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ローカルAIやVFX活用で、俳優の顔と機密情報を守る。AI映像スタジオ「まんなか」が語る映像制作の未来

ManNaka Inc. Facial VFX Lab

ChatGPTなどのAIを使えば、誰でもそれらしい文章を書ける時代。しかし、同じAIを使っても、人によってアウトプットには大きな差が生まれる。なぜなら「どう使うか」が成果を左右するからだ。

それは映像制作においても同じこと。AIを「どう使うか」はもちろんのこと、3DCGやVFXといった既存の技術とどう組み合わせるか、その腕前がクオリティを大きく左右する。

CHホールディングスは、映像・CG・XR・撮影技術など、クリエイティブ制作に特化した専門会社が横につながるクリエイティブコングロマリットとして成長を続けてきた。制作のあらゆる工程をワンストップで担える体制を築いてきた同グループから、2025年10月に新たに立ち上がったのが、AI映像スタジオ「株式会社まんなか」だ。

そして2026年6月、同社にAI+VFX スーパーバイザー・兼子研人さんが加わった。兼子さんは5年前からVFX制作の現場でAIを活用し始め、俳優の顔を老化させる / 若返らせるなど、「顔」にフォーカスした技術を映画やCM制作の現場に提供してきた人物である。

そしてこのたび、まんなかは高いセキュリティのもとで俳優・タレントの顔を手掛けるチーム「Facial VFX Lab」を立ち上げた。本記事のメイン画像も、同社がAIとVFXを駆使して作成したものだ。

インターネットに開かれたクラウドAIとは異なり、社内にAIでの作業環境を構築する「ローカルAI」は、映像制作においてどんな可能性を広げるのか? そしてその先に描く展望とは。まんなか代表取締役の野村篤史さんと、AI+VFX スーパーバイザーの兼子さんに話を聞いた。

  • インタビュー・テキスト:原里実
  • 撮影:豊島望
  • 編集:今川彩香

INDEX

AI映像スタジオ「まんなか」誕生秘話。AI+VFX スーパーバイザー加入で広がる可能性

—まずは、野村さんがまんなかを立ち上げた経緯から教えていただけますか。

野村:もともと僕はCMの企画から演出まで手がけるディレクターとして、フリーランスで10年以上活動していました。40代後半に差し掛かり、このさき生き残っていくには何か武器が必要だと感じて、2024年頃から独学でAIを使いはじめたんです。そのうちに、もともと得意としていた企画・演出をベースに、AIという強みを加えた会社をつくりたいと考えるようになりました。

そんなとき知人からの紹介で、CHホールディングス代表の和田(篤司)と話す機会があって。もともとは半年から1年後の立ち上げを考えていたのですが、話がとんとん拍子に進み、約3か月後にはもうまんなかを立ち上げていました。

まんなか代表取締役の野村篤史(のむら あつし)さん

—兼子さんは立ち上げから約半年後にジョインされたそうですね。それ以前はどのような活動をされていたのでしょうか。

兼子:私はこれまで、映画やテレビCMをメインに、俳優さんやタレントさんの「顔」を扱う「フェイシャルVFX」という領域を手がけてきました。たとえば、映画やドラマの回想シーンや、同じ俳優がさまざまな年齢の役を演じる場合などに、俳優さんの若返りや老化をVFXで実現するというものです。

まんなかAI+VFX スーパーバイザーの兼子研人(かねこ けんと)さん

兼子:人工知能を仕事に取り入れはじめたのは5年前、当時は人工知能やAIという言葉を知っている人はいても、映像案件で活用している人は私の周りにはいませんでした。CGやVFXはとにかく作業量が多く、特に人間の顔のようにリアリティが求められる領域は難易度が高くて、対応できるアーティストも限られてしまう。だからこそ、AIが作業負担の軽減や品質向上に寄与してくれるのではないかと期待して、試行錯誤を繰り返してきました。

研究者が公開していたモデルを、自分でいろいろ試しながら使いはじめ、実務にも活用してきました。「AIを使っています」と大々的に世の中にアピールすることはありませんでしたが、実際は多くの方々がさまざまな映像作品でAIによるフェイシャルVFXを目にしてきたと思います。

かつてはAIのメリットをお話しても、十分に理解してもらえることは少なく、もどかしい思いをしたこともありました。でもいまは本当に多くの方が関心を持っているので、説明も伝わりやすく、前向きにとらえていただけることが増えましたね。

—フェイシャルVFXにおけるAIの活用は、どのような仕組みで行っているのでしょうか。

兼子:フェイシャルVFXは、社内のAI生成環境のみで作業をしていて、この社内AIは一般的に「ローカルAI」と呼ばれています。多く方が使用されているのはクラウド型のAIサービスで、映像制作ではHiggsfieldやRunwayが有名です。そのようなサービスの中でSeedanceやKlingを使用されています。

クラウド型のAIサービスの場合、AIサービス会社が許可なく俳優やタレントさんの顔を学習データとして使用するのではないかという懸念や、AIサービス側の規約やセーフガードのために、俳優やタレントの顔を使用できず、その先の作業がまったく行えない場合があります。私たちの社内AI制作環境であれば、この課題に対処できるんです。

AIとVFXによって老化・若返りを表現した一例。左端の写真は、実際の俳優の方を撮影したままの未加工の画像

笑い方ひとつにこだわる——俳優の演技を大切にするためにAIだけでなくVFXの手作業も

—ローカルAIならではの強みは、セキュリティ面以外にもあるのでしょうか?

兼子:自分たちが望む機能や性能を、自分たちで作ったAIの機能拡張を組み合わせることで実現できる点です。

クラウド型のAIサービスで、目指した映像ではないけど、目標に近い映像を作ることができたとします。自主制作や趣味であれば、その時点で完了とすることはできますが、クライアントワークでは、目指した映像になるまで完了とはなりません。

Facial VFX Labが担当している「俳優の顔を若返らせる」ケースを例にお話しすると、俳優が笑っている顔をAIで若返らせたときに『その俳優の笑い方ではない』映像が生成されることがあります。

一言で「笑う」といっても、さまざまな笑った顔がありますよね。私たちの仕事では、単に「口角を上げて笑ったようにみせる」ことにとどまらず、「若い頃の笑い方」にするまでを求められることがあります。

私たちは、俳優の演技をとても大切にしているので、AIが口と目の開け方や視線などを勝手に変更してしまうことを許しません。微細な演技を保ちながら、顔を若返らせるためには、私たちがローカル環境のなかに構築したAIが欠かせない存在になっています。

ーその制作は、どのような行程によって実現しているのでしょうか?

兼子:俳優の若い頃の出演作品や写真集を集め、学習データとして最適化した後に、まんなかの社内AIに俳優の若い頃の顔を学習させ、撮影された映像に合わせた顔の動きと表情変化を行わせた映像を生成させます。AIでの作業工程が完了したら、学習データと学習されたAIは復元されないように完全に消去しています。

いまのような高性能なAIモデルや機能拡張がなかった時期は、若い頃の表情変化と演技が反映されず手作業で修正することも多かったんです。現在では、自分たちで作ったAIの機能拡張に加えて、オープンウェイトかつ商用利用可能なAIモデルを複数組み合わせることで、いままでできなかったことができるようになってきました。

Facial VFX Labのメンバーは、AIが今ほど高性能でなかった時期から映画とCM案件を担当してきたので、品質の悪いAI映像をVFXとCGで修正して行くノウハウと技術力を持っています。AIとVFXを高度に組み合わせられることが私たちの強みです。

—逆に、クラウド型のAIを使うメリットはどんなところにありますか?

兼子:見栄えのする映像を短時間で生成できることです。

まんなかでは、全編AIの映像をつくることがあるのですが、クラウドのAIサービスでゴールに近いところまで持っていき、細部やこだわりを社内のAIとVFXアーティストの手作業によって仕上げていくこともあります。ゴルフに例えると、クラウドのAIサービスがドライバーで、ローカルAI内で動くAIモデルと機能拡張がパターという棲み分けです。

野村:まだ兼子がジョインする前、僕もAIを活用して俳優さんの顔を加工した経験はありました。でも、能面みたいになってしまったり、目はいい感じだけれど口元はどうも違う、と何度も生成を繰り返す羽目に陥ったり、といったことが実際に多々あって。

AIを活用し、単純に顔を若返らせるだけ、老けさせるだけなら、できる人は多いと思います。ただ、映画やCM案件では、さまざまなシーン、さまざまなカメラアングルとライティングで俳優とタレントが撮影されます。そんな多様な映像に対して、顔の同一性を維持しながら映像としても高い品質に仕上げられるのは、Facial VFX Labのメンバーだけだと自負しています。

—今後、まんなかをどのような強みや特徴を持った会社にしていきたいと考えていますか?

野村:まず、ディレクター自身がAIを扱えて、ワンストップで映像制作ができる点は特徴のひとつです。「つくりたい映像」のイメージを最も明確に持っているのはディレクターですから、本人が直接AIに指示を出してかたちにできるのが一番の近道。クオリティにも直結しますし、工数や納期の短縮にもつながります。

ただ、僕自身も、現在在籍しているもう一名のディレクターも、もともとは企画力、発想力が強みでした。そこに今回、映像制作に長年AIを活用してきた兼子が加わったことで、アイデアを実現するための技術力が確固たるものになりました。

さらに、兼子の得意領域を活かしてこれから伸ばしていきたいのは、秘匿性の高い情報を安心して扱えるという強みです。まんなか社内のローカルAIは、外部のネットワークに接続されていない隔離環境にあり、未発表の車や新製品などの案件の制作も行うことができます。

兼子:長らくAIを現場で活用していて感じるのは、AIの登場によって、制作プロセスにおけるこれまでの当たり前が次々と覆されてきているということです。そんな状況のなか、わたしたちは、AIを使った新しい映像制作のかたちを実現することを一つの目標としています。それと同時に、現在の映像制作のやり方に寄り添いながら、AIをプレビズ(※)・撮影・CG・VFXの工程で役立たせていくことも目標としています。

社内へ向けては、CHホールディングス内には複数の映像制作会社がありますから、ローカルAI環境の構築やセットアップなどのノウハウを、活用しやすいかたちで提供していく、AI活用のハブとしてまんなかが機能していきたいと思っています。

※映画やアニメなどの映像制作において、本格的な撮影やCG制作に入る前に「どのような映像を作るか」を簡易的なCGや絵コンテを使って事前に視覚化する作業やその映像のこと。

AI普及で職域がクロスオーバーする時代——求めるのは、広い視野がある人

—現在、まんなかが求めている人材についても教えてください。

野村:AIの登場によって、職業がクロスオーバーする時代になってきたと感じています。「エンジニアでありクリエイターでもある」「VFXアーティストでありプランナーやディレクターでもある」というように、職域にとらわれず、幅広い視野でものを見られる人材とぜひ一緒に働きたい。これが第一にあります。

一方で、事業としては、AIを活用した映像制作ばかりではなく撮影をともなうCMなどの制作も行っており、その制作を担ってくれるプロダクションマネージャー(PM)も鋭意募集中です。

—作業者や技術者寄りの領域ではいかがでしょうか?

兼子:AIクリエイターを募集しています。私たちは、AIでの映像制作に加えて、新技術の検証も行っています。ローカルAIで使用可能な、新しいAIモデルや機能拡張が毎日のように公開されています。実案件で使用できるものなのか、能力を引き出すためにはどうすればいいのかなど、正式に採用する前に行いたい検証は数多くあります。現在は私ともう一人のメンバーで進めているのですが、ぜひ、そこに一緒に取り組んでくれる仲間がいればうれしいです。

そういった意味で、ほしい人材は「まんなかに入って、AIをやってみたい」という人ではなく、すでにAIで映像を制作していて、技術面にも興味があり、自ら調査している人。そうした人のなかには、一人で活動していくことの限界を感じている人もいるかと思います。そんな人に応募してもらいたいですね。

小さな組織だからこそ、新しい映像制作を切り拓く。AIと映像の未来はどうなる?

—社風についてもうかがいたいです。まんなかはどのような雰囲気の組織でしょうか?

野村:現在は僕を含めて6名の小規模な組織なので、社風といえるほどのものもなく、兼子のような「プロフェッサー(教授)」的な雰囲気の技術者もいれば、体育会系のプロデューサーもいたりと、個性豊かな面々が在籍しています。基本的には、「楽しく、冗談も言いながら仕事をしているけれど、アウトプットはしっかりしている」といったところをモットーに、日々仕事に励んでいます。

兼子:CHホールディングス内のいろいろな制作会社が同じオフィスに同居していて、距離が近いので、まんなかだけに閉じている感じはあまりないですよね。私自身、まんなかに参加して日が浅いですが、率直に働きやすく、面白い環境だと感じています。また、組織内の意思決定のスピードが早いことも重要視しているのですが、まんなかとCHホールディングスは気持ちがいいぐらいのスピードで物事を進めることができるので、とても働きやすいです。

—CHホールディングス内にまんなかがあることで、シナジーも生まれていきそうでしょうか。

野村:そうですね。まんなかとしても、スタジオや編集室などグループとしてのインフラやネットワークが強みになっている一方、エルロイやRECO、massiveといったグループ内の制作会社でAIを活用した映像制作の話が持ち上がると、やっぱり僕たちのところに相談がくるんです。ホールディングスとしても、AIに強みを持つまんなかがグループ内にいることがプラスに作用しているのではないかと思います。

今後も、小さな組織としての機動力と、大きなグループに所属していることのスケールメリットを最大限に活用しながら、世の中にインパクトをもたらす仕事をしていきたいです。

—最後に。AIをめぐる現在の映像業界の状況を、お二方はどう見ていますか?

野村:僕が20代の頃、CGが一気に世の中へ広がっていった時期に、ちょっと似ている気がしますね。あの頃はスターCGデザイナーのような人がどんどん出てきて、みんなそれぞれ会社をつくり勢いに乗っていた。いまのAIをめぐる状況は、あの熱気にどこか近いものを感じます。

兼子:私もそう思います。あの当時は、CG映像の物珍しさを売りにした、派手だったり、大味だったりした作品が多くつくられましたが、現在のAIでの動画制作にも似たものを感じています。

ですが、その後CGが、演出を支える表現技法のひとつとして映像のなかに自然に溶け込んでいったように、数年後にはAIも映像制作のなかに当たり前にある存在になっていくと思います。そうなったときに、細部までこだわれる技術力はとても大事になると思っています。

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