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想像できることは全部やる。ザッツ・オールライト流の「寄り添う力」を嵐山邸宅MAMAの事例から知る

株式会社ザッツ・オールライト

株式会社ザッツ・オールライト

企業ブランディングから広告制作、さらにはサービス開発まで幅広く手がけるザッツ・オールライト。CINRA JOBにおける過去2度の取材を通して見えたのは「機能するクリエイティブで求められている以上の結果を出す」という強い信念だった。それはどんなアウトプットにつながるのか。今回はザッツ・オールライトのクリエイティブにさらに深く迫るため、同社が立ち上げから運営まで一貫して携わっているプロジェクト「嵐山邸宅MAMA」に着目する。

嵐山邸宅MAMAは京都・嵐山にあるレストラン / ホテル。ザッツ・オールライトは同施設を運営する有限会社DAYからの依頼を受けてプロジェクトに携わることになったという。本記事では、プロジェクトを主導したザッツ・オールライトのプロデューサー小嶋竜さん、アートディレクターの佐々木敦さんにくわえ、DAY代表・渡部明彦さんの3名に話を聞いた。

会社の垣根を越え、嵐山邸宅MAMAのオープンまでの道のりや、大切にしているクリエイティビティについて話す3人から、ザッツ・オールライト独自のものづくりの精神が見えてきた。

  • 取材・文:谷みずよ
  • 撮影:原祥子
  • 編集:吉田薫

キーワードの「儘(まま)」を軸に、すべてがクロスして進行した

ーまずはザッツ・オールライトさんとDAYさんの出会いから聞かせてください。

渡部:嵐山邸宅MAMAはもともと阪急電鉄の保養所でした。その施設を嵐山の街のにぎわい創出のきっかけとして新たに活用するためのコンペが開催され、DAYの提案が通ってプロジェクトを推進していくことになりました。

でも、当時、DAYは社員数人の本当に小さな会社で、この施設規模の開発や運営の経験なんてありませんでした。なので、急いでパートナー企業を探していたときに、知り合いの紹介で出会ったのが小嶋さんです。

断られることを前提に相談したのですが、小嶋さんは「なんでもやりますよ!」と。近所のお兄さんみたいな小嶋さんの人柄にも惹かれて、会ったその日にすぐ「ぜひ一緒に仕事がしたい」と思いました。

有限会社DAY代表・渡部明彦さん。一級建築士。大学では建築デザインを専攻し、卒業後に独学で建築を学びながら、DAYinc.を設立しました。住宅、飲食店、ゲストハウス、ホテル等、幅広いジャンルのデザインに携わる。2019年に京都・御幸町にクラフトビアバー「半地下」をオープン。2020年に「儘 MAMA」、2021年に併設ホテル「嵐山邸宅 MAMA」をオープン

小嶋:渡部さんからプロジェクトの内容を聞いて、素直に面白そうだと思いました。それに私は大阪育ちで阪急が大好きなので、阪急の仕事をお手伝いしたいという思いもありました。

ー施設全体のブランディング、プロデュース、さらにレストランの業態開発など、一貫してザッツ・オールライトが携わっているそうですね。プロジェクトはどのように進めたのですか?

小嶋:館全体として軸になる考えを模索すると同時に、レストランの業態から考察していきました。建物の構成上、手前にあるレストランが街との接点になり、その奥がホテルになるため、その良さを最大限に活かせるプランニングからはじめました。

佐々木:いろんなことが同時並行で進むなかで軸となったのが、施設名の由来にもなった「儘(まま)」というキーワードです。この施設は、保養所だった頃の構造を残していて、それがいい個性になっています。そこから「儘」というキーワードが生まれました。「ありのまま」「そのまま」 というものの良さを大切にする意味と、観光地ではない嵐山そのものの魅力や、この地で育った食材の「そのまま」を味わう。それがレストランとホテルを貫くコンセプトになっていきました。

渡部:さらに、儘には「わがまま」という「自分たちではコントロールしづらいもの」というような意味も内包しています。そのなかにも「良さ」を見つけて、固定概念に囚われずに自由な発想で、自分たちが考える「良さ」を提案していければという思いを込めています。

(左)ザッツ・オールライトのアートディレクター・佐々木敦さん。多摩美術大学の造形表現学部卒業後、広告の制作プロダクション、外資系の広告代理店を経て、2018年にザッツ・オールライトに入社。スタートアップや企業のアイデンティティ開発から、お菓子・お酒・ホテル・飲食店などのブランド開発まで、領域にとらわれない幅広いアートディレクションを得意とする。(右)ザッツ・オールライトのプロデューサー・小嶋竜さん。大学では建築を学ぶ。2009年に株式会社パラドックスに入社。ディレクターとして数々の企業の採用コンサルティングや各種ツールの企画・制作、ブランディングを手掛ける。2016年に株式会社ザッツ・オールライトに入社。ホテルや飲食、スイーツ、スキンケアなど、様々な業態のブランド開発、店舗・商品開発にプロデューサーとして携わる。SNSプロモーション事業部の統括責任者も兼任

渡部:業態開発やデザイン、プロモーションなど、やらなければならないことはたくさんありましたが、一つひとつ取り組んだというよりも、「儘」というキーワードを軸に「どんな場所にしたいか」「この土地の個性は何か」を追求していくなかで、それらが自然とクロスし、細かいアウトプットへと進んでいったイメージですね。

小嶋:ただ、この「儘」が生まれるまでは時間がかかりました。メンバー全員が納得する言葉がなかなか出てこなくて、ロゴも何度もつくり直して。ザッツ・オールライトは多くのプロジェクトにおいて、箱が完成したら終わりではなく、その先の運営も伴走します。だからこそ、開発時の思いやコンセプトは、完成後から運営に関わるメンバーにとって指針となる大事なものであることを身をもって知っているので、時間を使ってディスカッションを繰り返しました。

ホテルの一室。内装もDAYが手がけている

保養所の解体を進めるなかであらわになった構造部分の躯体をそのまま活用。空間デザインのひとつとしてとり入れている

いいクリエイティブは「消費者目線」から生まれる

ープロジェクトを進めるなかで、特に印象に残っていることを教えてください。

渡部:レストランのメニュー開発ですね。メイン料理がピザと決まったあと、すぐにみんなで全国のいろいろなお店にピザを食べに行きました。毎回お腹が苦しくなるほど食べ比べて研究しましたよね。

小嶋:ピザ屋を回り、食べ、お店の人に質問をし続けるうちに、生地を見ただけでグラム数がわかったり、食べた感触から使っている粉の種類がわかったりするぐらいまでになっていました(笑)。

時間はかかりますが、言葉で説明するより、みんなで一緒に同じものを食べてディスカッションするほうがスピーディですし、よりいいものがつくれると思っているんです。

取材中、小嶋さんが資料として見せてくれたピザの試食写真

佐々木:リサーチ後にスタートしたピザ生地の開発は、本当に大変な作業でしたね。全員の満足いく「美味しい」を見つけるために、あらゆる種類の小麦粉を持ち込んでは配合を変えて焼いて食べる、を何度も繰り返しました。毎回、最初は美味しく感じるんですけど、食べ続けているうちにだんだんわからなくなってちゃうんですよ。当然、お腹もいっぱいになってしまって(笑)。

ーメンバー一人ひとりの味覚も違うなかで、ブランドを物語る美味しいを見つけていく作業はとても難しそうですね。

佐々木:そうですね。でもその場で対話を重ねていくと、「見た目はいいがもっとわかりやすく美味しいものがいい」「美味しさは納得できるが大衆的過ぎる」など、物差しの幅が短くなっていきます。さらに追求すると「薄い生地でオイリーでジュルっと感が欲しい」などという具体的な表現が出てくる。全員で一緒に探求を続けたおかげで、求める味が精緻に言語化できるようになって、よりクリアに目指す「美味しい」を共有できたと思います。

ーその道のプロに任せ切らずに自分たちでまず体験する、という進め方は独特です。

小嶋:もちろんシェフにも入ってもらっていますが、基本的にメニューはみんなで考えています。イタリア料理屋はこうあるべきという枠組みではなく、嵐山のこの場所に合うピザは何かということを丁寧に考えていけば、その道のプロではない私たちにもできると思っています。

佐々木:味わいや細かな知識などの専門領域に関してはプロに任せるべきだと考えていますが、ザッツ・オールライトが最も大切にしているのは「消費者目線」です。私たちはピザのプロではないけれど、消費者の立場で体験を繰り返すことで「食べてみたい」「体験してみたい」を起点とした、人に伝えたくなるアイデアになっていくと考えています。

渡部:普通の会社だとまず提案資料から始まり、内容が固まってから実行に移しますよね。でもザッツ・オールライトさんは理屈を並べず「とりあえずピザを食べに行こう!」から始まりました。だからメンバーの身体に共通の感覚が染み込むのが早く、その後の対話がしやすくなる。ザッツ・オールライトさんのクリエイティビティは、フィジカルをすごく大切にされているんだな、とご一緒して思いました。

ー「まず自分たちで食べる」という行為は、消費者の目線で考える原点となると。今回に限らず、どんな案件でもこのように体験を大切にしているのでしょうか?

小嶋:はい。ザッツ・オールライトが携わるプロジェクトは人々の日常に根付いている商品やサービスが多いです。だから、その開発やブランディングには一消費者である私たち個人の感覚が大切だと考えています。どの案件でも「プロに任せればいいものになる」「凝ったデザインにすることが大切」ではなく、みんなで一緒に何度も体験を共有して悩みながら、納得のいく答えを追求していきます。

佐々木:「商売」っぽさがありますよね。どうしたらお客さんにお店に来てもらえるか、そしてどうやったらお客さんが自然にお財布を開いてくれるのかを考える。もちろんわざと買わせようとするつもりはなくて、どうしたら喜んでもらえるのかを本気で考えるという意味で、商売の本質に近い気がします。

「当たり前である必要はない。ザッツ・オールライトさんと対話をしていると、そういうことに気づかされます」

ー渡部さんはザッツ・オールライトさんからの提案で驚いたことはありますか?

渡部:ホテルの部屋番号のサインを見ていただきたいんですけど、一見すごくわかりにくいですよね? 私が依頼したのは、わかりやすくシンプルなデザインだったので、最初にこのサインを提案いただいたときは、ちょっとびっくりしました。

部屋番号のサイン。左の山が階数、右の山の数で部屋番号を表している

渡部:でもいまはこのサインが、スタッフとお客さんをつなぐいいツールになっています。ちょっとわかりにくいことで会話が生まれるからです。

サービス業はお客さんとのタッチポイントや、お客さんの驚きを生み出すことが大事なんだと、このサインの効果を通してあらためて感じます。

佐々木:このホテルのロゴは「儘」のローマ字表記「MAMA」と、嵐山の山、山にかかる雲をモチーフにつくりました。このロゴを部屋のサインにも反映させたら、思った以上にわかりにくい。でも、このわかりにくさを会話のきっかけにできればと思い提案しました。10室という規模だからこそ、できるデザインだったかもしれません。

渡部:ホテルをつくるとなったとき、少なからず「ホテルはこうあらねばならない」という考えにとらわれてしまいますよね。先ほどの部屋番号のサインにしても「部屋番号のサインはわかりやすくなければならない」という固定観念が私のなかにあった。でも、小嶋さんに「ホテルをつくることではなく、『人が泊まる場所をつくる』ということを考えるんですよね」と言われてハッとしました。泊まる体験が心地良く楽しければそれで良い。みんなの当たり前である必要はないんですよね。ザッツ・オールライトさんと対話をしていると、そういうことに気づかされます。

全10室のホテル「嵐山邸宅MAMA」のロゴ

ビラ配りからデザインまで。できることはすべてやる精神

ーザッツ・オールライトさんは開業後の運営も伴走されているとのことですが、どういったことを行なっていますか?

渡部:じつは、開業の準備中にコロナ禍になってしまったんです。でも開業するしかないという状況で、人も歩いていないし、ネット広告も効果がなく、お2人と一緒に駅前でビラを配りました。小嶋さんにはスタッフの採用やチームビルディングも相談しましたし、どんなことでも寄り添って一緒に解決してもらいました。

小嶋:私たちも、MAMAにたくさんお客さんが来て、嵐山という場所が潤い、街開きのきっかけになることを何より大事に考えていました。だから集客をはじめ、やれることは全部やろうと。ビラ配りに限らずポスティングや、ありとあらゆることをやりました。

ー採用やスタッフの育成の面では、小嶋さんの前職の採用コンサルティングの経験も活かされていそうですね。

小嶋:たとえば、月に1回の全社会を提案して、実際にいま行なっていますね。私もファシリテーターとして参加しています。渡部さんが考えていることや会社としての方針を伝え、レストランやホテルとしての戦闘力を上げていくための育成と、スタッフ同士のコミュニケーションを目的とした会です。MAMAがお客様に受け入れられていくためには欠かせない時間だと思います。

渡部:最近では対話の仕方や効率的な会議の方法など、テーマを決めて小嶋さんに講義してもらっています。スタッフの雰囲気や仕事ぶりが変わってきたのは、全社会の影響が大きいと思います。

ー渡部さんご自身がザッツ・オールライトから学ぶこともありますか?

渡部:たくさんあります。ザッツ・オールライトさんは「こうやったほうがいい」とは言いません。でも悩みを相談すると、ちょうど良い分量で答えてくれて、余計な提案もありません。その姿勢は、私自身がビジネスをするうえでも参考にしています。

渡部:たとえば、自分の知ってる領域なら金額の相場がわかりますが、知らない領域だと最適な金額がわかりません。そんなとき小嶋さんは、「いまのフェーズでは、そんなにお金を使う必要はないから、できる範囲でやりましょう」と言ってくれる。それが信頼につながりますし、勉強にもなります。

ーまさにビジネスパートナーですね。

小嶋:私はクライアントの会社の一社員になったつもりでいます。だから、いいと思うことはきちんと提案しますし、企業の成長フェーズやタイミングを見て、いまやるべきではないことは提案しません。日々の運営をするなかで現場により添い、パートナーとして客観的かつ多角的視点の両方を大切にしています。

渡部:あと、小嶋さんも佐々木さんも、言語化が上手いんです。対話のなかで真っ向から否定されることもありますが、なぜダメなのかを明確に伝えてくれるし、言葉の解像度も高いので有意義な対話になるんです。

職種や役割ではなく「人間」で仕事をする。それがザッツ・オールライト流

ーこれまでのお話を聞いて、ザッツ・オールライトさんは職種や会社の垣根を越えて、自由自在に行動しているのが特徴的だと感じました。他社ではあまり例を見ない働き方ですね。

佐々木:組織や役割で区切らず「人間」で仕事をしています。クライアントからの相談に対して何ができるのかを考えたとき、できることを全部やれるのが一番いい。そのときに「自分はプロデューサーだから、アートディレクターだから」と仕事を線引きすると、そこで動きは止まります。

私はアートディレクターなので、その領域の役割を最大限担った上で、さらに必要なことがビラ配りならそれに徹する。そういう関わり方をしていると、仕事は面白く広がっていきます。相手やその商材に何が必要なのかを考えることが「人間で仕事をする」という意味だと思っています。

小嶋:私は「つねにフルスウィングをしよう」と言っています。職種にこだわらずに自分にできることは全部やってみるということです。当社には規模の大きい案件も小さい案件も依頼がきますが、どんな案件でも毎回ホームランを打っていると新たな仕事につながる可能性も広がっていきますから。

ー今回、御社は小嶋さんのようなプロデューサー職の採用に力を入れていますね。新しいメンバーにはどういうことを求めていますか?

小嶋:クライアントと対峙して物事を積極的に進めていく力です。その場で課題や目標をクライアントと定め、判断してプランを立てられる。クライアントから言われた課題に対応するだけでなく、他の角度から見たり、俯瞰して見たりできることが大事なのかなと思います。

それから、知識の幅が広い人もいいですね。たとえば建築もアートも知っているし、BtoBの仕事も経験があるなど、満遍なく知っていて、広く興味を持てる人はザッツ・オールライトの仕事を楽しめると思います。

ーでは最後に、どういった人柄がザッツ・オールライトに合うと思いますか?

佐々木:気前がいい人ですね。社名が「ザッツ・オールライト」ですから。どんな仕事でも快く引き受け、想像できることなら全部やってみる力がある。自分の心の持ち方と人との対峙の仕方は常にポジティブであるほうがいい。それに気付ける人は仕事を楽しめますし、活躍できると思います。

Profile

株式会社ザッツ・オールライト

2010年の設立以来、どんな依頼にもザッツ・オールライトの心意気で応え、「結果」を出してきました。

・老舗旅館やホテルのリブランディング
・スイーツ、食品メーカーの商品、店舗、事業開発
・信州奥地の村おこし、京都駅前の町おこし
・コンサルティングファームの企業価値の再定義
・経営破綻した飲食店の再建
・歌舞伎役者のファンクラブやサロンの開設、運営

北海道から沖縄まで(ときに海外も)、多種多様な案件を担います。業種、ジャンル、予算、スケジュール……。ひとつとして同じプロジェクトはありません。

現場を訪ね、一次情報を立体的に収集し、ときに飲み明かし、意見を交わしながら腹落ちするまで課題を咀嚼します。

前例のない解決策が必要なため、プランはゼロから着想。社内外のメンバーを巻き込み、協議を重ね、機能するクリエイティブをカタチに。

着実に、果敢に、プロジェクトを成功へと導きます。

DRAFT、リクルート、McCann、サイバーエージェント、楽天野球団、産経新聞社、キヤノンなど前職さまざまな仲間が活躍しています。

難解なプロジェクトが山ほどあります。紆余曲折を一緒に楽しみましょう。

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