
1961年創業のポストプロダクション「サウンド・シティ」は、映像業界の変遷とともに、その時代に求められる姿を問い続けながら変化してきた。
この数年でマネタイズの流れが大きく変わったポスプロ業界全体の変化、そして新技術が日々生まれ続ける中でハイスペックな編集を極め続ける姿勢について、常務取締役の服部裕介さん、オンラインエディターの山内慶さんにお話をうかがった。
オンエアプリントの終焉から編集費での利益確保への転換、そして「ポスプロならではの技術力」を武器に生き残りを図る同社の戦略とは。
- 取材・テキスト:山本梨央
- 撮影:西田香織
- 編集:吉田薫
変化し続ける業界のなかで、「ポスプロならでは」の編集力が生き残る秘訣
―ポストプロダクションの中でも、サウンド・シティさんはかなり歴史の長い企業かと思います。昨今のポストプロダクション業界の流れや変化などに関して、感じる部分はありますか?
服部:私たちはCMを中心に編集を手掛けてきたのですが、ポストプロダクション(以下、ポスプロ)は従来、ひとつのCMを作ったら、テレビ局で流すためのテープをたくさん作って送る「オンエアプリント」と呼ばれる業務も担ってきました。編集だけでなく、たとえば120局で流すのなら120本のテープを作って届ける、という仕事です。
この業務の利益率が高かった。だから編集自体の単価が少し低くても何とかなっていたところがあるんです。しかし、8年ほど前から「オンライン送稿」と呼ばれる、テープではなくデータでやりとりをする納品方式が一般的になってきました。当時、「オンライン送稿が、ポスプロにとっては終わりの始まりだ」という声も聞こえてきたほど、ポスプロの利益構造が大きく変わる転換点になっていたはずです。

常務取締役・服部裕介さん。2007年サウンド・シティ入社。レコーディングスタジオとポストプロダクションの両分野を手がけるハイブリッド営業として活躍。「お客様の力になる」を信念に掲げ、2025年に同社常務取締役に就任
―サウンド・シティさんはどのようにその局面を乗り切ったのでしょう?
服部:制作の基本に立ち戻って、編集費でしっかりと利益をつくっていくというスタンスを強化しました。業界内ルールでやっていた部分などを、きちんと交渉し編集にはこれだけの予算がかかるんだ、という営業を徹底するということですね。
また制作方針に関しても、Adobeを使ってフットワーク軽く量をこなせるような編集のほうにニーズが高まるのではないかという意見が強かった時期がありました。実際、一時期はその方針のもとでマネタイズもできていたんです。
しかし、最近では編集ソフトや映像制作機器の進化もあって、予算のない映像制作がポスプロまで発注されず、プロダクションの中で完結することも増えてきました。ですので、現在は「ポスプロだからこそできる」というハイスペックな編集に力を入れていくべきだと考え直し、舵をきっています。
―業界や技術進化に合わせて、営業も制作も方針を柔軟に変化させているのですね。CM業界でポスプロに発注される内容にも変化はあるのでしょうか?
山内:数年前まで、Web CMはテレビCMの付属品というような印象でした。それが今は、Webがメインでテレビでも流すか、という温度感でのお仕事もかなり増えてきています。テレビとWebだと撮影素材は同じでも色がまったく違うので、編集で2種類用意するというケースも増えています。

山内慶さん。2024年サウンド・シティ入社。主にFlameを用いたオンライン編集を担当。前職でもポストプロダクション業務に従事し、合成・肌修正・消し・エフェクトなど幅広い技術を得意とするオールラウンダー
服部:テレビとWebだと、やはりどうしてもWebのほうが予算が少ないこともありますが、その分、昔ほど無茶なオーダーをするクライアントも減ってきた気がしますね。
山内:たしかに「とんでもないむちゃくちゃを言うな」という案件は減りましたね(笑)。
技術力は「仲の良さ」から生まれる?
―業界構造だけではなく、日々の技術の進歩も著しいと思います。そういった最新情報はどのように取り入れているのでしょうか?
山内:新しい情報はみんな積極的に、Slackで共有するようにしています。他にも、完成した映像を見て「あのカットどうやったんですか?」というようにエディター同士で意見を交換することもありますね。
服部:それぞれがスタジオに入っていたり、出張でプロダクションの会議室に行っていて社内にいないこともあるので、Slackでの情報のやりとりが活発です。
うちの会社は年齢層の幅が広くて、新卒で入った21歳から60歳までいるんです。世代が違うと制作に対するスタンスが全然違うので、そこはもしかしたら技術向上や多様化につながっているかもしれないですね。
経験豊富な人から「こういうときはこれでやっちゃえばいいじゃん」とアドバイスをすることがあったり、若い子たちからは素材をAIでつくりたいと提案することもあったり。
山内:仲が良いというのは本当に転職してから感じていて、この間も新卒の子たちから休日に「ここで飲んでるんですけど、来ませんか?」と誘われました。
ー休日にも気軽に誘いあえる仲なのですね! 仕事の相談を受けることもあるんですか?
山内:相談はあんまりないですね。でも、普段は話さない仕事に対しての考え方とかを話すことはあるので、相手への理解が深まる気はします。
服部:若い方って、仕事終わりに飲みにいくのはちょっと……という風潮があると聞きますけど、サウンド・シティは対面でのコミュニケーションをとるのが好きな人たちが多いのかもしれないですね。
とにかく仲が良くて、困った時はそれぞれ知識を出しあって助け合おうという雰囲気があるので、結果的にそれが弊社の技術向上につながっているかもしれないです。
幅広いスキルを持ったエディターが求められるようになる
ー皆さんで情報共有したり、助け合うことで技術向上されているとのことですが、山内さんは個人的にスキルアップのために取り組まれていることはありますか?
山内:僕は編集に使っているツールのベースがAutodesk Flameというものなんですが、最近、DaVinci ResolveのFusionを使えるようになろうと研修を受けさせてもらいました。業務外だと、BlenderやAfter Effectsは好きで触っています。
いつどのツールがなくなるかわからない仕事なので、常に吸収する姿勢は必要だと思いますね。
服部:業界のニーズ的にも、幅広い知識やスキルを持っているエディターが求められるようになっていくと思います。例えば、「こういう形にしたいんですけどできますか」みたいな結構ざっくりした依頼も増えているんです。そうなったときに、オフラインやVFX、グレーディングまで、一気通貫でできる人と話せたほうが話が早いですし、完成のイメージがつきやすいですよね。
現状はセクションに分かれていますが、挙手制で別セクションの仕事にチャレンジも可能なので、会社のみんなにも幅広いスキルを持ったエディターになってほしいな、という気持ちがあります。
服部:あと、技術力にも通じますが「指名されること」も大事にしたいと考えています。弊社でも山内をはじめ指名でお仕事をいただけるエディターが増えてきていて。
そういった状況も鑑みて今年の4月から、指名だった場合にはインセンティブを支払う制度を取り入れています。たとえリソースが埋まっていて、指名された本人が作業を担当できなかったとしても、会社としての受注につながったのであれば指名フィーを支払う、という形にしています。
まだ試行錯誤の段階ではありますが、制度が技術向上やメンバーの成長につながるといいと考えています。
六本木に新拠点。今まで以上に経験を積めるポストプロダクションへ
―2024年5月には、ポストプロダクションの企業「レスパスビジョン」がグループ会社になったとお聞きしました。
服部:一口にポスプロと言っても、サウンド・シティはCMが特に強いと言われていて、レスパスビジョンはドラマや映画など、長尺の作品を得意としているというふうに、強みがまったく異なります。
そういったお互いの強みを融合して、これまでとはちょっと違った環境や仕事をつくっていけたらと思っています。
2025年10月を目処に、レスパスビジョンと一緒に六本木で新しい拠点を立ち上げる予定です。そこは、ハイスペックな仕事もできる機材をしっかり入れた編集室になる予定で、これから入社していただく方にもその拠点で活躍いただく可能性もあると思っています。
会社としても、より高品質な編集を届けていこうと舵を切ったところでもあり、拠点も増えてできることも広がるタイミングでもあります。幅広く自分のできることを増やしていきたい、という人と一緒に働いていけたらな、と思っています。
Profile

サウンド・シティは、音楽と映像、それぞれの制作現場を多角的に支えるプロフェッショナル集団です。
創業から60年以上にわたり、レコーディングスタジオの運営やライブレコーディング、音楽・音響制作、録音機材レンタルなど、音の分野で確かな実績を築いてきました。
同時に、ポストプロダクション事業においても、テレビCMやWEB動画、企業VP、インフォマーシャル、サイネージ映像など、さまざまなジャンルの映像制作に対応。映像編集からグレーディング、MA、ナレーション収録、字幕制作(クローズド・キャプション)まで、仕上げ工程をワンストップで手がけています。
2022年には立体音響スタジオ「tutumu」を始動。さらに、オーディオブック制作や配信サービスなど、時代に応じた新しい分野にも積極的に取り組んでいます。
「映像・音楽を創造するすべてのクリエイターの力になる」ことをミッションに、長年培ってきた技術とノウハウを活かしながら、変化を楽しみ、柔軟な発想でものづくりに向き合う姿勢を大切にしています。