同規模のWEB制作会社による統合は成功だった? その経緯と結果に迫る

株式会社パノラマ

気になる

Share :

アパレル・ファッション業界のブランドサイトを中心に、デザイン設計を得意とした「コムリエ」。大手企業からの信頼が厚く、ロジックに基づくストラテジー設計を得意としていた「トライポッド」。同規模のWEB制作会社が経営統合したその狙いとは……?
  • 取材・文:冨手公嘉
  • 撮影:永峰拓也
  • Profile

    株式会社パノラマ

    株式会社パノラマは、戦略設計・ブランディング・デザイン・オペレーションなどを総合的に提供するクリエイティブエージェンシーです。クライアントは、アパレル、コスメブランド、話題の飲食店、自動車、食品など、ファッションやライフスタイル領域が中心です。

    【景色を変える。景色が変わる。】
    私たちは、私たちの仕事で「景色(Panorama)」を変えられると信じています。

    個が仕事やプライベートを通じて人間的に成長すること。そんな個が集い、有機的にコラボレーションすること。それを社会に発信すること。

    そうやって、従業員の、チームの、社会の「景色」を変えていきたいと思っています。

    【社員の成長を支える仕組み】
    ・Brand New Experience制度
    社員が新しい経験・体験をすることに必要な資金を会社が最大10万円 / 年まで支給します。海外美術館への旅行や海外広告祭への参加、フィットネスジムや英会話など「新しい景色」を見るために必要な協力を惜しみません。

    ・勉強会や書籍購入の負担
    インプットや学びに必要な書籍やセミナー、研修参加のための費用も負担します。 

    ・豊富で幅広い案件
    世の中のトレンドを押さえることで豊富な案件依頼をいただいています。『佐賀県 × 落合陽一 / アート展特設サイト』や『三井物産グループコーポレートサイト』『渋谷QWSブランディング支援』など、幅広い案件をメンバーの得意分野・興味関心領域に合わせてアサインしております。また近年は『PNRM ORIGINALS』と題して自社案件にも取り組んでおり、クライアントワークとは別軸のアプローチで創作することにより、新たなクリエイティビティを培うことを狙っています。

    【メッセージ】
    デザイン好きが集まって、世の中に「本物」を届けていく。わくわくする仕事ですが、難しい仕事です。私たち経営陣は、「メンバーが本質的に"クリエイティブなこと"だけに頭を悩ませられる環境作り」に本気で取り組んでいます。前述の制度やチーム作り、マネジメント教育、評価制度など、面談でも詳細を説明しますが、他にはない仕組みが整っています。

    その積み重ねが「直近の離職率0%」「モチベーションサーベイでAA評価※1」「9期連続増収」といった数字にも表れています。

    ※1 リンクアンドモチベーション調べ。特に「専門能力の獲得」「上司への満足度」で最高評価を獲得。

    また、東京の本社に加え、2018年7月より沖縄にクリエイティブブランチを設置しました。沖縄・那覇オフィスへのUターン・Iターンメンバーも募集しております。

2社が互いの強みを生かす組織作り

そもそも同規模でお互いの得意とする領域やクライアントが異なるコムリエとトライポッド。経営統合に踏み切った背景には、どのような経緯があるのだろうか。

樋口:会社立ち上げからの6年間で、アパレルや美容などのファッション領域、また飲食やエンターテイメント領域といった、ライフスタイルに密接した業界において、ブランディングを含めたサイト設計を行ってきました。そこから派生し、様々な業種のお客様にお声がけを頂くようになりましたが、僕らは少数精鋭であるがゆえに、よくも悪くもフリーランスの集まりのような雰囲気があったんです。チームではあるけれども個の集まりといった風土があり、そこが組織としての弱みだなと感じていました。徐々に人を増やしても分業がなかなか進まず、スタッフ一人ひとりがたくさんの案件を抱えるなかで、教育に力を入れるのも手一杯。ここからさらに仕事領域を拡大させていくにはどうすればいいのか? という課題を常に持っていました。そんな矢先に、同じ規模感の会社で得意とする仕事の仕方が違うトライポッドも似た課題感を持っているということを知ったんです。

CEO 樋口聖さん(旧コムリエ代表)

CEO 樋口聖さん(旧コムリエ代表)

牧野:弊社の場合、広告代理店経由のキャンペーンや広告企画など、代理店と共同で大手企業からの仕事を請けるケースが主流でした。一方のコムリエは直クライアントでスピード感を持って進めるケースが多い。WEBサイトを作るということは一緒ですけど、お客様のゾーンが違っていて、ワークフローがまったくと言っていいほど違う。そうであればノウハウやナレッジを共有すれば、成長が加速する可能性がある。異なる仕事のメソッドを持つ会社と統合することで、デメリットよりメリットが大きいのではないかと飲みの席で盛り上がったんですよ。

とはいえ、WEBの業界内で同規模の会社が統合するというのは、ほとんど前例がないもの。実際に統合に至るまで、慎重に議論を重ねたようだ。

樋口:会食の席などで「統合したらきっとメリットがありそう」といった話は、ベンチャー業界ではよくある話ではありますが、実際に統合したケースはほとんど聞きません。僕たちはまず、果たして本当にメリットがあるかどうかを考えました。そのためにそれぞれの会社の実態を徐々に開示しながら、真剣に検討しようということになって。今後のビジョンや、理想像などはもちろん、数字的な部分や案件数、仕事の回し方など事前に話し合えるだけ話し合いました。

牧野:お互いの仕事を開示していくなかで、驚いたのはクライアントが1社か2社程しか被っていなかったこと。狭い業界でお互い6〜7年会社を経営していて、これは本当に珍しいことだなと思いました。それだけ重なる部分が少なかったので、相互で補える部分が大きいのではと思えましたね。結局のところ、「やってみないと分からない」という部分はたくさんありましたけど(笑)。そうした話し合いの場を通じて、統合に前向きになりました。不思議と現場レベルに経営統合の意思を伝えても、大きな混乱は生じなかったですね。

佐藤:私は4年程前からトライポッドでディレクターをしていましたが、既に何度もコムリエとお仕事を発注したりされたりのお付き合いがありました。だから牧野から「同じ規模感の同業他社と統合する」という話があったとき、すぐに統合先が「コムリエ」だろうと言い当てたんです(笑)。両方の企業がこれから発展していく上で統合はありうると、どこかで予感していました。

実は統合を前提に、試験的に数か月同じオフィスで顔を合わせて仕事をしていたのだという。そして、いざパノラマになったのが2016年7月。現場レベルでの統合がようやく浸透しはじめた状況だ。

樋口:統合する前は正直「簡単には上手くいかないだろうな」って思っていました。ところが意外にも、あんまり混乱はしなかった。よくよく考えてみたところそれぞれの会社に文化の違いがあるとはいえども、10数人規模の会社同士の経営統合ですからね。人数が少なく、会社としての機能も近しい2社だったせいか、スムーズに順応できた印象です。

業界に新しい風を起こしたパノラマに対して、クライアントだった企業からも期待の眼差しが注がれている。

樋口:ありがたいことに、パノラマになってから既存のクライアントからも、以前より大きいボリュームのお仕事のお問い合わせが増えました。トライポッドと統合したことで見られ方が変わったなという部分がありますし、やはりクライアントとしてもリソース面で頼みづらかった仕事がいくつもあったのだ、と統合してから知りました。

異なる得意分野をシェアすることで、成長速度が倍に

2社が統合した効果は、決して短期的なものだけではない。たとえば、同レベルの企業が合わさることで、ほとんど教育コストをかけることなく人数規模が倍になった。その結果、以前では難しかった未経験者の採用なども可能になっているという。

樋口:10人くらいの規模感の場合、チームのコアメンバーが案件を複数抱えているため、自分の実務にプラスしてマネジメントや教育をするというのは大変な労力でした。未経験の人に教えようとしても、どうしても2年3年かかってしまう。しかし今回統合したことで、ひとつの案件に関わるチームメンバーが増えて案件のフォロー体制ができたことで、未経験の人にも教えるだけの余力がそれぞれに生まれるようになりました。

またこれまでは日々の業務に忙殺されて後回しにせざるを得なかった勉強会も、無理なくできるようになっている。会社という組織レベルだけではなく、一人ひとりが個人レベルで持つノウハウを共有できるようになったのだ。

アートディレクター 柳澤友己さん

アートディレクター 柳澤友己さん

柳澤:メンバーが増えたことで、ワークフローもいくつかの選択肢から選べるようになったと思いますね。毎週定例で、仕事の仕方や案件の進め方を共有する勉強会を開いているのですが、方法論など学びが増えました。トライポッドから学ぶことは新しい刺激になりますね。それは若手社員にとっても同様で、単純に会社として教えられるナレッジの総量も増えている。特に若手の成長速度は明らかに速くなるだろうなと感じています。

佐藤:僕はこれまで、代理店案件を張り付きで担当していたため、ある程度ルーティンワークとなっていました。しかしコムリエの案件は直クライアントで手離れが早く、スピード感が全然違う。担当する案件の量をはじめて聞いたときに驚きましたし、現場で長く仕事をしてきた自分としても「多くの案件をスピード感を持ってどうやって回すか」という部分を学ばせてもらっていますね。これまで以上に現場マネジメントやディレクションのノウハウが蓄積されているような感覚を覚えます。

柳澤:お互いの強みが重ならない分、リスペクトし合えているんだと思います。ここは自分たちの方が得意だと思えば、素直に共有すればいいし、弱みである部分については学ぶという姿勢が両者の企業のメンバーにあると思いますね。

どちらか一方がイニシアチブをとるのではなく、お互いのパワーバランスが変わらない企業同士だからこそ、素直に補完し合おうという姿勢が生まれるのだろう。こうしたメリットを鑑みて、樋口さんは統合に踏み切ったことは正解だと感じているようだ。

樋口:得意分野の違う人たちとナレッジが共有できて、かつ新しい文化や仕事の方法を取り入れることで、格段にスピード感を持って成長できることを実感しています。ブランディングやコンサルティング的な立ち位置から入る制作会社が増えるなかで、他の企業と差別化を図る上で、統合も選択肢に入れる企業が出てくるかもしれませんね。

Next Page
個人の体験に投資すれば、いずれ仕事の幅が広がる

個人の体験に投資すれば、いずれ仕事の幅が広がる

パノラマは、スタッフ個人の経験が提案に繋がり、クライアントとの体験がエンドユーザーに通じるという「EXPERIENCE CUBE(エクスペリエンスキューブ)」という考え方を大事にしている。そのため、自主的な研究などに関しても投資を惜しまない方針だ。

牧野:今会社として各メンバーが新しい体験へのチャレンジを支援するという制度を設けています。たとえば、海外のアートやテクノロジーイベントに行くなど、業務自体と一見関係ないことも会社がある程度資金的な援助をする仕組みを導入しています。そうした個人的な体験が、人間的な厚みにつながり、ひいてはクライアントへの提案につながって、エンドユーザーに影響をもたらすようになるのが理想的だと思っているんです。

COO 牧野秀人さん(旧トライポッド取締役)

COO 牧野秀人さん(旧トライポッド取締役)

佐藤:実際に僕は英会話の勉強の支援を受けていて、先日は一人で香港に行ってきました。海外で英語が使えるようになっただけでなく、偶然にもそこからビジネスの相談へ発展するケースもあり、この制度のお陰で貴重な体験やチャンスを得られています。

樋口:会社のメンバーの成長は必ず会社の成長につながると信じているので、すぐに実務に結びつかなくてもナレッジを高めていくことはどんどんとやっていってもらいたいと思いますね。

社員にとって成長する機会を提供してくれる上に、自身の研究にも能動的な組織。モチベーションの向上にもつながりそうだ。

ロジックありきのサイト作りも直感的なサイト作りも両方カバーする

まだ始まって数か月のパノラマだが、現場で働く社員はどのようなビジョンや目標を掲げて仕事に取り組んでいるのだろう。

柳澤:WEBの仕事を軸に、これからも仕事の規模を拡大させて、クオリティも上げていくというのは大前提の目標ですね。それとは別軸で、ラボを発足しようという話が進んでいて。業務に関係がなくても在籍するメンバーが表現したいものを、WEBの領域だけにとらわれず挑戦するというのを会社側が奨励しています。この取り組みを通じて、最終的に案件につなげていくことができたらより楽しくなるだろうなというふうに思っております。そういう表現活動の時間を確保するためには、ますます業務を効率化させていく必要があると思っていますね。

ディレクター 佐藤雅之さん

ディレクター 佐藤雅之さん

佐藤:今はWEB制作会社でも上流のコンサルティングから入るエージェンシーが増えています。その中で自分たちが他の企業と差別化できるだけのバリューを持っていないと、埋没してしまう危機感も持っています。それはアイデアの部分かもしれないですし、企画のエッジを立たせることかもしれないし、UI / UXの部分かもしれない。いずれにしてもパノラマ独自の強みを打ち出していけるようなプロダクションになっていきたいですね。

代表の樋口氏もこれからの業界のあり方を見据え、マーケティング全般をロジカルに解析・提案できるコンサルティング的なサイト設計と、最先端の技術を用いた直感的に感情に訴えかけるエッジの立ったクリエイション。この両軸を伸ばしていこうとしているようだ。

樋口:これまでに以上に質も量もしっかり応えていくというのが目下の目標です。コムリエ時代に担当したデザイン性や目新しさを求められるような案件。また、自治体や官公庁関連案件などの、ロジカルに安定的に運営していくためのサイト。どちらか一方だけでは足りなくて、S極とN極のような対極に思える仕事をどちらも実践することでこそ、提案の深みは増えていくと考えています。今回の統合を経て、S極とN極の仕事の振り幅はまた大きく広がり、組織としてより大きな弧が描けるよう、守備範囲の広いクリエティブプロダクションとして成長していけたらと思います。