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シンプルだけど緻密。デザインから紐解く「ロッキング・オンらしさ」の真髄

株式会社ロッキング・オン・ホールディングス

株式会社ロッキング・オン・ホールディングス

『rockin'on』や『ROCKIN'ON JAPAN』などの雑誌をはじめ、WEB、音楽フェスからアパレルまで、カルチャーを軸に幅広く事業展開するロッキング・オン・ホールディングス。個性の光る誌面はもちろん、あらゆるデザインにも「ロッキング・オンらしさ」は息づいている。今回はその「らしさ」をデザイン面から紐解いていくために、デザイナー陣を訪ねた。
お話をうかがったのは、20年以上の社歴を持ち、現在はイベント部に所属する田中力弥さんと、『ROCKIN'ON JAPAN』編集部の大橋麻里奈さん。エディトリアルからイベントグッズ、フェスのステージにいたるまで、多彩なクリエイティブの根底に流れる「ロッキング・オンイズム」とは?
  • 取材・文:村上広大
  • 撮影:有坂政晴(STUH)
  • 編集:立花桂子(CINRA)

企画出しやフォトディレクションもデザイナーの仕事。その根底にある哲学は?

—名物編集者を多く輩出しているロッキング・オンですが、今回は編集ではなく、デザインにフォーカスしたお話をうかがいたいと思います。そもそも、社内の専属デザイナーは何名いるのですか?

田中:ぼくと大橋に加えて、フェスの情報発信や券売を行う「rockinon .comアプリ」のUI / UXデザインをおもに担当しているデザイナーの3人です。もちろん外注のスタッフとも組みながら、雑誌やイベント関連のデザインを行っています。

株式会社ロッキング・オン・ジャパン イベント部 クリエイティブ・ディレクターの田中力弥さん。1997年に入社し、エディトリアルデザイナー、雑誌のアートディレクターを経てイベント部に異動。現在はおもに『ROCK IN JAPAN FESTIVAL』をはじめとしたフェスのロゴやグッズ、ステージのデザインなどを手がけている

株式会社ロッキング・オン・ジャパン イベント部 クリエイティブ・ディレクターの田中力弥さん。1997年に入社し、エディトリアルデザイナー、雑誌のアートディレクターを経てイベント部に異動。現在はおもに『ROCK IN JAPAN FESTIVAL』をはじめとしたフェスのロゴやグッズ、ステージのデザインなどを手がけている

—ロッキング・オンの雑誌には共通の「らしさ」があるように感じますが、それも少数精鋭ゆえのものなのでしょうか?

田中:それは、アートディレクターがフォトディレクションを担っているからかもしれませんね。ぼくは、雑誌づくりのいちばん大きな仕事はフォトディレクションだと思っているんです。通常の出版社では、編集者が取材やフォトディレクションを主導し、デザイナーは素材がそろった段階からデザインに入ることが多い。ですがロッキング・オンでは、デザイナーも企画出しや取材に参加します。

企画やフォトディレクションにかけるウェイトは、誌面レイアウト作業よりも大きいかもしれません。どんなロケーションで、どんなことをしてもらったら、どんな表情が引き出せるかを、編集者と一緒に細部まで考え抜くんです。撮影現場に立ち会って、フォトグラファーに具体的な指示も出しますよ。

—どうしてアートディレクターやデザイナーが企画の根幹に深く携わるのでしょうか。

大橋:『ROCKIN’ON JAPAN』でいうと、創刊時からずっと変わらず、「いかに『いまの読者』に届くものをつくるか」という考えがあるからです。それを実現するための「骨格」をつくるのが、弊社にとってのデザインです。

消費者に向けていいコンテンツをつくろうとするならば、誌面のレイアウトだけでなく、写真の構図や見せ方も考える必要がある。そして「いまの読者」にビビットに響くかどうかは、フォントやページネーションの些細な違いで決まります。ロッキング・オンの刊行物は一見シンプルなデザインに見えますが、その裏にある工程はものすごく緻密なんですよ。

株式会社ロッキング・オン メディア部 ロッキング・オン・ジャパン編集部 リーダー / アートディレクター 大橋麻里奈さん。2013年に入社し、2年目からはディレクターという立ち位置で『ROCKIN'ON JAPAN』の制作に携わりながら、『JAPAN'S NEXT』などイベントのアートディレクションも担当する

株式会社ロッキング・オン メディア部 ロッキング・オン・ジャパン編集部 リーダー / アートディレクター 大橋麻里奈さん。2013年に入社し、2年目からはディレクターという立ち位置で『ROCKIN’ON JAPAN』の制作に携わりながら、『JAPAN’S NEXT』などイベントのアートディレクションも担当する

田中:だから、弊社のデザイナーには編集者的な視点や発想が必要なんですよ。逆に、編集者にはデザイナー的視点が求められます。うちの編集者は、写真の色味やサイズについて「もっとこうしたほうがいい」と平気で言いますからね(笑)。「編集者」「デザイナー」といったように肩書きは分かれていますが、求められることはそれほど変わらないです。

ロッキング・オンらしさの真髄は、「デザイン前のデザイン」にあり

—「消費者にどう届けるか」を最優先にするつくり方が、どんなクリエイティブにも徹底されているんですね。

田中:代表の渋谷陽一は「シンプルであること」を美学としていて、シンプルにすればするほどモノ自体の良さが顕著になると考えているんですね。

田中:たとえば、白い紙に文章が載っているページをデザインしてくれと頼まれたら、多くのデザイナーは「色をどうしよう?」とか「飾りつけをどうしよう?」と考えるでしょう。でも本当は、白い紙がどんな紙をしていて、どんな文字の間隔やサイズが適切なのかを考えるほうが重要です。

それが写真だったら、写真を額縁で飾りつけるのではなく、写真そのものを最高に撮ることが最大のデザイン。そして最高の写真を、無駄に飾りつけず、シンプルに見せる。このように、「デザインを始める前のデザイン」に徹底して向き合うのが、ロッキング・オンのやり方です。

—何かを加えて飾りつけることではなく、「本質を見つけて、シンプルに際立たせる」という考えに真髄があるわけですね。

田中:すごくおいしいハンバーグができたら、ソースなんてかけずにストレートに肉の旨味を味わおうよ、ということです(笑)。雑誌であろうとイベントのグッズであろうと、それは変わりません。実際、渋谷からも口酸っぱく「ごまかすなよ」「飾らない勇気を出せ」と言われます。

もちろん、あまりいい写真が撮れない場合もあります。だけど、小手先のデザインで「それっぽく」すると、失敗を上塗りしてしまう。100点中60点の写真にしか仕上がらなかったら、60点のままで見せるべき。下手にごまかして100点に近づけようとしても、むしろマイナスにしかならない。そういう考え方が浸透しています。

マーケティングとは、「世の中に存在していないもの」を探し、つくり出すこと

—とはいえ、消費者の求めるニーズを的確に見極めるのは難しいですよね。際立たせるべき「本質」を見つけるために意識していることはありますか?

田中:マーケティングですね。といっても数字を追うわけではなく、「世の中に存在していないもの」を探り、そのうえで価値のあるコンテンツに仕上げようと心がけています。

たとえば、ぼくが担当するカルチャー誌『CUT』では、2.5次元舞台に出演している俳優さんを掲載しています。彼らはアイドル的な取り上げられ方をすることが多く、まだ「本質的にいい」と思える写真が存在していなかった。ぼくはそこにニーズがあるだろうという仮説を立て、ロッキング・オン的な価値観でポートレートを撮ることにしました。これは世の中にないものだからこそ必要だし、ロッキング・オンが長く支持されてきた強みだと思います。

大橋:「本質的にいい」写真とは、その人の人物像が表れる写真のこと。『ROCKIN’ON JAPAN』でも、フォトグラファーを選ぶ段階から、いかに「その人自身」に迫れるかを考えます。

田中:世の中には、「人物像」が写っていない写真があまりにも多いですからね。ぼくらが取材をすることで、批評的に、歴史的に見ても価値のあるコンテンツに仕上げたいのです。

—大橋さんは、「本質」を見極めるために意識していることはありますか?

大橋:自分主体で物事を考えないようにしています。「私だったらこうする」と捉えるのではなく、「普通はこうするよね」と俯瞰で見てみる。世間の流行を踏まえたうえで、どんな視点が最大公約数なのかということを意識しています。

田中:そうですね。ぼくも自分の感性を信じていません(笑)。ぼくが好きじゃなくても世の中に受け入れられているものはたくさんありますから、人気の理由を探るために、興味の有無を問わず「世の中で受け入れられているもの」には接触するようにしています。

名物編集長たちとバディを組める。風通しのよさも社風のひとつ

—ロッキング・オンには渋谷陽一さんや山崎洋一郎さんなど名物編集者がたくさんいらっしゃいますよね。彼らとはどのように関わっているのでしょうか?

田中:渋谷や山崎らが企画会議に立ち会うことも多く、コミュニケーションは密に取れます。会社の根幹に関わる話を上層部と直接できるのは、ロッキング・オンならではかもしれませんね。上層部との距離は近く、社員の意見も届きやすいと思います。

ご想像の通り、歴代編集長は雑誌を問わず、強烈な価値観を持つ人ばかり。そして知識量が圧倒的です。ぼくも音楽や映画が好きでこの会社に入りましたが、まったく敵いません。アイデアの出し方も具体的で、「○○が○○年にリリースしたアルバムのジャケットみたいな感じで」と、さも知っていることが当然のように言ってきたりするんですよ(笑)。

大橋:私はどうしたら編集長の考えていることを1,000%に引き伸ばせるのかを考えながら仕事をしています。根本的なコンセプトや考え方を共有しながら、それぞれの得意分野を活かしていく。そういう意味では、「バディ」感が強いかもしれませんね。

でも、入社した直後は戸惑いました。「こんな会議に社長がいるんだ!」って(笑)。だからこそチャンスも多く、自分で考えながら働きたい方にとっては、とてもいい環境だと思います。

—風通しのよさ以外に、入社前のイメージと違った部分はありますか?

大橋:意外だったのは、「バンドマンみたいな人」が全然いないことですね。みんな黒い服を着て、ドクターマーチンを履いているものとばかり思っていました(笑)。

田中:「社員もロック感がすごそう」とよく言われます(笑)。雑誌やフェスをつくっている会社なので「死ぬほど大変」というイメージがあるようですが、就業環境は至って健全な会社です。

その根幹には、やはり「消費者に向けて、きちんといいものをつくる」という考えがあるのではないでしょうか。たとえば、イベントの運営にはものすごくモラルが問われます。チケットが期日までに届かなかったり、会場にトイレがなかったりしたら大問題になるじゃないですか。健全にイベントをやり遂げるためには、健全な運営が必要になる。フェスを始めたことで会社も変わりました。健全な運営を滞りなく続けていられるのは、そもそも就業環境を整えることに敏感な経営者がいるからだと思います。

ロッキング・オンのデザイナーは、己のカルチャー道を示すべし

—今回は新たなデザイナーを募集しています。どのような人を求めていますか?

田中:カルチャーや音楽が主体のものづくりをしているので、「デザインがうまい」ことが一概にプラスに働くとは言い切れません。むしろ、あるジャンルのカルチャーのインプット量に自信があるとか、自分の「カルチャー道」「音楽道」を示せる方のほうが、価値観が合うのではないでしょうか。

大橋:私がもともといたデザイン会社では、「与えられた素材を使って期待以上のものを納品する」ことが求められていました。ですがロッキング・オンは、「コンテンツをみんなでつくる」という意識が強い。ディレクションに対する考え方が一気に変わりました。

私たちが扱うアーティストや楽曲は、コンテンツの原石のようなもの。カルチャーへの好奇心があれば、「原石をきれいに輝かせる方法」を考え抜くことを楽しめると思います。

田中:カルチャーに育てられた人は、一枚の写真やジャケットを「アーティストそのもの」として見ます。ですがデザイナーとして生きてきた人は、それを「デザイン」として捉えがちではないでしょうか。そうすると、ロッキング・オン的な価値観とズレが生じてしまうと思います。カルチャー全般に興味があって、「ロッキング・オンとコンテンツを生み出す仕事がしたい」という想いが強い人のほうが向いているかな、と。

—カルチャーへの理解度や想いの強さが前提にあるのですね。

田中:加えて、ロジカルさも求められます。企画を通すにあたって、なぜその企画で、なぜそのフォトグラファーを起用するのかといった理由を、すべて論理的にプレゼンする必要がある。普通はデザイナーに求められるスキルではないかもしれませんが、ロッキング・オンでは必要なスキルです。

さらにデザイナーは、編集者やフォトグラファーに加え、イベントの施工業者やステージのスペシャリストなど、さまざまなプロフェッショナルと関わることになる。彼らを前にして「ロッキング・オンらしいデザイン」を理解してもらうためにも、適切なコミュニケーション能力も大切です。

—入社後は、どのような仕事に携わることになりますか?

田中:所属デザイナーは私と大橋を含めて3人しかいないので、正直な話、どんなこともできると思います(笑)。とはいえ、「何でもやってほしい」というわけではなく、これまでのキャリアや資質を考慮したうえで配属を決めていきたい。「私はこれができる」「これをやってみたい」という想いのある方とお会いしたいですね。

—社員のデザイナーを募集するだけではなく、外注デザイナーの幅も広げていきたいと考えているとか。

田中:そうですね。ロッキング・オンに協力していただける外注デザイナーも探しています。紙媒体の経験値が高い方や、「別の会社に所属しているけれど、個人でエディトリアルの仕事もやりたい」という方でも構いません。定型の紙媒体でレイアウトできるデザイナーは貴重なので、ぜひご一緒したいです!

―新しいデザイナーが加わることによって、チャレンジしてみたいことはありますか?

大橋:具体的に何かやりたいことがあるというより、新しい方が加わることで、会社の可能性を広げていきたいですね。

田中:たとえば「もともとはショップの内装をつくっていました」という方がいれば、いままでは外注していたフェスなどのスペースデザインも内製できるかもしれない。ロッキング・オンの新たなチャレンジは、いいデザイナーと巡り合えたときに拓けていくと思います。

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2019年11月にオープンしたばかりの渋谷スクランブルスクエアにオフィスを構えるロッキング・オン。渋谷の中心から、カルチャーが持つ力を硬派に発信し続けている

2019年11月にオープンしたばかりの渋谷スクランブルスクエアにオフィスを構えるロッキング・オン。渋谷の中心から、カルチャーが持つ力を硬派に発信し続けている

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ロッキング・オン・グループは、出版、イベント、WEB、アパレル、アーティストマネジメント、番組制作など、音楽を核に類例のないビジネスを展開する企業体です。

それぞれの事業が有機的に繫がりながら、新しい体験や新しい価値を創出し、音楽を愛する人々に喜びや驚きを提供しています。

音楽の未来を切り開くため、ロッキング・オン・グループは挑戦と変化を続けます。

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