくても高校生の好む写真が当てられる。
当時の高校生は、はっきりとした「シンプル志向」。
「青い空」「海とイルカ」「花」など
すっきり、きれい、かわいい写真を好んだ。
逆に、ごちゃごちゃをイヤがり、
人間臭いもの、個性の主張を拒んだ。
ゆえに有名人ではない人間の写真が表紙に出るのを嫌った。
こうして、
写真やイラストはもちろんのこと、
1冊の構成、題材、見出しから文体まで、
高校生の好みを知りつくし、嫌われるものを排除した。
結果、好感度はうなぎのぼり。
私は、入社以来初めて、数字ではっきりと、
読者からも会社からも評価されるようになった。
絶頂期のはずが、
「まさかの失速」。
1年もたたないうちに、
私は、先が見えなくなってしまった。
青い空、キレイな海とイルカ、カワイイ花、
成功した表紙を見て、
「虚しい…」
ただきれいなだけの表紙…、こんな写真、
どこにでもある。高校生の生活圏にもあふれている。
私でなくても、他の人でも作れる。
「こんなものを作るために、私は編集者になったのか?」
私が読者にかかわる意味
相手に好かれようと、
相手の好みを先回りし、嫌われそうなことを排除し、
ただ相手がしてほしいことをしてあげるだけ、
になっていくと、
自分がどんどん透明になっていく。
17歳に好かれようとするあまり、
どんどん自分を見失い、
自分がいる意味さえわからなくなり、
失速した私に、
フリーライターをしていた先輩がこう言った。
「33年生きてきた大人が、
17歳の高校生に向かったとき、
何が言えるか、何を言いたいか。」
……、そうか!
私の中で、「メッセージ性」のあるものづくりが
芽生えた瞬間だった。
ビジョンを示す
その日から、
教材1冊つくるにも、特集1つ組むにも、
業界用語で“落としどころ”と呼ぶビジョンを
編集長としてはっきり部下に打ち出すようになった。
「読者がどうなることを目指すのか。」
高校生の好みは研究するが、そこにおもねらない。
そことうまくコミュニケーションの橋を架け、
メッセージを伝え、
高校生自身では気づけない、
「新たな境地へ導く。」
高校生よりたくさん生きて経験を積んだ大人が、
高校生にかかわる意味がここにあった。
表紙も、「17歳の肖像シリーズ」に変えた。
毎月、生き方のキラリと光る高校生をとりあげ、
写真と、裏表紙のインタビューで伝えていく。
そう、高校生が嫌う「有名人ではない人間の写真」だ。
わかっていて、勇気を出してやった。
なぜなら、
シンプル志向は、裏返せば、
「浮くことを恐れ、個性の主張を嫌う」
当時の高校生の心の表れ、
そんな高校生に、
等身大の、一歩踏み出した個性の輝きを、
月々、多彩に魅せ、
「もっと自分を表現して」もらいたかった。
小論文は、自分の考えを文章で「表現」すること。
だから私たち編集部の、小論文教育への
「志」が表紙に表現された。
新しい表紙は、最初、好感度を大きく下げた。
想定どおりだ。
しかし、読者の好むシンプルトーンで
写真の魅せ方を工夫し、読者の反応を見ながら、
毎月じっくりじっくり伝え続けていった結果、
2年後には、好感度路線の表紙より支持されるようになった。
高校生たちからは、こんな反響が熱く寄せられた。
「私も、もっと自分を出していこう!」
志のある就活表現
就活で、
好かれよう、嫌われまい、と
自分を偽り、自分を殺し、
ただ会社側が言ってほしいことを言うだけなら、
自分がどんどん見えなくなって、
失速するのはあたりまえだ。
そうではなく、
「いままで生きてきた他のだれでもない自分が、
この会社なり、この仕事なり、に向かったとき、
何ができるか、何をやりたいか。」
あなたの「志」を言葉にして伝えよう。
まずはカタチから。
<採用される!文章構造>
1.社会理解 (業界をめぐる社会背景・顧客への理解)
いま、仕事をめぐる社会や人々の状況はこうで、
このような問題点があると私は考えます。
↓
2.仕事理解 (行きたい会社・やりたい仕事への理解)
私が目指すA社の方針はこうで、
そこで私がやりたい仕事「○○」(例:営業)は、
だれに対してどう貢献する仕事だと理解しています。
↓
3.自己理解 (自分の動機・経験・能力・資質への理解)
今まで生きてきた私は、きっかけとなるこんな体験から
こう考えて、この仕事を目指すようになりました。
仕事に生かせるこんな経験・能力・資質があります。
↓
4.志 (将来の展望)
以上のことから、私は将来この仕事に就いて、
人や社会をこのように良くしていくことを目指します。
「自分」と「仕事」と「社会」のつながりを考えて
「志」を打ち出す。
200字 × 4要素 = 800字で書く。
会社によってエントリーシートの形式がちがっても、
充分応用可能なベースとして活躍してくれる文章だ。
ここで、ピン!ときた人は鋭い。
この連載、
レッスン1で「自己理解」を、
レッスン2で「仕事理解」を、
レッスン3で「社会理解」を、
レッスン4で「志」をやってきた。
就活に挑む際、
「ちゃんと自分の心の声を聞いているか。」
「仕事はお金をもらえるレベルで他者貢献すること。」
「社会的苦労の分担とひきかえに、社会的居場所ができる。」
「自分が、組織や社会に貢献できることを志で表す。」
など、これまでやった就活表現のポイントを
すべて備えた文章表現が800字でできる。
小さくとも志ある表現をする
「やりたいことは?」と聞くと、
人によって、答え方がバラバラだ。
「教師になりたい」、「トヨタに行きたい」、「マスコミ」…。
やりたいことって職業? 会社? 業界?
私自身は、やりたいこと=編集者=「職業」だと
思い込んで、編集者になった。
ところが、「編集者になりたい」と編集者になれた後輩が、
1年足らずでこう言った。
「これは私のやりたいことではない。」
彼女は、会社を去り、
アウトドア系の出版社に移った。
私はそのとき初めて、同じ職業についても、
「扱うテーマ」で仕事はガラリとちがうことを知った。
編集者×教育
編集者×アウトドア
編集者×文芸
編集者×ファッション
編集者×経済
……、
「職業」×「テーマ」
しばらくして、
編集者として教育をやりたいと志望し、
みごと「編集者×教育」が叶えられてやってきた
後輩が、またもや、
「これは私のやりたい仕事ではない。」
と辞めていって、私は大きな衝撃を受けた。
「職業」×「テーマ」×「 ? 」
例えば、だれにもわかりやすく
「伝える」ことに心を砕き、より多くの人に
役立つものをつくりたいという人と、
ついてこられる人だけついてこられればいい、
何なら振り落すぐらいの勢いで、
まだだれも見たことのない突出したものをつくりたい
という人とでは、
目にする世界は大きく違っていて、
どちらにもかっこよさがある。そう、
人には「実現したい世界観」がある。
望む職業に就けて、テーマ的にも申し分なくても、
「世界観」が自分と相容れないとき、
人は虚しい。
この、「実現したい世界観=志」である。
読者に好かれても、数字が伸びても、
世界観がちがうとき、私自身、失速し、
表紙1つでも、人が育つものが創れたとき歓びがあった。
「志」は、船のキャプテンが指し示す行先のようなもの。
「志」の内容によって、
人は、共感したり、信頼したり、
この人についていこうと思う。
就活でも、
まだ働いたことがない学生でも、
誇示できる過去の栄誉がなくても、
「どこを目指すのか」
という未来に向かった志で、
人は未知数の人間を信頼し、採用することができる。
まずは「1ミリの志」から始めよう。
望む仕事に就けたとして、
人や社会を1ミリでもよくしていけるとしたら、
どう1ミリよくしたいか。
1ミリよくなった将来のビジョンを言葉にしてみる。
そうしているうちに「志に共感できる企業」も、
見えてくるし、不遇にあっても
自分を見失わずに進んで行ける。
いまから未来にあなたがやりたいことは何か?
社会はあなたを待っている。