飲食店やホテル、食品メーカー、アパレルブランド、地方自治体などさまざまなクライアントを相手に、ブランディングから広告制作、商品・サービス開発まで幅広く手がけるザッツ・オールライト。
今回話を聞いたのは、創業メンバーのひとりでプロデューサー・クリエイティブディレクターの梅田武志さんと、ディレクターの舘野彩夏さん。7年前の入社当初は梅田さんのアシスタントとして雑務を一手に引き受けるところから始めたという舘野さんだが、ディレクターとして徐々に頭角を表し、クライアントからの信頼を勝ち得ていったという。
2人の仕事スタイルからは、クライアントも含めた社内外の関係者とフラットに意見を交わし合い、人と人とのつながりのなかでよりよいクリエイティブをつくりあげようとするザッツ・オールライトの哲学が見えてくる。そんな哲学が表れた最たる例として、クライアントが掲げるビジョンに共感し、自社事業化したというユニークなプロジェクト「羊SUNRISE PROJECT(SHEEP FREAKS)」についても聞いてみた。
- 取材・テキスト:原里実
- 撮影:鈴木渉
- 編集:吉田薫
一人ひとりを100%信頼する、ザッツ流のマネジメント
—舘野さんは入社当時、ディレクターは未経験だったそうですが、ザッツ・オールライトのどんなところに魅力を感じて入社を決めたのですか。
舘野:まずは、社名がいいなと思いました。「なんでもやります!」というスタンスが自分の性格にすごく合っていると思ったんです。入社する以前に働いていた美容室の先輩から、「頼まれごとは試されごとだよ」ってずっと言われていて。
小さな頼まれごとでも、試されていると思って全力で取り組む。染み付いたその精神が、生きる場が来たなと思いました。
—梅田さんとしては、舘野さんのどんなところが会社に合いそうだと感じたのでしょうか?
梅田:舘野さんはなんというか……おせっかいなんですよね。
舘野:それ、褒めてますか?(笑)
梅田:褒めてますよ(笑)。おせっかいがなぜ重要かというと、うちの会社では基本的に個人の評価をしていなくて、「会社として目標を達成すれば全員昇給」という仕組みなんです。それは、マネージメントコストを徹底的に削減して、クライアントワークに向ける時間を増やしたいから。
つまりサボろうと思えばサボれてしまうわけですが、信頼してセルフマネジメントを任せているんです。
梅田:そういう環境では、自由だからこそ責任がともないます。いま何をすべきか自分で考えて動いてもらう必要がある。「自分の仕事はここまで」「他の人がやってくれるだろう」という考えの人がいると、組織全体がうまくまわらなくなってしまうんですよね。
その点、舘野さんは案件のフォローをしたり、クライアントのケアに回ったりするようなホスピタリティがあり、根性も責任感もある。いまもチームに舘野さんがいれば、「そういえばあれってどうなったっけ?」みたいなことが絶対に起こらず、間違いなく前に進むという安心感があります。
部下に怒られることもある? 役職も立場も関係ない、人対人で仕事をする
—舘野さんから見た梅田さんは、どんな先輩ですか?
舘野:梅田さんはコミュニケーションをとるときに、相手の立場が上だとか下だとかを気にしないんです。自分よりずっと年齢やキャリアが上のクライアントにも、言うべきことはズバズバ言いますが、その結果すごく信頼されて長いお付き合いになったりすることが多々あります。
逆に私は梅田さんより歳下で経験も浅いですが、そんな私が相手でも、言っていることが正しいと思ったらちゃんと聞いてくれるんです。
梅田:舘野さんとは7年の付き合いですが、後半は多分僕のほうが怒られてますね(笑)。
舘野:でも、私も悔しくてよく泣いてますよ(笑)。
—(笑)。舘野さんから指摘を受けて、はっとしたことなどはありますか?
梅田:僕はもともと、プロジェクトのメンバー同士での途中のねぎらいあいみたいなことは、必要じゃないと思っていたんです。「よくやった」と言うのはクライアントに価値を提供して結果が出たあとだろう、という気持ちがあって。その点に関して舘野さんによく指摘されましたね。「周りの人のことをもっと大切に」とか「ちゃんとお礼を言ったほうがいい」と。
舘野:梅田さんは社内にいないことも多く、私は梅田さんよりはメンバーと向き合っている時間が長いので。だからこそ、「有ることが難しい=有り難い=ありがとう」が大事ですよってよく伝えていました。
梅田:請求書ひとつ提出するときにも、「何か一言添えましょうか?」とか聞いてくれたりするんですが、僕はそんなこと考えたこともなかった。舘野さんと仕事をすることで、社内外のメンバーに、きちんと感謝の気持ちを伝えられる大人になりました(笑)。
プロジェクトをより良くするために。舘野さんがアシスタントからディレクターへなった理由
—お二人のフラットな信頼関係が伝わってきます。舘野さんは梅田さんのアシスタントからスタートし、どのようにディレクターとして案件を担当するようになっていったのですか?
舘野:入社してから3年目くらいにディレクターを担当するようになったのですが、わかりやすい例で言うと、2020年に立ち上がった「Lina la mer(リナラメール)」という水着のブランドのお仕事があります。
もともとBtoBで水着を卸していた会社が自社ブランドを立ち上げることになり、ロゴやウェブサイト、撮影、フリーペーパーなどの制作を一式お手伝いしました。梅田さんのアシスタントとしていちばん最初の打ち合わせに同行するところから始まり、いまもお付き合いが続いているクライアントです。
舘野:最初のうちは、例えば撮影用の小物を選んだりする小さなところから、少しずつ自分を試す場をもらいました。クライアントに提案する前には必ず梅田さんにチェックしてもらえるので、のびのび考えることができました。
梅田:女性向けのブランドなので、僕より舘野さんのほうがずっとターゲットに近い感覚を持っているだろうと思い、少しずつディレクターとして中心的な役割を担ってもらうことにしました。舘野さんはもともとアパレルも好きなので、適材適所で考えた結果です。
—プロジェクトのなかで、舘野さんとして「自分なりの視点を活かせた」と感じたエピソードはありますか?
舘野:ブランドが立ち上がった年に、購入者にクリスマスカードを贈る施策を実施したことは印象に残っていますね。ブランドのクリスマスカードだと、割引クーポンなどが付いていて結局は販促のためのカードになっているものがよくあるんです。でもそうではなく、純粋に感謝を伝えるカードを贈ることで、お客さまを大事にするブランドであることが伝わるのではないかなと。購入する側の立場として「こういうふうにされたら嬉しいな」という思いから企画したものだったので、実施できてよかったです。
クライアントのことを本気で考えてぶつかるからこそ、本音で語れる「パートナー」になる
梅田:全体を通じて、僕だけだったらたぶんクライアントのアイデアを少し膨らませてかたちにするくらいしかできなかったと思うんです。でも舘野さんのおかげで新しい発想の企画もたくさん提案できました。実際、クライアントは舘野さんをものすごく頼りにしているし、ポップアップショップなどでも店頭に立って接客をしたりしていましたね。
舘野:丸1日お店で働いて、終わったあとクライアントと一緒にラーメン食べに行って、ビール飲んだり(笑)。あとは、ヨガウェアやアパレルなども展開しているので、着用イメージの撮影でモデルをしたりもしましたね。
梅田:ヨガとサウナを掛け合わせたイベントを企画して実施したときは、クライアントが来られなくて、僕ら2人だけで接客したこともあります。
—それだけなんでもやっていると、一般的なクライアントワークとは桁違いに深い思い入れが出てきそうです。
舘野:お客さんとの距離感も変わってきますよね。お家にお邪魔してそうめん食べたり、一緒に銭湯に行ったり。
梅田:結構はっきりと意見を言うこともありますよね。クライアントだから気を使って言わないなどはしないです。
舘野:そうですね。
梅田:こちらもいろいろ考えて提案するのですが、やっぱり最終的に決めるのは事業的なリスクも持っているクライアントです。そういうときに舘野さんは、SNSの写真1枚選ぶのにしても、はっきりと自分の意見を持ってクライアントと対話しています。それくらい主体性があるということですね。
事業立ち上げもソリューションの一つ。「求められれば、何でもやる」がザッツ・オールライト精神
—クライアントとの深い関係性という意味では、クライアントワークを起点に立ち上がった「羊SUNRISE PROJECT(SHEEP FREAKS)」という自社事業があるそうですね。これについても教えてください。
梅田:「羊SUNRISE」というジンギスカンを提供するレストランがあるのですが、もともとはこのレストランのロゴデザインなどを制作していたんです。そのなかでオーナーの関澤波留人さんから持ちかけられたのが、「もっと羊の美味しさや素晴らしさを世の中に届けたい」と。その啓蒙活動に一緒に取り組んでもらえないかということでした。
梅田:日本の羊の消費量は世界と比べるととても少なくて、もともと関澤さんが「羊SUNRISE」を始めたのも、羊の魅力を伝えたいという思いからでした。けれども、そこにかけられる予算があるわけではなく、クライアントワークとして受託するのは難しそうだったんです。
そこで、「どういう座組みなら一緒にやれるだろう?」と考えて編み出した一手が、自社事業化でした。
—そうまでして、関澤さんと羊の啓蒙に取り組もう、と舵を切ったのはなぜだったのですか?
梅田:まずは関澤さんという人が、羊に人生を捧げたみたいな、本当に面白い人なんですよ。当初から発信力もあり、メディアに取り上げられたりもしていました。
それに加えて、事業としても伸び代を感じました。というのも、現在ラム肉があまり食べられていないのって、昔、あまり質のよくない羊を食べていた時代の「固くて臭い」というイメージの影響がかなり強いんです。だから、美味しい羊をちゃんと食べてもらえさえすれば、それだけで価値は伝わるはずなんですよ。
そこに僕はビジネスチャンスと、「これは面白いことになるのではないか」という予感を感じました。とはいえ、数か月で利益が出るというわけにはいかないので、ある程度息の長いプロジェクトになることは覚悟していましたね。
舘野:実際、普及活動の一環としていろんなイベントをやっているのですが、食べていただくと皆さん美味しさに感動してくれるんですよ。
じつは私はもともとお肉がそんなに好きではなかったのですが、関澤さんの熱意にすごく引っ張られました。一度プロジェクトから抜けたときもあったのですが、関澤さんから「戻ってきてほしい」と言われてとても嬉しくて、もう1回入らせてもらったんです。
いろんな人とお会いするなかで、一緒にイベントをやりたいと言ってくださる方も次々と現れて、輪が広がっていくのがとても楽しいです。
プロジェクトに関わるみんなが気持ちよく仕事ができるように。「気前よく」が何より大事
梅田:2024年5月には、これまでの2年半の活動の集大成的な位置付けとして『SHEEP JAM 2024』というイベントを開催しました。
舘野:総勢16名のシェフに来ていただいて、料理やトークをお願いして。どんな料理を出すとか、原価をいくらにするとか、当日までの全員との細かなやり取りをほぼ梅田さんと関澤さんの3人でやりきったので、本当に大変でした……。あとはTシャツやキャップなどのグッズも、企画から販売まで全部やりましたね。
外部パートナーさんもプロジェクトにフルコミットしてくださって、何とか開催まで辿り着くことができました。
舘野:大変でしたが、何よりもシェフの方たちがすごく楽しんでくれました。来場者アンケートでも、「シェフの皆さんが楽しんでるのが伝わってきた」という声をいただいて。「まず自分たちが楽しんで、それがお客さんに伝わる」、これぞまさにSHEEP FREAKSのあるべき姿だなって思いましたね。
—そこまでシェフに喜んでもらえた理由はなんだったのでしょうか。
梅田:いちばんは、気前のよさですかね。こういうフードのイベントでよくあるのは、開催者は場所だけ貸して、出店者から売上の一部を出店料として収めてもらうというやり方なんですが、それだと出店者は売れなければ赤字になってしまいます。僕らとしては、尊敬する仲間であるシェフたちに一方的にリスクを背負わせるのは抵抗がありました。
なので今回は、シェフたちには決まった額のギャラをお支払いする形式で実施しました。結果、僕らとしてはほとんど利益がなかったのですが、ここで儲けるというよりは事業を育てるために開催したものなので、よかったと思います。
舘野:もっと利益が出たら、よりよかったですけどね。
梅田:社内からは「SHEEP FREAKS、そろそろ利益出してもいいんじゃないの」というプレッシャーも受けてますね(笑)。
プロジェクトをさらに拡大させるために、関連会社との連携やコラボ事業も展開。さらにひろがるソリューションの幅
—今後SHEEP FREAKSとしては、どんなことに取り組んでいく予定ですか。
梅田:ちょうど先日、12月14日に、虎ノ門ヒルズに「ヒツジパブリック」というレストランをオープンしました。もともとはSHEEP FREAKSのメンバーであるシェフの米澤文雄さんに声がかかったのですが、「それならSHEEP FREAKSも一緒にやろうよ」と言ってくださって。ロゴや内装などのデザインはもちろん、深夜の工事にも立ち会ったりしましたね。
舘野:私も、インテリアなどの備品を選んだりしました。
梅田:SHEEP FREAKSとしては、まずはなるべく多くのお客さんに羊を食べてもらう機会をつくって、本当の美味しさを伝えることに注力していこうと考えています。
梅田:また、われわれのクライアントは業種が多岐にわたりますし、関連会社もいくつかあるので、SHEEP FREAKSともうまく掛け合わせられたらいいですね。たとえば関連会社の一つにSHIMANTO TOWN STORYという、高知県四万十町を拠点とした地方創生のコンサルティング会社があるのですが、そこの代表が集めてくれた四国の飲食経営者50人くらいの前で羊のプレゼンをさせてもらい、いくつかの会社から仕入れてもらえることになったというケースもありましたね。
ザッツ・オールライトで何かをやり切ってほしい。いいクリエイティブのためにスタッフに求めること
—人と人とのつながりでプロジェクトを横に広げていく方法は、ザッツ・オールライトならではですね。最後に、どんな人と一緒に働きたいか教えてください。
舘野:私たちはデザイン会社なんですが、ただ見た目がいいデザインをつくるのって、ある意味誰でもできることだと思うんです。そうではなくて、何をもってこのデザインを選んでいるのか、このデザインを通じて誰に何を伝えたいのかということを、深くまでしっかり考えられる人と一緒に働けると嬉しいなと思います。
梅田:僕は、なんでもいいから何かを極めた経験がある人って面白いなと思いますね。僕も26歳くらいでこの業界に入るまでは、飲食をやっていたんです。京都で何店舗か経営していて、ある程度、飲食はやりきったなと思って転職したのですが、その経験があるからこそいまレストランのお手伝いもできている。何かをやりきった人の経験は必ずクライアントワークの役に立つと思います。
舘野:何かを極めた人って、やっぱりどこかに忍耐強さがあったりもしますよね。
梅田:そうだね。忍耐強さや責任感は、何の仕事でもそうですが、仕事をしていくうえで大事だなって最近すごく思います。プロデューサーやディレクターは、デザインができなくてもいい。たとえば酒蔵で誰よりもたくさん酒を売りましたとか、PRですごい成果を出しましたとか、何か1つやりきって、次の何かを見つけたいと思っている人にはぜひ来てほしいですね。
Profile
2010年の設立以来、どんな依頼にもザッツ・オールライトの心意気で応え、「結果」を出してきました。
・老舗旅館やホテルのリブランディング
・スイーツ、食品メーカーの商品、店舗、事業開発
・信州奥地の村おこし、京都駅前の町おこし
・コンサルティングファームの企業価値の再定義
・経営破綻した飲食店の再建
・歌舞伎役者のファンクラブやサロンの開設、運営
北海道から沖縄まで(ときに海外も)、多種多様な案件を担います。業種、ジャンル、予算、スケジュール……。ひとつとして同じプロジェクトはありません。
現場を訪ね、一次情報を立体的に収集し、ときに飲み明かし、意見を交わしながら腹落ちするまで課題を咀嚼します。
前例のない解決策が必要なため、プランはゼロから着想。社内外のメンバーを巻き込み、協議を重ね、機能するクリエイティブをカタチに。
着実に、果敢に、プロジェクトを成功へと導きます。
DRAFT、リクルート、McCann、サイバーエージェント、楽天野球団、産経新聞社、キヤノンなど前職さまざまな仲間が活躍しています。
難解なプロジェクトが山ほどあります。紆余曲折を一緒に楽しみましょう。