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全社一斉に16連休? シフトブレインが社員の生き方に本気で向き合う理由

株式会社シフトブレイン

株式会社シフトブレイン

今年15周年を迎えるデジタルクリエイティブエージェンシー、シフトブレイン。トヨタ、資生堂といったナショナルクライアントからスタートアップまで、さまざまな企業やブランドのクリエイティブ制作を手がけ、海外アワードの数々を受賞してきた。そんな彼らの新スローガンは「WORKS GOOD!」。「いい働き方」と「機能するクリエイティブ」というダブルミーニングによってつくられたこのコンセプトのもと、同社が打ち出したのが「全社16連休」だ。なぜ、この取り組みに至ったのか? 代表取締役の加藤琢磨さんと、プロジェクトマネジメントチームリーダーの山本真也さんの話から見えてきたのは、「会社」という組織に対する柔軟な発想だった。
  • 取材・文:萩原雄太
  • 撮影:永峰拓也

16連休を満喫するために5万円を支給! クリエイターたちの反応は?

「4月28日〜5月13日まで16日間、全社休業します」。突如そんなアナウンスを発表したのは、クリエイティブカンパニー・シフトブレインだ。さらに、社員には休みを満喫するための軍資金として5万円を一律に支給。世の中の「働き方改革」に反して、過重労働の文化がいまだ残るIT業界において、2歩も3歩も先へ行くようなこの取り組みからは、「わくわくすること」を追求するシフトブレインの姿勢が見えてくる。

—創業15周年のプロジェクトとして、2018年5月に全社的な16日間休業を発表されました。

加藤:「(そんなに休んで)大丈夫か!?」って感じますよね(笑)。今回、15周年を迎えるにあたり、何かわくわくすることができないかと考えたんです。豪華な社員旅行なども考えたのですが、働いている人にとっていちばん嬉しいのはやっぱり「休暇」なんじゃないかなと。ほんとは1か月休暇を考えたのですが、さすがに会社が潰れてしまう(笑)。そこで、半月の公休に落ち着きました。軍資金として5万円を支給しますが、休みの時間は好きに使ってもらいたいので、この休暇で達成してほしいことや課題といったものはなく、休み明けのレポート提出も考えていません。

代表取締役の加藤琢磨さん

代表取締役の加藤琢磨さん

—現在、まだ16連休の実施前ですが、すでにポジティブな効果も現れているのでしょうか?

加藤:この施策を実現するにあたって、社内的に売上目標の達成と、社員個人の目標達成という2つの条件を課しました。とくに売上については、みんなが意識的になり、達成に向けて取り組んでくれたのがポジティブな効果ですね。

普段、ディレクター職の人たちは売上に対して意識的ですが、デザイナーやエンジニアなどのクリエイターはあまり関与していませんでした。だけど、この施策を発表したとき、会社全体が、わっと沸いたんですよ。そこからクリエイターサイドも売上やコストに対して意識的になって、チームに一体感が生まれました。

山本:ただ、目標の重きを「売上」にすることによって、失われるものもあるのではという懸念もありました。シフトブレインでは、これまで、制作物のクオリティーやクリエイティビティーが、売上などによって影響を受けてはいけないという考えから、売上目標を前面に出してこなかったんです。制作予算にとらわれすぎて、発想の枠を狭めるのはシフトブレインらしくない。

けれども、今回、売上を目標に据えても、クライアントに自信を持って提出できるクオリティーを生み出すことができたんです。売上に対して意識を持ちながらクリエイティブを維持できたことは、会社としてもチームとしても、大きな収穫だと思います。

プロジェクトマネジメントチームリーダーの山本真也さん

プロジェクトマネジメントチームリーダーの山本真也さん

加藤:お金とクリエイティブの関係はとても難しいバランスですよね。基本的に、ぼくはお金ありきの考え方はしたくないんです。今回、売上という条件を課してどうなるかなと不安な面もありましたが、みんな、「売上至上主義ではないよね」という前提を踏まえながらも、売上に対して前向きになってくれたという実感を得られました。

—16日間も休業して、クライアントへの対応は大丈夫なのでしょうか?

加藤:今回、「全員が一斉に16日間休む」が目的のため、外部の方にもご協力をいただきました。クライアントのみなさんに休みのアナウンスをするとともに、直接交渉をして、半年前から各案件のスケジュールを調整しました。

シフトブレインのTwitterにて長期休暇のお知らせを行った(画像提供:シフトブレイン)

シフトブレインのTwitterにて長期休暇のお知らせを行った(画像提供:シフトブレイン)

深夜残業が当たり前だったのが20時帰社に。そのヒントは「時間の有限」を知ること

シフトブレインでは「16日間全社休業」以外にも、リモートワークや副業、ランチケータリングなどの制度を積極的に取り入れている。なぜ、そんなにも「社員の働き方」に重点を置くのだろうか。その背景には、過去の過重労働の経験や海外で働き方を学んだことによる「意識改革」があった。

—16日間全社休業の背景には、「WORKS GOOD!」という創業15周年のスローガンがあるとうかがいました。これは、どのような経緯から決められたのでしょうか?

加藤:15周年を迎えるにあたって、およそ半年間、社内でミーティングを重ねながらスローガンを話し合いました。「WORKS GOOD!」には、スタッフたちがより幸福な人生を送ることができる「よりよい働き方」という意味と、見た目のかっこよさだけではなくクライアントのブランディングに貢献する「機能するクリエイティブ」という2つの意味が込められています。

—社内へのメッセージと、社外へのメッセージが同時に含まれているんですね。では、とくに前者に目を向けるようになったきっかけは何だったのでしょうか?

加藤:3年前に「SHIFTBRAIN LONDON PROJECT」という企画を行いました。ロンドンにサテライトオフィスを限定的に設けて、全社員が交代で滞在し、仕事をしたり、現地で研修を受けたりしたのですが、そこで、日本とはまったく違う労働文化を目の当たりにしたんです。

ロンドンでは仕事に時間を使うことはかっこ悪く、18時に業務を終えると、屋上に集まってみんなでビールを飲むなんていう会社もありました。にもかかわらず、クリエイティブのクオリティーはめちゃくちゃ高い。その頃から、ぼくのなかで「働き方」が大きなテーマとなっていたんです。

3年前の「SHIFTBRAIN LONDON PROJECT」企画のロンドンでの様子(画像提供:シフトブレイン)

3年前の「SHIFTBRAIN LONDON PROJECT」企画のロンドンでの様子(画像提供:シフトブレイン)

—じつは、6年前まで、シフトブレインとCINRAはオフィスをシェアしていましたよね。当時のシフトブレインは、毎日深夜まで働き詰めだったので、「WORKS GOOD!」というスローガンを掲げているのが、最初は信じられませんでした(笑)。

加藤:その当時は、ぼくもクリエイティブディレクターとして毎日深夜3時まで働き、タクシーで帰宅するのが当たり前でした(苦笑)。自分を振り返ると、そういう期間も確かに必要でした。けれども、会社がそういった働き方を評価するようになれば当然、全員がそちらに流れてしまう。だから、会社の軸足は長時間労働を避ける方向に置いているんです。そのなかで、各々が最高のパフォーマンスを出せる働き方を見つけられるように、リモートワークやフリーアドレスなどの制度をどんどん取り入れています。

また、「時間をかければいいものができる」と考えるのではなく、時間は「有限のもの」と意識することによって、密度は大きく変わるんです。シフトブレインでも、数年前まではみんな22時、23時の退社が当たり前でした。けれども、働き方を変えようと、1年半ほど前に業務の効率化を積極的に行いました。それによっていまでは、20時をすぎて残っている人はほとんどいません。それなのにクオリティーは落ちていませんし、売上としてはむしろ上がっているんです。

 

—時間を意識化することで、その密度が変わってくると。

山本:また、海外のアワード受賞をきっかけに、クライアントワークの幅も広がりました。それによって、仕事の選び方がうまくなったというのも生産性が向上した要因のひとつでしょう。これはクライアントから無根拠にお金を多くいただくという意味ではなく、ぼくらの提供できる価値をしっかりと伝え、それに共鳴してくださるクライアントと、適正な予算でおつき合いすることができるようになったということです。生産性というのはつまるところ、「売上 / 労働量」なので、業務の効率化だけでは大きな変化を生むことはできません。

ぼくらはクリエイターの集まりなので、制作物の細部にまでこだわりすぎるあまり、結果的に赤字に終わることもしばしばでした。そういったことがないように、仕事を受ける段階から、その工程を見極めることが必要になります。そのためには、案件全体をマネジメントするプロジェクトマネージャーの確かな腕が必要になる。年々、その重要度は高まっていますね。

エントランスには受賞したアワードの表彰状が並ぶ

エントランスには受賞したアワードの表彰状が並ぶ

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ロンドンで衝撃を受けた、クリエイターを社長やマネージャーが下支えするチームづくりのあり方

ロンドンで衝撃を受けた、クリエイターを社長やマネージャーが下支えするチームづくりのあり方

海外のクリエイティブ企業の働き方、制作物のクオリティーに刺激を受けて、長時間労働という文化を大きく変えたシフトブレイン。その背後には、各スタッフが時間を意識化するだけでなく、プロジェクトマネージャーの働きが大きかったと振り返る。クリエイターたちを束ね、プロジェクトの進行管理を行うこの仕事の重要性を聞いた。

—そもそも、プロジェクトマネージャーとはどのような仕事でしょうか?

山本:予算や工期を計算しながら、デザイナーやエンジニアなどのメンバーの特性を考えつつチームビルディングを行ったり、制作の進行管理を行ったり、会議の場ではファシリテーションも担います。計算する力、計画する力、まとめ上げる力が必要になるのがプロジェクトマネージャーという役割ですね。

ただし、最終的なゴールはクリエイターを管理し、予算の枠のなかに収めることではなく、いいクリエイティブを生み出すということ。実際につくるのはクリエイターたちですが、いいものを生み出すことに対して、クリエイターと同じかそれ以上の情熱が必要な役割です。

加藤:クリエイターの裏側に回りながら、彼らを支えていくという、いわば縁の下の力持ちといった役割ですね。でも、海外の企業やプロジェクトでは、プロジェクトマネージャーの給料がいちばん高いんですよ。重い責任を持たなければならないときもありますが、クリエイターやクライアントなど、多くの人に感謝される機会もたくさんある仕事だと思います。

 

—その責任の重さから、プロジェクトマネージャーがクリエイターたちを上から束ねるという組織の会社も多いですが、シフトブレインのプロジェクトマネージャーは下から支えるというポジションなんですね。

加藤:会社の組織構造も同じだと思っています。ロンドンでは、クリエイターが価値をつくっているのだから、マネージャーや社長は彼らの下という組織のつくり方がなされていました。そんな日本にはない組織のあり方に触れ、大きく価値観が変わったんです。社長であるぼく自身の仕事も、スタッフそれぞれのパフォーマンスを最大限活かしていくことであり、いちばん下から支えているようなもの。どのようなかたちの組織がシフトブレインにとって最もフィットするのかを考え、試行錯誤しながらいまのようなかたちに至ったんです。

全社員に、2時間ロングインタビューを実施。自分にとっての「いい人生」を考えるきっかけに

代表取締役社長である加藤さん自ら「社長がいちばん下」と断言するシフトブレインの組織構造。ひょっとしたら、そんな発言は「きれいごと」と受け取られてしまうかもしれない。しかし、この言葉にはクリエイターに対する強いリスペクトの気持ちが込められており、加藤さんが「いま、組織で働くこと」を真摯に考えた結果でもあった。

—シフトブレインでは組織構造の転換などによって、クリエイターがより働きやすい職場づくりをしています。これは、たとえば離職率の低減など、会社に対してもメリットのある施策なのでしょうか?

加藤:実際に離職率は低下していますが、じつはそういった会社への効果というのはあまり考えていないんですよ。ぼくがいちばんに考えているのは、スタッフの人生を豊かなものにしたいということ。それをサポートするのが、シフトブレインという会社の役割だと考えています。

—とても素晴らしい発想だと思いますが、理想主義的すぎるのではないでしょうか?

加藤:そうですかね(笑)。ぼくは、よく「自分がフリーランスだったらどうするか?」と考えるんです。だって、優秀な人材であれば、1人のほうが自由だし、会社に所属するよりも多くの報酬を得ることができますよね。実際、シフトブレインのクリエイターは、フリーランスとしてもやっていける技術を持った人ばかり。彼らがここに所属したいと思ってもらうためには、組織ならではの価値や楽しさをぼくらが提供する必要がある。そうでなければ、シフトブレインに属している意味はありませんよね。

リラックスした雰囲気のある打ち合せスペース

リラックスした雰囲気のある打ち合せスペース

—山本さんは「WORKS GOOD!」のスローガンづくりに携わっているそうですが、ここからどのような展開を考えているのですか?

山本:全社員に「WORKS GOOD!」というスローガンに対する自分なりの解釈を、一人ひとつのアイテムに例えてもらいました。それらをモチーフにしたグラフィックを制作し、社内に掲示しています。これは、一人ひとりに「WORKS GOOD!」を自分ごととして捉えてもらうための取組みの一つです。

15周年を期にサイトデザインをリニューアル。背景には、社員それぞれの「WORKS GOOD!」のアイテムが並ぶ(画像提供:シフトブレイン)

15周年を期にサイトデザインをリニューアル。背景には、社員それぞれの「WORKS GOOD!」のアイテムが並ぶ(画像提供:シフトブレイン)

—たとえば、山本さんはどのようなものを挙げたのでしょうか?

山本:ぼくが「WORKS GOOD!」を感じるのは、スポーツブランド・チャンピオンのスウェットです。カッコよすぎずダサくもなく、冬場はこればかり着ているのですが、ぼくのクリエイターとしての理想も、シンプルで普遍的なものをつくること。そういったものこそ、社会や誰かの生活に対して作用し得るのではないかと考えているんです。みんな直感的に浮かんだアイテムを挙げてくれたのですが、理由を探っていくと、それぞれが大切にしていることが浮かび上がってきます。

山本さんの「WORKS GOOD!」。コピーは「シンプルで、普遍的」(画像提供:シフトブレイン)

山本さんの「WORKS GOOD!」。コピーは「シンプルで、普遍的」(画像提供:シフトブレイン)

—お互いに「大切にしていること」を知ることで、理解し合うことができる。

山本:また、個々人の解釈をさらに深めてもらうために、2時間のロングインタビューを全社員に実施しています。外部のライターに依頼し原稿化はするものの、会社の校閲は一切入れず、社外にも公開しないことを前提にすることで、ドキュメンタリーとしての純度を保っています。

この企画の目的は、自分のこれまでの人生について深く考えてもらうこと。これはぼくがインタビューをお受けするたびに感じることなのですが、第三者に自分を説明しようとすることで、普段は考えないような自分の深みに潜ることができるんです。それをありがたいと感じたし、カウンセリングを受けたような気持ちになりました。自分を見つめ直す機会としてインタビューを受けるなんて、日常では起こり得ないことですよね。これも、組織だからこそ提供できる価値のひとつだと思っています。

集まった原稿は、各々が「いま」の気持ちを振り返られるように、「中間文集」と名づけて冊子にするつもりです。メンバー同士はもちろん、社員の家族に見せるのも面白いかもしれませんね。

加藤:「WORKS GOOD!」という言葉を通じて社員みんながこれからの人生を豊かにしていくためには、これまでの人生を振り返り、自分のポリシーがどのようにしてつくられたのかを見つめなければならないと思ったんです。メンバーがこれらの企画を通じて、自分にとっての「いい人生」について考えるきっかけになったら嬉しいですね。

 

—今回は「15周年」ですが、20周年に向けたビジョンはありますか?

加藤:5年後にどんな技術革新が起こっているかを予測できないと結論は出ないのですが、いまの働き方やクリエイティブに対する考え方は間違っていないと思っています。もしかしたら、組織と個人の関係がもっと柔軟になり、何社にも属していることが当たり前の世の中になるかもしれません。小さな会社なので、時代に合わせてその都度目指す場所を転換しながら、これからも一緒に働くみんなの人生を豊かにする方法を考えていければと思います。

山本:海外のアワードに積極的に参加するようになった数年前から、加藤だけでなく、各スタッフも時間や働き方に対する新たな考え方を持ち帰るようになってきました。加藤の独断ではなく、スタッフレベルでも積極的にどのように働いたらいいのかを試行錯誤しています。会社もスタッフも、働き方については、常に変化を拒まずに柔軟な発想を保ち続けていきたいですね。

Profile

株式会社シフトブレイン

デジタル領域を中心にコミュニケーションプランニング、デザイン、テクノロジーまでを一気通貫で行うデジタルクリエイティブエージェンシー。創業15周年を迎えた本年は「ワークするクリエイティブ」と「一人ひとりのためのワークスタイル」を追求する「WORKS GOOD!」という合言葉を掲げました。企業 / 製品のブランディング、採用、キャンペーンなどを中心に、紙 / デジタル / 映像の範囲での制作を幅広く行っています。

詳しくは、以下のサイトをご覧ください。

◼︎弊社オフィシャルサイト:http://www.shiftbrain.com/
◼︎WORKS GOOD! MAGAZINE(2017年2月公開の新メディア):https://works-good.com/
◼︎SHIFTBRAIN Backyard(制作の舞台裏):http://shiftbrain.tumblr.com/
◼︎Facebook:http://www.facebook.com/SHIFTBRAIN
◼︎Instagram:https://www.instagram.com/shiftbrain_tokyo/
◼︎SHIFTBRAIN Showreel 2018(制作実績動画):https://vimeo.com/265154647

応募締切日:2018年6月13日(水)中必着

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