「未経験から1年で一人前に」。優秀な編集者はなぜロースターで育つ?

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雑誌や写真集、WEBメディアなど、さまざまな媒体のコンテンツ編集を手がける株式会社ロースター。「編集者は3年で一人前といわれるが、うちの社員は入社1年で一人前になれる」と語る代表取締役の大崎安芸路さんの言葉どおり、2008年の創業以来、業界に数多くの優秀な人材を輩出している。今回は、同社で編集者としてのキャリアをスタートし、現在はサイバーエージェントにて女性向けWEBメディア「by.S」の編集長を務める阿部美友さんと、大崎さんの対談を企画。ロースター流「編集者としての哲学」について話を伺った。
  • 取材・文:小沢あや
  • 撮影:西槇太一

情熱とセンスさえあれば、未経験者も経験者に劣らない

ロースターに勤める社員は14名。少数精鋭だが、現在は未経験者も積極的に採用している。それは、代表の大崎さんが「いまの時代、編集者に必要なのは、必ずしも経験ばかりではない」と感じているためだ。

ー実務経験が求められることが多い編集業界のなかで、未経験者を採用するのは珍しいのではないでしょうか。

阿部:私も5年前、未経験者として入社しました。大学を卒業後、女性ファッション誌の編集者になりたい気持ちを抱きながら、海外留学の準備をしていたとき、友人の紹介で大崎さんに出会ったんです。「このチャンスを逃したら、一生編集者になれないんじゃないか」と思い、その場で気持ちを伝えて。すぐにオフィスへ遊びに行き、その翌週にはもう働いていました。

「by.S」編集長 阿部美友さん

「by.S」編集長 阿部美友さん

大崎:当時、ロースターの中途採用では経験者を優遇していました。でも、彼女はやりたいことや将来のビジョンを明確に伝えてくれたので、大丈夫そうだと思って。実際に働いてみて、「情熱とセンス」さえあれば、未経験者も経験者に劣らないなと感じたんです。

ー「情熱とセンス」とは、噛み砕くとどういったものでしょう。

大崎:情熱は、「編集者になりたい」という強い気持ちです。壁にぶつかったときって、だいたいみんなくじけてしまうんですよ。でも、強い気持ちがある人は、ピンチに陥ったときにも逃げ出さず、壁を飛び越えて伸びていく。ぼく自身、新卒時の就職活動では、出版社にこだわって20社くらい落ち続けた。途中から、「社員じゃなくてもいいから、絶対に業界に入ってやる」と気持ちを切り替えて、出版社にアルバイトとして拾ってもらったのが編集人生のスタートだったんです。

ー仕事への執着が鍵ということですね。

大崎:最初は勘違いでもいいので、「自分にはこの仕事しかない!」と思い込む力が勝敗を分けると思います。一度業界に入ってしまえば、あとはもう実力の世界ですから。出版社での経験があったとしても、「いまの時代の編集者に向いているか」というと、必ずしもそうではありません。もちろん経験は大切ですが、新しいものをつくるうえでは、過去の成功体験にとらわれない柔軟性や、何事も取り入れようとする多様性のほうが大事。これを、ぼくは「センス」と呼んでいます。新しいものを知ること、学ぶことに、喜びを感じられる「知的好奇心」というか。ぼくの経験則では、センスと情熱さえあれば、なんとでもなる。よく「編集者は3年で一人前」といわれるけれど、うちの社員は、入社1年で一人前になっていると思いますよ。

ーたった1年! 阿部さんの場合は、どんな仕事からスタートしたんですか?

大崎:たしか、ミランダ・カーのパーソナルトレーナーであるジャスティン・ゲルバンドの本だったと思います。突然、仕事の依頼が舞い込んできたので「これはちょうどいい!」と思って、迷わず新人の阿部に声をかけました。当時、ミランダの大ファンだった彼女は、ふたつ返事で「やります!」と。「こいつ運がいいなあ」と思いましたね(笑)。

阿部:本の編集から付録DVDの撮影まで、丸ごと担当しました。当初は編集者がどういう仕事をするのかもわからない状態のまま、まずは撮影現場に行くことから始まりました。未経験だからといって、まさか「できません」と引き下がることもできず……。正解がわからないまま必死に進行したんです。撮影が終わって、大崎さんから「よかったじゃん」と言ってもらえたときに初めて、「私、間違っていなかったんだ」と安心して。そんなふうにとにかく現場での経験を重ねながら、だんだんと自分のスタイルを築いていきました。

阿部さんが携わった『model FITダイエット TRIAL BOOK(DVD付)』(画像提供:ロースター)

阿部さんが携わった『model FITダイエット TRIAL BOOK(DVD付)』(画像提供:ロースター)

大崎:何よりも、まずは現場に行くことが大切。あと、ぼくは部下に任した現場に、口をいっさい出さないようにしています。もちろん、重要な判断をしなければならないことがあれば言いますが、彼女の場合は問題なかったですね。中途半端に一緒にやると、つい全部自分でやりたくなってしまうので、成長の機会を奪わないように気をつけています。

ー後ろから見守りつつ、裁量を与えると。上司と部下の信頼関係があってこその指導法ですね。ガラス張りの社長室やカフェカウンターなど、オフィスにも開放感がありますが、普段から大崎さんと社員とのコミュニケーション量は多いですか。

奥渋エリアにある開放的なロースターのオフィス(画像提供:ロースター)

奥渋エリアにある開放的なロースターのオフィス(画像提供:ロースター)

大崎:ぼくも会社にいるときは意識して、社内のカフェスペースで企画書をつくったり、カウンターでコーヒーを飲みながらメールをチェックしたりしています。デスクトップPCを使う社員が多いので、現在のところは見送っているんですが、本当はフリーアドレスにしたいくらい。ずっとデスクにいることで原稿がはかどらないなら、オフィス内に限らず、カフェでもどこでも、みんな好きな場所で仕事していいんじゃないかと思っています。

普段の生活のなかでアンテナを張りめぐらすことが大切

編集未経験ながら、ロースターの徹底的な現場主義のなかで、阿部さんは数々の雑誌編集を手がけることになった。とくに印象に残っているという雑誌『BLENDA』(角川春樹事務所)は、毎号、企画から校了まで2週間というタイトスケジュール。多忙を極めるなかでも、常に新たな知識を求めて街に出ていたという。

ー阿部さんは入社半年で雑誌『BLENDA』のメイン編集担当に抜擢されたんですよね。

大崎:誰に任せるか考えたときに、阿部が浮かんだんです。彼女の性格やライフスタイルからも、『BLENDA』みたいなギャル雑誌は合うんじゃないかと思って。担当になった3か月後にはすっかり現場の勝手も覚えて、編集長と直接やりとりをしていました。仕事ぶりが評価され、結局『BLENDA』が休刊になるまで担当を続けたのですが、最後はほぼ版元の編集部員と同じようにかわいがってもらっていましたね。

阿部:当時はロースターの別の仕事で、グルメ誌やタウン誌なども並行してつくっていたので、それぞれの雑誌に関連して、新しい情報が次々と飛び込んできていました。おかげで、いろいろなことを同時に処理する能力が身につきましたね。

大崎:タスクマネジメントも、現代の編集者に求められる重要なスキルだと思いますね。昔は、何か一本に絞ってやることがよしとされていたけれど、いまは多様なジャンルの仕事を同時に進めていかなければなりません。時代は大きく変わってきていると思います。

ー常にさまざまな案件が飛び込んでくる、ロースターだからこそ身につくスキルなのでしょうね。

大崎:20代のとき、リリー・フランキーさんにお酒の席で、「仕事がきたら、とりあえずやったことがなくても受けろ」と言われたんです。「おれはやったことのない仕事でも、できます、やれます、大丈夫です、しか言わなかった。そのかわり、いい加減なものを納品したことは一度もない」と。経験のない仕事でも引き受け、そして受けた以上は死ぬ気で勉強して本番に臨めということですね。その言葉をよく覚えていて、自分に声をかけてくれたなら、経験がない仕事もどんどん受けていくべきだと思っています。社員にもその精神で、成長していってほしいですね。

ロースター代表取締役 大崎安芸路さん

ロースター代表取締役 大崎安芸路さん

ー未経験のことに挑戦するなかで、苦労もあったのではないでしょうか?

阿部:『BLENDA』は毎号勉強になることばかりでしたね。いちばん印象に残っているのは、見開き4ページの「ネイル企画」。ギャル誌ってとにかく情報量が多いんですが、このときもページいっぱいに、とんでもない量のネイルデザインの写真とそのキャプションを詰め込んで。キャプションは各40字くらいの短いものなのですが、1ページ分終わったときに、自分の語彙力の限界を感じました。「この水玉とこっちの水玉の違いを、どう表現したらいいんだろう」と……。

ファッション誌の編集では、「かわいい」を何通りに言い換えられるかが求められました。それをきっかけに、ファッションや美容に関するワードを集めたボキャブラリーノートをつくりはじめたんです。いろんな雑誌やWEBメディアの表現を参考にして、書き込んで。

ー業界やトレンド研究をしつつ、オリジナルの辞書をつくっていったんですね。

阿部:プライベートでも、「これを企画にしたら面白そう」「ここで撮影したらきれいに撮れそう」と、常に編集者の視点で街を見ながら歩いていました。どんな仕事でも、机に座って頭をひねるだけで新しいものが生まれることって、あまりないと思うんです。ファッションの企画なら、実際に服屋さんに行って、お客さんがどういうものを手に取るか、店頭のマネキンがどういうものを着ているかなど、実際に見るところから始めていました。こんなふうに読者のリアルに寄り添って考える姿勢は、媒体が変わっても、変わらず大切にしています。

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紙からWEBへ。これからの編集者はメディアに合わせたものづくりができるかどうか

紙からWEBへ。これからの編集者はメディアに合わせたものづくりができるかどうか

雑誌『BLENDA』を最終号まで担当した阿部さんは、2015年にロースターを卒業。編集者として新たな道を歩み始めた。現在は女性向けWEBメディア「by.S」編集長として活躍する彼女に、WEB編集ならではの工夫、発見について聞いた。

ーWEBメディアに転職されたいま、雑誌編集時代とのギャップを感じることはありますか?

阿部: WEBメディアでも、記事の質が求められる時代がやってきました。かといって、雑誌と同じことをやってもダメ。スピード感のある情報や、より実用的な情報が求められています。

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ー記事の内容だけでなく、公開のタイミングなど、考えなければならないポイントもたくさんありますよね。

阿部:そうですね。たとえばレイングッズの記事なら、晴れた日に公開しても読んでもらえないこともある。そのときの読者の感情とマッチするかどうかでPV数は大幅に変わりますね。新しい情報が日々更新されるので、見てもらえないままに一度埋もれてしまったら、もう終わりなんです。記事の長さも、「エレベーターに乗っているあいだに読める長さか」とか「5秒くらいしかなくても伝えられる情報は何か」とか、雑誌時代にはなかった視点から考えています。

大崎:たとえば写真ひとつをとっても、雑誌とスマホでは、選ぶべきものが違う。A4サイズの雑誌では、空気感を伝えられる写真でも、スマホでは単調に見えたりする。少しシャープネスや陰影が強いほうが、スマホでは映える場合が多いんです。これからの編集者は、メディアに合わせた適切な制作ができるかどうかが鍵。移り変わりを楽しめる人じゃないと、やっていけないと思います。

ロースターが編集を手がけた雑誌『Soup』(画像提供:ロースター)

ロースターが編集を手がけた雑誌『Soup』(画像提供:ロースター)

ーロースター時代に培ったスキルで、現在も活きているものは何ですか?

阿部:編集者としての基礎知識と、新しいできごとに動じないマインド、そしてキャッチアップ力ですね。世の中で起きていることに対して興味を持ち続け、最新の情報をいかに早く見つけてこられるか。それから、たくさんの関係者のあいだに立って調整していく力もあると思います。雑誌って、1ページをつくるのに7、8人もの人が関わっていたりするんです。WEBメディアでも、開発、広告営業、編集、デザインと、いろんな部署と連携していますが、ロースター時代を乗り越えたからやれていると思っています。

大崎:いまの編集者には、おもしろいコンテンツのつくり方や、バズる記事の書き方だけではなく、プロジェクトマネジメント力や営業力も求められる。ロースターでも、社員全員にプロジェクトごとの原価表をつけてもらうようにしています。編集者とはいえ、制作コストや利益率など、編集をすることだけではなく、ビジネス視点に立って考えることが大切。「記事をつくったら終わりじゃない。原価がどれだけかかり、どのくらい利益をあげたのか、意識して制作しなさい」と。阿部はそれができているからこそ、いまの立場でもやっていけているんだと思います。

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社員それぞれの持つ情報が集まり、メディア化するチームが理想

初めての経験に対しても前向きに、そして粘り強く取り組んできた阿部さん。退職後も、育ての親である大崎さんとの関係は良好。会社の上司と部下という関係から、志をもった同じ編集者として、フラットな関係を築けている。そこには大崎さんが考える「理想の会社像」があるのだとか。

ー阿部さんがロースターにいたのは、実質2年だったんですよね。

阿部:はい。雑誌編集を続けていくにしても、これからはWEBでもやっていける力が必要だと感じ、いまの環境を選びました。私はもともとアナログ人間だったので、歳を重ねてからだと、追いつくのにも時間がかかるだろうと思って。まだ20代の若いうちに飛び込みたかったんです。

ー退職の意向を聞いたとき、大崎さんは?

大崎:もちろん残念だし、寂しいと思いましたが、彼女には次にやりたいことが明確にあったので、止めても仕方ないと思いましたね。ぼく自身、会社員時代は同じ会社に3年以上いたことはなかった。仕事ができるようになれば、当然他社からも求められる人材になる。だから転職は、会社にそれまで貢献してくれていたという何よりの証拠だと思っています。巣立ったあと、今度はパートナーとして一緒に仕事ができるかもと思うと、それも楽しみですしね。

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ーロースターの輪が、業界全体に広がっていくイメージですね。

大崎:上司から得られることもあれば、外部の編集者やカメラマンから得られる学びもあるでしょう。ぼくもこうやって阿部と話すと、勉強になることは多いです。そんなふうに、会社はさまざまなかたちで社員に学びの機会を与え、社員は学んだことを仕事に活かして会社に貢献する。会社と社員の関係は、対等であることが美しいなと思っています。

ーお二人のこれからの野望は?

阿部:私の野望は、『パリ・コレクション』を最前列に座ってみることです。これは自分を奮い立たせるための最上級の夢として、ずっと大切にしているものなんです。もっと現実的なところでは、WEBやスマホの世界で、従来の雑誌が持っていたような「世界観」のあるものをどれだけつくり出せるか、突き詰めていきたいですね。紙媒体の制作は文章ありきでしたが、動画やSNSなどの新しい媒体にも適応しながら、自ら動ける編集者になりたいです。

大崎:ロースターは、雑誌づくりで培った企画力が売りの制作会社です。これからもメディアのかたちにとらわれることなく、最適な方法でコンテンツを考えられるチームでありたいと思います。そのために、柔軟で多様性のある編集者を育てたいですね。あとは会社自体の風通しをよくして、社内外を問わず、さまざまな人や情報が集まる場にしたいですね。オフィスがサロン化することで、情報を集め、企画し、発信する、メディアのような空間へとなっていくことが理想です。

  • Profile

    株式会社ロースター

    「ロースター」とは、コーヒー豆の焙煎機のこと。

    豆をしっかり吟味してローストすることで、どんな豆でも、お客様の好みの味にするのがボクらの仕事です。

    「この豆は、浅煎りのほうが酸味が引き立つな」とか、「このお客様は、フレンチローストが好きなようだ」とか、そんなことを考えながら、コーヒーを入れるバリスタのように。

    ボクらが求めるクリエイティブとは、こんな想像力のことです。

    これからの時代のエディターやディレクターは、WEB、デジタル、紙、SNSといったメディアの形に捉われることなく、企画を考えて、ストーリーを作り、カタチにしていく力が必要です。

    そんなイメージを膨らませながら、仕事をしてみたいと思う人と一緒に働けたら最高です。

    いま最もクリエイティブな街“奥渋”エリアの富ヶ谷に、新しいオフィスを構えました。

    いちからデザインした新オフィスで、ロースターの新しい物語をはじめます。