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インタウンデザイナーってなんだ?ガイドブックを片手に、その面白さと重要性を考える

近年、デザイナーの間で徐々に注目を集めている「インタウンデザイナー」というあり方。「インタウン? インハウスなら知ってるけど……」という方もいるかもしれません。

インタウンデザイナーとは、どんな存在なのでしょうか? いま、日本のさまざまな地域において、まちづくりや地域課題の解決に向けて、デザインの活用が進んでいます。その原動力として、地方自治体など地域を構成するステークホルダーと共創し、地域に密着したデザイン活動に取り組む存在が、インタウンデザイナーなのです。

今回、デザイナーと地域との関わり方を実例とあわせて紹介するガイドブック『デザインがわかる、地域がかわる インタウンデザイナー活用ガイド』を公表した経済産業省デザイン政策室の担当者、三浦敏郎さんと下藤菜々子さんにインタビュー。デザイナーをメインターゲットに据えて、「インタウンデザイナー」の基礎知識をインプットしてもらいながら、ガイドブックの内容を紹介していきます。
  • 取材・文:宇治田エリ
  • 撮影:タケシタトモヒロ
  • 編集:佐伯享介
  • Sponsored by:経済産業省

インタウンデザイナーってなんだ?基本的な概念を聞く

―2023年10月に、経済産業省から『デザインがわかる、地域がかわる インタウンデザイナー活用ガイド』がリリースされました(PDFはこちらから無料ダウンロード可能)。

そこでまず気になるのが、「インタウンデザイナー」という言葉です。どういった存在のことを指すのでしょうか?

『デザインがわかる、地域がかわる インタウンデザイナー活用ガイド』表紙

三浦:一般に、企業に属しその企業の方針に沿って、デザインワークをする方を「インハウスデザイナー」と呼びます。「インタウンデザイナー」は、その言葉をもじった言葉で、ガイドブックにも登場していただいている、福井県の鯖江市を拠点に活動するクリエイティブカンパニーTSUGIの新山直広さんが提唱したもの。「インタウンデザイナー」とは、地域のために、地域に根差して、地域社会のさまざまなステークホルダー層と連携しながら、デザイン活動に取り組む存在と認識しています。

三浦敏郎さん。2018年、東北経済産業局に入局。2022年より経済産業省デザイン室政策室に着任。主に地域におけるデザイン活用の促進に関する業務に従事。

下藤:地域の課題を丁寧に紐解いて、地域らしさも踏まえながらかたちにしてくれる、そういった存在であると思っています。

なお職業としてデザイナーをしている方に限らず、編集やライティング、カメラ、建築、ファシリテーションなど、デザインに関連する領域のスキルをもって地域に貢献する方もインタウンデザイナーとしての素地を持つと言えると思います。

下藤菜々子さん。2019年、中国経済産業局に入局。2022年より経済産業省デザイン室政策室に着任。

―いま、インタウンデザイナーがさまざまな地域において必要とされる理由は、どんなところにあるのでしょうか?

三浦:いま日本では、人口減少、少子高齢化という大きな課題に起因して、複雑化した地域課題が多岐にわたって存在します。そして個々人の価値観、ライフスタイルの多様化などもあり、考えなければいけない制約が増え、その対応は困難を極めています。これまでどおりの行政手法や施策だけでは問題の解決に至りにくい、そんな状況にあります。

こういった状況おいて、デザイナーが日々デザインのプロセスの中で実践している、「一見バラバラに見えるものを統合、再編集し、真の課題を抽出すること」「対象を注意深く観察し、ユーザー目線で問題を捉え直すこと」「試行錯誤する中で改善を重ね解像度を上げていくこと」「情報を美しくわかりやすく伝えること」といったスキルを、複雑化する地域課題を紐解き、問題解決に役立てることができます。

このようなスキルを持つデザイナーがインタウンデザイナーとして地域に加わることで、地域の実情に沿った、より解像度の高い解決手法を提示できると考えています。

―ガイドブックの5ページにはデザインの対象が広がってきていることが概念図で表されていて、とてもわかりやすいと感じました。そうした状況の中で、インタウンデザイナーの仕事・役割は具体的にどういったものなのでしょうか?

『デザインがわかる、地域がかわる インタウンデザイナー活用ガイド』P5より

三浦:グラフィックデザインやプロダクトデザインなど、一般的にイメージするデザインワークを担うこともあれば、ときには「地域のなんでも屋」として専門的なデザインスキルの枠を越えた役割を担うこともあります。例えば、複数存在するステークホルダーの調整役や、プロデューサーやアートディレクターとしての役割、より上流のコンセプトメイキングを手掛ける役割などです。

下藤:最初は地域の方から見た目のデザインの部分の依頼を受けていたけれど、次第になんでも頼られるようになったというお話も伺いました。地域の方から信頼を得ていく中で、インタウンデザイナーとしての活躍の幅が広がっていくのだと思います。

どのような活躍ができる? インタウンデザイナーが切り開く未来

―ガイドブックには、全国北から南まで、34件ものデザイン活用事例が掲載されており、いかにデザインが地域において幅広い分野で貢献しているかが窺えました。そのうち16件の事例について、インタウンデザイナーや自治体職員のインタビューが紹介されていますが、特徴的な事例があれば教えてください。

三浦:14ページの「自治体等とデザイン人材との関わり方の4類型」に沿ってご紹介したいと思います。

インタウンデザイナーと自治体等との関わり方を見ていくと大きく4つの類型が存在していることがわかり、それを図示しているのが14ページです。

『デザインがわかる、地域がかわる インタウンデザイナー活用ガイド』P14より

三浦:まず、「類型2」のパターンから。その地域に拠点を置き、地域のために活躍するケースとして、49ページから紹介しているTSUGI新山直広さんと福井県鯖江市さんの事例です。

―先ほどもお話に出た、「インタウンデザイナー」という概念を生み出した方ですね。

三浦:そうです。新山さんは「持続可能な地域づくり」をビジョンとした工房見学イベント『RENEW』を2015 年に立ち上げ、鯖江市・越前市・越前町で開催しています。「デザインの地産地消」という言葉を掲げ、地場産業のブランディングを目指した取り組みを続けています。また鯖江市のブランド戦略策定にも参画され、地域におけるデザインの重要性を位置づけられていたり、市の職員に対してデザイン思考の研修をされたりもしています。地域に拠点を持つからこそ、取り組みの上流から下流まで携わり、まち自体をデザインしていくようなお取り組みをされています。

『デザインがわかる、地域がかわる インタウンデザイナー活用ガイド』P49より

下藤:デザイナーが不在の地域はまだまだ多く、東京や大阪など都市部のデザイナーとタッグを組むことを選択する自治体もあります。

ガイドブックの「類型1」に該当するパターンとして、43ページから、東京のクリエイティブカンパニーのロフトワークさんと長野県諏訪市さんのお取り組みを掲載しています。地域の事業者の想いに向き合い、関係を築き、実に6年間にわたり、産業のブランディングや新たな価値創出に向けて、地元企業の商材改良や開発、情報発信に関する取り組みが進められました。外からの目線の取り入れと地域内の目線の取り入れ。役割分担しながらも熱い思いを共有して取り組んだからこそ、成功につながった事例です。

『デザインがわかる、地域がかわる インタウンデザイナー活用ガイド』P43より

三浦:「類型3」のように、都市と地域の2拠点で活躍するデザイナーもいます。「こおりやま街の学校」のプロジェクトを手掛けるデザイン事務所Helvetica Designさんと福島県郡山市さんとの事例(31~33ページ)では、シティプロモーションにあたり、従来的な情報発信ではなく、地域の担い手の発掘・育成の必要性に着目した取組の内容や、地域と共創する姿勢が書かれています。Helvetica Design代表の佐藤哲也さんは、郡山市のほかに東京にも活動の拠点を持っており、外の目線を地域に還元していくというプラスの効果が働いていることも見えてくる事例だと思います。

『デザインがわかる、地域がかわる インタウンデザイナー活用ガイド』P31より

下藤:自治体自らがデザイナーを雇用する「類型4」のパターンとして、兵庫県神戸市さん(55~58ページ)の事例を掲載しています。神戸市ではデザインの視点から業務の改善に取り組むため、2015年度からクリエイティブディレクターを任用してきています。加えて2020年度から、多様化する市民ニーズへの対応のため、「デザイン・クリエイティブ枠」を創設しました。デザインをはじめとするクリエイティブ系の専門知識や経験を持つ若手職員の採用を始め、庁内各課に配属するなど、型にはまらない視点を大切にし、組織の活性化につなげています。

『デザインがわかる、地域がかわる インタウンデザイナー活用ガイド』P55より

―ご紹介いただいた事例のように、インタウンデザイナーとして活躍するためには、地域との関係性を深めていくことが必要不可欠だと思います。そのために、双方においてどういったアクションが必要だと思いますか?

下藤:やはり、相互理解を深めることが一番大事だと思います。地域側からは、デザインにできること、デザイナーにできることの特性を知っていただき、デザイナー側は、地域で働くことはどういうことなのかを、ガイドを通して知っていただけたらと思います。

また、仕事以外での関わりの中で、コミュニケーションを密に取っていきながら、信頼関係を築いていくことも大切です。「同じ釜の飯を食う仲」というように、「デザイン」に限らずに、例えば一緒に食事をしたり、お祭りに参加したり、清掃活動をしたり、地域コミュニティの構成員の一人として、同じ時間を共有していくことも重要だと思います。

―地域とデザイナーの関わり方について、パターンとして整理されていることにより、各々の状況に合わせて参考にすることができますね。「デザイナーが不在の地域もまだまだ多い」とのお話がありました。関連して、ガイドブックの17ページでは「デザイン人材のシェアの重要性」が述べられていますね。

下藤:日本では、デザイナー人口の約6割が東京と大阪に集中しているとされていて、デザイナーが不在の地域では、都市部をはじめとした他地域から人材を呼び込む必要があります。デザイナーが移り住んでくれたら、地域としてそれは嬉しいものですが、日本全体として人口が減少するなか、人材の奪い合いとなっては全体最適につながりません。そのため、デザイナーが複数の地域で活躍できる環境の整備が重要だと考えています。

三浦:デザイナー側の視点で見ても、コロナ禍を契機に地域での暮らしや活動への注目が高まり、同時にテレワークの普及が進んだことで、場所にとらわれない働き方も一般化してきました。その中でもデザイナーやクリエイティブ職は、特に場所にとらわれない働き方がしやすい職業です。

とはいえ、完全移住にはハードルの高さがありますので、2地域居住・2拠点活動は、選択肢としてマッチするのではないでしょうか。

都市部では細分化されたなかで高度なスキルを求められることが多いと思いますが、地域では専門外のことも含めた依頼が生じます。それがある種のライフワークや自己実現の機会となったり、デザイナーとしてのキャリアパスを広げたりすることにつながるかもしれません。

―確かに、都市部の仕事はスキルごとにプロデューサー、ディレクター、プロジェクトマネージャー、デザイナー、カメラマン、コピーライター……と、ポジションが細分化されていて、そのなかで高度なスキルを求められます。対して、地域でクライアントと顔を突き合わせながら幅広くデザインに関わることは、デザイナーとしての成長を促す大きな刺激となりそうです。

―これまで、インタウンデザイナーがどのような関係性の中で、地域で活動・活躍しているのか、漠然としたイメージしかありませんでしたが、ガイドブックを通して全体像を把握することができ、とても想像しやすくなりました。ガイドブックの制作にあたって、意識されたポイントはどういったところでしょうか。

下藤:地域とデザインの接点の幅の広さを示すことを意識しました。というのも、どういった場面で共創できるのか、相手から何を求められているのか、デザイナー側に限らず地域側もわからないことが双方のハードルになっているのではと考えたからです。

9~11ページでは、行政の部署が抱える課題に対し、デザインがどのようにアプローチしたかを一覧で示しています。まちづくりや商工、広報だけでなく、健康福祉や教育、農林水産などさまざまな分野でデザインが活用されていることがわかります。

自治体が各部署でデザインを取り入れる際の参考としていただくことはもちろんのこと、デザイナー側としても、自治体とタッグを組める領域の幅の広さについて気づきを得てもらえたらと思います。

『デザインがわかる、地域がかわる インタウンデザイナー活用ガイド』P9より

―どういったことを一緒にできるのかが明確になることで、デザイナー側も行動に移しやすくなりそうです。

三浦:まさに、本ガイドを通して、最初の一歩を踏み出していただけたらと思います。一番最後のページには、「デザイン人材登録書」というサンプルの様式を掲載しています。

これは、地域側には身近にデザイナーがいるのかわからないという悩み、デザイナー側には地域に関与するきっかけが持てないという悩みがあることを伺うなかで、自治体は地域が抱える課題をオープンにするとともに、熱意ある人材に登録を募り、見える化しておくことが重要だと思い、作成したものです。

デザイナー側においても、この「デザイン人材登録書」を営業ツールとして自治体とコミュニケーションをとってみる、なんて使い方もあり得るかもしれませんね。

ガイド全体として、一歩を踏み出し行動に移すきっかけとなるコンテンツに仕上げたつもりです。

『デザインがわかる、地域がかわる インタウンデザイナー活用ガイド』付録の「デザイン人材登録書」

―このガイドブックの存在が、インタウンデザイナーを志すきっかけとなり、地域で活躍するデザイナーが増えていくと良いですね。最後に、地域とデザインの関わり方の未来像や理想像があれば教えてください。

下藤:地域らしさをインタウンデザイナーに磨き上げていただくことで、「自分の地域にこんな素敵なものがあったのか」と愛着が持てるような機会が増えていったらいいなと思います。

そこから、デザインの重要性が認知され私たちの考えや行動にデザインが溶け込み、地域課題を解決したり強みに変えたりするような挑戦が広がっていくと理想的ですね。

三浦:我々の部署のミッションの1つに、「文化と経済の好循環」というテーマがあります。文化というのは地域から生まれるものだと認識しているので、そういう文化創造の枠組みにも、インタウンデザイナーの取り組みは大きく貢献します。文化創造と地域経済を循環させ、地域が自立的な豊かさを持続していく。そんな状況につながっていったら嬉しいですね。また、来年に迫る大阪・関西万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」です。この万博を一つの契機として、よりいっそう地域とデザインの距離が縮まっていくといいなと思います。実際に、地域の活性化を目的につながる「万博首長連合」に加盟する多くの自治体が、地域の魅力の発信に向け知恵を絞っており、地域のポテンシャルを可視化し磨き上げるインタウンデザイナーの果たす役割が求められています。万博を契機にインタウンデザイナーが各地で増えれば、それは万博の大きなレガシーになると思います。そういった動きを我々も応援していきます。

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