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アートと生活が溶け合う場所・スパイラルをかたちづくる仕事とは? メンバーの思いを聞いた

株式会社ワコールアートセンター

株式会社ワコールアートセンター

1985年、東京・青山にオープンしたアートセンター「スパイラル」。活動コンセプト「生活とアートの融合」に基づき、現代美術のキュレーションを軸に、ファッションや建築、デザインなど多彩なプログラムを数多く発信している。また、身近な暮らしにアートを取り入れる提案として、アートと雑貨のセレクトショップ「Spiral Market」や「Spiral Café」「Spiral Nail Salon」などの事業を展開。多彩なサービスを通して、生活とアートの接点を創出しており、今後スパイラルの拠点はさらに増える予定だという。

本記事では、拡がりをみせるスパイラルの取り組みの裏側に迫るべく、三浦渚央さん、西岡翔さん、木村舞子さん、堀越千尋さんの4名を取材。現在は、接客や商品の買い付け、イベントの企画・運営、作家との商品開発などそれぞれが別の多様な業務を担っているが、入社後は全員、販売職からキャリアをスタートしたという。

スパイラルの販売職全員が最初に経験するという店頭業務の面白さにはじまり、現在担当している仕事のやりがい、そしてスタッフ総出でたずさわるという年に一度のアートフェス『SICF』についても話を聞いた。さまざまな思いを持った作家たちと力を合わせ、アートで生活を彩る——そんな仕事に、それぞれの立場からひたむきに向き合う姿と、アートを生活に根付かせる秘訣が垣間見られた。

  • 取材・テキスト:原里実
  • 撮影:鈴木渉
  • 編集:吉田薫

商品の背景にある物語を学んで、伝える。スパイラル販売職ならではのやりがいとは

—まずは、販売職で入社したら必ずご経験されるという店頭業務の内容について教えてください。

西岡:最初に覚えるのは、届いた商品の検品や値付けといった納品作業と、レジ作業です。地味ではありますが商品を覚える大切な作業ですね。その作業に慣れてきたら、接客をスタートしていただきます。

その後、カテゴリーの担当者となって売り場を担当します。現在は、「ラッピング」「服飾」「アロマ・バス」「テーブルウェア」「インテリア」「カード」の6つ。カテゴリーごとに売り上げ目標がついているため、その達成に向けて、担当者が自分の売り場のレイアウトや接客方法を考えることになります。さらにステップアップすると、ポップアップなどのイベント運営にも携わります。

Spiral Market青山店・店長の西岡翔さん。入社後、販売員として「+S」Spiral Market 丸の内店を経て、青山店に勤務。現在は店長としてスタッフ育成や売り上げ管理など、店舗運営に携わる

ー経験を重ねるごとに幅広くお店づくりに携わることができるのですね。

西岡:そうですね。仕事内容の幅の広さは、スパイラルの販売職の特徴のひとつだと思います。

あと、ディスプレイの仕方が売り上げにかなり影響するんです。レイアウトの方法や見せ方ひとつで売れるものが変わるのも、販売職ならではの面白いところですね。

—では、スパイラルの接客の特徴は、どのようなところにありますか?

木村:商品の魅力をお客さまに伝える際に、値段や使い勝手など実用面だけではなく、背景にある作家さんの思いを伝えることがひとつの大きな特徴かなと思います。

アート事業部チーフの木村舞子さん。入社後、販売職としてSpiral Market青山店、「+S」Spiral Market 丸の内店勤務。その後、同店の副店長を務めた後、エントランスチームに異動。同チームの店長を務めた。現在はアート事業課のチーフとして、イベントの企画や誘致、新店のディレクションに携わる

西岡:商品の背景にある物語ですよね。商品を導入する際に、作家さんやメーカーさんが勉強会を開いてくださるのもスパイラルならではだと感じます。そこでみんな知識をどんどん広げていきます。

三浦:私は2022年に入社して、半年間ほど青山店に在籍し現在の部署に異動しました。ヘルプとしていろいろな店舗に立つ機会もあったのですが、いらっしゃるお客さまの層が少しずつ違うんです。青山店はギャラリーなどの館内施設も充実しておりますので、よりアート好きなお客さまが多いという印象でした。

エントランスを担当する三浦渚央さん。入社後、販売職としてSpiral Market青山店に勤務。その後、スパイラル1Fの売り場を統括するエントランスチームで企画から作家誘致、店頭での接客まで幅広く担当している

堀越:どの店舗も、とにかくいいお客さまばかりですよね。もののよさを理解したうえで買ってくださる方が多いので、やりがいがあります。

西岡:スタッフより詳しいお客さまもいらっしゃるくらいですよね(笑)。お客さまから逆に教えていただくことも多いですが、本当に優しくて素敵な方々なので、そこで「あなた、知らないの?」みたいに言われることもなく。

堀越:会話を楽しみにいらしている方も多いですね。

西岡:お話ししているうちに盛り上がって、「こんなに買うつもりじゃなかったのに〜」と言いながら楽しそうに帰って行かれる様子を見ると、こちらもうれしくなります。

商品課チーフの堀越千尋さん。入社後、Spiral Market青山店での販売職、バイヤー、「+S」Spiral Market 丸の内店長、青山店・店長を歴任。産休を経て、オンラインショップのチーフを務め、現在は商品課のチーフとしてメンバーの育成やバイイングに従事している

販売職から店長やバイヤーに。スパイラルのカラーをつくる仕事について聞いた

—みなさま、現在は販売職から異動されていらっしゃいます。西岡さんは青山店の店長を務められているとのことですが、業務はどういったものでしょうか?

西岡:主に、スタッフ育成と売り上げ管理の2点に重きを置いています。

—スタッフに教える際は、どういったことを大切にしていますか。

西岡:やはり人それぞれ個性があるので、全員に同じような教え方をしても伝わらない。しっかりコミュニケーションを取りながら、それぞれの得意・不得意を分析して、どうすればうまく伝わるかを考えるようにしています。思いやりを持って、丁寧に教えるということですね。

—堀越さんも店長のご経験があるそうですね。

堀越:私は「+S」Spiral Market 丸の内(以下、丸の内店)と青山店で店長を経験しました。丸の内店は立ち上げのタイミングだったので、チームをつくるところからのスタートでしたね。でも、スタッフ育成という面では、西岡が話したこととまったく同じことを考えて取り組んでいました。

西岡:私自身、店長の仕事を堀越に教わったので(笑)。

—しっかりと大切なことが受け継がれているのですね!  堀越さんは店長などを歴任して、現在は商品課のお仕事をされているんですよね。

堀越:そうですね。私のいる商品課は、いわゆるバイイングがメインの仕事になります。商品を選んで、その商品を売り上げにつなげられるように売り場に流し、在庫を管理するという一連の業務を担当します。買い付けの過程で知った商品のよさをお客さまに知っていただけるよう、店頭に置くポップ(説明書き)を書いているのもバイヤーです。カテゴリーごとに担当がついていて、私は現在服飾の担当をしています。

—商品選定の際には、どういったことを重視されているのでしょうか。

堀越:商品の背景にどんな物語があるのか、は重視しています。カテゴリーによっても特徴がありますね、例えばカードなどは、一点ごとの単価が低いこともあり、価格とクオリティーのバランスを考慮したりしています。

結局のところ「自分が欲しいかどうか」も、ひとつの判断のポイントにしますね。心から買いたいと思える価格や素材かどうか。また、私がいま担当している服飾の場合、トレンドも大きく関わってきます。じつは10年以上前にも同じカテゴリーを担当していたのですが、そのとき仕入れたもののなかにはまだ店頭で売られているものもあって。トレンドを押さえたものと、長く愛されるもののバランスを見ながら商品構成を考えていくのが面白いところです。

作家と共同でイベントをつくる。スパイラル流の場のつくり方

—三浦さんが現在いらっしゃるのはエントランスチームとのことですが、どういったお仕事をしているのでしょうか?

三浦:スパイラル1階にあるいくつかの売り場を統括しているのがエントランスチームです。正面玄関を入ってすぐのスペースが2つのセクションに分れているほか、正面玄関の横のガラス扉から入っていただく「ショウケース」というスペース、フードにまつわるイベントなどを行なう「カウンター」というスペースなどがあり、それぞれ独立した企画を実施しております。

木村:私も2年ほど前まで、エントランスチームで店長をしておりました。エントランスの特徴としては、イベントの回転数が多いので、スタッフが探してきた旬なブランドや、気になる作家をどんどん紹介していくこと。時として売上的にチャレンジングなケースもありますが、成果を出せるように作家さんと一緒に頑張る、伴走型のスタイルです。

また、作家さんが主体となった企画を開催するケースも多いです。少人数のチームなので、業務内容はかなり幅広く、作家誘致、イベントの企画やスケジュール組みはもちろん、実際の搬入や設営作業にもたずさわります。

スパイラル1Fのエントランススペース。期間限定のショップを展開し、多様なプロダクトを紹介している。まだ広く知られていない作家や商品も積極的に扱う

三浦:搬入や設営作業は基本的に営業時間外に行なうので、ここまで自分たちでするのか、と入社して驚かれる方もいらっしゃるかもしれません。ただ、そうした作業も作家さんの見せたい部分をお客さまにどう見ていただくかということを追求していくものなので、 実際やってみると楽しく感じていただけるんじゃないかなと思います。やれることの幅が広い分、時間が不規則になることもあるので体力的には大変ですが、やりがいを感じられます。

木村:あと、エントランスでの企画では、作家さんご自身に接客していただくことも多いんです。

三浦:目の前で、作家さんとお客さまのコミュニケーションが生まれるところを見られるのも、私にとってはうれしいポイントです。架け橋のような存在として仕事ができているなと、大きな充実感を得られます。

—作家さんとのネットワークづくりや情報収集も大切なお仕事かと思いますが、どのように取り組まれているのでしょうか。

木村:日頃からSNSをチェックしたり、気になる展示に足を運んだりももちろんしますが、作家さんのほうから、知り合いでおすすめしたい方がいるとご紹介いただくこともあります。以前にご縁があってスパイラルを好きでいてくださる作家さんたちのおかげですね。

取材時、エントランスではAOI SAITOと『SICF』の出展者の高田麻帆さん、NEW ARANさんの3人による展示が展開されていた

—木村さんのいらっしゃるアート事業部では、どういったお仕事をしているのでしょうか。

木村:アート事業部は、スパイラルの1階にあるギャラリー「スパイラルガーデン」で行なう展覧会の企画にはじまり、「スパイラルとして、アートをどのようにセレクトし、展開していくか」という戦略、あるいは「スパイラルとしての表現を管理する」という意味で広報的な動きをすることもあり、幅広く「スパイラルのアート」を統括する事業部になっています。

そのなかで私は販売店舗と関わる仕事をすることが多いです。例えば、エントランスで行なうアート系のポップアップや個展・グループ展について、作家さんにお声かけをするところから、企画、開催まで一貫してたずさわっていたりします。 また、現在新店舗の開発も担当しており、実際に運営するスタッフとやり取りをしながら推進しています。

これまでひとりの店員として、店頭で販売やイベント運営にたずさわってきた経験があるおかげで、現在の業務でいろいろな部署の方とディスカッションするときでも、自信を持って自分の意見を伝えることができているなと感じています。

若手作家支援を目的とした社員総出のアートフェスが、スパイラルの新たな価値を創出する

—スパイラルでは、毎年ゴールデンウィークに『SICF(スパイラル・インディペンデント・クリエイターズ・フェスティバル)』を開催されています。このイベントについても教えてください。

木村:『SICF』は若手作家の発掘・育成・支援を目的として、2000年から開催しているアートフェスティバルです。エキシビション部門とマーケット部門の2部門で構成されており、アート事業部は主にエキシビション部門に応募してくださった作家さんの選考を行なっています。

三浦:2021年に新設されたマーケット部門は、主にプロダクトやクラフトを取り扱う作家さんが出展される部門で、エントランスのスタッフが担当になることが多いです。

『SICF25』は2024年5月2日~7日に開催された。ブース出展形式のEXHIBITION部門には100組の若手作家が、生活を彩る作品を展示販売するMARKET部門には70組の作家が参加。出展者のなかから、グランプリ / 準グランプリなどが選ばれる。『SICF2025』の受賞者はこちら

堀越:当日は、普段お客さんと接する機会のない商品課の私たちも表に立って接客する、社員総出のイベントになっていますね。

西岡:Spiral Marketでは、『SICF』に出展してくださった作家さんを数名集めた展示を翌年に行なっています。そこで販売したことをきっかけにお店で定番の商品になった作家さんやオリジナル商品開発につながった方もいらっしゃいます。

三浦:エントランスでも、『SICF』の会期中は前年の受賞者の展示を行なっています。このようにイベント会場だけでなく、店舗とも連動しながら、出展作家さんたちを盛り上げています。

—若手作家が世に出る機会を設け、さらにその場限りではなく継続的にバックアップしていくというのは、とても社会的意義のある素敵な取り組みだなと感じます。

木村:私にとって『SICF』は、スパイラルで働く大きなやりがいのひとつですね。自分の仕事が世の中の役に立っているなという実感を持ちながら仕事ができます。

堀越:若手の作家さんが『SICF』に出展したあと人気になるなど、成長を一緒に見られるのもとてもうれしいものです。本業が別にあってダブルワークで作家活動をしていた方が、一本立ちするきっかけになるケースもありますね。

スパイラルで働くことで、自分自身もアートと近づいた

—若手作家の支援や、ものづくりの背景を伝える接客など、「生活とアートの融合」を感じながら働いていらっしゃると思うのですが、みなさまはスパイラルが掲げるこのテーマをどのように考えていますか?

木村:スパイラルのいう「アート」は、一般に「アート」と聞いてイメージする、例えば絵画みたいなものだけでなく、「生活を彩る何か」みたいなとても身近なものまで含まれる、幅広いものだと思うんです。しかも、それがスパイラルのいろいろな場所にある。

例えばアクセサリーひとつとってみても、そこには作家さんのいろいろな思いがこもっています。それを買って身に付ける、生活に取り入れることで、いままでの自分とは少し違う考え方ができるようになる……大げさかもしれませんが、そういうことが「生活とアートの融合」のひとつのあり方なのかなと思います。

三浦:たしかに、私は最初は生活雑貨に興味があって入社したのですが、働くなかでお客さまに作品を説明することで自然と知識もついて、アートの素養や考え方が少しずつですが磨かれているように感じます。

西岡:私は正直、スパイラルがアートをやっていることさえ知らずに入社しました。でもいまでは、以前だったら絶対に自分では買わなかったようなインテリアとしてのオブジェを買うようになったりと、スパイラルで働いていることで自分自身の嗜好や価値観もだいぶ変わったなと思いますね。

ー皆さんご自身も、スパイラルで働くなかでアートがより身近になっているのですね。最後に、みなさんがどういった方と働きたいか教えてください。

西岡:一番は、思いやりがある人ですね。ちゃんと自分の頭で考えられる人。スパイラルが好きで、雑貨が好きという方は働きやすいと思います。ただ、入社したばかりの方と現場で話していて思うのは、もともとスパイラルが好きという人は最近は半々くらい。いろんな背景を持った方々と、スタッフとして働けるのは楽しいです。

堀越:私は青山店の販売職から始まって、 他の店舗も経験したあとに産休でお休みをもらって、オンラインストアのチームも経験し、いまは商品課で時短で働いています。そんな身として思うのは、スパイラルではいろんなことにチャレンジできる。そういう環境に魅力を感じて、前向きに働ける方だったら、かなり楽しめる職場かなと思います。

三浦:まだまだ新米の私が言うのもおこがましいですが、堀越さんがおっしゃったように積極性がある方というか、自分のやりたいことがしっかりとある人は、入社したあとも、スパイラルで求められることとの掛け合わせのなかで自分がやりたいことを追求できると思います。

私自身も「こんな作家さんとこんなことができたら素敵だな」とか、自分の思い描いたことが催事というかたちになって、お客さまにも作家さんにも喜んでいただける姿を見ながら、日々やりがいを感じています。

木村:そういう意味では、自分が生活するなかで感じる興味が仕事に直結しやすい仕事ですよね。仕事と私生活を完全に切り分けたい方というよりは、2つを有機的につなげながらものごとを考えられる方が向いているのかなと思います。

終始和やかな雰囲気で進んだインタビュー。「コロナ禍前はよくみんなで仕事終わりにご飯に行っていました」とお話しされており、メンバー同士の雰囲気のよさが伝わってきた

Profile

株式会社ワコールアートセンター

スパイラルは、株式会社ワコールが「文化の事業化」を目指して東京・青山にオープンした複合文化施設を拠点として活動するアートセンターです。

活動コンセプト「生活とアートの融合」に基づき、現代美術のキュレーションを軸に、ファッションや建築、デザインなどの多彩なプログラムを数多く発信しています。特に若手アーティストの発掘・育成・支援を積極的に行なっています。

あわせて身近な暮らしにアートを取り入れる提案として、「+S」Spiral Market、Spiral Cafe、Spiral Nail Salonなどの事業を展開しています。多彩なサービスを通して、生活とアートの接点を創出しています。また、これまでに蓄積したノウハウやネットワークを活かし、まちづくりやアートフェスティバルなどの企画制作や自治体へのアートコンサルティングなども手がけています。

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