
広告映像の演出に携わる方法やルートはいくつかあるのだが、未経験の状態でチャレンジするのには、ハードルがあるのではないだろうか。「プロのディレクターとして食べていきたい」と思うならなおさらで、広告映像を請けおうディレクターの求人は、経験者を募集することが多い。
そんななか、映像ディレクター集団・株式会社ヴィレッジは、未経験者も受け入れているという。その背景には既存のルートではチャンスを得られなかった人でも活躍できる場をつくりたい、という代表・大知さんの思いがある。
同社には、多様なキャリアのディレクターが集まり、それぞれが自身のバックグラウンドを活かしながら、ディレクターとして独り立ちしている。
未経験でも成長できる、同社の環境とはいったいどのようなものなのか? 代表の大知裕介さんと、同社の若手ディレクター5名に話を聞いた。
- テキスト・取材:原里実
- 撮影:kazuo yoshida
- 編集:吉田薫
生活基盤を確保しながら、映像制作を学べる環境を作りたい
—まずは代表の大知さんに、未経験を積極的に採用される理由をお聞きしたいです。
大知:CMの演出って、たとえば学生時代に賞を獲って大手プロダクションの演出部に入るとか、決まったルートを経ないと入りにくいところがあるんです。僕自身は30歳を過ぎるまでずっとカラオケの映像を作っていました。それでも、何故か自信はあったので、一度でもチャンスがあればなんとかなると感じていましたし、実際なんとかなりました(笑)!
だからこそ、既存の枠組みではチャンスを得られなかったような才能のある若い人たちが、生活基盤を確保しながら映像制作をしっかりと学び、業界で活躍できるようになるきっかけを作りたいと考えています。
清松:私もキャリアの最初はファッション系の空間演出家のもとで働いていましたが、そこから映像制作に挑戦したいと思ったときに、ほとんどの会社が未経験を採用しておらず、途方に暮れたのを覚えています。そんななかで見つけたのがヴィレッジでした。

左:大知裕介さん(代表取締役 / ディレクター)2017年に友人と共にヴィレッジを設立
右:清松遥さん(ディレクター)服飾の専門学校を卒業後、ファッションショーやコスメの発表会などを手掛ける空間演出家に師事。コロナを転機に映像に挑戦したいと思いヴィレッジに入社
山口:私は大手プロダクションでプロダクションマネージャー(以下、PM)の仕事をしていたのですが、社内で制作部から演出部に移るハードルは高かったですね。
大知:新卒で入社するときって、プロデューサーやPM、ディレクターが、それぞれどういう役割なのかあまりよくわかっていない人も多いと思うんです。とにかく映像が好きという理由からPM職でプロダクションに入ったはいいけれど、あとからディレクターになりたいと思っても異動しにくい、という話はよく聞きます。西村も、キャリアの最初は制作部からだったよね。
西村:私は最初はMVの制作会社で制作部の仕事をしていました。そこから一度フリーになって、いろんな監督について現場に行ったり、照明助手や撮影助手をしたりしていたのですが、やっぱりCM業界は実績がないと仕事の依頼がこないと感じていて。ヴィレッジに入社してからあらためてディレクターの仕事を学びました。

左:西村佳菜子さん(ディレクター)MVの制作会社で制作部を経て、フリーに。監督アシスタントをしつつ演出も手掛ける。その後、自身の未経験の分野の仕事ができると感じヴィレッジに入社
—井上さん はどういう経緯でヴィレッジに入社したのですか?
井上:僕は地元のブライダル映像制作会社で、撮影や編集まですべててを1人でやっていたのですが、西村と同様演出に関してはあまりきちんと学んだことがなくて。地元にいてはできない大きい案件に関わりたいと考えて、ヴィレッジに入社しました。
「仲間が近くにいる」安心感
—未経験で入社した場合は、どのように業務に入っていくのでしょうか?
清松:私は右も左もわからない状態だったので、まずは制作部の仕事からはじめました。プロデューサーの下につき、ロケ地探しからロケ車の手配、お弁当の発注まで、とにかく現場で必要なことをなんでもやりましたね。1年半〜2年かけて映像制作の流れを学び、それからディレクションをはじめましたが、最初は先輩が撮影に同行してくれるなどサポートしてくれました。
大知:本当に人それぞれですね。高木の場合は、最初からアートディレクター(以下、AD)として超優秀だったし、クライアントとのコミュニケーションも圧倒的に上手いので、僕がサポートするという感じではなかったです。
高木:私の場合は大手広告代理店グループに長く勤めていて、制作の基本的な流れは理解していたので、初期から1人で動いて、わからないことや相談ごとがあるときに都度助けてもらうという感じでスタートしました。
大知をはじめとする先輩方はもちろん、同僚みんなに質問しやすい環境があるのはすごく助かってますね。大企業でいう「同期」の感覚ともしかして近いのかもしれませんが、「一緒に切磋琢磨しながら作っている」という感じがあります。

左:高木公美子さん(ディレクター / アートディレクター)ファッション専業の広告会社株式会社コスモ・コミュニケーションズを経てヴィレッジに参画
右:井上智貴さん( ディレクター / モーショングラフィッカー)2016年ごろから地元・徳島で複数の映像制作会社で業務をスタート。2020年に上京し、ヴィレッジ入社
大知:山口もディレクターは未経験ですが、彼女の場合は、最初から企画がすごく上手くて。弊社の特徴の一つかもしれないのですが、監督指名ではない企画コンペ案件が依頼されたときは、社内のみんなで企画を出し合って勝った人がその作品の演出を担当するんです。山口はその勝率がものすごく高い。だから彼女の場合は、初期からディレクターとしてガンガンやっていたと思います。
山口:とはいえ一番最初は先輩の案件に一緒に入らせてもらって、テレビCMは先輩が担当し、私はWEB用のショートムービーのディレクションだけを担当する、というところからスタートしたと思います。そこから徐々にメインで担当するようになっていきました。

右:山口えり花さん(ディレクター / コレオグラファー)大手プロダクションでPMを経験したのち、ヴィレッジに出向。その後、ヴィレッジに正式入社
「好き」や個性を伸ばすことの重要性
—それぞれ、どんなジャンルやスタイルを得意にしていますか?
大知:西村は学生の頃グラフィックデザインを勉強していたので、絵づくりが上手いですね。あと、映画も好きなので、ストーリー性のある映像や会話劇が得意だなと感じます。
高木:西村はかわいいトーンが上手いなと思いますね。
西村:案件によっては、たまに自分でイラストも描いたりしてます。
清松:イラスト、めっちゃ上手いですよね。絵コンテもすごくきれいだし。
大知:井上はモーショングラフィックが得意で、自分で3DCGも作ります。
井上:僕はモーション系が5割くらい、実写が5割くらい。他の社員と比べるとモーション系が多いですね。そのためか、サービスの内容やコンセプトなど、形にしにくいものを映像で表現するという案件は引き合いが多いと感じます。
大知:清松は最近、縦型動画の依頼が多いよね。
清松:いまはTikTokをはじめとするSNSの動画広告が流行っているので、そういった媒体で流す、若年層向けの商材の動画が多いですね。あと、もともと服飾の専門学校出身で、ファッション系の案件を多く手がけていたので、おしゃれなトーンが得意です。
大知:あと、清松はコミュニケーション能力がすごいので、どこに行っても好かれて帰ってきます。
高木:リピート率が高いですよね。
大知:高木はやっぱり、グラフィックと映像が両方できるということが大きな強み。
高木:最近は、企画から入る機会もとても多いですね。経歴的にクライアントと直接コミュニケーションをして企画をまとめあげることが得意なので、クリエイティブディレクターのような役割から、グラフィックのAD、映像のディレクターまで、一人三役のような働き方をしたり。
私は映像業界に入るのが遅かったので、職人的な演出の質というより、幅広くできるということを強みにしていきたいなと考えています。
自分次第でなんでもやれる。型にハマらない仕事の仕方
大知:山口は、自分で振り付けができるのが大きな特徴なのと、賞レースが強いよね。
高木:賞レース、強いですよね。企画がやっぱり、上手いから。
大知:出品したら、大体何かしらの賞を獲ってるよね?
山口:たしかに、獲らなかったことない(笑)。
清松:かっこいい!(笑)
—山口さんは、『ヤングライオンズ 2025』フィルム部門のSILVERをはじめ、 キヤノンマーケティングジャパンが主催する『GRAPHGATE』の2024年グランプリなどを受賞されていますね。受賞するにあたって、ヴィレッジの環境が役立った部分はありますか?
山口:一つは、さっき高木も言っていたように、相談しやすい環境がありがたいですね。ヴィレッジでは本当にみんなが親身になって相談に乗ってくれるのですが、大手プロダクションに所属しているディレクターと話したときに、それって当たり前じゃないんだなと思い知りました。それまで、大手に所属しているディレクターには少し引け目を感じるというか、羨ましく思うこともあったのですが、ヴィレッジのよさをあらためて実感する出来事でした。
山口:あとは、賞に出品するための作品づくりはなかなかお金がかけられないことが多いので、美術制作や衣装集め、作詞まで自分でこなすなど、いわゆるディレクターの守備範囲外のことまで担当することも多いです。もともとヴィレッジは自分次第でなんでもやらせてもらえる環境なので、そこにも助けられているかなと思います。
—ディレクターの守備範囲を超えていくという話は、先ほどの高木さんの話とも共通しますね。
高木:異業種から入りやすいぶん、それぞれが自分の過去の知見を活かした働き方ができるんだと思います。職人的なディレクターとして売れている方も世の中にはもちろんたくさんいますけど、ヴィレッジにはどちらかというと、何か他のものとの「掛け算」が得意な人が多いのかなと。そしていまの時代に必要とされているのも、そういう人材なのではないかと思います。
「フリーランスのまま仲間だけ増えた」感覚
—働き方や社風についても教えてください。CM監督のメインストリームであるフリーランスというある意味最も自由な働き方と比較して、働きにくさを感じることはありませんか?
井上:ヴィレッジは、どの仕事を受けるかとか、働く時間とか、とにかく裁量をとても大きく持たせてもらえます。だから気分的には「フリーのまま仲間だけ増えた」みたいな感覚に近いですね。
西村:私はかっちりした雰囲気が苦手なので、入社のときから働き方は重視していて。面接後にお試し入社期間があって、きっちり見極めてから入社したので、ギャップはありませんでした。
清松:いい意味で「会社っぽくない」ですよね。
井上:クリエイティブな仕事だからこそ、思い浮かんだアイデアを一度寝かせたり、インプットに時間をとったりと、直接的なアウトプットにつながらない仕事も大切です。そういった時間の使い方も自由にできるから、自由な発想につながって、仕事の質も上がっていると感じます。
山口:ただ、自由なぶん能動性は求められますよね。仕事好きな人のほうが、働きやすいと感じるかも。
高木:みんなが頑張り屋だから、頑張り屋な人のほうが合いそう。私自身、置いていかれないようにいまも必死です。
相談も愚痴も感想もフラットに言い合って成長する
—そういった自由で自律した雰囲気と、横のつながり同士で助け合う雰囲気が両立しているのが、独特だなと感じます。
高木:横のつながりでいえば、ほかのディレクターの案件に私がADとして入らせてもらうとか、振り付けを山口に頼むとか、モーショングラフィックを井上に頼むとか、それぞれの得意領域を活かして分業することもありますね。
井上:やっぱりディレクターの仕事って、自力で踏ん張って生み出さないといけない時間があったり……孤独な側面もあります。そういうときに、同じディレクター視点でアドバイスをもらえることってすごくありがたいし、同じように「生みの苦しみ」を味わっている同志が隣にいるだけで、少しは心にゆとりができるなと思います。
西村:ただ、多少の打たれ強さは必要かもしれないですね。意見交換をするときは、もちろんよいことばかりではなく、思ったことを正直にフィードバックしてくれる人が多くて、それが成長につながるので。
高木:お互いにリスペクトがあるが故の正直さですよね。それは、大知も含めて。大知はもちろん社長だし、会社の先輩なんですが、あんまりそういうふうに思っていないかも。いい地元の先輩というか。
山口:あ〜。
清松:たしかに。
高木:だからなんでもフラットに相談できるし、仕事の愚痴も話せるし、大知から「この編集はよくないと思った」って言ってもらったら、「悔しい」と思いつつ「やってやろう」みたいな気持ちにもなるし。そのくらいのいい距離感。ここにいる同僚みんなのことも、年下だけど後輩とも思っていなくて、いい友達だし、尊敬しているディレクターだと思ってる。
大知:本当に、お互いに尊敬しているところがたくさんあるんですよね。自分よりできるところがそれぞれにあるから。僕も勝てないところ、いっぱいあります。
メンバー同士で企画を取り合う、ライバルでもある
—個性豊かなクリエイターが揃っていると思いますが、ヴィレッジに入社するにはやはり個性が必要なのでしょうか?
清松:この会社に入って何をやりたいかは、明確にあったほうがいい気がします。
大知:そうじゃないと、負けてしまうというのはあるよね。メンバー同士で企画を取り合う、ライバルでもあるので。
清松:でも、最初から個性が確立されていないといけないというわけではなくて、入ってから好きなことや得意なことを見つけるという道もあるのかなと思います。
高木:たしかに、ヴィレッジはそれを見つけやすい環境かもしれないですね。編集作業などで夜遅くまでオフィスにいるときに、それぞれ最近見た映像で好きなものとかよかったものを紹介し合う習慣があるんです。そういう会話のなかで、「そういえば私はこういうのが好きだな」と再認識したり。あとは、大知が褒め上手なんです。
—たしかに、この取材中にもみなさんのことをよく見て、知っている印象を強く受けました。
西村:普段からこまめに褒めてくれますよね。
大知:それぞれ、いいところがありますからね。そのぶん悪いところもあるかもしれないけど、欠点をなくすだけのやり方だと、どこにでもいるような人になってしまいます。ディレクターとしては、やっぱりそれじゃつまらない。だからこそ、各々のいいところを伸ばせるような接し方を心がけているんだと思います。
山口:自分自身もそうですし、みんなを見ていても思いますが、やっぱり好きなものが個性や作風につながってくるなと思います。私はかわいいものや面白いものが好きなので、「可愛くしたい! 面白くしたい!」って思いながら仕事していたら、作風がそうなってきたような気がするし。
高木:変わってもいいので、「いま大事にしてるもの」をしっかり大事にしてものづくりしていけるといいですよね。そしてヴィレッジはそれを応援してくれる。誰かのためではなくて、自分の未来のために頑張れる人をサポートしてくれる会社なのかなと思います。
Profile

株式会社ヴィレッジは、テレビCMやWEBCMにはじまり、MV、アニメーション、番組、さらには空間演出まで、多彩な作品を手がけるクリエイティブカンパニーです。多様なスキルを持ったディレクターが在籍し、企画から納品まで社内で一貫して行えることを強みとしています。
◾️イチからのスタートで売れっ子に。次世代に活躍するディレクター育成への想い
映像ディレクターが集まって設立した会社として、質の高いものづくりを行うことだけでなく、「質の高い映像を作れる人」を育てることも大切にしています。ディレクターはフリーで活動をする人が多い業界ですが、ヴィレッジのディレクターは多くが正社員として在籍しています。
ここには、「プロとしてのはじめの一歩」が踏み出しづらい映像業界において、未経験の人でも生活基盤を確保しながらディレクターを目指す環境を提供したいという強い思いがあります。実際に、他業種から転職して入社数か月でテレビCMの演出を担当したり、アワードで受賞をしたりと、業界で認知されているディレクターも数多く在籍しています。
◾️支え合いと自立のバランスがとれた、「ちょうど良い距離感」の社風
実写からモーショングラフィックス、アニメやコレオグラフィーまで、所属クリエイターの得意領域はさまざま。意欲次第でさまざまな学びが得られる環境です。
ただ、いろいろ相談はしても、最後に決めるのは自分自身。フリーランス気質のメンバーが集まって立ち上げた会社ということもあり、コミュニケーションはフラットです。
支え合いながらも自立した「ちょうど良い距離感」のなかで、パワフルな先輩ディレクターたちと一緒に、楽しみながら映像をつくりませんか?