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いいものをつくればOKではない。カフェ経営にも乗り出したロースターが実践する「編集」の拡張とは

株式会社ロースター

株式会社ロースター

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紙媒体からデジタルまで幅広いメディアの運営と記事制作を手がける制作会社・ロースター。これまでジャンルを問わず多彩なコンテンツを生み出してきた同社が、2021年秋、事務所移転を機にカフェ「夏目坂珈琲」のプロデュースに乗り出した。なぜ制作会社が飲食店を? と思う人もいるかもしれないが、そこには代表・大崎安芸路さんの一貫した編集者論とも言える考えが反映されていた。創業14年目にして「いまは第2期創業期」と語る大崎さんに、飲食店のプロデュースをはじめたきっかけから、いまの時代の「編集」という仕事について、そしてロースターの願う「より良き未来」への展望を語ってもらった。
  • 取材・文:辻本力
  • 撮影:豊島望
  • 編集:𠮷田薫

制作会社が目指す「ハブ」としてのカフェづくりとは

2021年秋、事務所移転を機に、自社ビルの1階にカフェ「夏目坂珈琲」をオープンさせた制作会社・ロースター。コーヒー豆は、世界遺産のある宮島に焙煎所を構える「伊都岐珈琲」のスペシャリティコーヒーを使用。物販で取り扱いがあるカップは、コーヒーの実から豆を取り出す際に出る不要物「コーヒーハスク」を再利用することで生まれたオーストラリア発の「HuskeeCup」。瀬戸内から取り寄せたオーガニック食材でつくるスイーツも提供するなど、細部にまでこだわりがゆき届いている。ともあれ、カフェを併設した書店などは目にすることもままあるが、それを制作会社が、となるとなかなか珍しい。

大崎:「ロースター(焙煎機)」という社名をつけているように、ぼくはもともとコーヒーが大好きで、ずっと「いつかはカフェを経営できたらいいな」と思っていました。転機となったのは事務所の引っ越しです。最初は賃貸物件をいろいろ見ていたのですが、ある段階で「自社ビルを持つ」という選択肢が現れて、最終的に早稲田駅近くにある築50年の古い物件を購入しました。そこで、「あ、カフェをやるならいまだな」と。自分たちでリノベーションを計画していくなかで、具体的なカフェ運営のアイデアが膨らんでいきました。

株式会社ロースターの代表取締役・大崎安芸路さん。大学卒業後に大手出版社に勤務。20年間ファッション誌をつくり続け、2008年にロースターを設立。趣味は、ガーデニング、食器集め、ワークアウトなど。最近は社員と雑談するpodcastや、編集者の気づきを綴ったnoteなど、個人発信にも注力しているそう。

大崎:でも、単純に「憧れのカフェオーナーになりたい」みたいなことではありません。カフェ自体も、ぼくにとってはある種の「メディア」なんです。上の階では各々仕事をしている社員や外部スタッフたちが、打ち合わせや休憩のタイミングでカフェに降りて来てコーヒーを飲みながら交流をする。そこでのコミュニケーションをきっかけに、また新たなプロジェクトのアイデアが生まれていく。さらには、お茶をする近隣のお客さんたちの会話なんかも、刺激になるかもしれません。そうした有機的な交流が生まれる「ハブ」としての場所をイメージしていました。

聞けば、ロースターは、以前からオフィスの風通しを良くすることをつねに意識してきたそう。

大崎:社長室もあるけれど、オフィスはフリーアドレス制で、ぼくも会社内のいろいろな場所で仕事をしています。自由度を高くすることで、情報が自然に行き来する環境をつくりたかったからです。本当なら、昔の雑誌編集部みたいに、誰だかよくわからない、でも面白そうな人たちが自由に出入りしている場所が理想ですが、セキュリティ面からも、いまのご時世的にも難しいので(笑)。そういう意味では、カフェの存在がそうした部分を担ってくれるんじゃないかなと期待しています。

2階の天井を抜いて吹き抜け空間をつくったことにより開放的な雰囲気に——と思いきや、じつは、創業時から育てているシンボルツリーの背が高くなり、入りきらなかったから吹き抜けにしたのだそう

拡張する「編集」と、変容するインプット/ アウトプット

かつて、ここCINRA JOBに掲載された大崎さんのインタビュー記事に「編集者はメディアに左右されてはいけない」という発言があった。先ほどの「カフェもメディアのひとつ」という言葉は、まさにその延長線上にある発想で、大崎さんの編集観が明確に現れているように思える。「編集」の意味が拡張され続けているインターネット以降の世界にあって、大崎さんは自身の仕事をどのようにとらえているのだろうか。

大崎:「編集=集めて編む」という作業や、そこに一本芯の通ったものを持って臨まないと務まらない、という意味では、編集者の仕事は変わっていません。ただ、時代に合ったディレクションやエディトリアルというものは間違いなくある。いまは、ありとあらゆるものが自分にとっては編集対象であり、メディアとして機能すると実感しています。昔はメディア、特にマスメディアには「特権」があった。テレビ局や出版社でなければ情報収集のノウハウも情報発信の機会もないという、ヒエラルキーが存在していました。でも、いまはインターネットやSNSで誰もが情報収集や発信ができる時代です。ひとりのインフルエンサーが大きな影響力を持ち、とんでもない経済効果を生むことができる。そんな時代にあって、編集者やメディアの在り方も大きく変わってきているように思います。

かつて「編集者」は、雑誌や書籍をつくる人、というとらえられ方をされてきた時代がある。もちろん、そうした仕事も健在だが、ウェブやアプリなど媒体が多様化して久しい昨今、その意味合いも多様化・変容し続けている。およそ30年前、雑誌編集者としてのキャリアをスタートさせた大崎さんは、雑誌にまだ元気があった時分から出版不況による低迷期まで、時代の変遷を現場で目の当たりにしてきた。その過程での気づきが、いまの仕事を支えている。

大崎:もっとも変わったのは、編集をするときのインプットとアウトプットの関係性ではないでしょうか。以前は、このふたつは別の作業でした。ぼくら編集者は、忙しいなかで一生懸命に足で情報を得て企画を考えるというインプットの時間を経て、それを雑誌の特集や記事といったかたちに落とし込んで発信するアウトプットを行っていた。でも、いまは両者が融合しているんですよね。例えば、SNSで何かを発信すると即リアクションがあり、それがそのまま新たな情報として発信者にインプットされる。つまり、情報のアウトプットとインプットが、ほぼ同時に、循環するように起こっているわけです。このことに意識を向ければ、アウトプット、すなわち発信することの重要性が見えてきます。つまり、情報の発信を増やすことがインプットを増やし、結果的によりタイムリーで需要度の高いコンテンツをつくることへと繋がっていく。

最近では、そういったアウトプットを実践し、情報の流れやインパクトを肌で感じる場として、自社メディアの運営もスタートしたという。

ロースターが培ってきた編集ノウハウを発信する自社メディア『EDiT』でそれを実践しています。どういうことかというと、毎月1本ずつ、社員に好きなテーマで記事を書いてもらってるんですよ。これが思っていた以上に熱量ある記事ばかりで、圧倒されています。こうしたモチベーションを持って実践することで、アウトプットとインプットにより当事者意識を持てるようになる。どの記事がどのくらいの人に届いているのか、ABテストを繰り返すことで、時代のニーズに合わせたメディアをつくっていけるようになります。そして、それは夏目坂珈琲も同様です。1杯のコーヒーにも、豆を育てる人をはじめ、焙煎する人、提供するために淹れる人などさまざまな人が関わっています。そうした商品の背景を「編集」し伝えることで、お客さまからリアクションをいただける。夏目坂珈琲では、そうしたストーリーを発信するメディアという側面も担っていけたらと思っています。

広島・宮島に焙煎所を構える伊都岐珈琲が、夏目坂珈琲のためにブレンドした豆を使用。オンライン購入も可能

お客さんの幸福まで考える「社会貢献」としての編集

また、仕事の在り様が変われば、そこに向かう姿勢も自ずと変化していくもの。大崎さんは、「いいものをつくればOK」だった時代は過去のものとなり、編集者はいま、ものづくりの「その先」をも視野に入れて仕事をしなければならなくなったと指摘する。

大崎:自戒を込めて言うのですが、昔の編集者の評価って、良くも悪くもブラックボックスだったんです。格好いいものやキレイなものをつくれさえすればOKという感じがあった。でも、いまの時代はSNSやウェブで簡単に反響やリアクションが見れるので、自分のつくったものがどのように読者に届いたのかが可視化されてしまいます。つまり、いいものをつくるのは当たり前で、それが生む経済効果や、社会に与える影響までも考慮にいれなければならなくなった。その結果、ぼくら制作会社は、貴社がその記事を書いたらウチの商品はいくつ売れるんですか?ということを、以前よりクライアントからシビアに求められるようになりました。でも、考えてみれば、これって当たり前のことなんですよ。つくったものに責任を持つ、ということですから。売上や社会的な影響など、あらゆることが可視化される世の中にあって、「自分のつくったものがどのような影響を与えるのか?」この視点なくして、いま編集者をやっていくことは難しいでしょう。むしろ、そこすらも楽しめてしまう人が強い。

こうした状況は、「仕事が増えた」「面倒くさい」などととらえられる側面もあるだろう。しかし、それを逆転の発想などではなく、ナチュラルに楽しみながら仕事をできてしまうのが、大崎さん率いるロースターの強みなのかもしれない。

大崎:日本人は、基本的にお金に対する考え方が偏っていると個人的には感じています。お金の話をするのを「いやしいこと」と考えがちじゃないですか。もちろん、ぼくがこの仕事を始めたきっかけはお金儲けのためではないし、それが目的なら、もっと違う仕事をしていたと思います(笑)。でも、自分がつくったものがきっかけでお金が動くということは、自分がつくったもので世の中の人の心が動いたということでもある。編集者は、自己満足のためにものをつくっているわけではありません。ぼくは、自分の仕事は、社会貢献だと思っています。だからこそ、いいものをつくるだけではなく、そのいいものが、どのようにお客さんを幸せにするのかまで考えたいし、その仕事に楽しさを見出しています。これからの時代、こうした考え方が自然とできるようになると、「編集者」は強いと思います。

入社2年目で「プロデューサー」への大抜擢も。新卒採用が社内にもたらした刺激

業務拡張などの新たな展開を見据え、ロースターが3年前から始めたのが新卒採用だ。中途採用のみの雇用から、新しい人材を求める方向へと舵を切ったのは、これからの時代の編集者を育てるという目標とともに、いまいる社員たちの意識改革という目的もあったという。

大崎:そもそも制作の世界では、出版もデザインもテレビの制作会社も、大手を除けば、どこも中途採用が基本です。ただ、即戦力になる優秀な人材を得られる反面、問題もあります。なぜなら、前職やそれまでの仕事での成功体験が、新しいことをやろうというときに邪魔になることが多いからです。これは、まさに自分もそうでしたが、出版社時代の成功体験に引きずられて、前例にのっとったやり方をついしてしまいました。そのままでは、いくら会社が新しい方向へと仕事を進めようとしていても上手くいきません。新卒採用を始めた背景には、若く新しい価値観を持ったポテンシャルの高い人たちと一緒に仕事をすることで、ベテランたちの意識も変えられるんじゃないかという目算がありました。もちろん簡単なことではないので、多少時間はかかるかもしれませんが、会社全体のことを考えたときに、結局はそれが一番の近道なんじゃないかな、と。

しかし社内では、当初はすぐ働ける即戦力を求める意見も多く、新卒採用に関しては、大崎さんとほかの社員たちとの間には少なからず温度差もあったそうだ。しかし、新卒で入った若手の熱意に満ちた働きと、そこから生み出された結果によって、ベテラン社員たちの意識も徐々に変わっていったという。

大崎:ウチは小さな会社だから、それほど応募もないだろうと思っていたんですけど、初年度は蓋を開けたら200人近い応募があり、しかも非常に素晴らしい人材が集まってくれて。社員たちも徐々に、「あれ、新卒悪くないかも」みたいな感じになっていった。そして、2年目からは、それまで人事とぼくだけで担っていた新卒採用も、会社全体で取り組むようになっていきました。

実際採用させてもらった子たちは、みんな情熱もセンスもある優秀な子ばかりなんですよ。つい最近も、ウチでは現場最高権限を持つ「プロデューサー」という役職に、新卒入社2年目の子を大抜擢したばかりです。彼女はまだ23歳で若いけれど、責任あるポジションに対してもやる気を見せてくれて、そこに伸びしろを感じました。こうした新卒社員の面倒を見るなかで、ぼくを含めたベテラン社員たちもすごくいい刺激を受けているということを実感しています。

オフィスの一角にあるネオンサイン「WE MAKE YOUR LIFE TASTY」は、会社のフィロソフィーとして掲げている言葉。「お客さま一人ひとりが満足する、こだわりの味をつくる」という意味が込められている

最短距離で答えを求めなくていい。自分で考え、成長するために

新卒採用で入社した新入社員たちの活躍も目覚しく、大崎さんの言葉を借りれば「ロースター第2創業期」を迎えているという。カフェのプロデュースという新たな試みも、こうしたポジティブな流れのなかで始まった事業のひとつだ。さらなる新規事業をも見据える大崎さんに、これからロースターへの入社を希望する人たちに求める資質やスキルとはどのようなものかを聞いてみた。

大崎:一番には、常に自分で考えられる人になってほしいと思っています。いまは、ネットなどもあるし、この頃の若い人たちはみんな優秀で要領もいいから、最短距離で答えにたどり着くのが本当に上手い。でも一方で、自分で考えるということに苦手意識を持っているように見えます。何かに頼って最短距離で答えを求めるだけではなく、たとえ効率が悪くても、自分で答えを探し出す作業に取り組んでほしいですね。ほら、道って、知っている人について行くだけじゃ絶対に覚えないじゃないですか。逆に、自分で調べて、迷いながら歩くと必ず覚える。しかも、その迷ってあーでもないこーでもないとやっている過程にこそセレンディピティがあるし、方程式を自らつくり出せるようになったら、それは無数に応用の効く自分だけの宝物になりますから。一見非効率に見えて、一番効率がいいんです。でも、そういうことが楽しめず、ストレスを感じるタイプだと、ロースターが求める仕事はつらいものになってしまうかもしれません。逆に、その学びや成長を楽しんでやれる人には、有意義な日々が待っていますよ。

さらに、「自分で考える」ということとともに、「成長」というキーワードの重要性も強調する。

大崎:去年、子どもが生まれたことでより明確に意識するようになったのですが、自分が何に喜びを感じるかといえば、それはやはり「成長」なんですよね。実際のところ、必ずしも今日より明日がいいとは限らないし、目に見えるような成長を自認できる機会は稀かもしれません。でも、大事なのは「成長できる」と信じて毎日過ごせることだと思うんです。逆に、「このままでいいや」となると、少なくとも自分は、そう思った途端にモチベーションを失ってしまうんです。だからこそ、ロースターを「ここは成長できる場だ」と思える会社にしたいし、そのためには、実際に自分や社員、そして会社が成長している姿を見せなければならないとも思います。

取材後、お子さんの動画を見せてくださった大崎さん。取材日の朝に、お子さんに初めての離乳食を食べさせてあげたそうです

これからロースターを志望してくれる人には、ぜひご自身の成長のイメージを持ってもらいたいです。別に野心的であれとか、強欲であれとかそういうことではありません。単純に、未来がいまよりも良くなっていると想像しながら働ける方が健全だし、何より幸せじゃないですか。そこに価値を見出してくれるなら、ロースターには成長できる環境が整っています、と胸を張って言えます。とにかく現場主義なので、1年目からすぐに外に出て仕事をしてもらっていますし、そうした実地から学ぶことが一番多い。もちろん仕事なので、上手くいかないこともあれば、大変なことだってあると思います。でも筋トレだって、筋組織を壊して筋肉痛になって、はじめて筋肉を大きくできる。それと同じで、痛みをともなわずに成長することは不可能です。だからみなさん、ぜひ臆せず来てください。お待ちしています。

Profile

株式会社ロースター

「ロースター」とは、コーヒー豆の焙煎機のこと。

豆をしっかり吟味してローストすることで、どんな豆でも、お客様の好みの味にするのがボクらの仕事です。

「この豆は、浅煎りのほうが酸味が引き立つな」とか、「このお客様は、フレンチローストが好きなようだ」とか、そんなことを考えながら、コーヒーを入れるバリスタのように。

ボクらが求めるクリエイティブとは、こんな想像力のことです。

これからの時代のエディターやディレクターは、WEB、デジタル、紙、SNSといったメディアの形に捉われることなく、企画を考えて、ストーリーをつくり、世界観をカタチにしていく力が必要です。

そんな想像力を膨らませながら仕事をしてみたいと思う人と、一緒に働けたら最高です。

■スタッフについて(メンバーについて)
現在、新卒入社〜40代前半の年齢層の社員が26名(男性:7名、女性:19名)働いています。コンテンツ制作部の編集者が10名、デザイナーが5名、飲食事業部が8名、総務経理部が3名です。

現在は20〜30代のスタッフが多く、年齢問わずアットホームな雰囲気で仕事終わりや休日に一緒に出かけるスタッフも。好きなことに真っ直ぐで、それぞれの個性や意志を尊重できるスタッフが多い印象です。

■オフィスについて
5階建ての自社ビルは、ただのオフィススペースにとどまりません。白を基調としたクリエイティブなスタジオ、設備の整ったキッチンスタジオ、メイクルーム、そして社員が割引価格で美味しいコーヒーやスイーツを楽しめる『夏目坂珈琲』が併設されています。

ドラマや映画、テレビCMにも使われている、私たちのこだわりが詰まったスタイリッシュなオフィスで、新しいキャリアを築きませんか。

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