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第3回:残業よりも、早い帰宅が評価されるドイツの仕事観

12年前にドイツへ渡り、現在は首都・ベルリンで暮らすフリーライターの久保田由希さん。これまで著書や雑誌を通して、ベルリンのライフスタイルを日本に向けて発信したり、ヨーロッパのヴィンテージ雑貨を紹介しているのだとか。そんな久保田さんに、ドイツのクリエイティブな職場と、そこで働く人々を紹介していただきます。日本との違いや共通点は、一体どんなところにあるのでしょう?

    Profile

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    久保田 由希

    東京都出身。日本女子大学卒業後、出版社勤務を経てフリーライターとなる。 ただ単に住んでみたいと2002年にベルリンに渡り、あまりの住み心地のよさにそのまま在住。著作や雑誌で、ベルリンのライフスタイルを日本に伝える。特にインテリア、カフェ分野での著作多数。主な著書に『ベルリンの大人の部屋』(辰巳出版)、『ベルリンのカフェスタイル』(河出書房新社)、『ドイツのキッチンルール』(誠文堂新光社)、『レトロミックス・ライフ』(グラフィック社)など。インターネットでは、ハフィントンポスト紙にドイツの働き方をテーマに執筆。

    家族との時間を生む、フレキシブルな勤務形態

    一般的に日本では、仕事が長時間にわたることが少なくありません。クリエイティブな職種では、特にその傾向が強いのではないでしょうか。

    ドイツでは職種に関わらず、長時間労働は会社から評価されませんし、社員も定時退社できるように仕事をしています。プライベートを充実させたいのが、多くのドイツ人。その具体的なライフスタイルを、ベルリンの会社でデザイナーとして勤務しているアンドレアス・クラフトさんに伺いました。

    アンドレアスさんは、WEBサイトやアプリを中心としたデザインをしています。キャリアアップや新しい環境を求めて、これまで転職を重ねてきましたが、度重なる転職はドイツではごく普通のこと。現在は、ネットで健康やダイエットをサポートする会社のデザイン部門に、1年前から勤めています。

    デザイン部門のスタッフと常にコミュニケーションを取るアンドレアスさん(左)

    デザイン部門のスタッフと常にコミュニケーションを取るアンドレアスさん(左)

    アンドレアスさんは、デザイン部門の部長。大きなクライアントを3社抱え、複数のプロジェクトを同時進行させる、責任のある立場です。それにも関わらず、勤務は月曜から木曜までの週4日間で、時間は8時半から18時まで。この契約内容は、アンドレアスさんの希望でした。

    「週4日勤務なので、給料はその分少ないです。この契約内容にしたのは、時間に余裕があることで、何かの緊急事にもすぐに対応できるから。それに、会社勤務以外に、大学で講義もしています」

    アンドレアスさんには、小さな息子さんが2人。奥さまは、ご自分の会社を経営しています。アンドレアスさんは、毎日息子さんと共に朝8時に家を出て、保育園に息子さんを預けてから、8時半に出社。18時に退社するために、時には昼休みを返上して働くこともあるそうです。

    それでも仕事が終わらないときは、いったん定時に退社して家族と共に夕食を取った後に、21時頃から自宅で仕事を再開します。また、休日である金曜日でも、電話やメールで会社と頻繁に連絡を取り、プロジェクトの進行に支障が出ないようにしています。

    こう書くと時間外勤務が多いようですが、実は働き方はとてもフレキシブルです。もし勤務時間内にプライベートで何かあった場合は退社して、その分を金曜日に出社して埋めることも可能。

    こうした自由度の高い働き方は、ドイツの全般的な特徴といえるでしょう。だからこそ、家族との時間も確保しやすいのだと思います。

    有給は、全部消化があたりまえ。

    アンドレアスさんの有給休暇は、年間20日間。これは週4日間勤務をベースに算出したものです。週5日勤務なら、年間最低24日間の有給休暇が法律で義務づけられています。そしてドイツでは一般的に、有給をすべて消化するように働きます。2〜3週間の連続休暇は、珍しくありません。

    ドイツは日本に比べて祝日が少ないのですが、自分の好きな時期に休暇を取れるのは大きなメリットといえるでしょう。長期休暇を取るときは、1〜2ヵ月前に申請する場合が多いそうですが、急な申請でも仕事に支障をきたさないと判断されれば、問題ありません。

    アンドレアスさんが働く会社では、プロジェクトごとの細かいタスクと担当者、進捗状況の一覧を、社員がパソコン上で閲覧できる仕組みになっています。プロジェクトの進行を確認できるので、休暇の計画も立てやすそうです。

    日本での勤務を通して見えた、日独の働きかたの違い

    じつはアンドレアスさんは、日本のデザイン会社数社で働いた経験があります。そこで、ドイツとは異なる働き方を知りました。

    「日本では、遅くまで会社にいるのが普通という感覚でした。例えばドイツなら、早く帰宅するために食事は後回しで仕事をするときもあります。でも日本では、仕事を中断してとりあえず夕食を食べに行き、その分遅くまでオフィスにいるという働き方でした。」

    長時間オフィスにいるのは少し残念、とアンドレアスさん。デザインはクリエイティブな仕事なのに、長時間労働によって疲弊し、クオリティが下がってしまうと考えます。

    よりわかりやすく、美しいデザインを生み出すには、創造力が必要でしょう。そのためには、オフィス以外で過ごす時間も大切なのではないでしょうか。これはどの職種にも当てはまることかもしれません。

    終業後に、社内の一室でサッカーゲームに興じるスタッフたち

    終業後に、社内の一室でサッカーゲームに興じるスタッフたち

    アンドレアスさんが、日本が長時間労働に陥りやすい原因の一つと考えるのが、わからないことを人に相談せずに、できるだけ自分でやろうとしてしまうこと。日本での勤務時代には、プロジェクトチーム内に、「問題が起きても、何とかがんばって乗り切る」という雰囲気があったと感じたそうです。

    もちろん、がんばること自体は悪くないのですが、何か問題が生じたときは、その道のエキスパートに相談すれば、最善な方法でより早く解決できるかもしれません。アンドレアスさんは、プロジェクトチーム外の人々とのコミュニケーションをもっと図ることで、さらに効率よく仕事が進むのではないかと考えています。

    逆にドイツでは、本来担当すべき仕事をすぐに他人に任せようとする傾向があるそうです。また、転職が多いために、プロジェクトチームの結成・解散のサイクルが早く、それによるデメリットも感じているそうです。どの国も、それぞれ強み・弱みがあるわけです。

    自分でがんばって何とかするという気持ちは、責任感の強さから来るものでしょう。そのがんばりを長時間労働につなげるのではなく、最善の方法で最大の結果を生むように意識を向ければ、働き方も変わってくるのではないでしょうか。

    仕事とプライベートは、どちらも大切で、互いに影響し合っていると思います。プライベートでのよい経験が、充実した仕事につながり、それが再びプライベートに反映する。そんなワークライフバランスは、個人の努力だけでは実現できないこともあるでしょうが、一人ひとりができることも、きっとあると思います。

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